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「あの、高辻さんは…。」
「え?あら、さっきの。彼ならもう帰ったわよ。裏口から出たんじゃない?」
え?帰った?いつの間に…。
俺は大きくため息をついた。ずっと待ってたのに。
「あなた高辻くんの友達?」
「え?ええ、まあ。」
「何だか不釣り合いな友達ねぇ。」
曖昧に笑ってその定食屋を出た。
次は…。駅前のスーパーだ。スーパー朝日で夕方までバイトしているはずだ。
急いで車に乗って次のバイト先へ向かった。
高校一年の春に初めて樹里を見た時の衝撃。
日本人の平均身長だか、顔が小さいせいかスラリとして見える。派手さはないが小作りで整った顔をしていた。
図書室で振り向いた時、一瞬だけふわっと香ったあの匂い。ほんの一瞬だった。
俺たちは自然と話をするようになった。
自然と…ではないかもしれない。別に本は好きでも嫌いでもない。
今思えば樹里に会いたかっただけだ。
あの当時の俺はヘテロセクシャルだと思っていたので、まさかベータの男に会いたいなんて感情を抱くことを認めるわけにはいかなかった。
樹里のあの匂い、真剣に本を読む横顔、新刊を見つけた時の嬉しそうな笑顔。何年経っても鮮明に思い出す。
樹里の匂いを感じたのは初めて会ったあの時だけだ。そのあとは感じた事はなかった。あの日までは…。
あの日、それは二年の一学期の終わりだった。
俺は婚約者のオメガと出かける予定だった。
教室に忘れ物をしたのに気付いて校舎に戻るとあの匂いがした。
樹里からしたあの匂い。
校内を必死で探すと図書室の近くのトイレからあの匂いがした。
やはり樹里だった。
どういうことか分からなかった。
俺はそこからの記憶が曖昧だ。古くて薄暗いトイレで何度も樹里を抱いた。
気が付いた時には樹里は倒れていてあの匂いも消えていた。
怖くなった俺は樹里をそのまま置いて逃げたのだ。
あの日の俺を何度も殺してやりたいと思った。
そのあとすぐに夏休みに入ったため、樹里と会うことはなかった。
夏休みの間も樹里のことばかり考えいた。
謝ろう。いや、許してくれないかも。訴えられるかもしれない、などとうじうじと考えているうちに樹里は居なくなってしまった。
俺だけでなく家族とも縁を切って。
人を雇って探したが見つからない。
もしかして自殺…?俺のせいで?
怖くて身体が震えた。それでも諦めきれずに探した。
高校を卒業して、大学に進学し、親の決めた梨生と正式に婚約した。結婚相手なんて別に誰でも良かった。
樹里はどうしているだろうか。生きていてくれればいい。
思い出すのは樹里のことばかりだ。
『慎一郎。ほら、これなら読めるだろ?』
『見て!湊かなえの新刊だ。嬉しい。』
俺に笑いかける樹里。どこに行ってしまったんだ。
せめて生きていてくれ。そしてあの日のことを謝りたい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「うっ、ごめん。梨生、ちょっと気分が悪くて…。」
「え?大丈夫?」
「ああ。少し休めば平気だ。ごめん、抑制剤飲んでくれ。」
主寝室を出て奥のベッドルームで横になる。
梨生の発情期だ。正式に婚約したので梨生の発情期を一緒に過ごすはずだった。それなのにフェロモンの匂いで具合が悪くなってしまった。
俺はアルファだろ。それなのにオメガのフェロモンで具合が悪くなるなんて…。
梨生だけじゃない。誰と寝ようとしてもそいつの匂いに具合が悪くなる。
フェロモンか…。
オメガのフェロモンは何でみんなあんなくどい匂いなんだろうか。
乗り物酔いしている時に揚げ物を出されたような感覚だ。胸焼けがする。下手すると本当に吐いてしまう。
樹里のあの匂いみたいだったら良いのに。いつまでも嗅いでいたくなる爽やかで優しい匂いだ。
え?樹里の匂い?
あれはフェロモンか?
いや、そんなはずはない。樹里はベータだ。
生徒手帳にもベータと記載されていたのを確かに見た。
あれはフェロモンだったのか?
