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受験生の夏なんて地獄と一緒だ。来年は遊びまくるぞ!と心に決めて図書館に向かった。
「比呂~。昨日の模試の結果どうだった?」
「まずまずだな。」
「マジかよ~。結果見せて。」
夏樹と俺は図書館の中にある喫茶店で昼を食べている。予備校日以外はここで勉強だ。
「K大、A判定じゃん。他も!」
「夏樹もBじゃん。イケるよ。」
二人で昨日返ってきた模試の結果を見比べる。二人とも第一志望はK大だ。
「そう言えば、岩澤はT大だってな。」
夏樹がオムライスを頬張りながら言った。
「あいつ頭良いからな。」
航と話をすることはないがたまにこうやって噂は耳にする。
高校を卒業したら大学が別になるので会うこともないだろう。俺たちの人生は永遠に交わることはなくなる。
「京介さんとどこにも出かけないの?」
「うーん。行きたいけど、何か行ったら負けな気がする。」
「あー、分かる。」
長い人生の内の一年だ。頑張ろう。京介さんが拗ねなきゃ良いけど。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「比呂、すごいね。ほとんどA判定だ。」
京介さんが結果を見ながら驚いている。
「うん。京介さんのおかげ。この間教えてもらったところ、テストに出たんだ。」
今までの模試の結果の中で今回が一番良かった。夏を捨てた甲斐があったよ。
「なぁ、大学生になったら一緒に暮らさないか?」
「…え?一緒に?」
「あぁ。比呂の両親にも挨拶に行きたい。」
「うん…。」
ぎゅっと抱きしめられる。暖かい。そして良い匂いだ。
「京介さん。良い匂い…。」
「ふふ、比呂も。」
結局夏はどこへも行かず勉強に励んだ。たまに京介さんの家に泊まるのがご褒美だ。
その日もご褒美を終えて家に送ってもらうところだった。
京介さんのマンションの駐車場まで降りてきたところにその人がいた。
俺には一瞬誰なのか分からなかった。
「京介!」
その人の呼びかけに京介さんの足が止まり俺を庇うようにして立った。見たことある。誰だっけ…。
「美涼、何の用だ。」
美涼…。山木美鈴!航の浮気相手だ。何で?顔を覗かせてその人を見た。あの時の記憶がフラッシュバックする。
息が苦しい。手が震える。京介さんのシャツをぎゅっと掴んだ。それに気付いた京介さんが俺を抱きしめてくれた。
「その子が…航君の?」
「何しに来たんだ。」
「京介に会いに来たんだよ。」
「もう俺とおまえは他人だ。会う必要なんてないだろ?俺の恋人は比呂だ。帰ってくれ。」
そう言いながら俺を素早く車の助手席に乗せてドアを閉めた。そのあと二人は少し何か言い争っていたようだが、美涼は帰っていった。
「比呂、大丈夫か?ごめんな?もうあいつが来ることはないからな。」
優しくそう言って抱きしめてくれる。京介さんの匂いを思いっきり吸い込むと少し落ち着いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「山木美鈴が来たの?マジ?修羅場じゃん。」
「うん。何か怖かった。思ってた雰囲気と全然違って。最初は誰か分からなかった。」
「何しに来たの?」
「京介さんに会いに来たみたい。でも京介さん、はっきり言ってくれた。俺の恋人は比呂だって。」
「そか。良かったな。京介さん、ちゃんとした人で。」
教室の前を通り過ぎる航が見えた。
『ちゃんとした人』。そう、京介さんはちゃんとした人だ。俺を大事にして悲しませたりしない。
いよいよ寒くなり受験シーズンも山場を迎えた。クリスマスも正月も今年は我慢だ。京介さんはマメに連絡をくれるし、どんな短い時間でも会いに来てくれた。
「来年は一緒に過ごそうな。」
そう言ってお守りとクリスマスプレゼントを届けてくれた。
来年の俺たちのためにも頑張ろう。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「どうする?結果見に行く?」
「ネットで見る。」
「一緒に見るか?」
やっと終わったのだ…。やるだけやった。あとは朗報を待つのみだ。
明日の発表をどうするかだ。
結局夏樹と一緒に見ることにした。
「今何時だ?」
「九時五十分」
二人でパソコンの前に座る。
吐きそうだ。
夏樹は隣でオエオエ言っている。気持ち悪いからやめて欲しい。
時間になりホームページを開く。俺たちは無言になりドキドキしながら番号を追っていった。
「…………。」
「…………。」
「あったーー!」
「やったぁ!」
「おめでとう、比呂!そして俺!」
「おめでとう、夏樹!俺ーーっ!」
二人とも合格だ!嬉しい、嬉しい!神様!ありがとう!
