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第130話
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「たっ……助けて……! 誰か、誰かぁっ!?」
人々は目を逸らす。
一人の女性が短剣を片手にモンスターへ立ち向かい、けれど全く至らないその力量故無慈悲に刈り取られるその瞬間から。
そして次に狙われるのは、固まって室内に籠っている己たちだということから。
しかし彼女も他の人を罵ることはできない。かつて己自身も横に居たものを見捨て、切り捨てたことがあった。
最初は故意ではなかった、無謀にも気が大きくなり一段飛ばしのFランクダンジョンに潜ってしまった時に、悪魔的な考えと思いながらもついしてしまった。
目立つ子だった。金髪の、何を考えているのかよく分からない、整っているからこそ不気味な無表情の少女。
ただ偶々出会ったその小さな少女を、動きも遅く体力もない、どうしてダンジョンなんかに潜ろうと考えたのかと思うほどあまりに足手纏いな存在を、どうせ助けることは出来ないのだからと切りつけ肉壁にした。
だが一度嵌まってしまった、誰かを踏み台にして生き延びようとする精神は決して歯止めが利かなかった。
一度なら二度も、二度なら何度でも。
何事もなければ外で別れることもあったが、ダンジョン内で危険へ直面すればためらいなく見捨ててきた。
事情を知る者同士で行為を繰り返す度躊躇は無くなり、いつしかそれが当然の行為になった。
いつか罰を受けるんじゃないか、いつか報いに後悔する日が来るんじゃないか。最初はそう思っていても、次第に心はピクリとも動じることなく、納豆へタレをかけるように至極当然のこととして心へ染み付いてしまった。
悲鳴が耳に噛み付く。
そしてついには同じことをしていた、仲間というにはあまりに歪な関係の二人すらも切り捨てた。
互いに裏切るかもしれない、自分を捨てて先に行くかもしれないと勘繰り合っていた最中に、やられるくらいならと置いてきてしまった。
だが結局仲間を置き去りにしてまで逃げてきたこの校舎にはモンスターが構えていて、丁度よく現れた哀れな己を食い破らんと、その鋭く尖った牙を剥いて笑っていた。
女は気付いていないが、結局のところ自分がやってきたことと同じことが帰って来ただけのこと。
そう、ただ切り捨てられる対象に、自分が当てはまる日が来ただけのこと。
その時、どこかから人の声がした。
若いというよりは幼い、少女の声だった。
『――!』
モンスターも、短剣使いの動きもピタリと止まる。
空から現れたそのちっぽけな黄金はまっすぐにモンスターへと向かい、豪速を保ったまま突き進み続け――
「――ぁぁぁぁあああああ! やばっあくっ、『アクセラレぶげぇっ!? ほぎょおおおっ!? ばべっ!?」
着地に失敗した。
◇
とても痛い。
カッコつけて空を飛んだはいいものの、『アクセラレーション』を解除した瞬間とんでもない風圧に顔だの、口だのが押し広げられてしまいパニックに陥った結果、着地の瞬間に再発動する余裕もなく地面と熱い抱擁を交わしてしまった。
本当に何も見えなかった、これも新しく対策すべきことの一つだ。
うっ、鼻擦りむいたみたい……ピリピリする。
「げほっ、げほっ! はあ……助けに来た、これ飲んでいいから」
モンスターの牽制ついでにカリバーを振り回し、先ほどギリギリ遠くから見えていたであろう一人へ声をかける。
うつむいていてよく顔は分からないがどうやら大学生程度の女一人、他に装備がない当たり短剣一本で戦っていたようだ。
しかし満身創痍といった言葉が実によく似合う。手足についた深い切り傷や無数の擦り傷を見る限り、恐らく持ってあと一分……いや、私が落ちてこなければきっと今頃には死んでいたかもしれない。
二人で暢気に走っていたら間に合わなかった。
そう、私はこれを予見してあえて飛んだのだ。そしてモンスターに彼女が襲われる前、あえて、そう敢えて盛大に着地失敗することで注意を引き、作戦は予想通り無事成功した。
うんうんあえて敢えて、いやー助かって良かった!
