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第192話
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フォリアの住むアパートへ訪れた琉希。
意気揚々とインターホンを鳴らすも返事はなく、これはまさかと玄関の取っ手を引いてみれば……
「空いてませんね……」
やはりというべきか、抵抗だけが帰ってきた。
これは……留守でしょうか?
いくつかの窓から中の様子を伺うも、中は薄暗くカーテンの隙間から見える範囲に動く物はない。
一見して留守、一旦引くべきにも思える。
が、しかし
「うーん、誰もいないなら帰りましょうかねぇ……」
と、扉に耳を当てたままわざとらしくつぶやいた瞬間、中で何かが崩れる小さな物音がしたのを琉希は聞き逃しはしなかった。
彼女は、フォリアは間違いなくここに居る。
理由は未だ分からないが、暗い部屋の中何かに埋もれ、一人引き籠っているようだ。
人は得てして誰かに会いたくない、一人で何もせず静かにしていたいという時がある。
だがしかし本人の思うがまま一人にしておく、というのが必ずしも正しい対処ではないことは多い。
結局のところ、ストレスの原因となるものを無くさなければ問題は解決せず、大概の場合一人では解決できないからこそ抱え、暗く塞込んでしまうからだ。
この状況で家の中に飛び込むのは中々躊躇われるものがあったが、琉希には何となく、話を聞いた方が良い気がすると勘が囁いていたので、数秒の逡巡の後、勢いにすべてを任せて飛び込むことに決めた。
「うーん……まあ最悪謝ればいいでしょう。『覇天七星宝剣』」
琉希が扉に手を掛けた瞬間、ガチャリという解錠音と共に、扉から感じていた抵抗感が消え失せる。
彼女のユニークスキルは、ありとあらゆるものを七つまで専用武器として登録、自由自在に操ることが出来るというもの。
しかし『一つの物』というのは非常に曖昧だ。
例えば家の中にある一冊の本をひとつの物としよう。当然その本の内部に挟まれたページたちも本の一部であり、琉希がその気になれば操り、ページの一枚一枚を捲ることすら出来る。
しかし家そのものも視点を変えれば『一つの物』として定義することが出来るし、その場合、家の中にある本も、本の中にあるページ同様、家を構成する無数のパーツの一部として定義可能であり、やはり自由自在に操ることが出来た。
即ち、『一つの物』とは琉希の認識に――とはいえ限界や条件もあるようで、意思が有り抵抗する生物は当然不可、操ることの出来る重さやサイズはスキルのレベルに比例する――すべて依存するということが分かっている。
夏休みの間、穂谷のチームへ一時的に加入しみっちりとレベル上げ、またその後もほどほどに戦いを続け、いつの間にか琉希はどれほどの大きさを『一つの物』として認識できるのか、自分でも分からないほどに成長していた。
ただ一つ言えることは、少なくともこのアパート一つを支配下に置くことは容易いということだけ。
「おじゃましまーす……」
暗い。
はじめに思った感想は至極単純なものであった。
以前来た時にはセンサー付きの物だと記憶しているが、今日はスイッチから電気が消されているらしい。
その上小さな窓すらカーテンが閉められており、部屋に入る明かりは隙間から零れる微かなものばかり。
なるほど、道理で外から中の様子をまともに見ることが出来ないわけだ。
どこか自分自身、廃墟の探索でもしている気分になっているのだろうか。どうにも明かりをつけるが躊躇われ、スマホのライトで周囲を照らしながら琉希はゆっくりと足を進めていった。
玄関に並ぶのは少女の小さな足にしか入らない白のスニーカー、高かったと自慢気に話していたもの。
それだけだ。仲良く並んでいたはずの成人向けのブーツはそこになく、残念ながらやはりアリアは今家を離れているらしい。
トイレ、キッチン、念のため開けて確認するも、当然そこに人はいない。
琉希は軋む短い廊下を進み、フォリアや芽衣と共に遊んだリビングの扉へ遂に手を掛けた。
「んん、これは……お菓子の袋ですかね……?」
アルミ蒸着の菓子袋達がこすれ合う派手な音に、ついびくりと身を震えさせる。
拾い上げてみれば見慣れた物。チョコレート菓子の一種で、サクサクとした生地に染みたチョコレートが人気のロングセラー商品だ。
しかし一つや二つじゃない。
四角や三角、丸型。種類を問わず、この小さなリビングに無数の菓子袋や、コンビニのスイーツであろうプラスチック容器が転がり、互いに積み重なって甘ったるい臭いを発している。
偶々なのだろうか? どうでもいいことなのだろうが目につく限りどれも甘いものばかり、お菓子を大量に買い込んでいたと聞いていたのだが、ポテチなどの塩辛いお菓子が見当たらない。
肝心のフォリアちゃんは一体何処に?
