オメガの秘薬

みこと

文字の大きさ
上 下
9 / 20

8

しおりを挟む
受験生の夏なんて地獄と一緒だ。来年は遊びまくるぞ!と心に決めて図書館に向かった。

「比呂~。昨日の模試の結果どうだった?」

「まずまずだな。」

「マジかよ~。結果見せて。」

夏樹と俺は図書館の中にある喫茶店で昼を食べている。予備校日以外はここで勉強だ。

「K大、A判定じゃん。他も!」

「夏樹もBじゃん。イケるよ。」

二人で昨日返ってきた模試の結果を見比べる。二人とも第一志望はK大だ。

「そう言えば、岩澤はT大だってな。」

夏樹がオムライスを頬張りながら言った。

「あいつ頭良いからな。」

航と話をすることはないがたまにこうやって噂は耳にする。
高校を卒業したら大学が別になるので会うこともないだろう。俺たちの人生は永遠に交わることはなくなる。

「京介さんとどこにも出かけないの?」 

「うーん。行きたいけど、何か行ったら負けな気がする。」

「あー、分かる。」

長い人生の内の一年だ。頑張ろう。京介さんが拗ねなきゃ良いけど。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「比呂、すごいね。ほとんどA判定だ。」

京介さんが結果を見ながら驚いている。

「うん。京介さんのおかげ。この間教えてもらったところ、テストに出たんだ。」

今までの模試の結果の中で今回が一番良かった。夏を捨てた甲斐があったよ。

「なぁ、大学生になったら一緒に暮らさないか?」

「…え?一緒に?」

「あぁ。比呂の両親にも挨拶に行きたい。」

「うん…。」

ぎゅっと抱きしめられる。暖かい。そして良い匂いだ。

「京介さん。良い匂い…。」

「ふふ、比呂も。」

結局夏はどこへも行かず勉強に励んだ。たまに京介さんの家に泊まるのがご褒美だ。
その日もご褒美を終えて家に送ってもらうところだった。
京介さんのマンションの駐車場まで降りてきたところにその人がいた。
俺には一瞬誰なのか分からなかった。

「京介!」

その人の呼びかけに京介さんの足が止まり俺を庇うようにして立った。見たことある。誰だっけ…。

「美涼、何の用だ。」

美涼…。山木美鈴!航の浮気相手だ。何で?顔を覗かせてその人を見た。あの時の記憶がフラッシュバックする。
息が苦しい。手が震える。京介さんのシャツをぎゅっと掴んだ。それに気付いた京介さんが俺を抱きしめてくれた。

「その子が…航君の?」

「何しに来たんだ。」

「京介に会いに来たんだよ。」

「もう俺とおまえは他人だ。会う必要なんてないだろ?俺の恋人は比呂だ。帰ってくれ。」

そう言いながら俺を素早く車の助手席に乗せてドアを閉めた。そのあと二人は少し何か言い争っていたようだが、美涼は帰っていった。

「比呂、大丈夫か?ごめんな?もうあいつが来ることはないからな。」

優しくそう言って抱きしめてくれる。京介さんの匂いを思いっきり吸い込むと少し落ち着いた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「山木美鈴が来たの?マジ?修羅場じゃん。」

「うん。何か怖かった。思ってた雰囲気と全然違って。最初は誰か分からなかった。」

「何しに来たの?」

「京介さんに会いに来たみたい。でも京介さん、はっきり言ってくれた。俺の恋人は比呂だって。」

「そか。良かったな。京介さん、ちゃんとした人で。」

教室の前を通り過ぎる航が見えた。
『ちゃんとした人』。そう、京介さんはちゃんとした人だ。俺を大事にして悲しませたりしない。

いよいよ寒くなり受験シーズンも山場を迎えた。クリスマスも正月も今年は我慢だ。京介さんはマメに連絡をくれるし、どんな短い時間でも会いに来てくれた。

「来年は一緒に過ごそうな。」

そう言ってお守りとクリスマスプレゼントを届けてくれた。
来年の俺たちのためにも頑張ろう。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「どうする?結果見に行く?」

