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「受付番号210番の方、診察室1番にお入り下さい。」
あ、僕の番だ。
今日はバース医療センターで検査を受ける日だ。この結果が良ければ治療は終了だ。
診察室のドアを開けて中に入る。
「こんにちは。」
ドキドキしながら先生の前の丸イスに座る。
「中原さん、腎臓の機能は元に戻りました。もう大丈夫です。今日はお一人で?」
「はい。」
母は来たがっていたが実家に帰っている。別に父とケンカした訳ではない。祖母が昨日ギックリ腰になってしまったからだ。ちなみに父は単身赴任中だ。
「この後少し時間がありますか?中原さんに見せたい物があるんです。」
「はい。何ですか?」
「中原さんが望んでいた物です。」
先生はにこりと笑った。
待合室で十五分ほど待っていると先生が出てきた。
そのまま後を着いていく。外来棟を抜けると『ここより関係者以外立ち入り禁止』の立て看板を通り過ぎた。研究棟と書いてある。
薄暗い廊下を無言で歩く。
あれ?大丈夫かな?変なことされないよね?
「ここです。」
先生は立ち止まって振り返った。
『第7研究室 廣瀬』とドアに書かれていた。
先生がドアをノックすると中から『どうぞ』と男の人の声が聞こえた。
中に入ると化学の実験室のような部屋だった。
ゴーグルにマスクをした男の人が出迎えてくれた。
「廣瀬先生。お忙しいところすいません。」
「いいえ。とんでもない。この子が?」
廣瀬先生と呼ばれた男の人がゴーグル越しに僕を見た。
「こんにちは。」
「こんにちは。研究医の廣瀬です。バースの研究をしています。」
「中原由紀です。」
「中原さんのことは芦沢先生から聞いています。レティオールを飲んでいたんですね?そのせいでアルファの不快なフェロモンを放出していた。」
「はい。」
レティオールとは僕が飲んでいた抑制剤だ。
「その不快なフェロモンを体感したいんですね?」
「彼はレティオールのせいでアルファ不信なんだよ。あの薬のせいで身体だけでなく心にまで傷を負ってしまった。少しでもその気持ちも軽くしてあげたい。」
芦沢先生が説明してくれた。
「分かりました。」
廣瀬先生はバースのフェロモンを研究している。
何故惹かれ合うのかや、その反対に何故嫌悪するのか。そしてフェロモンによる犯罪の抑止力になるような薬の開発、研究をしている。
「中原さんから出ていたのはアルファの攻撃フェロモンに近いものです。アルファ同士で牽制したり、自分のオメガを守るときに出すフェロモンです。そのフェロモンはオメガやベータには感じることができません。」
「え?じゃあ僕には分からないんですか?」
「そうですね。」
廣瀬先生はにこりと笑った。ような気がする。ゴーグルとマスクで表情はよく分からない。
「でもどのくらい不快なのかは知ることができます。」
フェロモン自体を感じることは出来ないが、不快指数というものでどのくらいの不快感なのかを数値で見ることが出来る。同じくらいの数値のものと比べ見れば、アルファがどのくらい不快に感じでいるのかを知ることが出来るというのだ。
「中原さんが出していたフェロモンの値は入院時の測定結果が残っています。フェロモンの不快指数の数値は325でした。これだけ聞いてもピンときませんよね?」
「はい。」
「まずこれを不快な匂いに換算すると何と同じくらいだと思いますか?」
325…。検討もつかない。
「分かりません。」
「そうですよね。325は果物のドリアンの匂を嗅いだ時と同じです。」
「えっ?」
ドリアン?聞いたことある。テレビでも見た。
みんな臭い臭いって騒いでたよね?
「実際に嗅いでみますか?」
そう言って三十センチ四方の透明な箱を持ってきた。
「じゃあ開けますよ。」
廣瀬先生が蓋を開けた。
……。
「オェッ!」
強烈な匂いが辺りを漂った。気持ち悪い。吐きそうだ。
芦沢先生はハンカチで口元を押さえている。
僕たちの反応を見て廣瀬先生が蓋を閉めてくれた。
「どうですか?」
「強烈ですね。これが325の不快指数ですか。」
「はい。」
先生は窓を開けて換気をしている。
これじゃあまともに顔を見てくれない訳だ。
「僕はアルファにとったらこんなに不快な人間だったんですね。」
「全て薬のせいですよ。」
先生は臭い以外の音や温度などでも不快指数325を体感させてくれた。
「今日はありがとうございました。」
「いいえ。どういたしまして。」
研究室から外来棟へ戻ってきた。
「どうでしたか?」
「はい。すごく良く分かりました。アルファに対してモヤモヤしていたものが少し楽になりました。あの不快感では態度が悪くなるのも仕方ないですね。」
先生は笑って頷いてくれた。
叡倫堂製薬から賠償金の書類が届くと言われた。あの薬を飲んでいたオメガを集めて説明会もあるみたいだ。保護者と一緒に参加するよう勧められた。
先生にもう一度お礼を言って病院を出た。
バスターミナルでバスを待っているとスマホにメッセージが届いた。
祐一さんからだ。
『渡したいものがあるんだけど今から会えない?』
『はい。今病院にいます。今から帰るところです。』
『どこの病院?』
『バース医療センターです。』
『近くにいるから行くよ。』
僕はそのままバスターミナルで祐一さんを待つことになった。渡したいものって何だろう。
あ、僕の番だ。
今日はバース医療センターで検査を受ける日だ。この結果が良ければ治療は終了だ。
診察室のドアを開けて中に入る。
「こんにちは。」
ドキドキしながら先生の前の丸イスに座る。
「中原さん、腎臓の機能は元に戻りました。もう大丈夫です。今日はお一人で?」
「はい。」
母は来たがっていたが実家に帰っている。別に父とケンカした訳ではない。祖母が昨日ギックリ腰になってしまったからだ。ちなみに父は単身赴任中だ。
「この後少し時間がありますか?中原さんに見せたい物があるんです。」
「はい。何ですか?」
「中原さんが望んでいた物です。」
先生はにこりと笑った。
待合室で十五分ほど待っていると先生が出てきた。
そのまま後を着いていく。外来棟を抜けると『ここより関係者以外立ち入り禁止』の立て看板を通り過ぎた。研究棟と書いてある。
薄暗い廊下を無言で歩く。
あれ?大丈夫かな?変なことされないよね?
