オメガの香り

みこと

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「みんな来るのかな?」

「来るだろ。ちゃんと勉強しないとな。」

今日はクリニックで開催される両親学級の日だ。
樹里を車に乗せてクリニックに向かう。

「みんなオメガの男だから気が楽だし心強いよ。」

「そうだな。」

クリニックに着いて案内された場所は畳の部屋になっている。パンフレットをもらい空いている場所に座った。
既に四組のカップルが居る。
隣のカップルは見たことがあるな…。

「あーたん、具合は平気?足のむくみは良くなったね。」

「うん。修くんが今朝マッサージしてくれたから。」

「帰ったらまたするね。」

あ、思い出した。この間の『あーたん』だ。
畳の上に座った二人はべったりくっついている。
というか修くんか後ろからあーたんにがっちり抱きついて離さないのだ。

「あーたん、良い匂い。妊娠しててもこんなに良い匂いがするなんて…。」

「しゅ、修くん、恥ずかしいよ。」

修くんが頸の匂いを嗅いでいる。周りなんて全然見えていないんだろうな。

「隣、良いですか?」

「あ、はい。」

後から来たカップルに話しかけられた。
そのカップルは左隣の空いているスペースに座る。
二人とも若いな…。

「航、書くもの持ってきた?」

「うん。俺のリュックのポケットに入ってる。」

オメガがアルファのリュックを探っている。

「あ、あった。ちゃんとメモしとかないと。」

「ふふ、ヒロは真面目だね。」

「だって…。」

航と呼ばれたアルファが妊婦のヒロの背中に手を回して抱き寄せて頭にキスしている。

「そうだ、ヒロ。大学の休学届出した?」

「うん。」

「ごめんね。ちゃんと薬飲んだのに…。」

「何で謝るんだよ。二人で決めたことだろ?俺は楽しみだ。」

「うん。俺も。」

アルファは愛おしそうに番いの腹を撫で始めた。二人はうっとりと見つめ合っている。
相変わらずみんなイチャイチャしてるな。
樹里を見るともらったパンフレットを一生懸命読んでいた。
俺も後ろから樹里に抱きついてパンフレットを覗き込んだ。

「初期にも両親学級があったんだな。」

「つわりが酷くて行けなかったんだ。」

「そうだったな。」

「でも助産師と看護師さんが個別に教えてくれたからから。」

「ああ。丁寧で分かりやすかった。やっぱり戸波先生がお勧めするだけあって良い病院だ。」

八カ月を過ぎたが樹里の体調は良いし、赤ちゃんも順調だ。家も片付いてあとは産まれるのを待つばかりだ。
樹貴のときは何もしてやれなかった。こんなに大変な妊婦生活を一人で過ごさせたのだと思うと涙が出てくる。
だからできる限りのことはしてやりたい。

「ねぇ、隣のカップル若いね。」

俺の耳元で樹里が囁いた。
あー、やばい。ゾクゾクする。

「樹里、ダメだ…。」

まずいな、これだけで勃ってくる。

「やだ、何?何で?」

腰に俺の昂りを感じた樹里が慌てている。

「樹里が誘惑してくるからだろ?」

「してないよ。話しかけただけだよ?」

「耳元で話しかけたからだ。」

「え?もう…慎一郎は本当に…。」

「ん?本当に何だ?」

「もう良いよ。」

恥ずかしそうに下を向いた樹里の頸にキスをする。
めちゃくちゃ可愛いな。
この間も思ったけど樹里が一番可愛い。
照れてる樹里が可愛くてちょっかいを出していると聞き捨てならない言葉が聞こえた。

「あーたんが一番可愛いね。」

「やめてよ…。そんなことないよ。」

あーたんカップルをチラリと見た。
いや、樹里の方が可愛いだろ?
あーたんはどう見ても子どもじゃないか。

「樹里が一番だな。可愛くてキレイで良い匂いだ。」

隣に聞こえるように樹里に話しかけた。

「ちょっと、慎一郎。声が大きいよ。」

樹里が俺の腕を引っ張る。
隣に聞こえるように態と大きな声で言ったんだ。
この世におまえより可愛いオメガなんて居ないからな。
そこのところははっきりさせておかないと。

「あーたん、可愛い。世界で一番可愛い。」

隣のアルファが負けじと言っている。

「樹里は宇宙で一番可愛い。」

「あーたんは万物の中で一番だ。」

「「もうやめてよ!」」

樹里とあーたんが声を揃えて俺たちを嗜めた。

「すいません…。」

樹里があーたんに頭を下げている。

「いえ、こちらこそ…。修くん、もうやめて。」

修くんがあーたんに怒られている。
ざまぁみろ。
泣きそうな顔であーたんに謝っている。
俺はそれをニヤニヤして見ていた。

「ちょっと、慎一郎。笑ってる場合じゃないよ。」

後ろから抱きついている俺を睨むように樹里が振り返った。
やばい、こっちも怒っている。

「もう、大人げないんだから。」

「だって…。う、ごめん。」

「今日は一緒に寝ないから。」

「そ、それだけは。ごめん、ごめんなさい。」

嫌だ。樹里と一緒じゃないと眠れないんだ。樹里の匂いを嗅ぎながらじゃないとダメなんだ!
俺は許してもらえるように必死で謝った。






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