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第98話
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「ん……?」
「起きたか」
あれ……私なんで寝てたんだっけ……?
ちょっと痛む首裏をそっと撫で、横に立っていた筋肉へ首をかしげる。
頭も痛い気がする、けれど気のせいだといわれてしまえばその程度、まあモンスターの攻撃を受けたときと比べれば大したものじゃない。
「取りあえずこれ飲んどけ」
「んー? んあー」
彼が差しだして来たのは血というには薄い、トマトジュースを三倍程度に薄めたらきっとこれくらいの色だといえる、小瓶に詰まったそれ。
なんだこれ。
そういえばさっき店に入っていた気がする、個人で作って売っているジュースか?
言われるがままに飲み込めば鼻を衝くエキゾチックな吐き気、純粋にまずい。
「……あ、ああ! さっきの子! どう!?」
じんわりとしみ込んだそれは曇った思考を洗い流し、少し前のことを明瞭に思い出させた。
時間は先ほどから大して変わっていない、トラックだって離れたところに止まっているし、べっこりと凹んだあれはきっと私がぶつかった後だろう。
歩くと少し足が震える、脳インドって奴かもしれない。
見回せばさっきの少年が母親に抱かれてこちらを見ている、髪に小枝が突き刺さっているのはご愛敬。
どれ、怪我がないかくらい聞いてやろうじゃないか。
「ねえ、その子大丈夫……」
はた、と足が止まる。
痺れてるわけでもない、折れてるわけでもない、さっき渡された……恐らくポーションのおかげで微かにあった体の不調も綺麗になくなっているのだから。
じゃあなんでか、それは物理的な原因って訳じゃなく、目線を上に向ければ分かった。
目だ。
母親の目、異物を見るようなそれ。
私はこの感覚を知っている。
何度も何度も味わってきた、集団に馴染めない私を見る周りの目線だ。
多くは私を嫌っているわけでもない、ただただ距離を取るだけ……それが一番、なによりも嫌な空気を纏っているのだ。
「本当にありがとうございました、お礼をさせていただきたいのでこちらまで連絡下さい」
「いや……その」
「本当に大丈夫ですので! では失礼します」
行っちゃった……
早口でまくし立て一枚の紙きれを私に押し付けると、何か言いたげな子供を引っ張り彼女はこの場から離れる。
最低限やるべきことはやり、今すぐにこの場を離れたいということだろう。
なんだろう、なんというか……
「本当に申し訳ありませんでしたァッ!」
背後から襲い掛かる威勢のいい謝罪、脳内を回っていた考えが青空に吹き飛ぶ。
「ひょわあああ!? え? あぇ?」
こ、こいつ誰だ……!?
「うええっと……」
「助けてくれたのが探索者の方で本当に良かった!! 今警察に通報したんで! どうか~……それでですねェッ! 一緒に……」
ああ、さっきの運転手か。
苦手だ、すごく苦手なタイプの人間だ。
どこか漂う既視感、無駄に元気で死ぬほど近寄ってくるこの性格はどうにも慣れない。
後ろに下がろうと前へ踏み込もうとぴったり張り付いて動けない、一体なんなんだこのマーク力は。
めんどくさい……逃げよう。
「あーうあー……いや本当に……私は大丈夫だから! 元気! ちょーげんき!? き、筋肉! 行こ! じゃあそういうことで!」
「ん? ああ、悪いな兄ちゃん、急いでるから届け出は任せるわ。連絡あったらここに頼む」
◇
まずはこの町の協会支部へと向かい、ボロボロの服を着替えた後のこと。
「そろそろ靴も変えないとなぁ……」
足に伝わるゴムの劣化し、違和感と共になる擦れた音に言葉が漏れる。
ところどころ焦げやほつれも見えるスニーカーは、私が探索者になる前から履いてきたもので見るからにボロボロ、限界の一歩手前。
戦う以上物の消耗が激しい、服は安いシャツとズボンで使い捨てに近い扱い――琉希と買いに行ったものはもちろんあるけれど、流石にそれをすぐ駄目になる戦いへ着て行こうとは思えないーーであったが、靴もやはり確実に襤褸くなっている。
私のつぶやきを聞いた筋肉が、ふと話しかけてきた。
「探索者向けに靴や服を下ろしている店がある、興味があるなら調べてみろ」
勿論迷宮の素材を扱う特注品になるから高くなるそうだが、なるほど、市販品を買って履くよりはそっちの方が戦闘に向いているだろうしいいかもしれない。
服も何かいいのがないかな、ずっと味気のない服のままっていうのも寂しいし。
ついでに琉希も連れて行ったらどうだろうか。どうせ彼女のことだ、以前二人で買い物行った時と同じように、大喜びであれこれ漁るに違いない。
やはり長いこと探索者をやっている人間は情報量が違う、普段一人で戦う私では他の人から聞くこともないし、そもそもあまり他の人と交流もしないからありがたいことだ。
けれど良いことを聞いたと上がる私の気分とは裏腹に、顎に手を当て考え込んだ筋肉。
ただでさえいかつい顔なのにこの雰囲気、裏で何人か殺っているといわれても誰しもが頷いてしまうだろう。
放置しようかなと思ったのだが師匠の悩みを聞くのも弟子の務め、ここはどーんと構えて聞いてやろうじゃないか。
「どしたの? おなか痛いの?」
「いや……お前は良かったのか、あれで」
あれ? どれ?
私が全く思い浮かんでいないことに気付いたのだろう、彼は苦虫を噛み潰したような顔で続ける。
それは先ほどの事故、そして母親の態度についてだった。
めっちゃ私関係じゃん。
「起きたか」
あれ……私なんで寝てたんだっけ……?
