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第3話 噂のお姉ちゃん
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『咲夜姉おはよ~』
『優ちゃんおはよう。朝ご飯できてるから先に顔を洗っておいで』
『はーい』
洗面所へ行き、冷や水を顔にじゃぶじゃぶとかけ脳を覚醒させていく。
きっちりと目が覚めたところで垂れてくる水滴をタオルで拭い、鏡に映る寝癖頭の冴えない男へ目を向ける。
(そろそろ髪切りに行かないとな)
転校して1週間が経った週明けの月曜。
今日まで忙しさのあまり気にすることのなかった
髪の毛を一束掴みいじり倒す。
(そもそもどこの美容室に行くべきか...)
『どうしたの優ちゃん。自分に見惚れちゃった?』
1人鏡を見つめ考え込んでいると、扉からひょっこり顔を覗かせている咲夜からあらぬ誤解をうけてしまう。
『そんなわけないじゃん。咲夜姉じゃあるまいし。そろそろ髪切りに行こうかなって思っただけだよ』
『そっか。私今日午前中しか大学ないし良ければ一緒に行ってもいい?』
正直この街の美容室について何にも知らない優は咲夜の通っている美容室を教えてもらおうと思っていたのでちょうど良かった。
『うん。丁度咲夜姉に美容室教えてもらおうと思ってたんだ。学校終わったら連れてってよ』
(やった、優ちゃんと美容室)
俯き動かなくなる咲夜を心配し、側へ行こうとするとパッと顔を上げる。
『さあ、そうと決まれば早く朝ごはん食べて学校頑張ろう』
『だね』(咲夜姉は本当に可愛いよな)
コロコロと表情を変える咲夜はその美貌も相まってめちゃくちゃに可愛い。
直接伝えるのは憚られるので内心に押し留め支度をして学校へと早足に向かっていった。
『おはよう。柚葉、夏菜』
『優おはよ』『おはよう、優くん』
教室へ入り最初に目についた友人2人へ声をかける。樹とヒロはまだ来てないようだ。
『優が転向してきてもう1週間か。早いねぇ』
『本当皆のお陰であっという間だったよ。ありがとうね』
既に優が転校してきてから1週間経った。
学校ではほとんどの時間を5人で過ごし、たまに放課後も遊んでいる。4人のおかげで楽しい高校生活を送れている。
『優くん、この前は本当にありがとうね』
『全然、あれくらい大したことないから。また困ったことがあったら頼ってよ』
先日下校時に夏菜の自転車がパンクしてしまっていて、自転車通学である優が自宅まで送って行った。
つい、その時の彼女を思い返してしまう。
優が転校してきて5日目の金曜の放課後、帰宅しようと夏菜と自転車置き場へ行った時だった。
『それじゃ帰ろうか夏菜』
『ちょっと待って優くん』
自転車に跨り、夏菜へと振り返るとと自転車を持ってきた彼女は自転車を停め、タイヤを確認していた。
『やっぱり...パンクしちゃってる』
タイヤをムニムニと触りながら困り果てた表情の夏菜。
一度優も自転車を停め駆け寄り夏菜の隣にかがみ込む。
『本当だ。これじゃ無理そうだね。ハンカチよかったら使って』
現状を確認し、夏菜へとハンカチを手渡すと申し訳なさそうに受け取り手を拭いている。
『今日は歩いて帰ろうかな』
優が後輪を持ち上げた状態で自転車を駐輪場の中へと停め直し戻って来ると夏菜はひどく落ち込んでいる。
『夏菜が良かったら送ってこうか?後ろ乗ってもらうことになるけど』
自転車の二人乗りはもちろんダメだと分かっている。でも落ち込んでいる夏菜を置いて帰れるわけもなく提案した。
『いいの?私今日早く帰らなきゃいけなかったらお願いしても良いかな』
落ち込んでいたのは理由があったようで嬉しそうにこちらへと目を向けている。
『流石にここからだと怒られるから少し先まで歩いて行ってそっからね』
『うん。お願いします』
