オメガの香り

みこと

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「樹里、もういい加減休んでくれ。」

「うん、もうちょっと…。」

マイホームが完成して今日は引っ越しだ。
このマンションを引き払う。
樹貴は樹里の実家に預かってもらっている。樹里も実家に帰るように言ったのに『少しだけ手伝う』と言ってきかない。
もう妊娠八カ月。お腹も大きいし心配なのに…。

「あ、これ動物園に行った時の写真。新しいおうちに飾ろう。」

「ああ、そうだな。ほら、樹里。そろそろ休もう。引っ越しは業者に任せよう。」

「うん。でも大事なものだけ自分で持っていく。」

そう言って段ボールにいろいろ詰めている。
樹貴の思い出の物や俺がプレゼントした物ばかりだ。
一通り詰め終わってやっと満足したようだ。

「じゃあこれは俺の車に乗せよう。」

「うん、ありがとう。」

車で先に新居に向かう。樹里は楽しそうだ。お腹が大きいのも気にせずいろいろ自分でやりたがる。



「うわぁ、改めて見ると豪邸だね。」

「まあな。後で樹貴も一緒に写真を撮ろう。」

家の中には大体家具や家電は揃っている。あとは前の家で使っていたものを運び込むだけだ。

「広くて掃除が大変そう。」

「当分はお手伝いさんでも雇うよ。おまえの身体も心配だし。」

「ありがとう。」

二階に登って部屋を見て回る。俺たちの寝室、子ども部屋がある。寝室のベッドはワイドキングサイズだ。

「みんなで寝れるね。赤ちゃんが大きくなったら四人でも大丈夫そう。」

「そうだな。」

本当は早く二人きりで寝たいけど当分先だな。

「樹里、三階も見てみよう。ヒート部屋だ。」

「うん。」

奥の階段から三階に登るとヒート部屋があった。
二重扉で鍵が掛かる。外に声やフェロモンが出ない設計だ。中は落ち着いた雰囲気のホテルのようだ。こちらはキングサイズのベッドが置いてある。バスルームにトイレ、ミニキッチンが取り付けてあり、ここで生活できるようになっている。

「すごい豪華だね。しばらくは使わないけど。」

お腹を撫でながら樹里が照れ笑いする。

「そんなことないぞ。ここですればいいだろ?」

抱きついて頸にキスをする。臨月になったらセックスはダメだと医者に言われた。念を押すように何度もだ。
そんなにしつこく言われなくても分かっている。樹里の身体が一番大事だからな。それくらい我慢する…はずだ。

「ダメだよ。一階もよく見よう?」

「ああ。」

生返事をして頸を舐め回した。
樹里は番いになってからここがすごく感じるようだ。
俺にしか分からない匂いを濃くさせて身体を預けてきた。

「樹里、可愛いな。」

噛み跡に吸い付きながら抱き上げてベッドの上に下ろす。

「業者さん来ちゃうよ。」

「ああ。だからちょっとだけ…。」

腹に負担がかからないような格好にして下着の中に手を入れるとトロトロに濡れていた。

「はぁはぁ、可愛い。すごいな…。」

寝たまま後ろからゆっくり入れてゆるゆると動かした。

「ん、あ、あぁん。」

「はあ、気持ちいい…。樹里、愛してる。」

腹を撫でながら優しく腰を動かす。
中がきゅうっと吸い付いてきて樹里がイったのが分かった。そのまま俺にきゅうきゅう吸い付いてきて射精を促す。

「う、うぅ、イクっ!」

樹里の中に思いっきり吐き出した。
めちゃくちゃ気持ちいい…。
結局最後までしてしまった。
しばらく休んで樹里を横抱きにして一階に降りる。

「大丈夫か?」

「うん…。」

ソファーに下ろして飲み物を飲ませる。
まだぽーっとしているようだ。その顔もすごく可愛い。
抱きしめて顔中にキスしながら樹里が落ち着くのを待った。

「そういえば、一階の奥は慎一郎の仕事部屋なんだっけ?」

「そうだ。見に行くか?」

「うん。いいの?」

樹里を連れて一階の奥の部屋に行く。庭が見えて日が当たる一番良い場所だ。
そのドアを開けて樹里と中に入った。

「え…?慎一郎、これ…。」

樹里が驚くのも無理はない。この家を建てるのに一番気合を入れた場所だ。

「どうだ?気に入ったか?」

樹里は驚いて辺りを見回す。
そこにはたくさんの本があり、まるで図書室だ。
川野さんに家に図書室を作りたいとお願いしたのだ。
間取りを見た樹里には俺の仕事部屋だと言っておいた。

「すごい…図書室だ。」

「樹里は本が好きだろ?俺たちが初めて会ったのも学校の図書室だからな。」

壁一面の本棚にびっしり本が詰まっている。本好きの友人と樹里の両親にアドバイスをもらって本を選んだ。
日当たりの良いところにソファーを置いてゆっくり読めるようにしてある。
子どもが産まれたらここで息抜きしても良いだろう。

「ほら、樹里。これ。」

「…あ、星新一全集。」

「これは外せないだろ?」

高校一年のとき初めて俺たちが言葉を交わすきっかけになった『星新一全集』だ。

「うん、うん、ありがとう。」

泣いている樹里を優しく抱きしめる。

「またこれで図書室に通えるな。」

「うん。」

俺にしてやれるのはこんなことくらいだ。
樹里が喜んでくれて良かった。
俺たちは『星新一全集』の前で長い間キスをしていた。
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