上 下
70 / 363

第70話

しおりを挟む
 突然訪れた意識の急浮上は、船酔いにも似た気持ち悪さがあった。

「……んあ」

 よく思い出せないが、なんだか嫌な夢を見ていた気がする。

 狭く暗いうろの中で最初に感じたのは、そんな微妙に思い出せない違和感。
 リュックを蹴っ飛ばして蓋を外し飛び降りれば、既に星が昇ってきた太陽の光によって薄れてきた空。

 少し寝過ぎたか? いや、それでも2,3時間ほどしか経ってないはず。
 そう満足いく環境でも時間でもなかったが、我慢ならないほどの眠気は随分と消え、もう少しだけなら頑張ることが出来そうだ。

 もしゃもしゃになった髪を軽く手で梳き、寝ているうちに垂れていた涎と涙を袖で拭う。
 変な場所で寝たからだろう、少しばかり違和感のあった関節も、暫し伸ばしてやれば直ぐに元へ戻った。

 軽い嘆息。

 マラソンというものは疲労感しか感じないが、終わりの見えないマラソンはなおの事辛い。
 正直泣きそうだ。
 今すぐこの場で手足をじたばた振り回し、髪を振り乱して叫び、どうにもならない現実に狂ってしまいたい。
 だってそうだろう、崩壊時のレベルなんてどれくらい上昇するか、さっぱり分からない。
 どこまでレベルを上げればいいのか、どこまで準備をすればいいのか……考えれば考えるほど、どうしたらいいのか分からなくなってくる。

 背後から現れた巨大な蛾。
 寝起きで頭が働いていないからか、その接近に気が付くのが遅れる。
 しかし休憩もなしにレベルを上げ続けた結果、あれだけ苦しめられたその針も、もはや肌に刺さることはない。

「……『ステップ』」

 草葉を蹴り飛ばしてその背後に回り、引っ掛けるように伸ばしたカリバーで殴りつける。
 貧弱な私の攻撃力ではあるが、レベル差が開いたのと蛾本体の装甲の薄さもあり、一撃で光へと変わった。

 しかしレベルは……上がらない。

「『ステータスオープン』」

―――――――――――――――――

結城 フォリア 15歳
LV 3157

HP 3011/6232 MP  4035/15575
物攻 5709 魔攻 0
耐久 18961 俊敏 22058
知力 3157 運 1

SP 3540

スキル

スキル累乗 LV3
悪食 LV5
口下手 LV11
経験値上昇 LV4
鈍器 LV4
活人剣 LV1
ステップ LV1
アイテムボックス LV3

―――――――――――――――――

 今までなら一体でレベルが上がらなくなってからも、暫くは同じ敵と戦っていた。
 慣れないモンスターと苦労して戦い勝つより、慣れた方が安全だから。
 けれど今は安全マージンだとか、余裕を保ってだなんて甘いことは言ってられない。

 虎屋に入らなければずんだ餅は食えないのだ。
 だからこそできる限りのことはしておく。

 ここは当初の予定通り、『経験値上昇』をLV6へ。
 そして必要SPの問題で上げてこなかった『活人剣』を、一気に10まで上げる。
 消費SPは合計で、えーっと……2340となった。

 活人剣を上げたのは、何も勢いではない。
 今までほとんど効果を感じることのなかったこれだが、琉希との共闘、そして今回の針による細かな怪我で、回復の重要性を一段と噛み締める結果になった。

 またずっと悩んでいたのだが、これ以上『スキル累乗』を上げた場合、私の身体はもう持たないだろう。
 特に『スカルクラッシュ』、これを使うたびに、腕が引きちぎれるような激痛が脳天を殴りつけ、視界がくらむのだ。
 もう本当に辛い。めっちゃ痛い。
 けれど私は魔攻が伸びないので、『強化魔法』だとか、『回復魔法』の類は効果がないし、使うたびにポーションを飲んでいたら破産してしまう。
 SP効率は恐ろしく悪いが、渋々『活人剣』を上げることにしたというわけだ。

 そして次、活人剣のレベルを更に上げようとした時だった。

「5000!? ……あっ、そっか」

 500とばかり思っていた必要SPであったが、突然一桁跳ね上がっていることに仰天し、すぐに納得する。
 そういえばスキルは10上げる度に、次の必要SPが10倍へ増えるんだった。
 スキルレベル10なんて遠い未来のことだと思っていたが、案外あっという間にたどり着いてしまったようだ。
 残念ながら次の階段を上るには、またレベルを相当上げる必要がありそうだが。

 レベルが上がったことで実質的には減ってしまったHPだが、活人剣LV10によって吸収量は1%から10%にまで上がった。
 元が元とはいえ効率は10倍、これなら直ぐに回復できるだろう。

「……っ」

 遠くから微かに見えた太陽、緋色の光線が目を突き、軽いめまいに体が震える。

 宵闇は既に空を去った。
 あとどれだけ余裕が残されている?
 レベル上げが終わった後にもすべきことがあるし、のんびりしている暇はない。

 サクサクと実をいくつか食べ、簡単に食事を終えてからカリバーを握り、リュックを背負う。
 緩んできた靴紐をキュッと握れば、だいぶ頭もはっきりしてきた。

 ……私で、私が何とかしないと。

―――――――――――――――――――――――
今回から言い間違いは最後に解説を置いていこうかと思います。
虎屋に入らないとずんだ餅は食えない:虎穴にらずんば虎子を得ず

意味 危険を冒さなければ大きな成功は得られない
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

処理中です...