「ネットで見る。」

「一緒に見るか?」

やっと終わったのだ…。やるだけやった。あとは朗報を待つのみだ。
明日の発表をどうするかだ。
結局夏樹と一緒に見ることにした。


「今何時だ?」

「九時五十分」

二人でパソコンの前に座る。
吐きそうだ。
夏樹は隣でオエオエ言っている。気持ち悪いからやめて欲しい。
時間になりホームページを開く。俺たちは無言になりドキドキしながら番号を追っていった。

「…………。」

「…………。」

「あったーー!」

「やったぁ!」

「おめでとう、比呂!そして俺!」

「おめでとう、夏樹!俺ーーっ!」

二人とも合格だ!嬉しい、嬉しい!神様!ありがとう!
部屋で大騒ぎして喜んだ。夏樹は何回もベッドにダイブしている。

「俺、マジでダメかと思ってた。」

「あっ!京介さんに教えないと。」

「良いね~。俺は母ちゃんくらいしか居ねーよ。」

京介さんもすごく喜んでくれて、週末に合格祝いをしてくれることになった。今日は家族でお祝いだ。
夏樹と俺は無事に地獄から抜け出すことが出来た。
その後早速二人で卒業旅行に行く計画を立てて家に帰った。


家では母さんがケーキを用意して待っていた。『祝 合格!』と書いたチョコレートのプレートが乗っている。

「これ、いつ予約したの?」

「一昨日よ。」

「落ちてたらどーすんの?」

「お母さんが『合格』の前に『不』って付け足すつもりだった。」

「何それ。」

二人で笑い合った。
夜、父さんもケーキを買って帰ってきたのでまた笑った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

浮気三昧の屑彼氏を捨てて後宮に入り、はや1ヶ月が経ちました

Q.➽
BL
浮気性の恋人(ベータ)の度重なる裏切りに愛想を尽かして別れを告げ、彼の手の届かない場所で就職したオメガのユウリン。 しかしそこは、この国の皇帝の後宮だった。 後宮は高給、などと呑気に3食昼寝付き+珍しいオヤツ付きという、楽しくダラケた日々を送るユウリンだったが…。 ◆ユウリン(夕凛)・男性オメガ 20歳 長めの黒髪 金茶の瞳 東洋系の美形 容姿は結構いい線いってる自覚あり ◆エリアス ・ユウリンの元彼・男性ベータ 22歳 赤っぽい金髪に緑の瞳 典型的イケメン 女好き ユウリンの熱心さとオメガへの物珍しさで付き合った。惚れた方が負けなんだから俺が何しても許されるだろ、と本気で思っている ※異世界ですがナーロッパではありません。 ※この作品は『爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話』のスピンオフです。 ですが、時代はもう少し後になります。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

番、募集中。

Q.➽
BL
番、募集します。誠実な方希望。 以前、ある事件をきっかけに、番を前提として交際していた幼馴染みに去られた緋夜。 別れて1年、疎遠になっていたその幼馴染みが他の人間と番を結んだとSNSで知った。 緋夜はその夜からとある掲示板で度々募集をかけるようになった。 番の‪α‬を募集する、と。 しかし、その募集でも緋夜への反応は人それぞれ。 リアルでの出会いには期待できないけれど、SNSで遣り取りして人となりを知ってからなら、という微かな期待は裏切られ続ける。 何処かに、こんな俺(傷物)でも良いと言ってくれる‪α‬はいないだろうか。 選んでくれたなら、俺の全てを懸けて愛するのに。 愛に飢えたΩを救いあげるのは、誰か。 ※ 確認不足でR15になってたのでそのままソフト表現で進めますが、R18癖が顔を出したら申し訳ございませんm(_ _)m

処理中です...