6 / 30
真紘
しおりを挟む
「結局フラれたんですね?」
祐一さんが悲壮感を漂わせて座っている。
トシくんのマンションに急にやって来た。由紀とのデートのあとらしい。
「考えたいって。はぁー。ダメってこと?」
「良いかもしれないだろ?」
トシくんが励ましている。
「そんな顔してなかった。」
「まぁ、仕方ないんじゃないですか?」
落ち込んでいる祐一さんに追い打ちをかけるように冷たく言った。
由紀は傷ついているんだ。アルファも少し反省した方が良い。
「真紘、そんな言い方したら祐一がかわいそうだろ?」
「え?だってそうでしょ。はっきり言ってトシくんもだからね。」
何かムカつくな。アルファだから自分たちは選べる立場だと思っているんだろう。
「俺も?」
「そうだよ。僕はあれだけ由紀はいいやつだって言ってたよね?それなのにトシくんの態度だって誉められたものじゃないよ。それについて由紀は一言も文句を言わなかった。フェロモンが変わっただけで可愛いとか言って誉めたりして。結局見た目だけだろ?」
トシくんがびっくりしている。こんなに怒ったことは今までないからな。でもこの際だから言わせてもらおう。
「いや、それは…。」
「僕も少し考えさせて。」
「え?何を?」
「トシくんと番いになることだよ。」
「え、そんな…。真紘。ごめん、ごめんなさい。」
オメガは一度番ってしまえば取り消すことは出来ない。僕ももっと真剣に考えよう。きちんとした人を選ぶんだ。
「由紀は大事な友達だ。僕は由紀を選ぶよ。友達を傷付けるやつとは付き合えない。」
そう、由紀は大事な友達なんだ。
僕は番い候補が見つかって浮かれていた。
高校一年の頃、いじめに合っていた僕に手を差し伸べてくれたのは由紀だ。いじめの理由はなんて事ない。すごく人気のあった隣の学校のアルファが僕を気に入ってアプローチしてきたからだ。みんなに無視されてすごく辛かった。でも由紀だけは違った。普段と変わらず話しかけてくれた。
「由紀は他のオメガより思慮深いんだ。普通のオメガなら祐一さんに迫られれば尻尾振って喜ぶよ。でも由紀は違う。相手がお金持ちだとか有名人だとかそんなの関係ない。ちゃんと自分自身を見てくれるアルファを探しているんだ。祐一さんは由紀が尻尾振って喜ぶと思ってたんでしょ?」
「それは…。」
祐一さんが沈んでいる。
「由紀はいつだって公平な人間だよ。相手でコロコロ態度を変えたりしない。」
祐一さんはさらに沈んで目が潤んでいる。
隣でトシくんは真っ青な顔をして震えている。
選ぶのは君たちじゃない。オメガがアルファを選ぶんだ。
「真紘…俺と番いにならないってこと?」
「考えるって言ってるんだ。祐一さん、由紀が良いんならそれなりの誠意を見せてよ。トシくんも。僕が迷いなく番いになりたいと思わせて。」
大きな身体の二人は小さくなって項垂れていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「えーっ?そんなこと言ったの?」
「うん。いい気味だよ。自分たちが一番偉いと思ってるんだから。」
月曜日、学校の昼休みに由紀に祐一さんとトシくんに啖呵を切った事を報告した。
すごい驚いている。
「ト、トシくんは?」
「祐一さんが帰ったあと、すごく謝ってきた。泣いて土下座してたよ。番いになって下さいって。」
そう。トシくんは大泣きしていた。
でも由紀が受けたショックに比べたら。
これでダメになるならそれでも良い。またいちからお見合いでもすれば良いんだ。
「仲直りしなよ。二人はお似合いだよ。」
「トシくん次第かな。今まで嫌な思いさせてごめんな。由紀は?どうするの?祐一さんの事。」
「どうしよう。悪い人じゃないんだ。」
「日曜日のお見合いは?」
「うん。すごかった。ぐいぐい来た。」
「はぁー、やっぱりね。ヒートさえ何とかなれば番いになんてならないかも。」
とにかくヒートが辛いのだ。年を重ねるごとにヒートは重くなる。この間初めてヒートをトシくんと迎えた。もちろんネックガードは付けていたけど。すごく楽だった。三日で終わった。普段は一週間ぐらい続くのに。トシくんはいろいろ世話を焼いてくれて僕の気が済むまでセックスしてくれた。
「それなんだけど、何か良い薬が認可されたって。欧米ではとっくに使われている薬なんだって。オメガのヒートがほとんどなくなる薬。」
ヒートがなくなる?そんな夢見たいな薬があるの?
