上 下
92 / 363

第92話

しおりを挟む
「ぺっとしょっぷ……ぺっとしょっぷ……」

 歩くたびに消え失せる四角く灰色の建物。
 気が付けば小さな公園と街路樹、そしていくつかの家屋だけが並ぶ不思議な通りに私はいた。

 妙だ。
 ウニの言う通りに道をたどったはずなのに、ペットショップどころか建物すらどんどん減っていく。
 これはまさか……

「ウニに騙されたのか……!」

 私は絶対に迷ってない。
 くそぉ……くそぉ……あいつゆるさん。
 大通りを抜けたらすぐだって言ってたじゃん! 大きな看板があるって言ってたじゃん! どこにもないんだけど!

 あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、果てには帰り道すら分からなくなりネコは腕の中で居眠りを始める始末。
 もういっそ屋根の上でも飛んでいこうか、いや勝手に登ったらやっぱり犯罪になるのかな。

「わっ!」
「ひょおお!? ……りゅ、琉希。どうしてここに……」

 突然背後からかけられた大声に跳ねる肩、振り向けばにやにやと笑う彼女。

 普段平日だとか関係のない生活をしていて忘れがちだが、どうやら今日は休日らしい。
 まだ昼間だというのにも関わらず私服の彼女を見て気付くが、街中で会うのならともかくこうも閑静な住宅街で出会うのはなかなか不思議な事だ。

「どうしてもこうしてもここ私の家の近所ですよ? フォリアちゃんこそどうしてこんなところに……あ、もしかして私に会い」
「丁度良かった、ペットショップってどこにある?」
「あいに……あいに……はい、知ってますよ。一緒に行きましょう!」
「え、いや別に一緒に行かなくても場所さえ教えてくれれば……」
「行きましょう! ね! ね!」
「あびゃああ」

 猫と共に世界がかき乱される、奴も逃げようと腕の中で藻掻くがお前も苦しめ。
 ぬは、ぬは、ぬははうえええ……き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛……

 何が一体そこまで彼女を駆り立てるのだろう、肩をがっしりと掴まれ前後に揺さぶられてしまえばこちらは頷かざるを得ない。



 バンッ!

「こんにちはー! もう開いてますかー!」
「それはあけながら言う言葉じゃないと思う」

 開けて早々に匂ってくるのは、動物特有の据えた獣臭……かと思いきや逆、それどころかさわやかな花の匂い。
 加えて奇妙なことに、動物たちの鳴き声が全くしない。
 はて、一体どういったわけか……

「ここはワンちゃんとか置いてないんですよ、店主さんが飼ってるネコちゃんはいるんですけどね」
「あら、いらっしゃい琉希ちゃん。今日も勉強のおさぼりに来たのかしら?」
「あーあーそれはちょっと言っちゃだめです! ほらフォリアちゃん鈴探しましょう! ね! ね!」
「……!? え、ああ、うん」

 全く察知できなかった、一人の女性が後ろに居たことを肩に手を掛けられようやく気付く。

 閉じているのか開いているのか、一見その判断すら難しいほど目を細めたその女性。
 琉希の態度や会話を見る限りどうやら彼女がここの店主のようだ。
 気になることはあるのだが琉希にぐいぐいと手を引かれてしまえば振り払うわけにもいかないし、彼女もこちらを引き留める様子がないので店内を進めば、もう夏も近い、軽く汗ばんでいた体にクーラーの利いた店内は心地よかった。

 なのだが。

 こう……店主の前で考えるのも失礼なのだが、かなり広々としたわりに寂しい店だ。
 服やリード、ケージなどは並んでいる、とはいえやはりペットショップなのに動物たちがいないせいもあって空きが目立つ。
 一応ショーケースもあるというのにその中は空っぽ、冷たいガラスの奥に真っ白な壁だけが見えるせいで、余計モノ寂しい雰囲気を醸し出していた。

「あ、鈴ありましたよ! どれにします?」

 勝手に戸棚をガサゴソと漁っていた琉希が引っ張り出して来たのは、色も形もとりどりの鈴が入ったケース。
 昔からあるような金色の爪ほどの大きさをしたものもあれば、魚の形、蝶ネクタイについたもの、変わり種では魚の形をした陶器製のものまであった。

 む……これは悩むぞ。

 こやつは全身真っ黒、首輪まで黒ときたものだから中々どの色にすべきか悩む。
 金ぴかなものが王道だとは思うが、しかしこれでは目立ちすぎな気もするなぁ……いや待て、それならあえて暗い色にするか……?

「ん……えーっと、これとか?」

 決めかねて適当に取り上げてみたそれは赤と黒のチェック模様をした蝶ネクタイ、真ん中で揺れる金の鈴がコロコロと音を鳴らしてかわいらしい。

 うん、案外悪くないんじゃないかな。

 手に取ってみれば不思議と気に入ってしまい、これがベストなようにすら感じる。
 まあ適当な性格ってだけかもしれないけど。

 足元をうろちょろしてた猫をホールド、試しに付けてみたらやはりしっくりときた……のだが、

『ミ゛ィ!』

「こら暴れるな、落ち着けアホネコ」

 着けた瞬間嫌がるように体をうねうねをくねらせ、床に地面をこすりつけて猛烈な勢いで暴れだした。
 まるでウナギかなにかのようだ。
 いったい何が気に入らないというのか、似合っていると思うのだが……

「鈴の音が嫌なのかもしれないわね、猫って耳いいから」
「……!?」
「確かここら辺に……ほら、これが音の出ないタイプね。これなら嫌がらないんじゃないかしら?」

 気付かなかった……この人気配がなさ過ぎて怖い。

 またもやいつの間にか背後にいた彼女が引っ張り出して来たのは、見た目こそそっくりだが揺らしても音のしないタイプ。
 流石はペットショップのオーナーというべきか、少しばかり嫌がるような素振りをしたがそこまでで、猫も今度はおとなしく首輪を受け入れた。

 私は音が鳴る方がよかったのだが……まあいいか。

「うん似合ってる似合ってる、貴女センスあるわ」
「そ、そう……?」

 そう言われてみればこっちの方が似合ってるような気がしてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...