「ここです。」
先生は立ち止まって振り返った。
『第7研究室 廣瀬』とドアに書かれていた。
先生がドアをノックすると中から『どうぞ』と男の人の声が聞こえた。
中に入ると化学の実験室のような部屋だった。
ゴーグルにマスクをした男の人が出迎えてくれた。
「廣瀬先生。お忙しいところすいません。」
「いいえ。とんでもない。この子が?」
廣瀬先生と呼ばれた男の人がゴーグル越しに僕を見た。
「こんにちは。」
「こんにちは。研究医の廣瀬です。バースの研究をしています。」
「中原由紀です。」
「中原さんのことは芦沢先生から聞いています。レティオールを飲んでいたんですね?そのせいでアルファの不快なフェロモンを放出していた。」
「はい。」
レティオールとは僕が飲んでいた抑制剤だ。
「その不快なフェロモンを体感したいんですね?」
「彼はレティオールのせいでアルファ不信なんだよ。あの薬のせいで身体だけでなく心にまで傷を負ってしまった。少しでもその気持ちも軽くしてあげたい。」
芦沢先生が説明してくれた。
「分かりました。」
廣瀬先生はバースのフェロモンを研究している。
何故惹かれ合うのかや、その反対に何故嫌悪するのか。そしてフェロモンによる犯罪の抑止力になるような薬の開発、研究をしている。
「中原さんから出ていたのはアルファの攻撃フェロモンに近いものです。アルファ同士で牽制したり、自分のオメガを守るときに出すフェロモンです。そのフェロモンはオメガやベータには感じることができません。」
「え?じゃあ僕には分からないんですか?」
「そうですね。」
廣瀬先生はにこりと笑った。ような気がする。ゴーグルとマスクで表情はよく分からない。
「でもどのくらい不快なのかは知ることができます。」
フェロモン自体を感じることは出来ないが、不快指数というものでどのくらいの不快感なのかを数値で見ることが出来る。同じくらいの数値のものと比べ見れば、アルファがどのくらい不快に感じでいるのかを知ることが出来るというのだ。
「中原さんが出していたフェロモンの値は入院時の測定結果が残っています。フェロモンの不快指数の数値は325でした。これだけ聞いてもピンときませんよね?」
「はい。」
「まずこれを不快な匂いに換算すると何と同じくらいだと思いますか?」
325…。検討もつかない。
「分かりません。」
「そうですよね。325は果物のドリアンの匂を嗅いだ時と同じです。」
「えっ?」
ドリアン?聞いたことある。テレビでも見た。
みんな臭い臭いって騒いでたよね?
「実際に嗅いでみますか?」
そう言って三十センチ四方の透明な箱を持ってきた。
「じゃあ開けますよ。」
廣瀬先生が蓋を開けた。
……。
「オェッ!」
強烈な匂いが辺りを漂った。気持ち悪い。吐きそうだ。
芦沢先生はハンカチで口元を押さえている。
僕たちの反応を見て廣瀬先生が蓋を閉めてくれた。
「どうですか?」
「強烈ですね。これが325の不快指数ですか。」
「はい。」
先生は窓を開けて換気をしている。
これじゃあまともに顔を見てくれない訳だ。
「僕はアルファにとったらこんなに不快な人間だったんですね。」
「全て薬のせいですよ。」
先生は臭い以外の音や温度などでも不快指数325を体感させてくれた。
「今日はありがとうございました。」
「いいえ。どういたしまして。」
研究室から外来棟へ戻ってきた。
「どうでしたか?」
「はい。すごく良く分かりました。アルファに対してモヤモヤしていたものが少し楽になりました。あの不快感では態度が悪くなるのも仕方ないですね。」
先生は笑って頷いてくれた。
叡倫堂製薬から賠償金の書類が届くと言われた。あの薬を飲んでいたオメガを集めて説明会もあるみたいだ。保護者と一緒に参加するよう勧められた。
先生にもう一度お礼を言って病院を出た。
バスターミナルでバスを待っているとスマホにメッセージが届いた。
祐一さんからだ。
『渡したいものがあるんだけど今から会えない?』
『はい。今病院にいます。今から帰るところです。』
『どこの病院?』
『バース医療センターです。』
『近くにいるから行くよ。』
僕はそのままバスターミナルで祐一さんを待つことになった。渡したいものって何だろう。
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