由紀がスマホでバース医療センターからのメールを見せてくれる。新薬の紹介の中にその薬の説明があった。
「でも、副作用は?」
「欧米では五年前から使われているけど問題ないって。僕が使ってた薬がダメだっただろ?だから急きょ認可されるみたい。」
そんな薬が認可されたらアルファとオメガのパワーバランスは崩れるな。でもそれで良いのかもしれない。
祐一さんが悲壮感を漂わせて座っている。
トシくんのマンションに急にやって来た。由紀とのデートのあとらしい。
「考えたいって。はぁー。ダメってこと?」
「良いかもしれないだろ?」
トシくんが励ましている。
「そんな顔してなかった。」
「まぁ、仕方ないんじゃないですか?」
落ち込んでいる祐一さんに追い打ちをかけるように冷たく言った。
由紀は傷ついているんだ。アルファも少し反省した方が良い。
「真紘、そんな言い方したら祐一がかわいそうだろ?」
「え?だってそうでしょ。はっきり言ってトシくんもだからね。」
何かムカつくな。アルファだから自分たちは選べる立場だと思っているんだろう。
「俺も?」
「そうだよ。僕はあれだけ由紀はいいやつだって言ってたよね?それなのにトシくんの態度だって誉められたものじゃないよ。それについて由紀は一言も文句を言わなかった。フェロモンが変わっただけで可愛いとか言って誉めたりして。結局見た目だけだろ?」
トシくんがびっくりしている。こんなに怒ったことは今までないからな。でもこの際だから言わせてもらおう。
「いや、それは…。」
「僕も少し考えさせて。」
「え?何を?」
「トシくんと番いになることだよ。」
「え、そんな…。真紘。ごめん、ごめんなさい。」
オメガは一度番ってしまえば取り消すことは出来ない。僕ももっと真剣に考えよう。きちんとした人を選ぶんだ。
「由紀は大事な友達だ。僕は由紀を選ぶよ。友達を傷付けるやつとは付き合えない。」
そう、由紀は大事な友達なんだ。
僕は番い候補が見つかって浮かれていた。
高校一年の頃、いじめに合っていた僕に手を差し伸べてくれたのは由紀だ。いじめの理由はなんて事ない。すごく人気のあった隣の学校のアルファが僕を気に入ってアプローチしてきたからだ。みんなに無視されてすごく辛かった。でも由紀だけは違った。普段と変わらず話しかけてくれた。
「由紀は他のオメガより思慮深いんだ。普通のオメガなら祐一さんに迫られれば尻尾振って喜ぶよ。でも由紀は違う。相手がお金持ちだとか有名人だとかそんなの関係ない。ちゃんと自分自身を見てくれるアルファを探しているんだ。祐一さんは由紀が尻尾振って喜ぶと思ってたんでしょ?」
「それは…。」
祐一さんが沈んでいる。
「由紀はいつだって公平な人間だよ。相手でコロコロ態度を変えたりしない。」
祐一さんはさらに沈んで目が潤んでいる。
隣でトシくんは真っ青な顔をして震えている。
選ぶのは君たちじゃない。オメガがアルファを選ぶんだ。
「真紘…俺と番いにならないってこと?」
「考えるって言ってるんだ。祐一さん、由紀が良いんならそれなりの誠意を見せてよ。トシくんも。僕が迷いなく番いになりたいと思わせて。」
大きな身体の二人は小さくなって項垂れていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「えーっ?そんなこと言ったの?」
「うん。いい気味だよ。自分たちが一番偉いと思ってるんだから。」
月曜日、学校の昼休みに由紀に祐一さんとトシくんに啖呵を切った事を報告した。
すごい驚いている。
「ト、トシくんは?」
「祐一さんが帰ったあと、すごく謝ってきた。泣いて土下座してたよ。番いになって下さいって。」
そう。トシくんは大泣きしていた。
でも由紀が受けたショックに比べたら。
これでダメになるならそれでも良い。またいちからお見合いでもすれば良いんだ。
