オメガの秘薬

みこと

文字の大きさ
上 下
1 / 20

1

しおりを挟む
「はぁはぁ、美涼みすずさん…。すごい…はぁ、気持ちいい…。」

「あっ、あっ、わたるくん、あぁん…もっと。」

俺は何を見ているんだろうか。ドアの隙間から見える絡み合う二人。その内の一人、一生懸命に腰を振っている航と呼ばれた男は俺の恋人だ。みんなはこういう時どうするのだろうか?俺は震える手でポケットスマホを取り出しドアを開けた。
驚いてこちらを見る二人。
良いね、カメラ目線だ。そのまま連写して部屋を出た。


何でこんな事になったんだっけ。
歩きながら考える。一生懸命に考えないとすぐに思考が止まる。
なかなか震えが治らない。
今日は部活が急になくなって、航に会いたくて一人暮らしのマンションまで行ったんだ。メッセージも送ったけど既読にならなかった。
まぁ、それどころじゃなかったんだな。
撮った写真は怖くて見られない。
あの衝撃的な光景を思い出し涙がぽろりとこぼれた。

番いになってなくて良かった…。俺はネックガードが巻かれた頸をそっと撫でた。



「ただいま~。」

「おかえり。今日は早いじゃない。」

「うん。部活、中止になった。先生が具合悪いんだって。」

「あら~。波多野先生?元気だけが取り柄みたいな人なのにねぇ。」

二階の自分の部屋に入ってベッドに横になった。
さっきからスマホが鳴りっぱなしだ。うるさいから電源を切ろうか…。
母さんたちになんて言おう。
去年の夏に付き合って、冬には親に紹介した。番いになるって言って…。
母さんは二十歳まで待てって言ってたな。結局、高校卒業したらって事になったんだ。
いつもは口うるさくて鬱陶しいけど母さんの言う通りだ。その場の勢いで番いにならなくて良かった。
あーもう、スマホがうるさい!
航からだ。俺に何て言うつもりなんだろう。好きな人ができた?それとも…。

出会った時のことを思い出す。高校に入学した時だ。航は隣のクラスで有名だった。アルファで、カッコよくて頭も良い。岩澤っていう企業の息子だ。俺には関係ない存在だと思っていたのにゴールデンウィーク明けに告白された。
最初は罰ゲームか何かだと思ったけど、まずは友達からって事で始まった。
航は優しくて面白くてカッコよくて、俺はすぐに好きになってしまった。夏には正式に付き合って、秋にはそういう関係になった。
アルファは独占欲が強く、航もそれに漏れない。
番いになりたいと言ってきた。両親に紹介したら高校を卒業してからにしなさいと言われたんだ。

番い契約は解除できない。
正確にはオメガには解除できないのだ。アルファはそのオメガに飽きたり、嫌になれば違うオメガと番いになれる。
オメガは一度番い契約を結ぶとそのアルファとしかセックスが出来ない。出来ないってことはないみたいだけど番いのアルファ以外のセックスは死ぬほど苦痛な行為になるのだ。
今はオメガの人権も守られているから易々と番いを解除できない。自分勝手にそんな事をするアルファは社会的信用を失う。

俺たちは付き合ってまだ一年だ。
それなのに他のオメガと浮気をした。そういうヤツはこれから先もするだろう。
あんなに熱心に口説いてきたのに…。
信じた俺がバカだったんだ。

マナーモードにしたスマホの着信とメッセージがすごい事になっている。恐る恐るメッセージアプリを開いてみた。
『ヒロ、話がしたい』『頼むから返事をくれ』『本当にごめん』同じようなメッセージ内容が流れてくる。
あ、着信だ。メッセージが既読になったからだな。
そのまま電源を落とした。



よし、言うぞ!善は急げだ。こういう事は早い方がいい。
ダイニングテーブルで俺の前に座り他愛もない話をしている父さんと母さんを見た。

「ねぇ、あのさ…。俺、航と別れたんだ。」

あくまでさり気なく言ったつもりだ。
でも少し声が掠れてしまった。

「え?何で?いつ?どうして?」

一瞬だけ間があいて母さんが矢継ぎ早に聞いてきた。

「ん?今日。アイツ浮気してた。マンションに違うオメガ連れ込んでた。写真も撮ったよ。」

二人とも愕然としていた。
我に帰った父さんがものすごく怒ってアイツに電話するって暴れ出した。母さんがそれを何とか宥めて座らせた。

「比呂、大丈夫なの?」

「分かんない。でも母さんの言った通りだ。勢いで番いにならなくて良かった。」

「比呂、父さんが一言言ってやる。何が一生大事にしますだ。バカにして!相手は誰だ?知ってるやつか?」

「たぶん知らない。もう良いよ。もう良いんだ。番いになってないし。ベータじゃ浮気で別れるカップルなんてたくさんいるだろ?」

「でもな…。」

「良いんだ。早く分かって良かったよ。」

ごちそうさま、と言って部屋に戻った。
父さん、怒ってたな。母さんは泣いてた。
もう良いんだ。僕にはこうして愛してくれる人たちがいる。でも、でも、今日だけは泣かせて…。
僕は一晩中泣いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

浮気三昧の屑彼氏を捨てて後宮に入り、はや1ヶ月が経ちました

Q.➽
BL
浮気性の恋人(ベータ)の度重なる裏切りに愛想を尽かして別れを告げ、彼の手の届かない場所で就職したオメガのユウリン。 しかしそこは、この国の皇帝の後宮だった。 後宮は高給、などと呑気に3食昼寝付き+珍しいオヤツ付きという、楽しくダラケた日々を送るユウリンだったが…。 ◆ユウリン(夕凛)・男性オメガ 20歳 長めの黒髪 金茶の瞳 東洋系の美形 容姿は結構いい線いってる自覚あり ◆エリアス ・ユウリンの元彼・男性ベータ 22歳 赤っぽい金髪に緑の瞳 典型的イケメン 女好き ユウリンの熱心さとオメガへの物珍しさで付き合った。惚れた方が負けなんだから俺が何しても許されるだろ、と本気で思っている ※異世界ですがナーロッパではありません。 ※この作品は『爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話』のスピンオフです。 ですが、時代はもう少し後になります。

処理中です...