上 下
162 / 363

第162話

しおりを挟む
 電車で揺られて二十分、私たちの町よりだいぶ綺麗で大きな駅にたどり着いた。

「えっと……あの人かな」

 改札には結構な数の人がいて、果たして誰が迎えの人なのか分からない。
 ……と思っていたのだが、なんか物凄い目力のある人がこっちへのそのそと歩いてきた。
 服装からしてもポッケの多く、普通の生活では使わないようなものをぶら下げているので、恐らくあの人が迎えの人なのだろう。

 こ、怖い……
 ぬべっとした半目から溢れる殺意、完全に何人か殺してる。
 本当にこの人で合ってるのだろうか、話しかけたら突然殺しに来たりしないよね?

「う……その、私はきん、剛力さんの代理で……ほら、コートも……」
「ちっす! 君が話に出てた子だろ、ちっちゃいし可愛いねぇ! コート似合ってるよ、これ終わったら俺とお茶しない? おすすめの猫カフェあるんだけど、俺奢っちゃうからさぁ!」



 呉島大悟、聞く気もないのに彼はそう名乗った。

 今回向かうのはランクも低く、なんかよく分からない謎の装置のおかげで崩壊の兆候を察知できたようで、急いで向かう必要はない。
 とはいえ何があるか分からない以上、普段のダンジョンの様子や、よく出てくるモンスターの特徴などを聞いておきたいのだが……

「取り残された人は?」
「いやぁ占いで今日は大凶って出ちゃってさぁ、あ、俺スキルで占い出来ちゃうのよ、君も占っちゃう? 運命占っちゃう? 絶対当たるけど悪いの出ても許してくれよなぁ!」

 キレそう。

 こいつ話がまともに通じない。
 聞いてもいないことペラペラしゃべり出すし、全くと言っていいほど私の話に返事をしてくれなかった。

「いやぁ海自クビになってから探索者やってたけど、本当にダンジョンって崩壊するんだなぁ! テレビだけの話と思ってたよ、やっば、マジヤッバ!」
「あのさ、ちょっと黙ってくれない?」
「かー! 厳しい! 結城先輩超厳しい! でも海自の教官の方が厳しかったね! 迫力が違うよ、正直指導中何度かちびったもんね!」

 言ってもこうだ、話にならない。
 結局ぺらぺらとしゃべる彼の言葉を聞き流しながら歩き続け、ようやく件のダンジョンへたどり着いた。

「あの、協会から来ました、剛力さんの代理で……結城です」

 テープ前に立つ警官に話しかけた瞬間、その場にいた人の無数の視線が私へと突き刺さった。
 警官も一瞬なんだこいつという目をしたものの、私の着ているコートを見てハッと意識を切り替えると、どうぞと黄色いテープを持ち上げ私を奥へ導く。
 園崎さんの言う通りだ、この協会のコートは、こと緊急の現場では無類の力を発揮してくれるようだ。

 ついでに呉島までついてきた、こいつもう帰ってほしい。

 立ち入り禁止のテープと、ぎりぎりのところで密着する無数の野次馬。
 以前の崩壊を筋肉と食い止めた時もそうだったが、何故危険だと言われているのにこう集まってくるのか。
 ダンジョンがいざ崩壊したらどうするつもりなのだろう、一般人なんてまともに逃げる余裕すらなく殺されてしまうのに。

「結城先輩かっこいいっすね! 顔知られてるって奴? もしかしてちっこいけど偉い感じなの? めちゃんこお近づきになりてぇ、俺にも権力下さい!」

 呉島のマシンガントークはとどまることを知らない。
 思ってもいないようなことを延々と話し続ける彼、きっと一割も内容があればいい方だろう。
 琉希の方がまだマシだ。

 しかしこんなんでも一応協会の関係者、つまみだしたり殴り飛ばすのは駄目だということくらい、流石の私にもわかる。

「この街って協会ありますよね? 支部長っていないんですか?」
「それがどうやら長いこといなかったようで……先月発覚したばかりで、まだ後任が決まっていないそうです」

 こんな大きな街で、支部長がいないなんて奇妙だ。
 ダンジョン崩壊を察知できる機器まで整っていて、私の住む町の数倍は規模があり、大きな駅まで整っているというのに。

 もしかして、あの先月の消滅に出向いていたのか……?

 あり得る。
 位置的にはこちらの方が近いし、確かあの時筋肉は電話先の相手に地区が違うなんて言っていた。

 見えていなかった事実に気付き、拳を固く握りしめる。

 名も知らぬ人、声も聞いたことのない支部長。きっとそんな風に、誰にも知られることなく消えて行った人が沢山いるのだろう。
 彼か、それとも彼女か分からないその人が守っていた街、今回だけだとしても私が引き継いで守る。

「分かりました、それなら……」

 えっと、まずこういう未然に崩壊を察知できた時は、どうするんだっけ。

 脳裏に浮かぶ分厚い本。
 ほとんどはまっさらであまり覚えきれていないが、ペラペラページを捲っていくことで、ぎりぎりこのことについては文字が浮かび上がって来た。
 そう、基本のマニュアル通りに行くなら……

「ダンジョン内に取り残された人は?」
「発覚が昼頃だったので、もしかしたら数人はいるかもしれません」
「――私が突入してボスを倒すので、何方か取り残された人をボス倒すまで護衛できる方いますか」
「じゃあ俺が立候補しちゃおうかなぁ~? 他にやりたい人いないよな? な? 結城先輩よろしくお願い申し上げまする!」
「は?」

 本気で言ってんの?

 勘弁してほしい。
 たとえダンジョン内で別れるとはいえ、こいつが近くにいると考えるだけで気が滅入る。
 ただでさえよくしゃべる相手は苦手なのに。

「おっと、その前に……」

 空気が一瞬鋭く固まった。

 なんといえばいいのか分からない、しかし慣れた感覚。
 よく的中する嫌な予感・・・・というやつで、それは先ほどまでふざけた態度を取っていた呉島から漂ってきていた。

 所謂メイスというやつだ。

 表情も大して変えず、彼はさも当然のようにその大きな武器を振りかぶり、躊躇いなく私へまっすぐ振り下ろして来た。

「本当に先輩強いんすか……ぁ……?」

 だが遅い。
 恐らくわざとだ、一応当たらない様力を抜いているのだろう。

 正面から受け止めようとも思ったが、警官の人が驚いてこちらへ手を伸ばそうとしていたので、挟まれても大変だからと早めにメイスを叩き落とす。

「こんな時に何考えてるの? 邪魔するなら帰って、他の人に当たったらどうするの」

 苛立ちが募る。

「……おいおい、めっちゃ強いじゃねえか。こりゃ降りてきて正解だった、あんたの指示には全面的に従わせてもらいまっせ!」

 ニンマリと差し伸べられた彼の手。
 何一つ理解できないので、もう一度それを叩き落とし一人ダンジョンへ踏み入れる。

「あ、ちょ、先輩待ってくださいよ!」

 本当こいつなんなの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...