『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第二百十八話

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「また貴女が関係してるんですか……?」

 琉希は額に手を当て天を仰いだ。

 ダンジョンの製作者であるという彼女の言葉は、もう疑うべくもない事実なのだろう。
 フォリアの姿を変異させてしまった事も、話を聞く限りでは故意ではない。

 正直のところ琉希には、今までの話でもうお腹いっぱいを通り越し、はち切れてしまいそうなほどであったのに、まだ何か大事そうな話が出てくるというのは勘弁してもらいたかった。
 様々な功罪があると言えど、流石にひどすぎる。

「なんでそんな目するんだ、まだ何も言ってないだろ!」

 はっと意識を取り戻す琉希。

「いやもう大体予想着きました……どうせ犯人は貴女なんですね? さっさと全部吐いてください」

 知らず知らずのうちにきつくなっていた目つきを治す様に目元をもみほぐし、手を振って彼女へ話の続きを促す。
 放置することも出来たが、流石にここまで言われて一切聞かないというのも収まりが悪い。

「……その、ソレ言ったの私だ」

 衝撃的、なはずの事実ではあるが、今の琉希にはそれを正面から受け止める気力すらなかった。

「本人は気付いていないだろうが、ちょっと事情で六年間アリアの体内に居たんだ。私が体内に居る影響で彼女の意識はかなり不安定でな、意識が沈んでいる間に私は様々な準備をしていたんだ」
「寄生虫ですか? 準備ってアリアさんの体を乗っ取る?」
「きせっ!? 違う、事故だ! 私だってこんな事したくなかった!」

 続けて語るカナリア。

 六年前、事情により再び狭間へと囚われたカナリア。
 しかし何度か・・・既に狭間から抜け出していた彼女にとって、それは面倒ではあったが手馴れてもいる事であった。

 数日かけ再びこの世界へ舞い戻るため、空間に穴をあけ飛び出すことに成功……事件はそこで起こった。

 何故かそこにいるはずのない人物たちが居たのだ。
 それが奏とアリア。フォリアの両親でもあり、カナリアと未来で出会うはずの二人。

「……いるはずのない? 未来で出会う? ちょっと何言ってるのか分かんないんですけど……」

 ここで琉希が話を遮る。

 アリアとは十八年来の友人と言っていたのに、六年前にまだ出会っていなかったというのは奇妙な話であった。

「あー……まあともかく誰もいないと思っていたんだが、飛び出した先に二人がいたんだ。色々事情が複雑なんだ」

 カナリアは胡乱な目を向け、その複雑な事情とやらを口にはせずに話を再開した。

 当時、カナリアの肉体は狭間の膨大な魔力にもまれ、完全に消滅していた。
 魔力と精神だけの不安定な状態。そんな時、漸くこじ開けた狭間の真ん前に何故か二人が居り、カナリアはアリアの肉体へ誤って飛び込んでしまい、同時に奏は狭間へと飲み込まれてしまった……

「……奏さんはどうなったんですか?」
「分からぬ。あいつもあいつで中々頭が切れる、生きてる可能性もあるだろうが……」
「そうですか……そして貴女はアリアさんの身体に、と」

 そうだ、と深く頷き、再び緑茶を呷るカナリア。

「勝手に体を乗っ取って動かすって、人間大のロイコクロリディウムとかハリガネムシじゃないですか……寄生虫……」

 そしてぼそっと吐き出された琉希の言葉に噴き出した。

「けほっ、んん! 故意じゃない! それに今はこうやってしっかり分離出来ただろ! 私もすべきことがあったから大分時間はかかったがな、ちゃんと考えてはいたんだ!」
「諸悪の根源が何ほざいてるんですか。貴女がもっと気を付けていればこんな事にはなりませんでしたよね?」
「なっ、そこまで言うことないだろ!?」

 偉そうに胸を張るカナリアの頭をはたく琉希。

 これで漸く納得がいったと頷く琉希。
 アリアは全く悪くなく、この社交性ゼロ、配慮ゼロの傍若無人エルフが全ての原因であったと。

 言われてみれば納得する話だ。
 その行動も別にフォリアを傷つけるためでも何でもなく、本当にただ邪魔だったから、ただ五月蠅かったから、素直に本音を叩きつけたのだろう。
 私の娘ではない、と言うのもまんまだ。確かにフォリアはカナリアの娘ではない、間違ったことは何一つ言っておらず、彼女に悪意や悪気というものもないのだろう。

 だが……

「言葉が足りないんですよ言葉が! もっと他人と向き合ってください、人間失格飛び越えて論外ですよ!?」
「事実なんだから仕方ないだろ! 世界が崩壊している今、たとえそれがアリアの子であろうとも構っている暇などないのだ! 正直今だって相当時間を割いているのだぞ!」
「エスパーでなければそんなこと理解できません!」
「子供にこんな事情話したところで理解できるか! それに一応家を出るとき、子供を置いていくと警察にはちゃんと電話したからな!」

 カナリアは他人への興味を一切持たない。
 それが生来の物かは定かではないが、結果として人は彼女との付き合いを避けるようになり、より他者から距離を取る生活を生み出し、一層のことカナリアの社交性は退化していった。
 群れる生き物の人間であるにもかかわらず、彼女の才能がそれを可能にしてしまった。

 そんなある日彼女の両親が死んだ。

 数少ない、カナリアをカナリアとして見る人たちだ。後は一名、幼馴染である一人の女性だけ。
 そしてのちに幼馴染にすら裏切られるのだから、この時点で彼女は天涯孤独の身になったと言っても過言ではないだろう。

 彼女は研究へ没頭した。
 心配し食事を差し出す人も、眠りこけた彼女へ布団を手渡す人も、もう誰一人として存在しない。
 或る種自分という殻に閉じこもってしまっていた、とでもいうべきか。

 これまでもうっすらと見えていた悪循環が、遂に表面化したのはこの頃だ。

「ふん……家族など下らん物に囚われているなど子供だな!」

 再び胸を張ったカナリアの顔へ、琉希の拳が突き刺さる。

「なぁ!?」
「二日です」
「おま!? ――な、なにがだ……?」

 再び文句を言おうと肩を怒らせるカナリア。
 しかし何か言ったらまた殴られると察した彼女は、抵抗せず琉希の言葉を待った。

「二日以内にフォリアちゃんを治す奴作ってください。大丈夫です、回復魔法かけ続けてあげるので、休憩も睡眠も必要ありませんよ」

 にっこりと優しい笑顔で伝えられる、悪魔のような言葉。
 カナリアの長い二日が始まった瞬間であった。
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