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Side 凛
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神経を研ぎ澄ませ。
もっともっと。昂ぶる鼓動を抑えて、この一振り……この『線』に意識を集中しろ。何よりも速く、目にも映らないほどの『瞬剣』を……!
瞬時に私は目を見開き……力の限り踏み込む!同時に私の持つ『剣』はスパッと斬った。鏡に映る自分自身を。
だがしかし……左足を引きつけて残心をとる私の心からは、どうしても陰りが消えない。
『斬れない』……たとえ、鏡に映る『自分自身』を斬ることができても、私の脳内に明確に再現できる『あいつ』だけは。
「すごぉい!」
背後から聞こえる、当の『あいつ』の間延びした声に、私は一気に脱力した。パチパチと呑気に手なんか叩いていて、極限まで高めていた集中力が一気に削がれる。
剣道の大会の後は小休止の意味を込めて、部活は休みになる。だから、今、剣道場にいるのは鏡の前で竹刀を構え、必死に己を高めていた私と……いつの間にか私の背後で眺めていたこいつ、菫だけだ。
「やっぱ、凛の面打ち……めっちゃ綺麗で速くて強くて、カッコいい。ホント、憧れる……」
「……菫。扉、閉めなさい」
溜息が出そうになるのを我慢した。
私が唯一、『敵』と認めているのはこいつだけ。なのに、当人には全く『自分は強い』って自覚がない。本当、調子を狂わされる。
「やっぱ、凛。こないだの大会でも圧倒的だったもんね。私には全然、付いて行けなかったよ」
頭を掻きながら「へへへ」と笑う菫に、私の苛立ちはついに頂点に達した。
「付いて行けなかった? 菫、あんた……それ、本気で言ってんの?」
「えっ……」
私がすっと見据えると……菫の表情は途端に怯えるように強張った。
「あんた、私と戦う時だけ、手を抜いてるでしょ? どういうつもりなのよ?」
「そ……そんなこと、ないよ。凛って、ホント強くて、私じゃ勝てる訳なくて……」
菫はじんわりと涙を浮かべる。その表情は言い様のない艶やかさを醸していて……だけれども、今の私にとっては癪に触るものでしかなかった。
「ワケ、分かんない。あんたの二回戦の相手の方が私より強かったのに、余裕で勝ってたじゃないの」
「え……そんなこと、ないよ。それに、二回戦までは本当にマグレで……」
「ふーん、マグレ? マグレであんた、前回の優勝者に勝てるんだ?」
私がジロリと睨むと、菫はビクッと震えた。
「ど……どうしたの? 今日の凛、何だかすごく怖い……」
今にも泣き出しそうな彼女を前に、私の口からは大きな溜息が出た。
「菫。道着に着替えて防具、つけなさい」
「えっ?」
「今から……勝負するわよ」
悶々と蟠るこの気持ちが、こんなことで晴れるのかどうかは分からない。だけれども私は、こいつと剣を交える……それ以外に、真意を確かめる術を知らなかった。
もっともっと。昂ぶる鼓動を抑えて、この一振り……この『線』に意識を集中しろ。何よりも速く、目にも映らないほどの『瞬剣』を……!
瞬時に私は目を見開き……力の限り踏み込む!同時に私の持つ『剣』はスパッと斬った。鏡に映る自分自身を。
だがしかし……左足を引きつけて残心をとる私の心からは、どうしても陰りが消えない。
『斬れない』……たとえ、鏡に映る『自分自身』を斬ることができても、私の脳内に明確に再現できる『あいつ』だけは。
「すごぉい!」
背後から聞こえる、当の『あいつ』の間延びした声に、私は一気に脱力した。パチパチと呑気に手なんか叩いていて、極限まで高めていた集中力が一気に削がれる。
剣道の大会の後は小休止の意味を込めて、部活は休みになる。だから、今、剣道場にいるのは鏡の前で竹刀を構え、必死に己を高めていた私と……いつの間にか私の背後で眺めていたこいつ、菫だけだ。
「やっぱ、凛の面打ち……めっちゃ綺麗で速くて強くて、カッコいい。ホント、憧れる……」
「……菫。扉、閉めなさい」
溜息が出そうになるのを我慢した。
私が唯一、『敵』と認めているのはこいつだけ。なのに、当人には全く『自分は強い』って自覚がない。本当、調子を狂わされる。
「やっぱ、凛。こないだの大会でも圧倒的だったもんね。私には全然、付いて行けなかったよ」
頭を掻きながら「へへへ」と笑う菫に、私の苛立ちはついに頂点に達した。
「付いて行けなかった? 菫、あんた……それ、本気で言ってんの?」
「えっ……」
私がすっと見据えると……菫の表情は途端に怯えるように強張った。
「あんた、私と戦う時だけ、手を抜いてるでしょ? どういうつもりなのよ?」
「そ……そんなこと、ないよ。凛って、ホント強くて、私じゃ勝てる訳なくて……」
菫はじんわりと涙を浮かべる。その表情は言い様のない艶やかさを醸していて……だけれども、今の私にとっては癪に触るものでしかなかった。
「ワケ、分かんない。あんたの二回戦の相手の方が私より強かったのに、余裕で勝ってたじゃないの」
「え……そんなこと、ないよ。それに、二回戦までは本当にマグレで……」
「ふーん、マグレ? マグレであんた、前回の優勝者に勝てるんだ?」
私がジロリと睨むと、菫はビクッと震えた。
「ど……どうしたの? 今日の凛、何だかすごく怖い……」
今にも泣き出しそうな彼女を前に、私の口からは大きな溜息が出た。
「菫。道着に着替えて防具、つけなさい」
「えっ?」
「今から……勝負するわよ」
悶々と蟠るこの気持ちが、こんなことで晴れるのかどうかは分からない。だけれども私は、こいつと剣を交える……それ以外に、真意を確かめる術を知らなかった。
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