学校から少し離れたところまで歩いて行き、持って来たが使ってなかったスポーツタオルを荷台に敷き乗ってもらい、遠回りだが人目の少ない道を選び下校していく。
夏菜は2人乗りに慣れていないようでギュッと優を抱きしめていた。
背中に伝わる柔らかい感触を心を無にすることでなんとか耐え夏菜を送り届けられたが、その夜ベットの中で1人悶絶してしまうのだった。
『今度お礼させてね?』
小首を傾げ可愛らしく聞いてきた。すると柚葉が『それは2人きりで。とゆー事ですか?』と手をマイクに見立てニヤニヤとインタビューしている。
『揶揄わないでよ柚葉ちゃん。でもそうね、2人きりでカフェとか行きたいかな?』
これはずるい、耳まで真っ赤にしながら俯いている為、上目遣いになっていて彼女の容姿も相まって非常に攻撃力が上がっている。
(こんなの断れる奴いるなら会ってみたいよな)
『うん。この辺のこと詳しくないから案内してくれると嬉しいな』
と答えたところで樹とヒロが登校してきていたようで声をかけられる。
『よっす、何の話してたん?』
『それがねーなんと....』
『ちょっとやめてよ、柚葉ちゃん』
『気になるやん。なにがあったの?優』
と5人揃った所で騒がしくなる。もー何度か見た、いつもの光景だ。
『ほら佐藤ちゃん来たよ、樹とヒロまた後でな』
優が担任が来た事を知らせた事で樹とヒロは自らの席に戻り、朝礼が始まるのだった。
『優~パース。俺に任せろーい』
樹が両手を挙げパスを寄越せとアピールしている。
今は四限目の体育だ。男子はグラウンドでサッカー、女子は体育館でバレーボールをしている。
俺は樹に一つ頷きドリブルしていたボールを蹴る。
『ヒロ任せた』
『はいよー。それっ』
『ゴーーーーーーール』
パスをもらえなかった樹が一番はしゃいでいる。
それを見ながらヒロとハイタッチすると審判をしている体育教師が試合終了を告げるホイッスルを鳴らす。
ヒロと2人コートの外へと足を向ける。
『優サッカー上手いな。やってたのか?』
『小一から中三までね。大して上手くなかったけどな』
『部活とか入んないの?』
『高校ではいいかな。特に思い入れとか無いし』
ぶっきらぼうに返すとヒロは特に気にする事なく次の話題に移行した。
(久しぶりにやると楽しいよな)
両親の事を何も知らない彼には言えない。
サッカーは好きだった。けれど両親の事があるので今はとても部活をしたいとは思えなかった。
樹が笑顔で駆け寄ってくる。
『お疲れーい。それにしても俺らのクラス強いな。海斗たち次の試合頑張れよ~』
こちらからすぐに視線を外し次の試合に出場するクラスメイトへ手を振ると皆が返してくれる。
優のクラスは全体的に仲が良い。
ムードメーカーである樹が誰とでも分け隔てなく話すタイプだからだと思う。
3人で試合を眺めていると樹が体育館を眺め口を開く。
『海斗たちも大丈夫だな、2人とも女子の応援行かね?』
『別に良いけど、お前また怒られるぞ?たな先怖いってこの前言ってたじゃん』
そう、前回の体育で女子の応援をすると張り切って体育館へ行った樹は体育の田中先生(いかつい52歳)に、こってりと絞られ帰ってきたのだ。
『今日は大丈夫だって、作戦があるんだ』
『『そーか。行ってらっしゃい』』
『なんでだよーぅ』
なんて和気藹々と体育の時間は過ぎていくのだった。
結局樹は一人で体育館へ行き、足元にある小窓から覗いていたが途中大声を出してしまい、たな先に怒鳴られていた。
『優、今日暇~?俺今日部活ないんだよね』
放課後になるとすぐさま樹に声をかけられる。
ちなみに樹と柚葉はバスケ部でヒロと夏菜は帰宅部だと先日教えてもらった。
『ごめん、今日美容院予約しているんだよね』
そう、今日は朝約束したとおり、咲夜姉と17時に美容室の予約をしていた。
『1時間くらいなら付き合えるけど、どしたん?』
問いかけると何やら神妙な面持ちで話を始める樹。
