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慎一郎が来た。見つかってしまった。
探していたと言っていたな。
きっと樹貴のことだ。
樹貴を産んだことがバレてしまったんだ。
どうしよう…。でも話せば分かってくれるかもしれない。
高校時代の慎一郎はすごく良いやつだった。
クラスは違ったので放課後図書室で会うことがほとんどだった。
休みの日はたまに一緒に遊びに行ったりもした。
優しくて紳士でアルファ独特の威圧感はなかった。
だから分かってくれる。
ダメだったらシェルターに戻ろうか。
せっかく樹貴が保育園に慣れたのに。
ため息をつきながら荷下ろしをしていた。
「どうしたの?元気ないじゃん。」
紗央莉が話しかけてきた。
紗央莉はベータのシングルマザーだ。同じシングルマザー同士で話も合う。紗央莉は前の夫のD Vで離婚している。
相談してみようかな。
「あのさ、紗央莉さんは前の旦那さんと子どもは会わせてる?」
「えぇ?何急に。うちは会わせてないよ。子どもにも暴力を振るったし。だから離婚した。それなのに会いたがるんだよ。どの面下げてって感じだよね。」
「そっか。」
「何?樹貴のお父さんが会わせろって?」
「え?うん、まぁ。」
「ふーん。子ども産んだこと知らなかったんじゃなかったっけ。あ、バレちゃったのか。」
「たぶん…。」
「どうだろうね。親権が、とか言ってくるかもね。」
「え?はぁ。やっぱり…。」
「いや、でもさ。今まで育ててきたのは樹里だし、樹貴だってお母さんが良いって言うよ。あの子頭いいからさぁ、ちゃんと分かってると思うよ。いきなり来た父親と、一生懸命育ててくれた母親じゃあ、間違いなく母親でしょ。」
そうだよな。紗央莉さんの言う通りだ。
僕が樹貴の母親だ。堂々としていれば良いんだ。そう自分に言い聞かせた。
「ありがとう。少し元気出た。」
「良かった。何か困ったら遠慮なく相談しな。良い弁護士知ってるから。」
「うん。」
気合を入れ直して荷下ろしを続けた。
弁護士か。お願いするのにいくらかかるんだろう。
「お先に失礼します。」
「お疲れ様~。」
今日は時間ぴったりに終わった。ギリギリじゃなくお迎えに行けそうだ。
裏口から出て近道の路地に出ようとするとさっき見たスーツが目に入ってきた。
「樹里。」
「慎一郎…。」
こっちのバイトまで知られているんだ。
たぶんもう全部知ってるんだろう。
ジタバタしてもしょうがないな。
「仕事終わったのか?」
「うん。」
「そうか。大変だな。」
「え?まあ、仕方ないよ。中卒だし。」
一瞬、慎一郎の顔が歪んだ。
良いんだ。自分で選んだことだから。
卑屈な言い方をしてしまった。
誰のせいでもないのに。
「何の用。急いでるんだ。」
「少し話せないか?」
「十分だけなら。」
結局はお迎えはギリギリだな。
「歩きながらで良い?六時までに行かないと延長料金がかかるんだ。」
「延長料金?」
「そう。一回五百円だけど、僕には痛い出費だから。」
「何の延長だ?」
「保育園だよ。子どもの保育園。」
何故か慎一郎が止まってしまった。急いでるのに。
その顔は驚いて青ざめている。
「樹里、おまえ子どもが居るのか?」
「え?」
どういうこと?樹貴に会いに来たんじゃないのか?
僕に子どもが居ることを知らない?
僕は唖然として慎一郎を見つめる。
僕たちはお互いに黙ったまま見つめ合っていた。
「あっ!やばい、時間が。」
また全速力で保育園に向かう。
慎一郎も無言で追いかけて来た。
周りから見ればおかしな光景だろう。
薄汚れた男を上等なスーツを着たの男が追いかけている。
泥棒と間違えられるかもしれない。
そのまま走って保育園の門を駆け抜ける。
「こんばんは!」
「お母さん、ギリギリセーフ!」
いつもの保育士さんが笑顔で迎えくれる。
樹貴が嬉しそうに走って近づいて来た。
荷物を持って保育園を出ると慎一郎が立っていた。
「樹里、おまえの子か?」
「そうだよ。」
慎一郎が樹貴をまじまじと見ている。
樹貴も負けじと慎一郎を見返す。
「お母さん、誰?このおじさん。お友達?」
「お母さん…?」
「そうだよ。僕が産んだんだからお母さんだろ?」
慎一郎は相変わらず魂が抜けたような顔をしている。
どうしたんだろう。
樹貴に会いに来たんじゃないのか?
