冷たい海

いっき

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我儘

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 次の日から、彼女は僕に病気のことを聞かなくなった。その代わり、まるで自らを蝕む病のことを忘れたかのように明るく振る舞うようになった。学校帰りに寄る僕に、彼女はしょっちゅう我儘を言った。
「ねぇ、涼平兄ちゃん。お菓子持って来て」
 大概はそのような些細なことを、家にいた時と変わらない声でねだられた。
「いや、ダメだって。病院食があるだろ?」
「病院食なんて、味は薄いし不味いんだもん」
「だもん、じゃない! 何歳児だよ」
「わぁ、涼平兄ちゃんが怒った。うわぁん」
 そんなことを言って、彼女は小さい子供の泣き真似をした。
 実際、彼女は十五歳という年齢を考慮しても幼かった。小さい子供のように純粋で、僕にはいつも我儘を言うので困らされた。
 でも、それはきっと、彼女が甘えて我儘を言えるのは僕くらいしかいなかったからだ。彼女は子供心にも理解していた。自分は僕の両親の実の子供ではなくて……それなのに、両親は実の子供と同じように自分を愛してくれているって。そのため、彼女は両親の前では常に『いい子』だった。

 だから、僕は彼女の我儘にいつも応えざるを得なくて。
「仕方ないなぁ。お医者さんにも、お母さんにも内緒だぞ」
「やったぁ!涼平兄ちゃん、ありがとう!」
 彼女の喜ぶ顔に苦笑いする……当分はそのような、彼女の足が動かないこと以外はいつもと変わらない幸せな日々を送っていた。
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