ちょっと痛む首裏をそっと撫で、横に立っていた筋肉へ首をかしげる。
頭も痛い気がする、けれど気のせいだといわれてしまえばその程度、まあモンスターの攻撃を受けたときと比べれば大したものじゃない。
「取りあえずこれ飲んどけ」
「んー? んあー」
彼が差しだして来たのは血というには薄い、トマトジュースを三倍程度に薄めたらきっとこれくらいの色だといえる、小瓶に詰まったそれ。
なんだこれ。
そういえばさっき店に入っていた気がする、個人で作って売っているジュースか?
言われるがままに飲み込めば鼻を衝くエキゾチックな吐き気、純粋にまずい。
「……あ、ああ! さっきの子! どう!?」
じんわりとしみ込んだそれは曇った思考を洗い流し、少し前のことを明瞭に思い出させた。
時間は先ほどから大して変わっていない、トラックだって離れたところに止まっているし、べっこりと凹んだあれはきっと私がぶつかった後だろう。
歩くと少し足が震える、脳インドって奴かもしれない。
見回せばさっきの少年が母親に抱かれてこちらを見ている、髪に小枝が突き刺さっているのはご愛敬。
どれ、怪我がないかくらい聞いてやろうじゃないか。
「ねえ、その子大丈夫……」
はた、と足が止まる。
痺れてるわけでもない、折れてるわけでもない、さっき渡された……恐らくポーションのおかげで微かにあった体の不調も綺麗になくなっているのだから。
じゃあなんでか、それは物理的な原因って訳じゃなく、目線を上に向ければ分かった。
目だ。
母親の目、異物を見るようなそれ。
私はこの感覚を知っている。
何度も何度も味わってきた、集団に馴染めない私を見る周りの目線だ。
多くは私を嫌っているわけでもない、ただただ距離を取るだけ……それが一番、なによりも嫌な空気を纏っているのだ。
「本当にありがとうございました、お礼をさせていただきたいのでこちらまで連絡下さい」
「いや……その」
「本当に大丈夫ですので! では失礼します」
行っちゃった……
早口でまくし立て一枚の紙きれを私に押し付けると、何か言いたげな子供を引っ張り彼女はこの場から離れる。
最低限やるべきことはやり、今すぐにこの場を離れたいということだろう。
なんだろう、なんというか……
「本当に申し訳ありませんでしたァッ!」
背後から襲い掛かる威勢のいい謝罪、脳内を回っていた考えが青空に吹き飛ぶ。
「ひょわあああ!? え? あぇ?」
こ、こいつ誰だ……!?
「うええっと……」
「助けてくれたのが探索者の方で本当に良かった!! 今警察に通報したんで! どうか~……それでですねェッ! 一緒に……」
ああ、さっきの運転手か。
苦手だ、すごく苦手なタイプの人間だ。
どこか漂う既視感、無駄に元気で死ぬほど近寄ってくるこの性格はどうにも慣れない。
後ろに下がろうと前へ踏み込もうとぴったり張り付いて動けない、一体なんなんだこのマーク力は。
めんどくさい……逃げよう。
「あーうあー……いや本当に……私は大丈夫だから! 元気! ちょーげんき!? き、筋肉! 行こ! じゃあそういうことで!」
「ん? ああ、悪いな兄ちゃん、急いでるから届け出は任せるわ。連絡あったらここに頼む」
◇
まずはこの町の協会支部へと向かい、ボロボロの服を着替えた後のこと。
「そろそろ靴も変えないとなぁ……」
足に伝わるゴムの劣化し、違和感と共になる擦れた音に言葉が漏れる。
ところどころ焦げやほつれも見えるスニーカーは、私が探索者になる前から履いてきたもので見るからにボロボロ、限界の一歩手前。
戦う以上物の消耗が激しい、服は安いシャツとズボンで使い捨てに近い扱い――琉希と買いに行ったものはもちろんあるけれど、流石にそれをすぐ駄目になる戦いへ着て行こうとは思えないーーであったが、靴もやはり確実に襤褸くなっている。
私のつぶやきを聞いた筋肉が、ふと話しかけてきた。
「探索者向けに靴や服を下ろしている店がある、興味があるなら調べてみろ」
勿論迷宮の素材を扱う特注品になるから高くなるそうだが、なるほど、市販品を買って履くよりはそっちの方が戦闘に向いているだろうしいいかもしれない。
服も何かいいのがないかな、ずっと味気のない服のままっていうのも寂しいし。
ついでに琉希も連れて行ったらどうだろうか。どうせ彼女のことだ、以前二人で買い物行った時と同じように、大喜びであれこれ漁るに違いない。
やはり長いこと探索者をやっている人間は情報量が違う、普段一人で戦う私では他の人から聞くこともないし、そもそもあまり他の人と交流もしないからありがたいことだ。
けれど良いことを聞いたと上がる私の気分とは裏腹に、顎に手を当て考え込んだ筋肉。
ただでさえいかつい顔なのにこの雰囲気、裏で何人か殺っているといわれても誰しもが頷いてしまうだろう。
放置しようかなと思ったのだが師匠の悩みを聞くのも弟子の務め、ここはどーんと構えて聞いてやろうじゃないか。
「どしたの? おなか痛いの?」
「いや……お前は良かったのか、あれで」
あれ? どれ?
私が全く思い浮かんでいないことに気付いたのだろう、彼は苦虫を噛み潰したような顔で続ける。
それは先ほどの事故、そして母親の態度についてだった。
めっちゃ私関係じゃん。
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