『今日さ、ゲーセンに嫁を迎えにいかなきゃいけなくてよ、ついて来てくれないか?』
『.......1人で行けば?』
『そんな事言わないでくれよ、頼むよ優』
つまり今ハマっているラブコメの推しのフィギュアがゲームセンターに入ったから取りに行きたいらしい。
『はぁ、まあいいや。行くか』
『よっしゃ、ゲーセン行こ』
咲夜には連絡を入れて美容室集合にしてもらえば大丈夫だろう。丁度少し時間が空く予定だったので、ついていくことにした。
『樹と優どっかいくの?』
樹と連れ立って教室を出ようとすると、帰り支度をした柚葉と夏菜が声をかけてきた。
『優が1時間だけ暇ってゆーからさ、ゲーセンに付き合ってもらうんだ』
『欲しいフィギュアあるって言ってたもんね』
『そうなんだよ、ヒロの野郎は彼女と帰っていったからな。優と2人でゲーセンデートってわけよ』
なんか気持ち悪い事を言って目で合図を送ってきているがとりあえず無視しよう。
『私たちも行っていい?ね、夏菜』
女子2人は可愛く見つめ合い確認しあっている。
なんで男と女でこんなに差が出るのだろう。
『じゃ皆で行こうか』
優の一言でみんなカバンを持ちゲームセンターへと向かうのだった。
『優、目大きいよね。同じ加工なのにこの差は何?』
『普通だと思うけどな』
『いや化粧無しでそれは強いよ。女の敵って奴だね。優の彼女になる人は厳しいな』
『.....私も思う』
柚葉が怒涛の勢いで褒めてくる。が夏菜は何故か俯き首左右にを振っている。
『それにしてもプリクラって久しぶりだな』
父と母が亡くなる前ですらゲームセンターにはあまり来なかった。そのため2年ぶりにプリクラを撮ったが、進化が凄まじすぎる。
(誰だよこれ。別人じゃねーか)
自分の変わりように悪態をついていると柚葉はシールを嬉しそうに眺めてから口を開く。
『私と夏菜は良く撮るよ、優も樹と毎週撮りに来れば良いんじゃない?』
『本気で無理。ごめんな樹』
『いや、何で俺が振られた感じになってるの?』
樹を軽くあしらい、プリントシールに再度目を向ける。
そこには楽しそうに笑いあう4人の学生の姿。
(まさかこんなに楽しい生活が出来るなんてあの時は思ってもみなかったな)
ヒロを含めた4人と仲良くなれて本当に良かった。心からそう思う優だった。
『優そろそろ時間だよね?』
楽しさの余り時間を忘れていたが柚葉が教えてくれた。
結局樹はフィギュアを取るために三千円使ったがお迎えすることは出来ずに肩を落としている。
『そーだな、それじゃ皆また.....』
『おーい、優ちゃーーーん』
『.........』
3人へ別れの挨拶を告げようとした時だった。
道路を挟んで向かいの信号待ちしている女性がぶんぶんとこちらへ向かい手を振り回して叫んでいる。
『それじゃあ皆、また明日ね』
『『ちょっと待った』』
信号が変わったので、何食わぬ顔で渡ろうとしたが樹と柚葉に両腕を取られる。
『いや、美容室遅れちゃうから』
『優くん、あの人が噂のお姉さん?』
逃れようとしたが、何故か2人よりも先に夏菜が聞いてきて足止めを喰らう。
(仕方ない、か)
誤魔化せるわけもないので1人覚悟を決める。
『そうだよ、アレが親戚の姉さん。俺がこの辺詳しくないから一緒に美容室行くんだ』
『そうなの、噂以上に美人ね。あとこっちに向かって走ってきてるよ?』
『えっ???』
驚きのあまり振り返る。すると信号が変わっていて、もう目と鼻の先に咲夜姉が来ていた。
『優ちゃん、なんで返事してくれないの?恥ずかしいのだけれど?』
またも見当違いなことを言っている美女。
『恥ずかしいのは俺だよ。街中で叫ばないでくれるかな?咲夜姉目立つんだからさ』
顔を赤くしながら反抗し、他の3人へ目を向けると口を開け固まってしまっている。
そして咲夜は優を無視して3人へ笑いかけている。
『あなた達は優ちゃんのお友達?』