周囲を見回して目を凝らし……いた。
別に足音を消したり、或いは扉を静かに開けたわけでもない琉希、フォリアにも誰かが入ってきたであろうことは分かっているはずなのだが、少なくとも今は無視することに決めたらしい。
暗い部屋の隅で布団にくるまり、黙々と何か……いや、きっと買いだめした甘いお菓子だろう、を食べているようだ。
「フォリアちゃん」
「……っ!」
照明をつけ声を掛けた瞬間、演技らしく見える程大きく彼女の身体が震えた。
一瞬動きが止まり何か話してくれるかと思ったのだが、結局彼女は沈黙を選んだようで、袋を漁り、菓子を噛み砕く音だけがまた部屋に広がる。
彼女の様子はどう見ても尋常じゃない。
誰かに苦しみや悲しみを訴えるわけでもなく、一人で抱えることにした少女は不安、恐怖、動揺、単純な言葉では表せないほどの暗い感情を抱え、自分自身どうしようもなく食に逃げている。
少なくとも喧嘩などと可愛らしいものではない。
「フォリアちゃん、お話しませんか?」
ちょっとこれは……手に負えないかもしれませんね。
そう頭の片隅では思いながらも、琉希はたまらず声をかけてしまった。
意気揚々とインターホンを鳴らすも返事はなく、これはまさかと玄関の取っ手を引いてみれば……
「空いてませんね……」
やはりというべきか、抵抗だけが帰ってきた。
これは……留守でしょうか?
いくつかの窓から中の様子を伺うも、中は薄暗くカーテンの隙間から見える範囲に動く物はない。
一見して留守、一旦引くべきにも思える。
が、しかし
「うーん、誰もいないなら帰りましょうかねぇ……」
と、扉に耳を当てたままわざとらしくつぶやいた瞬間、中で何かが崩れる小さな物音がしたのを琉希は聞き逃しはしなかった。
彼女は、フォリアは間違いなくここに居る。
理由は未だ分からないが、暗い部屋の中何かに埋もれ、一人引き籠っているようだ。
人は得てして誰かに会いたくない、一人で何もせず静かにしていたいという時がある。
だがしかし本人の思うがまま一人にしておく、というのが必ずしも正しい対処ではないことは多い。
結局のところ、ストレスの原因となるものを無くさなければ問題は解決せず、大概の場合一人では解決できないからこそ抱え、暗く塞込んでしまうからだ。
この状況で家の中に飛び込むのは中々躊躇われるものがあったが、琉希には何となく、話を聞いた方が良い気がすると勘が囁いていたので、数秒の逡巡の後、勢いにすべてを任せて飛び込むことに決めた。
「うーん……まあ最悪謝ればいいでしょう。『覇天七星宝剣』」
琉希が扉に手を掛けた瞬間、ガチャリという解錠音と共に、扉から感じていた抵抗感が消え失せる。
彼女のユニークスキルは、ありとあらゆるものを七つまで専用武器として登録、自由自在に操ることが出来るというもの。
しかし『一つの物』というのは非常に曖昧だ。
例えば家の中にある一冊の本をひとつの物としよう。当然その本の内部に挟まれたページたちも本の一部であり、琉希がその気になれば操り、ページの一枚一枚を捲ることすら出来る。
しかし家そのものも視点を変えれば『一つの物』として定義することが出来るし、その場合、家の中にある本も、本の中にあるページ同様、家を構成する無数のパーツの一部として定義可能であり、やはり自由自在に操ることが出来た。
即ち、『一つの物』とは琉希の認識に――とはいえ限界や条件もあるようで、意思が有り抵抗する生物は当然不可、操ることの出来る重さやサイズはスキルのレベルに比例する――すべて依存するということが分かっている。
