オメガの香り

みこと

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「君が生きているなら樹里くんも生きてるよ。『運命の番い』は片方が死んだら生きていけない。君が生きてるなら大丈夫だ。」

「運命の番い?」

「ああ。オメガに変異する前に相手のフェロモンを感じたんだろ?運命だからだよ。俺もそうだった。」

九条さんは隣に座っている名執さんをうっとりと見た。
運命の番いの話はみんな一度は聞いたことがある。
そのロマンチックな設定はドラマや映画にもなっている。
俺と樹里は運命なのか。
愕然とした。でも腑に落ちたような気もした。
確かに何かをこんなに切望したことはない。
そう思うと余計に会いたくてたまらない。

「残念だけど、シェルターを出ないことには行方は分からないよ。」

名執さんの言葉が俺を絶望の淵に突き落とした。

帰る二人に礼を言って見送る。
九条さんは当たり前のように左腕を名執さんの腰に回した。キスするくらいの近い距離だ。時々右手で名執さんの髪を撫でる。
その後ろ姿をぼんやりと眺めていた。

「あの二人は来月結婚するんだよ。今、妊娠二ヶ月なんだ。」

そうか。だから九条さんはしきりに室温を気にしていたのか。

「壬生くん、九条くんが言った通り樹里くんはどこかで生きているはずだ。諦めずに探すんだよ。何か分かったら知らせてくれ。」

「はい。今日はありがとうございました。名執さんたちに会えて良かったです。本当に変異種オメガはいるんですね。俺は必ず樹里を見つけます。」 

『君が生きてるなら彼も生きてるよ。』

樹里、本当にすまなかった。俺がバカだった。
性別や固定概念に囚われて大事なことに気付けなかった。
おまえは俺の運命だ。
もう遅いだろうか?許してくれるだろうか?
とにかく待つしかない。出てくるのかも分からない。
シェルターを監視しつつ他も捜索した。


そしてその日は訪れた。
樹里らしきオメガがK県のシェルターから出てきたと報告があった。スマホに送られてきた画像を確認する。
樹里だった。髪が伸びて痩せていたが確かに樹里だ。
どうやら一人暮らしを始めるようだ。アパートを見たり、バイト先を探している。
すぐに会いに行こうとすると探偵に止められた。急に押しかけたらまたシェルターに戻ってしまうかもしれない。外での生活が安定するまで待つように言われた。
探偵が言った通りで、完全に外に出た訳ではないようだ。樹里はしばらくの間シェルターと外とを行き来していた。
しかし樹里の行方が分かりほっとしていた矢先にまた行方不明になってしまった。
シェルターには戻っていないようだった。
数週間かけて外の生活に慣れたところを見計らって急にどこかに引っ越したようだ。

また居なくなってしまった。
あの絶望感を二度も味わうとは…。
でも諦められない。また人を雇って探そうとしていた時だ。
偶然、樹里を見つけた。
それは夕方のニュースを見ていた時だった。ぼんやりと眺める画面には安くて美味い定食屋の特集が流れていた。
市場近くのそこは市場で働く人たちだけでなく県外からも客が押し寄せる。店の中や名物の大盛りメニューが流れる中、インビューを受ける女将の背に映った厨房に樹里を見つけたのだ。斜め後ろ姿だったが確かに樹里だ。山のように積まれた皿を洗っていた。

「樹里…。」

すぐに場所を調べた。ここからそう遠くない。次の日に定食屋の側で張っていると樹里は現れた。
やはりここで働いている。
そのままつけると午後はそのままスーパーで荷下ろしをしていることが分かった。出てくるのを待ったが現れなかった。もう一つの従業員口から出て行ったようだ。
店の人に樹里のことを聞こうかと思ったがやめた。
警戒してまた居なくなられては困る。
かといってもう逃したくない。
次の日に定食屋に行くことにした。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「樹里、久しぶりだな。」

「ど、して。」

樹里は驚いている。当然だ。
俺はおまえを強姦して置き去りにした男だ。
とにかく謝らせて欲しい。
なんで来たのかと言って怯えている。
そんなの決まってるだろ。
おまえに会いに来たんだ。
そして謝りたいんだ。
樹里に許しを乞いに来たんだ。

樹里が出て来るのを待っていたがまた逃げられてしまった。
やはり嫌われているな。仕方ない。
九条さんたちの仲睦まじい姿を思い出してため息がでた。
しかし、こうして落ち込んでいる場合じゃない。
すぐにスーパーに向かった。
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