『はい、優が転校してきた日からの大親友です』
ガチガチに固まりながらも懸命に返事をしている樹。よっぽど咲夜に会えたのが嬉しいのだろう。アイドルとそのファンみたいな構図になっている。
『いつも優ちゃんと仲良くしてくれてありがとう。それにこんな可愛い子が2人もお友達なんて流石優ちゃんね』
『余計なこと言わなくて良いからさ、早く美容室行こうよ。咲夜姉のせいで遅れそうなんだけど』
興味を隠すこともなくワクワクしている咲夜をなんとか食い止める。
『あら、それもそうね。3人とも良ければ今度うちに遊びに来てね。学校での優ちゃんのこと聞きたいし』
『『『はい』』』
ウインクも付けられ3人の頬が紅潮している。
まあこんな美人なかなかいないからな。
樹が暴走しなかった事に安堵し、改めて3人へ別れの挨拶をする。
『それじゃ俺行くから、3人ともまた明日な。あと絶対家には呼ばないから、そのうち咲夜姉にご飯でも奢ってもらおう』
『優ちゃん?うちでも良いじゃない』
『咲夜姉は少し黙ろうか』
怒りを抑え笑顔で告げると手で口を覆っている。
『優。つまりお姉さんと食事に行けるってことか』
『?そーだけど』
何をそんな真剣に聞いてくるのか不思議過ぎる。
『分かった。今日は引こう。また明日な優、ほら2人とも帰るぞ』
まだまだ聞きたいことがあっただろう2人を連れ早足に去っていく樹。
正直嬉しいが、あの樹がここまで聞き分けがいいと恐ろしすぎる。おそらく狙いがあるのだろう。
でも今はそれでいい。ようやく落ち着けたのだから。
『それじゃ咲夜姉行こうか。案内よろしくね』
『はい。優ちゃん手繋いで行こうね』
嬉しそうに手を取ってくる咲夜にされるがままになりながらも仲良く美容室へ向かって歩き始めた。
ちなみに2人ともカットだけなのに咲夜は優の2倍以上の時間がかかっていた。女性は大変なんだな。
______________________________________________
最後まで読んでいただきありがとうございます。
良ければいいね、コメント、フォローお待ちしております。
合わせて感想やご意見なども募集しておりますので是非聞かせてください。
『優ちゃんおはよう。朝ご飯できてるから先に顔を洗っておいで』
『はーい』
洗面所へ行き、冷や水を顔にじゃぶじゃぶとかけ脳を覚醒させていく。
きっちりと目が覚めたところで垂れてくる水滴をタオルで拭い、鏡に映る寝癖頭の冴えない男へ目を向ける。
(そろそろ髪切りに行かないとな)
転校して1週間が経った週明けの月曜。
今日まで忙しさのあまり気にすることのなかった
髪の毛を一束掴みいじり倒す。
(そもそもどこの美容室に行くべきか...)
『どうしたの優ちゃん。自分に見惚れちゃった?』
1人鏡を見つめ考え込んでいると、扉からひょっこり顔を覗かせている咲夜からあらぬ誤解をうけてしまう。
『そんなわけないじゃん。咲夜姉じゃあるまいし。そろそろ髪切りに行こうかなって思っただけだよ』
『そっか。私今日午前中しか大学ないし良ければ一緒に行ってもいい?』
正直この街の美容室について何にも知らない優は咲夜の通っている美容室を教えてもらおうと思っていたのでちょうど良かった。
『うん。丁度咲夜姉に美容室教えてもらおうと思ってたんだ。学校終わったら連れてってよ』
(やった、優ちゃんと美容室)
俯き動かなくなる咲夜を心配し、側へ行こうとするとパッと顔を上げる。
『さあ、そうと決まれば早く朝ごはん食べて学校頑張ろう』
『だね』(咲夜姉は本当に可愛いよな)
コロコロと表情を変える咲夜はその美貌も相まってめちゃくちゃに可愛い。
直接伝えるのは憚られるので内心に押し留め支度をして学校へと早足に向かっていった。
『おはよう。柚葉、夏菜』
『優おはよ』『おはよう、優くん』
教室へ入り最初に目についた友人2人へ声をかける。樹とヒロはまだ来てないようだ。