部屋で大騒ぎして喜んだ。夏樹は何回もベッドにダイブしている。
「俺、マジでダメかと思ってた。」
「あっ!京介さんに教えないと。」
「良いね~。俺は母ちゃんくらいしか居ねーよ。」
京介さんもすごく喜んでくれて、週末に合格祝いをしてくれることになった。今日は家族でお祝いだ。
夏樹と俺は無事に地獄から抜け出すことが出来た。
その後早速二人で卒業旅行に行く計画を立てて家に帰った。
家では母さんがケーキを用意して待っていた。『祝 合格!』と書いたチョコレートのプレートが乗っている。
「これ、いつ予約したの?」
「一昨日よ。」
「落ちてたらどーすんの?」
「お母さんが『合格』の前に『不』って付け足すつもりだった。」
「何それ。」
二人で笑い合った。
夜、父さんもケーキを買って帰ってきたのでまた笑った。
「比呂~。昨日の模試の結果どうだった?」
「まずまずだな。」
「マジかよ~。結果見せて。」
夏樹と俺は図書館の中にある喫茶店で昼を食べている。予備校日以外はここで勉強だ。
「K大、A判定じゃん。他も!」
「夏樹もBじゃん。イケるよ。」
二人で昨日返ってきた模試の結果を見比べる。二人とも第一志望はK大だ。
「そう言えば、岩澤はT大だってな。」
夏樹がオムライスを頬張りながら言った。
「あいつ頭良いからな。」
航と話をすることはないがたまにこうやって噂は耳にする。
高校を卒業したら大学が別になるので会うこともないだろう。俺たちの人生は永遠に交わることはなくなる。
「京介さんとどこにも出かけないの?」
「うーん。行きたいけど、何か行ったら負けな気がする。」
「あー、分かる。」
長い人生の内の一年だ。頑張ろう。京介さんが拗ねなきゃ良いけど。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「比呂、すごいね。ほとんどA判定だ。」
京介さんが結果を見ながら驚いている。
「うん。京介さんのおかげ。この間教えてもらったところ、テストに出たんだ。」
今までの模試の結果の中で今回が一番良かった。夏を捨てた甲斐があったよ。
「なぁ、大学生になったら一緒に暮らさないか?」
「…え?一緒に?」
「あぁ。比呂の両親にも挨拶に行きたい。」
「うん…。」
ぎゅっと抱きしめられる。暖かい。そして良い匂いだ。
「京介さん。良い匂い…。」
「ふふ、比呂も。」
結局夏はどこへも行かず勉強に励んだ。たまに京介さんの家に泊まるのがご褒美だ。
その日もご褒美を終えて家に送ってもらうところだった。
京介さんのマンションの駐車場まで降りてきたところにその人がいた。
俺には一瞬誰なのか分からなかった。
「京介!」
その人の呼びかけに京介さんの足が止まり俺を庇うようにして立った。見たことある。誰だっけ…。
「美涼、何の用だ。」
美涼…。山木美鈴!航の浮気相手だ。何で?顔を覗かせてその人を見た。あの時の記憶がフラッシュバックする。
息が苦しい。手が震える。京介さんのシャツをぎゅっと掴んだ。それに気付いた京介さんが俺を抱きしめてくれた。
「その子が…航君の?」
「何しに来たんだ。」
「京介に会いに来たんだよ。」
「もう俺とおまえは他人だ。会う必要なんてないだろ?俺の恋人は比呂だ。帰ってくれ。」
そう言いながら俺を素早く車の助手席に乗せてドアを閉めた。そのあと二人は少し何か言い争っていたようだが、美涼は帰っていった。
「比呂、大丈夫か?ごめんな?もうあいつが来ることはないからな。」
優しくそう言って抱きしめてくれる。京介さんの匂いを思いっきり吸い込むと少し落ち着いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「山木美鈴が来たの?マジ?修羅場じゃん。」
「うん。何か怖かった。思ってた雰囲気と全然違って。最初は誰か分からなかった。」
「何しに来たの?」
「京介さんに会いに来たみたい。でも京介さん、はっきり言ってくれた。俺の恋人は比呂だって。」
「そか。良かったな。京介さん、ちゃんとした人で。」
教室の前を通り過ぎる航が見えた。
『ちゃんとした人』。そう、京介さんはちゃんとした人だ。俺を大事にして悲しませたりしない。
いよいよ寒くなり受験シーズンも山場を迎えた。クリスマスも正月も今年は我慢だ。京介さんはマメに連絡をくれるし、どんな短い時間でも会いに来てくれた。
「来年は一緒に過ごそうな。」
そう言ってお守りとクリスマスプレゼントを届けてくれた。
来年の俺たちのためにも頑張ろう。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「どうする?結果見に行く?」
「ネットで見る。」
「一緒に見るか?」
やっと終わったのだ…。やるだけやった。あとは朗報を待つのみだ。
明日の発表をどうするかだ。
結局夏樹と一緒に見ることにした。
「今何時だ?」
「九時五十分」
二人でパソコンの前に座る。
吐きそうだ。
夏樹は隣でオエオエ言っている。気持ち悪いからやめて欲しい。
時間になりホームページを開く。俺たちは無言になりドキドキしながら番号を追っていった。
「…………。」
「…………。」
「あったーー!」
「やったぁ!」
「おめでとう、比呂!そして俺!」
「おめでとう、夏樹!俺ーーっ!」
二人とも合格だ!嬉しい、嬉しい!神様!ありがとう!
部屋で大騒ぎして喜んだ。夏樹は何回もベッドにダイブしている。
「俺、マジでダメかと思ってた。」
「あっ!京介さんに教えないと。」
「良いね~。俺は母ちゃんくらいしか居ねーよ。」
京介さんもすごく喜んでくれて、週末に合格祝いをしてくれることになった。今日は家族でお祝いだ。
夏樹と俺は無事に地獄から抜け出すことが出来た。
その後早速二人で卒業旅行に行く計画を立てて家に帰った。
家では母さんがケーキを用意して待っていた。『祝 合格!』と書いたチョコレートのプレートが乗っている。
「これ、いつ予約したの?」
「一昨日よ。」
「落ちてたらどーすんの?」
「お母さんが『合格』の前に『不』って付け足すつもりだった。」
「何それ。」
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