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第62話

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「パーティ、解散しましょう」
「あ……う……」

 それは薄々気付いていて、私が心から恐れていた言葉。
 せっかく仲良くなったというのに……人というのは、こうもあっさり関係を切り捨ててしまうのだろうか……。



「『スカルクラッシュ』!」

 MPを使い切ったクリスタルに、輝くカリバーが振り下ろされる。
 HPこそある程度あるとはいえ低い耐久、渾身の一撃は容易くその身に罅を入れ、ついには粉々に砕いてしまう。
 そして私は『スキル累乗』を『経験値上昇』へ乗せようとして……やめた・・・

 ごろりと転がる魔石。
 レベルアップは無し。
 やはり、か。

 予想が当たってしまった絶望感に、頭がくらくらする。
 ああ、どうか琉希だけは気付かないでくれ。

「あ、魔石落ちましたよ!」
「うん……」
「あれ、元気ないですね……どうかしました?」

 ひょいとのぞき込んでくる顔を、私は真正面から見ることが出来ない。

 どうやら気付いていないらしいが、このまま彼女に何も伝えず必要がるのかと思うと、心が苦しかった。
 とくとくと、激しく心臓が鳴る。

 いいのか、本当に何も言わなくて。
 自分の中で誰かが叫んだ。
 このまま何も言わなければきっと、彼女は何も気づくことなく、私と一緒に探索者として戦ってくれるだろう。
 けれどそれはつまり、彼女の善意を、無知を利用しているだけで……結局、私を使い捨てたあいつらと同じことを、私もすることになる。

 世界がぐにゃりと歪み、私たちの身体が落葉の入口へと戻された。
 拳の中で握りしめられあ魔石が、いやに冷たく感じる。

 だめだ、言おう。
 頬の肉を噛み締め、悪魔の甘言に揺れる心を、無理やり元の世界へ呼び戻す。

「琉希……魔石が落ちないのは、私のせいかも、しれない」
「ええっ!? 何言ってるんですかフォリアちゃん!?」

 目を真ん丸にして驚愕する彼女。
 かもしれない、と言ったが、本当は九割がた確信している。
 それはさっき魔石が落ちた時点で、証拠は十分集まってしまったから。

 以前剣崎さんと話したとき、彼女は魔石が出なかった条件のうちに
『大人数で挑んだ時、何も出ないことがあった』
 そう言った。

 ダンジョンには不思議なことが多く、それもきっと何らかの条件に引っかかったのだと、私はそう思って関係ないと切り捨てた。
 だが違う。これこそが私たちの前で、魔石が落ちなかった理由。

 普通は報酬の分配や狭い通路での連携、多くの理由で大人数のパーティを組むことはない。
 だからこそ、その必要性が薄かったからこそ、そこまでこの情報は重要視されていなかったのだろう。

 経験値はどんな敵と何人で戦おうと、基本的に同じ量をパーティメンバーが貰うことが出来る。
 探索者の中では常識らしい。
 だが一体経験値とはどこから出てきて、どうやって分配されているのだろう。

 勿論詳しいことは分からない。
 だがもし、だ。
 もし私の予想がすべて当たっているのならば、経験値というものは……魔力か、それになるためのナニカじゃないのか、そう思う。

 魔石はモンスターの身体を作る魔力が集まったもの……らしい、そう本に書いてあった。
 もし『レベルアップ』と名乗るこれがその魔力の一部を吸収して、私たちの身体を強化していたとしたら……『スキル累乗』で『経験値上昇』を強化し、その上琉希の『経験値上昇』を掛け合わせ、二人分を更に吸収している私たちは、実質大人数で魔力を貪っているのと同じなのではないか。

 白銀の騎士の魔石、その魔力が少なかったのも、そして今まで魔石が落ちなかったのも当然。
 だって私たちが、すべての魔力を平らげてしまったから。
 魔石になる分まで一切を吸収してしまったのだ、何も出るわけがない。

 私はこの仮説が正解にほど近いと、予知めいた確信を抱いている。

「……そう、ですか。なるほど」

 私の拙い説明を聞き、琉希が納得したように数度頷いた。

 私たち二人がパーティを組む限り、この問題が解決することはない。
 私はできる限り早くレベルを上げたいが、彼女が探索者になった理由は学費を稼ぐため。
 ……だから嫌だった、彼女に伝えるのは。
 せっかく仲良くなったというのに、もう別れるなんて。

 どうか言わないでほしい、パーティを解散するなんて。
 情けない感情だ。たった数日しか顔を合わせていない相手に、こうも縋り付いて泣きたいというのは。
 けれどその感情を捨てることもできずに、私は彼女へ救いを求めるように、眉を歪ませて目を向けた

「パーティ、解散しましょう」
「あ……う……」

 何気なく、特に何かを気にすることもなく、彼女はその言葉を紡いだ。
 言わなければよかった。
 押し寄せる後悔が心に穴を開け、そこに住み着く醜い化け物が、私の偽善的な行為を嘲笑う。

 それは薄々気付いていて、私が心から恐れていた言葉。
 せっかく仲良くなったというのに……人というのは、こうもあっさり関係を切り捨ててしまうのだろうか……

 気が付けば口の中を強く噛んでいたらしく、じんわりと鉄の匂いが鼻をくすぐる。
 仕方のないことだ。自分をなだめすかしたいのに、押しつぶすような冷たい感情は、私を雁字搦めに押さえつけてやめることがない。

「……うん、じゃあ、ね」

 じんと熱くなった目頭を隠すように、琉希へ背を向ける。
 もう、彼女と会うこともないだろう。

 彼女と出会ったのもそもそも偶然で、本来は交わるべきでなかった人間だった、そう思おう。
 偶然絡まった紐が解けたに過ぎないのだから、何を惜しむ必要があるだろうか。
 私は……わたしは……

 どうせ元々天涯孤独の身だ。
 家族もいないし、良くしてくれたおばあちゃんももうこの世にはいない。
 偶然できたメンバーが居なくなるくらい、別に大したことでは……

「あっ、ところで来週はいつ会います?」
「……うん」
「土曜と日曜開いてるんですけど、フォリアちゃんはどっちがいいですか?」

 ……うん?
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