『優が転向してきてもう1週間か。早いねぇ』
『本当皆のお陰であっという間だったよ。ありがとうね』
既に優が転校してきてから1週間経った。
学校ではほとんどの時間を5人で過ごし、たまに放課後も遊んでいる。4人のおかげで楽しい高校生活を送れている。
『優くん、この前は本当にありがとうね』
『全然、あれくらい大したことないから。また困ったことがあったら頼ってよ』
先日下校時に夏菜の自転車がパンクしてしまっていて、自転車通学である優が自宅まで送って行った。
つい、その時の彼女を思い返してしまう。
優が転校してきて5日目の金曜の放課後、帰宅しようと夏菜と自転車置き場へ行った時だった。
『それじゃ帰ろうか夏菜』
『ちょっと待って優くん』
自転車に跨り、夏菜へと振り返るとと自転車を持ってきた彼女は自転車を停め、タイヤを確認していた。
『やっぱり...パンクしちゃってる』
タイヤをムニムニと触りながら困り果てた表情の夏菜。
一度優も自転車を停め駆け寄り夏菜の隣にかがみ込む。
『本当だ。これじゃ無理そうだね。ハンカチよかったら使って』
現状を確認し、夏菜へとハンカチを手渡すと申し訳なさそうに受け取り手を拭いている。
『今日は歩いて帰ろうかな』
優が後輪を持ち上げた状態で自転車を駐輪場の中へと停め直し戻って来ると夏菜はひどく落ち込んでいる。
『夏菜が良かったら送ってこうか?後ろ乗ってもらうことになるけど』
自転車の二人乗りはもちろんダメだと分かっている。でも落ち込んでいる夏菜を置いて帰れるわけもなく提案した。
『いいの?私今日早く帰らなきゃいけなかったらお願いしても良いかな』
落ち込んでいたのは理由があったようで嬉しそうにこちらへと目を向けている。
『流石にここからだと怒られるから少し先まで歩いて行ってそっからね』
『うん。お願いします』
学校から少し離れたところまで歩いて行き、持って来たが使ってなかったスポーツタオルを荷台に敷き乗ってもらい、遠回りだが人目の少ない道を選び下校していく。
夏菜は2人乗りに慣れていないようでギュッと優を抱きしめていた。
背中に伝わる柔らかい感触を心を無にすることでなんとか耐え夏菜を送り届けられたが、その夜ベットの中で1人悶絶してしまうのだった。
『今度お礼させてね?』
小首を傾げ可愛らしく聞いてきた。すると柚葉が『それは2人きりで。とゆー事ですか?』と手をマイクに見立てニヤニヤとインタビューしている。
『揶揄わないでよ柚葉ちゃん。でもそうね、2人きりでカフェとか行きたいかな?』
これはずるい、耳まで真っ赤にしながら俯いている為、上目遣いになっていて彼女の容姿も相まって非常に攻撃力が上がっている。
(こんなの断れる奴いるなら会ってみたいよな)
『うん。この辺のこと詳しくないから案内してくれると嬉しいな』
と答えたところで樹とヒロが登校してきていたようで声をかけられる。
『よっす、何の話してたん?』
『それがねーなんと....』
『ちょっとやめてよ、柚葉ちゃん』
『気になるやん。なにがあったの?優』
と5人揃った所で騒がしくなる。もー何度か見た、いつもの光景だ。
『ほら佐藤ちゃん来たよ、樹とヒロまた後でな』
優が担任が来た事を知らせた事で樹とヒロは自らの席に戻り、朝礼が始まるのだった。
『優~パース。俺に任せろーい』
樹が両手を挙げパスを寄越せとアピールしている。
今は四限目の体育だ。男子はグラウンドでサッカー、女子は体育館でバレーボールをしている。
俺は樹に一つ頷きドリブルしていたボールを蹴る。
『ヒロ任せた』
『はいよー。それっ』
『ゴーーーーーーール』
パスをもらえなかった樹が一番はしゃいでいる。
それを見ながらヒロとハイタッチすると審判をしている体育教師が試合終了を告げるホイッスルを鳴らす。
ヒロと2人コートの外へと足を向ける。
『優サッカー上手いな。やってたのか?』