彼女へ手持ちのポーションをひとつ投げ渡し後ろへ下がっているよう告げる。
目の前のモンスター……大きさとしては10メートルほど、しかとみてみればなかなか強そうだ。
屈強な太い四肢と太く鋭い棘の生えた尻尾、地に浅黒い腹を擦り付け二つに分かれた舌をチロチロと出す姿はさながらドラゴンといえるだろう。
縦に割れた橙の瞳がやけに鮮やかに私の記憶へこびりついた。
たらりとドラゴンの口元から垂れた土が下の草に触れ、見る間にぐじゅぐじゅのでろでろになる。
あれに触れたらやばそうだ。
まあ私なら負けないけどね。
なんたって今の私レベルはCランクダンジョンすら容易く踏破できる五万越え、聞けば今回崩壊したのはDランクでも下位のダンジョンというじゃないか。
ふふ。どれどれ、ステータスを見せてくれたまえよ。
――――――――――――――――
種族 モロモルキングドラゴン
名前 シユマ
LV 38000
HP 198445 MP 73959
物攻 187395 魔攻 19381
耐久 280534 俊敏 70495
知力 39378 運 35
――――――――――――――――
あ、負けそう。
人々は目を逸らす。
一人の女性が短剣を片手にモンスターへ立ち向かい、けれど全く至らないその力量故無慈悲に刈り取られるその瞬間から。
そして次に狙われるのは、固まって室内に籠っている己たちだということから。
しかし彼女も他の人を罵ることはできない。かつて己自身も横に居たものを見捨て、切り捨てたことがあった。
最初は故意ではなかった、無謀にも気が大きくなり一段飛ばしのFランクダンジョンに潜ってしまった時に、悪魔的な考えと思いながらもついしてしまった。
目立つ子だった。金髪の、何を考えているのかよく分からない、整っているからこそ不気味な無表情の少女。
ただ偶々出会ったその小さな少女を、動きも遅く体力もない、どうしてダンジョンなんかに潜ろうと考えたのかと思うほどあまりに足手纏いな存在を、どうせ助けることは出来ないのだからと切りつけ肉壁にした。
だが一度嵌まってしまった、誰かを踏み台にして生き延びようとする精神は決して歯止めが利かなかった。
一度なら二度も、二度なら何度でも。
何事もなければ外で別れることもあったが、ダンジョン内で危険へ直面すればためらいなく見捨ててきた。
事情を知る者同士で行為を繰り返す度躊躇は無くなり、いつしかそれが当然の行為になった。
いつか罰を受けるんじゃないか、いつか報いに後悔する日が来るんじゃないか。最初はそう思っていても、次第に心はピクリとも動じることなく、納豆へタレをかけるように至極当然のこととして心へ染み付いてしまった。
悲鳴が耳に噛み付く。
そしてついには同じことをしていた、仲間というにはあまりに歪な関係の二人すらも切り捨てた。
互いに裏切るかもしれない、自分を捨てて先に行くかもしれないと勘繰り合っていた最中に、やられるくらいならと置いてきてしまった。
だが結局仲間を置き去りにしてまで逃げてきたこの校舎にはモンスターが構えていて、丁度よく現れた哀れな己を食い破らんと、その鋭く尖った牙を剥いて笑っていた。
女は気付いていないが、結局のところ自分がやってきたことと同じことが帰って来ただけのこと。
そう、ただ切り捨てられる対象に、自分が当てはまる日が来ただけのこと。
その時、どこかから人の声がした。
若いというよりは幼い、少女の声だった。
『――!』
モンスターも、短剣使いの動きもピタリと止まる。
空から現れたそのちっぽけな黄金はまっすぐにモンスターへと向かい、豪速を保ったまま突き進み続け――
「――ぁぁぁぁあああああ! やばっあくっ、『アクセラレぶげぇっ!? ほぎょおおおっ!? ばべっ!?」
着地に失敗した。
◇
とても痛い。
カッコつけて空を飛んだはいいものの、『アクセラレーション』を解除した瞬間とんでもない風圧に顔だの、口だのが押し広げられてしまいパニックに陥った結果、着地の瞬間に再発動する余裕もなく地面と熱い抱擁を交わしてしまった。
本当に何も見えなかった、これも新しく対策すべきことの一つだ。
うっ、鼻擦りむいたみたい……ピリピリする。
「げほっ、げほっ! はあ……助けに来た、これ飲んでいいから」
モンスターの牽制ついでにカリバーを振り回し、先ほどギリギリ遠くから見えていたであろう一人へ声をかける。
うつむいていてよく顔は分からないがどうやら大学生程度の女一人、他に装備がない当たり短剣一本で戦っていたようだ。
しかし満身創痍といった言葉が実によく似合う。手足についた深い切り傷や無数の擦り傷を見る限り、恐らく持ってあと一分……いや、私が落ちてこなければきっと今頃には死んでいたかもしれない。
二人で暢気に走っていたら間に合わなかった。
そう、私はこれを予見してあえて飛んだのだ。そしてモンスターに彼女が襲われる前、あえて、そう敢えて盛大に着地失敗することで注意を引き、作戦は予想通り無事成功した。
うんうんあえて敢えて、いやー助かって良かった!
彼女へ手持ちのポーションをひとつ投げ渡し後ろへ下がっているよう告げる。
目の前のモンスター……大きさとしては10メートルほど、しかとみてみればなかなか強そうだ。
屈強な太い四肢と太く鋭い棘の生えた尻尾、地に浅黒い腹を擦り付け二つに分かれた舌をチロチロと出す姿はさながらドラゴンといえるだろう。
縦に割れた橙の瞳がやけに鮮やかに私の記憶へこびりついた。
たらりとドラゴンの口元から垂れた土が下の草に触れ、見る間にぐじゅぐじゅのでろでろになる。
あれに触れたらやばそうだ。
まあ私なら負けないけどね。
なんたって今の私レベルはCランクダンジョンすら容易く踏破できる五万越え、聞けば今回崩壊したのはDランクでも下位のダンジョンというじゃないか。
ふふ。どれどれ、ステータスを見せてくれたまえよ。
――――――――――――――――
種族 モロモルキングドラゴン
名前 シユマ
LV 38000
HP 198445 MP 73959
物攻 187395 魔攻 19381
耐久 280534 俊敏 70495
知力 39378 運 35
――――――――――――――――
あ、負けそう。
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