ベータなのにフェロモン?聞いたことがない。
俺は頭に浮かんだ疑問を解決するためにそれを調べることにした。
「え?あら、さっきの。彼ならもう帰ったわよ。裏口から出たんじゃない?」
え?帰った?いつの間に…。
俺は大きくため息をついた。ずっと待ってたのに。
「あなた高辻くんの友達?」
「え?ええ、まあ。」
「何だか不釣り合いな友達ねぇ。」
曖昧に笑ってその定食屋を出た。
次は…。駅前のスーパーだ。スーパー朝日で夕方までバイトしているはずだ。
急いで車に乗って次のバイト先へ向かった。
高校一年の春に初めて樹里を見た時の衝撃。
日本人の平均身長だか、顔が小さいせいかスラリとして見える。派手さはないが小作りで整った顔をしていた。
図書室で振り向いた時、一瞬だけふわっと香ったあの匂い。ほんの一瞬だった。
俺たちは自然と話をするようになった。
自然と…ではないかもしれない。別に本は好きでも嫌いでもない。
今思えば樹里に会いたかっただけだ。
あの当時の俺はヘテロセクシャルだと思っていたので、まさかベータの男に会いたいなんて感情を抱くことを認めるわけにはいかなかった。
樹里のあの匂い、真剣に本を読む横顔、新刊を見つけた時の嬉しそうな笑顔。何年経っても鮮明に思い出す。
樹里の匂いを感じたのは初めて会ったあの時だけだ。そのあとは感じた事はなかった。あの日までは…。
あの日、それは二年の一学期の終わりだった。
俺は婚約者のオメガと出かける予定だった。
教室に忘れ物をしたのに気付いて校舎に戻るとあの匂いがした。
樹里からしたあの匂い。
校内を必死で探すと図書室の近くのトイレからあの匂いがした。
やはり樹里だった。
どういうことか分からなかった。
俺はそこからの記憶が曖昧だ。古くて薄暗いトイレで何度も樹里を抱いた。
気が付いた時には樹里は倒れていてあの匂いも消えていた。
怖くなった俺は樹里をそのまま置いて逃げたのだ。
あの日の俺を何度も殺してやりたいと思った。
そのあとすぐに夏休みに入ったため、樹里と会うことはなかった。
夏休みの間も樹里のことばかり考えいた。
謝ろう。いや、許してくれないかも。訴えられるかもしれない、などとうじうじと考えているうちに樹里は居なくなってしまった。
俺だけでなく家族とも縁を切って。
人を雇って探したが見つからない。
もしかして自殺…?俺のせいで?
怖くて身体が震えた。それでも諦めきれずに探した。
高校を卒業して、大学に進学し、親の決めた梨生と正式に婚約した。結婚相手なんて別に誰でも良かった。
樹里はどうしているだろうか。生きていてくれればいい。
思い出すのは樹里のことばかりだ。
『慎一郎。ほら、これなら読めるだろ?』
『見て!湊かなえの新刊だ。嬉しい。』
俺に笑いかける樹里。どこに行ってしまったんだ。
せめて生きていてくれ。そしてあの日のことを謝りたい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「うっ、ごめん。梨生、ちょっと気分が悪くて…。」
「え?大丈夫?」
「ああ。少し休めば平気だ。ごめん、抑制剤飲んでくれ。」
主寝室を出て奥のベッドルームで横になる。
梨生の発情期だ。正式に婚約したので梨生の発情期を一緒に過ごすはずだった。それなのにフェロモンの匂いで具合が悪くなってしまった。
俺はアルファだろ。それなのにオメガのフェロモンで具合が悪くなるなんて…。
梨生だけじゃない。誰と寝ようとしてもそいつの匂いに具合が悪くなる。
フェロモンか…。
オメガのフェロモンは何でみんなあんなくどい匂いなんだろうか。
乗り物酔いしている時に揚げ物を出されたような感覚だ。胸焼けがする。下手すると本当に吐いてしまう。
樹里のあの匂いみたいだったら良いのに。いつまでも嗅いでいたくなる爽やかで優しい匂いだ。
え?樹里の匂い?
あれはフェロモンか?
いや、そんなはずはない。樹里はベータだ。
生徒手帳にもベータと記載されていたのを確かに見た。
あれはフェロモンだったのか?
ベータなのにフェロモン?聞いたことがない。
俺は頭に浮かんだ疑問を解決するためにそれを調べることにした。
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