『小一から中三までね。大して上手くなかったけどな』
『部活とか入んないの?』
『高校ではいいかな。特に思い入れとか無いし』
ぶっきらぼうに返すとヒロは特に気にする事なく次の話題に移行した。
(久しぶりにやると楽しいよな)
両親の事を何も知らない彼には言えない。
サッカーは好きだった。けれど両親の事があるので今はとても部活をしたいとは思えなかった。
樹が笑顔で駆け寄ってくる。
『お疲れーい。それにしても俺らのクラス強いな。海斗たち次の試合頑張れよ~』
こちらからすぐに視線を外し次の試合に出場するクラスメイトへ手を振ると皆が返してくれる。
優のクラスは全体的に仲が良い。
ムードメーカーである樹が誰とでも分け隔てなく話すタイプだからだと思う。
3人で試合を眺めていると樹が体育館を眺め口を開く。
『海斗たちも大丈夫だな、2人とも女子の応援行かね?』
『別に良いけど、お前また怒られるぞ?たな先怖いってこの前言ってたじゃん』
そう、前回の体育で女子の応援をすると張り切って体育館へ行った樹は体育の田中先生(いかつい52歳)に、こってりと絞られ帰ってきたのだ。
『今日は大丈夫だって、作戦があるんだ』
『『そーか。行ってらっしゃい』』
『なんでだよーぅ』
なんて和気藹々と体育の時間は過ぎていくのだった。
結局樹は一人で体育館へ行き、足元にある小窓から覗いていたが途中大声を出してしまい、たな先に怒鳴られていた。
『優、今日暇~?俺今日部活ないんだよね』
放課後になるとすぐさま樹に声をかけられる。
ちなみに樹と柚葉はバスケ部でヒロと夏菜は帰宅部だと先日教えてもらった。
『ごめん、今日美容院予約しているんだよね』
そう、今日は朝約束したとおり、咲夜姉と17時に美容室の予約をしていた。
『1時間くらいなら付き合えるけど、どしたん?』
問いかけると何やら神妙な面持ちで話を始める樹。
『今日さ、ゲーセンに嫁を迎えにいかなきゃいけなくてよ、ついて来てくれないか?』
『.......1人で行けば?』
『そんな事言わないでくれよ、頼むよ優』
つまり今ハマっているラブコメの推しのフィギュアがゲームセンターに入ったから取りに行きたいらしい。
『はぁ、まあいいや。行くか』
『よっしゃ、ゲーセン行こ』
咲夜には連絡を入れて美容室集合にしてもらえば大丈夫だろう。丁度少し時間が空く予定だったので、ついていくことにした。
『樹と優どっかいくの?』
樹と連れ立って教室を出ようとすると、帰り支度をした柚葉と夏菜が声をかけてきた。
『優が1時間だけ暇ってゆーからさ、ゲーセンに付き合ってもらうんだ』
『欲しいフィギュアあるって言ってたもんね』
『そうなんだよ、ヒロの野郎は彼女と帰っていったからな。優と2人でゲーセンデートってわけよ』
なんか気持ち悪い事を言って目で合図を送ってきているがとりあえず無視しよう。
『私たちも行っていい?ね、夏菜』
女子2人は可愛く見つめ合い確認しあっている。
なんで男と女でこんなに差が出るのだろう。
『じゃ皆で行こうか』
優の一言でみんなカバンを持ちゲームセンターへと向かうのだった。
『優、目大きいよね。同じ加工なのにこの差は何?』
『普通だと思うけどな』
『いや化粧無しでそれは強いよ。女の敵って奴だね。優の彼女になる人は厳しいな』
『.....私も思う』
柚葉が怒涛の勢いで褒めてくる。が夏菜は何故か俯き首左右にを振っている。
『それにしてもプリクラって久しぶりだな』
父と母が亡くなる前ですらゲームセンターにはあまり来なかった。そのため2年ぶりにプリクラを撮ったが、進化が凄まじすぎる。
(誰だよこれ。別人じゃねーか)
自分の変わりように悪態をついていると柚葉はシールを嬉しそうに眺めてから口を開く。
『私と夏菜は良く撮るよ、優も樹と毎週撮りに来れば良いんじゃない?』
『本気で無理。ごめんな樹』
『いや、何で俺が振られた感じになってるの?』