「仲直りしなよ。二人はお似合いだよ。」
「トシくん次第かな。今まで嫌な思いさせてごめんな。由紀は?どうするの?祐一さんの事。」
「どうしよう。悪い人じゃないんだ。」
「日曜日のお見合いは?」
「うん。すごかった。ぐいぐい来た。」
「はぁー、やっぱりね。ヒートさえ何とかなれば番いになんてならないかも。」
とにかくヒートが辛いのだ。年を重ねるごとにヒートは重くなる。この間初めてヒートをトシくんと迎えた。もちろんネックガードは付けていたけど。すごく楽だった。三日で終わった。普段は一週間ぐらい続くのに。トシくんはいろいろ世話を焼いてくれて僕の気が済むまでセックスしてくれた。
「それなんだけど、何か良い薬が認可されたって。欧米ではとっくに使われている薬なんだって。オメガのヒートがほとんどなくなる薬。」
ヒートがなくなる?そんな夢見たいな薬があるの?
由紀がスマホでバース医療センターからのメールを見せてくれる。新薬の紹介の中にその薬の説明があった。
「でも、副作用は?」
「欧米では五年前から使われているけど問題ないって。僕が使ってた薬がダメだっただろ?だから急きょ認可されるみたい。」
そんな薬が認可されたらアルファとオメガのパワーバランスは崩れるな。でもそれで良いのかもしれない。
99
お気に入りに追加
2,166
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
初恋の公爵様は僕を愛していない
上総啓
BL
伯爵令息であるセドリックはある日、帝国の英雄と呼ばれるヘルツ公爵が自身の初恋の相手であることに気が付いた。
しかし公爵は皇女との恋仲が噂されており、セドリックは初恋相手が発覚して早々失恋したと思い込んでしまう。
幼い頃に辺境の地で公爵と共に過ごした思い出を胸に、叶わぬ恋をひっそりと終わらせようとするが…そんなセドリックの元にヘルツ公爵から求婚状が届く。
もしや辺境でのことを覚えているのかと高揚するセドリックだったが、公爵は酷く冷たい態度でセドリックを覚えている様子は微塵も無い。
単なる政略結婚であることを自覚したセドリックは、恋心を伝えることなく封じることを決意した。
一方ヘルツ公爵は、初恋のセドリックをようやく手に入れたことに並々ならぬ喜びを抱いていて――?
愛の重い口下手攻め×病弱美人受け
※二人がただただすれ違っているだけの話
前中後編+攻め視点の四話完結です
【完結】運命の相手は報われない恋に恋してる
grotta
BL
オメガの僕には交際中の「運命の番」がいる。僕は彼に夢中だけど、彼は運命に逆らうようにいつも新しい恋を探している。
◆
アルファの俺には愛してやまない「運命の番」がいる。ただ愛するだけでは不安で、彼の気持ちを確かめたくて、他の誰かに気があるふりをするのをやめられない。
【溺愛拗らせ攻め×自信がない平凡受け】
未熟で多感な時期に運命の番に出会ってしまった二人の歪んだ相思相愛の話。
久藤冬樹(21歳)…平凡なオメガ
神林豪(21歳)…絵に描いたようなアルファ(中身はメンヘラ)
※番外編も完結しました。ゼミの後輩が頑張るおまけのifルートとなります
ふたなり好きのノンケなのに、幼馴染のイケメンに犯されました
ななな
BL
高校一年生になったばかりのハルには、夢があった。
それは女の子のアルファと番になること。
なぜなら、大のふたなり好きだったからだ。
ハルがオメガと診断されてから、幼馴染のリクの元へと向かうと予想外の展開になって…。
※オメガバース設定です。
※ひたすらイチャイチャエッチしてます。エロギャグ寄り。
※けっこうふざけてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる