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第39話
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ゴブリンナイトが粗末な盾を振り回し私を牽制、奥からアーチャーが弓を射かけてくる。
が、既にそこに私はいない。
「じゃま。『ストライク』」
『ステップ』で接近していたのだが、盾によって視界が遮られていたせいで気付くのが遅かったのだろう。
最後に彼が見ていたのは、私がカリバーを振りかざす姿。
『ゴゲェッ!?』
盾ごとひしゃげ、脳天が衝撃にシェイク。
地面を舐めたその首筋を踏み潰し宙へ跳ね、こちらへ追撃を行おうと構えるアーチャーを、その弓ごと叩き潰す。
手足に跳ねたゴブリンたちの血が同時に消え、戦闘は終わった。
『合計、レベルが5上昇しました』
「……ふぅ」
第二階層の敵はゴブリンリーダー、ゴブリンナイトなどゴブゴブしている奴らばかりだった。
どれも高い俊敏に加えて、リーダーは攻撃、ナイトは耐久と割り振られており、本来強敵といえる存在ばかり。
しかし私のレベル自体加速的に上がっている今、さほど苦労する相手ではなかった。
ちょっと強くなりすぎたかな。
今までが苦戦続きだったので、こうもあっさり敵を倒してしまえるとつまらない。
特にひどいのが『累乗ストライク』で、ゴブリンナイトの堅牢な盾の上からでも容易に倒せてしまえる。
どさりとリュックを下ろし魔石を積み込もうとして……すでにパンパンに詰まっているのを思い出す。
流石にゴブリンの魔石よりアーチャーやナイトの方が高いだろうし、入りきらない分は適当に壁へ投げつける。
もったいない気もするが、ダンジョンが溶かしてくれるだろう。
というかあれだ。好奇心からダンジョン奥に進んでいたが、流石に魔石が持ちきれなくなったのなら、おとなしく帰った方がいいだろう。
微かに残ったペットボトルのお茶をぐいと飲み干し、私は踵を返した。
◇
帰ってきたらもう空が随分暗く、協会にも人が溢れていた。
地下なので時間感覚があやふやだったのだが、どうやら随分と長い時間潜っていたらしい。
どれだけのお金になるのかワクワクする。
ダルそうな顔をしているウニの前でリュックをひっくり返し、どさどさと魔石を転がしどや顔。
目を真ん丸にしてビビってるウニの顔を見るだけで笑える。
「……二十三万五千円だ」
「ん」
「ちょっと待てお前」
二十万!?
口から零れそうになった言葉を抑えこむ。
本来四人か五人で潜るのでもらえる分は減るのだが、私の場合ソロなので全取りなのもあるのだろう。
今日も稼ぎが大金だった。
内心本当に受け取っていいのか震えつつ、表面上は冷静に振舞っていたらウニに腕を掴まれる。
「姉ちゃん、ちょっと受付変わって!」
「もう、キー君協会では美羽さんでしょ!」
「悪い頼んだ! お前はちょっとこっちこい!」
「離せウニ、なにするんだ」
ぐいぐいと腕を引っ張られ、ギルドの奥へと連れていかれる。
振り払おうと腕を回したのだが、以前本人が言っていたように妙に腕力が強く、三桁レベルを達成した私ですら抵抗が出来ない。
しぶしぶついていく。
奥にいたのは筋肉、なにかパソコンをいじっている辺り協会の仕事だろう。
筋肉と電子製品、果たしてここまで合わないものがあるだろうか。
カレーにケーキを乗っけるくらいミスマッチ過ぎて、変な笑いが出てきそうになる。
「あ、剛力さん。こいつの協会預金作りたいんですけどいいですかね?」
「あん? 別に構わんが……そこまでお嬢ちゃんの稼ぎ多くないだろ」
「それがもう落葉の二階層まで潜ったっぽいんですよ。無理はすんなって昨日伝えたばっかなんですけどね」
「ほぉ……」
探索者は最初の一年で三割死ぬが、その多くはGランクの50レベルからFの100レベル辺りだ。
なぜかというとそこらで一気に相手の行動が幅広くなり、集団で押しつぶしていた探索者は歯が立たなくなるから。
この前のハリツムリだってそうだ。私がソロだからあんな戦い方できただけで、もし物理攻撃手段しかないパーティなら即壊滅していただろう。
まあ、私は勝ったんだけど。
「100レベルに一か月で到達か……まさかそこまで早く成長するとは、流石先生の……」
「先生?」
「じゃあこれ書いといてくれ」
先生とは一体何なのか、私の言葉を遮って何かを取り出す筋肉。
ポンと胸元へ押し付けられたのは一枚の書類。
裏になんかあれこれと契約だなんだと書かれているが、見ていて頭が痛くなる。
渋い顔をしていたのが分かったのだろう、横のウニが私から奪い取り概要を説明してくれた。
協会預金とは魔石を売ったりしたお金をすべて預金しておけるシステムで、税金など細々したものを全部自動で支払ってくれるらしい。
私の様に住所不定で探索者になるものは多いが、そういった人々は税金の支払いなどが適当で問題が噴出したので、国営の協会側が一括で管理するようになったとか。
探索者は一般人と比べて身体能力が飛びぬけているので、暴力に走った時の被害もデカい。
面倒事を生み出して事件が起こるよりも、多少の手間をかけて未然に防ぐほうが効率的だと、筋肉は肩をすくめた。
国もちゃっかりしているな。
事件を未然に防ぎつつ、搾れるところからはしっかりしぼっているわけだ。
まあ私は税金のあれこれなんて分からないし、勝手にやってくれるならそれほど楽なものもない。
書類に名前や性別、年齢を書き手渡すと、今度は協会のプレートを出すように言われる。
リュックの奥底から引っ張り出し渡すと、端っこに大き目な穴を開けられてしまった。
そこに何やら変な紫の宝石をつけ、血を垂らせば登録は完了だと告げられる。
紫の宝石は光に照らすと複雑な文様が見えるが、内部に複数の魔導集積回路が刻まれており、血の登録による魔力の波長を読み取って本人確認を行うことで、かつての暗証番号式よりも高度なセキュリティを……長々と説明されたがつまり、私以外には使えないクレジットカードだということだ。
便利だ、すごい。
取り敢えず言われるままに針で血を垂らし、ぼうっと宝石が光れば登録は完了。
協会がある街なら大体使える、落としたら作り直すのに金がかかるぞと脅されて話は終わった。
端っこにもう一つ穴を開けてもらい、貰った紐で首に垂らすよう指示される。子ども扱いされている気がするが、落とすのも怖いのでおとなしく従う。
ついでに登録料を十万円も毟られた。
お金がかかるなら最初に言っておいてほしい、ウニがすまん忘れてたと頭を下げる。
許す。
が、既にそこに私はいない。
「じゃま。『ストライク』」
『ステップ』で接近していたのだが、盾によって視界が遮られていたせいで気付くのが遅かったのだろう。
最後に彼が見ていたのは、私がカリバーを振りかざす姿。
『ゴゲェッ!?』
盾ごとひしゃげ、脳天が衝撃にシェイク。
地面を舐めたその首筋を踏み潰し宙へ跳ね、こちらへ追撃を行おうと構えるアーチャーを、その弓ごと叩き潰す。
手足に跳ねたゴブリンたちの血が同時に消え、戦闘は終わった。
『合計、レベルが5上昇しました』
「……ふぅ」
第二階層の敵はゴブリンリーダー、ゴブリンナイトなどゴブゴブしている奴らばかりだった。
どれも高い俊敏に加えて、リーダーは攻撃、ナイトは耐久と割り振られており、本来強敵といえる存在ばかり。
しかし私のレベル自体加速的に上がっている今、さほど苦労する相手ではなかった。
ちょっと強くなりすぎたかな。
今までが苦戦続きだったので、こうもあっさり敵を倒してしまえるとつまらない。
特にひどいのが『累乗ストライク』で、ゴブリンナイトの堅牢な盾の上からでも容易に倒せてしまえる。
どさりとリュックを下ろし魔石を積み込もうとして……すでにパンパンに詰まっているのを思い出す。
流石にゴブリンの魔石よりアーチャーやナイトの方が高いだろうし、入りきらない分は適当に壁へ投げつける。
もったいない気もするが、ダンジョンが溶かしてくれるだろう。
というかあれだ。好奇心からダンジョン奥に進んでいたが、流石に魔石が持ちきれなくなったのなら、おとなしく帰った方がいいだろう。
微かに残ったペットボトルのお茶をぐいと飲み干し、私は踵を返した。
◇
帰ってきたらもう空が随分暗く、協会にも人が溢れていた。
地下なので時間感覚があやふやだったのだが、どうやら随分と長い時間潜っていたらしい。
どれだけのお金になるのかワクワクする。
ダルそうな顔をしているウニの前でリュックをひっくり返し、どさどさと魔石を転がしどや顔。
目を真ん丸にしてビビってるウニの顔を見るだけで笑える。
「……二十三万五千円だ」
「ん」
「ちょっと待てお前」
二十万!?
口から零れそうになった言葉を抑えこむ。
本来四人か五人で潜るのでもらえる分は減るのだが、私の場合ソロなので全取りなのもあるのだろう。
今日も稼ぎが大金だった。
内心本当に受け取っていいのか震えつつ、表面上は冷静に振舞っていたらウニに腕を掴まれる。
「姉ちゃん、ちょっと受付変わって!」
「もう、キー君協会では美羽さんでしょ!」
「悪い頼んだ! お前はちょっとこっちこい!」
「離せウニ、なにするんだ」
ぐいぐいと腕を引っ張られ、ギルドの奥へと連れていかれる。
振り払おうと腕を回したのだが、以前本人が言っていたように妙に腕力が強く、三桁レベルを達成した私ですら抵抗が出来ない。
しぶしぶついていく。
奥にいたのは筋肉、なにかパソコンをいじっている辺り協会の仕事だろう。
筋肉と電子製品、果たしてここまで合わないものがあるだろうか。
カレーにケーキを乗っけるくらいミスマッチ過ぎて、変な笑いが出てきそうになる。
「あ、剛力さん。こいつの協会預金作りたいんですけどいいですかね?」
「あん? 別に構わんが……そこまでお嬢ちゃんの稼ぎ多くないだろ」
「それがもう落葉の二階層まで潜ったっぽいんですよ。無理はすんなって昨日伝えたばっかなんですけどね」
「ほぉ……」
探索者は最初の一年で三割死ぬが、その多くはGランクの50レベルからFの100レベル辺りだ。
なぜかというとそこらで一気に相手の行動が幅広くなり、集団で押しつぶしていた探索者は歯が立たなくなるから。
この前のハリツムリだってそうだ。私がソロだからあんな戦い方できただけで、もし物理攻撃手段しかないパーティなら即壊滅していただろう。
まあ、私は勝ったんだけど。
「100レベルに一か月で到達か……まさかそこまで早く成長するとは、流石先生の……」
「先生?」
「じゃあこれ書いといてくれ」
先生とは一体何なのか、私の言葉を遮って何かを取り出す筋肉。
ポンと胸元へ押し付けられたのは一枚の書類。
裏になんかあれこれと契約だなんだと書かれているが、見ていて頭が痛くなる。
渋い顔をしていたのが分かったのだろう、横のウニが私から奪い取り概要を説明してくれた。
協会預金とは魔石を売ったりしたお金をすべて預金しておけるシステムで、税金など細々したものを全部自動で支払ってくれるらしい。
私の様に住所不定で探索者になるものは多いが、そういった人々は税金の支払いなどが適当で問題が噴出したので、国営の協会側が一括で管理するようになったとか。
探索者は一般人と比べて身体能力が飛びぬけているので、暴力に走った時の被害もデカい。
面倒事を生み出して事件が起こるよりも、多少の手間をかけて未然に防ぐほうが効率的だと、筋肉は肩をすくめた。
国もちゃっかりしているな。
事件を未然に防ぎつつ、搾れるところからはしっかりしぼっているわけだ。
まあ私は税金のあれこれなんて分からないし、勝手にやってくれるならそれほど楽なものもない。
書類に名前や性別、年齢を書き手渡すと、今度は協会のプレートを出すように言われる。
リュックの奥底から引っ張り出し渡すと、端っこに大き目な穴を開けられてしまった。
そこに何やら変な紫の宝石をつけ、血を垂らせば登録は完了だと告げられる。
紫の宝石は光に照らすと複雑な文様が見えるが、内部に複数の魔導集積回路が刻まれており、血の登録による魔力の波長を読み取って本人確認を行うことで、かつての暗証番号式よりも高度なセキュリティを……長々と説明されたがつまり、私以外には使えないクレジットカードだということだ。
便利だ、すごい。
取り敢えず言われるままに針で血を垂らし、ぼうっと宝石が光れば登録は完了。
協会がある街なら大体使える、落としたら作り直すのに金がかかるぞと脅されて話は終わった。
端っこにもう一つ穴を開けてもらい、貰った紐で首に垂らすよう指示される。子ども扱いされている気がするが、落とすのも怖いのでおとなしく従う。
ついでに登録料を十万円も毟られた。
お金がかかるなら最初に言っておいてほしい、ウニがすまん忘れてたと頭を下げる。
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