樹を軽くあしらい、プリントシールに再度目を向ける。
そこには楽しそうに笑いあう4人の学生の姿。
(まさかこんなに楽しい生活が出来るなんてあの時は思ってもみなかったな)
ヒロを含めた4人と仲良くなれて本当に良かった。心からそう思う優だった。
『優そろそろ時間だよね?』
楽しさの余り時間を忘れていたが柚葉が教えてくれた。
結局樹はフィギュアを取るために三千円使ったがお迎えすることは出来ずに肩を落としている。
『そーだな、それじゃ皆また.....』
『おーい、優ちゃーーーん』
『.........』
3人へ別れの挨拶を告げようとした時だった。
道路を挟んで向かいの信号待ちしている女性がぶんぶんとこちらへ向かい手を振り回して叫んでいる。
『それじゃあ皆、また明日ね』
『『ちょっと待った』』
信号が変わったので、何食わぬ顔で渡ろうとしたが樹と柚葉に両腕を取られる。
『いや、美容室遅れちゃうから』
『優くん、あの人が噂のお姉さん?』
逃れようとしたが、何故か2人よりも先に夏菜が聞いてきて足止めを喰らう。
(仕方ない、か)
誤魔化せるわけもないので1人覚悟を決める。
『そうだよ、アレが親戚の姉さん。俺がこの辺詳しくないから一緒に美容室行くんだ』
『そうなの、噂以上に美人ね。あとこっちに向かって走ってきてるよ?』
『えっ???』
驚きのあまり振り返る。すると信号が変わっていて、もう目と鼻の先に咲夜姉が来ていた。
『優ちゃん、なんで返事してくれないの?恥ずかしいのだけれど?』
またも見当違いなことを言っている美女。
『恥ずかしいのは俺だよ。街中で叫ばないでくれるかな?咲夜姉目立つんだからさ』
顔を赤くしながら反抗し、他の3人へ目を向けると口を開け固まってしまっている。
そして咲夜は優を無視して3人へ笑いかけている。
『あなた達は優ちゃんのお友達?』
『はい、優が転校してきた日からの大親友です』
ガチガチに固まりながらも懸命に返事をしている樹。よっぽど咲夜に会えたのが嬉しいのだろう。アイドルとそのファンみたいな構図になっている。
『いつも優ちゃんと仲良くしてくれてありがとう。それにこんな可愛い子が2人もお友達なんて流石優ちゃんね』
『余計なこと言わなくて良いからさ、早く美容室行こうよ。咲夜姉のせいで遅れそうなんだけど』
興味を隠すこともなくワクワクしている咲夜をなんとか食い止める。
『あら、それもそうね。3人とも良ければ今度うちに遊びに来てね。学校での優ちゃんのこと聞きたいし』
『『『はい』』』
ウインクも付けられ3人の頬が紅潮している。
まあこんな美人なかなかいないからな。
樹が暴走しなかった事に安堵し、改めて3人へ別れの挨拶をする。
『それじゃ俺行くから、3人ともまた明日な。あと絶対家には呼ばないから、そのうち咲夜姉にご飯でも奢ってもらおう』
『優ちゃん?うちでも良いじゃない』
『咲夜姉は少し黙ろうか』
怒りを抑え笑顔で告げると手で口を覆っている。
『優。つまりお姉さんと食事に行けるってことか』
『?そーだけど』
何をそんな真剣に聞いてくるのか不思議過ぎる。
『分かった。今日は引こう。また明日な優、ほら2人とも帰るぞ』
まだまだ聞きたいことがあっただろう2人を連れ早足に去っていく樹。
正直嬉しいが、あの樹がここまで聞き分けがいいと恐ろしすぎる。おそらく狙いがあるのだろう。
でも今はそれでいい。ようやく落ち着けたのだから。
『それじゃ咲夜姉行こうか。案内よろしくね』
『はい。優ちゃん手繋いで行こうね』
嬉しそうに手を取ってくる咲夜にされるがままになりながらも仲良く美容室へ向かって歩き始めた。
ちなみに2人ともカットだけなのに咲夜は優の2倍以上の時間がかかっていた。女性は大変なんだな。
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