夏休みの間、穂谷のチームへ一時的に加入しみっちりとレベル上げ、またその後もほどほどに戦いを続け、いつの間にか琉希はどれほどの大きさを『一つの物』として認識できるのか、自分でも分からないほどに成長していた。
ただ一つ言えることは、少なくともこのアパート一つを支配下に置くことは容易いということだけ。
「おじゃましまーす……」
暗い。
はじめに思った感想は至極単純なものであった。
以前来た時にはセンサー付きの物だと記憶しているが、今日はスイッチから電気が消されているらしい。
その上小さな窓すらカーテンが閉められており、部屋に入る明かりは隙間から零れる微かなものばかり。
なるほど、道理で外から中の様子をまともに見ることが出来ないわけだ。
どこか自分自身、廃墟の探索でもしている気分になっているのだろうか。どうにも明かりをつけるが躊躇われ、スマホのライトで周囲を照らしながら琉希はゆっくりと足を進めていった。
玄関に並ぶのは少女の小さな足にしか入らない白のスニーカー、高かったと自慢気に話していたもの。
それだけだ。仲良く並んでいたはずの成人向けのブーツはそこになく、残念ながらやはりアリアは今家を離れているらしい。
トイレ、キッチン、念のため開けて確認するも、当然そこに人はいない。
琉希は軋む短い廊下を進み、フォリアや芽衣と共に遊んだリビングの扉へ遂に手を掛けた。
「んん、これは……お菓子の袋ですかね……?」
アルミ蒸着の菓子袋達がこすれ合う派手な音に、ついびくりと身を震えさせる。
拾い上げてみれば見慣れた物。チョコレート菓子の一種で、サクサクとした生地に染みたチョコレートが人気のロングセラー商品だ。
しかし一つや二つじゃない。
四角や三角、丸型。種類を問わず、この小さなリビングに無数の菓子袋や、コンビニのスイーツであろうプラスチック容器が転がり、互いに積み重なって甘ったるい臭いを発している。
偶々なのだろうか? どうでもいいことなのだろうが目につく限りどれも甘いものばかり、お菓子を大量に買い込んでいたと聞いていたのだが、ポテチなどの塩辛いお菓子が見当たらない。
肝心のフォリアちゃんは一体何処に?
周囲を見回して目を凝らし……いた。
別に足音を消したり、或いは扉を静かに開けたわけでもない琉希、フォリアにも誰かが入ってきたであろうことは分かっているはずなのだが、少なくとも今は無視することに決めたらしい。
暗い部屋の隅で布団にくるまり、黙々と何か……いや、きっと買いだめした甘いお菓子だろう、を食べているようだ。
「フォリアちゃん」
「……っ!」
照明をつけ声を掛けた瞬間、演技らしく見える程大きく彼女の身体が震えた。
一瞬動きが止まり何か話してくれるかと思ったのだが、結局彼女は沈黙を選んだようで、袋を漁り、菓子を噛み砕く音だけがまた部屋に広がる。
彼女の様子はどう見ても尋常じゃない。
誰かに苦しみや悲しみを訴えるわけでもなく、一人で抱えることにした少女は不安、恐怖、動揺、単純な言葉では表せないほどの暗い感情を抱え、自分自身どうしようもなく食に逃げている。
少なくとも喧嘩などと可愛らしいものではない。
「フォリアちゃん、お話しませんか?」
ちょっとこれは……手に負えないかもしれませんね。
そう頭の片隅では思いながらも、琉希はたまらず声をかけてしまった。
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