探していたと言っていたな。
きっと樹貴のことだ。
樹貴を産んだことがバレてしまったんだ。
どうしよう…。でも話せば分かってくれるかもしれない。
高校時代の慎一郎はすごく良いやつだった。
クラスは違ったので放課後図書室で会うことがほとんどだった。
休みの日はたまに一緒に遊びに行ったりもした。
優しくて紳士でアルファ独特の威圧感はなかった。
だから分かってくれる。
ダメだったらシェルターに戻ろうか。
せっかく樹貴が保育園に慣れたのに。
ため息をつきながら荷下ろしをしていた。
「どうしたの?元気ないじゃん。」
紗央莉が話しかけてきた。
紗央莉はベータのシングルマザーだ。同じシングルマザー同士で話も合う。紗央莉は前の夫のD Vで離婚している。
相談してみようかな。
「あのさ、紗央莉さんは前の旦那さんと子どもは会わせてる?」
「えぇ?何急に。うちは会わせてないよ。子どもにも暴力を振るったし。だから離婚した。それなのに会いたがるんだよ。どの面下げてって感じだよね。」
「そっか。」
「何?樹貴のお父さんが会わせろって?」
「え?うん、まぁ。」
「ふーん。子ども産んだこと知らなかったんじゃなかったっけ。あ、バレちゃったのか。」
「たぶん…。」
「どうだろうね。親権が、とか言ってくるかもね。」
「え?はぁ。やっぱり…。」
「いや、でもさ。今まで育ててきたのは樹里だし、樹貴だってお母さんが良いって言うよ。あの子頭いいからさぁ、ちゃんと分かってると思うよ。いきなり来た父親と、一生懸命育ててくれた母親じゃあ、間違いなく母親でしょ。」
そうだよな。紗央莉さんの言う通りだ。
僕が樹貴の母親だ。堂々としていれば良いんだ。そう自分に言い聞かせた。
「ありがとう。少し元気出た。」
「良かった。何か困ったら遠慮なく相談しな。良い弁護士知ってるから。」
「うん。」
気合を入れ直して荷下ろしを続けた。
弁護士か。お願いするのにいくらかかるんだろう。
「お先に失礼します。」
「お疲れ様~。」
今日は時間ぴったりに終わった。ギリギリじゃなくお迎えに行けそうだ。
裏口から出て近道の路地に出ようとするとさっき見たスーツが目に入ってきた。
「樹里。」
「慎一郎…。」
こっちのバイトまで知られているんだ。
たぶんもう全部知ってるんだろう。
ジタバタしてもしょうがないな。
「仕事終わったのか?」
「うん。」
「そうか。大変だな。」
「え?まあ、仕方ないよ。中卒だし。」
一瞬、慎一郎の顔が歪んだ。
良いんだ。自分で選んだことだから。
卑屈な言い方をしてしまった。
誰のせいでもないのに。
「何の用。急いでるんだ。」
「少し話せないか?」
「十分だけなら。」
結局はお迎えはギリギリだな。
「歩きながらで良い?六時までに行かないと延長料金がかかるんだ。」
「延長料金?」
「そう。一回五百円だけど、僕には痛い出費だから。」
「何の延長だ?」
「保育園だよ。子どもの保育園。」
何故か慎一郎が止まってしまった。急いでるのに。
その顔は驚いて青ざめている。
「樹里、おまえ子どもが居るのか?」
「え?」
どういうこと?樹貴に会いに来たんじゃないのか?
僕に子どもが居ることを知らない?
僕は唖然として慎一郎を見つめる。
僕たちはお互いに黙ったまま見つめ合っていた。
「あっ!やばい、時間が。」
また全速力で保育園に向かう。
慎一郎も無言で追いかけて来た。
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「樹里、おまえの子か?」
「そうだよ。」
慎一郎が樹貴をまじまじと見ている。
樹貴も負けじと慎一郎を見返す。
「お母さん、誰?このおじさん。お友達?」
「お母さん…?」
「そうだよ。僕が産んだんだからお母さんだろ?」
慎一郎は相変わらず魂が抜けたような顔をしている。
どうしたんだろう。
樹貴に会いに来たんじゃないのか?
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