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第百二十八話
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「フッ、フッ……」
「よっと……」
走る、走る、走る。
風を切り、路地を横切り、炎天下だろうと休むこともなく筋肉と(勝手に後ろをつける)私は走り続けた。
学校のマラソンなんて可愛らしいものじゃない、車での出迎えを断って走ることを決めたのだから当然だ。勿論人とぶつかる危険も考慮してだろう、曲がり角等では多少減速するがここまでほぼ休みなしだった。
車なら本来通れないであろう細い道も走破できるのは探索者の強みだ、最短距離でどこへでも迎える。
勿論戦いの前に疲労することはなるべく避けたいし、大概は何らかの交通手段を使うことが多いけど、こういう緊急事態においてはその限りではない。
走り続けている途中、丁度電車用の小さな橋が掛けられたトンネルへ差し掛かった時。
「ん?」
やばっ……!
人通りの少ない道の上、目の前の小さいトンネルで音が響いたのだろう、できるだけ消していたとはいえ後ろから続く私の足音に違和感を感じたのか、彼の太い首がぐるりと捻られた。
「『アクセラレーション』」
もはや反射的な行動だった。
こちらへ完全に振り向く前に小声で『アクセラレーション』を発動し、何か隠れられるものはないか右へ、左へと視線を向ける。
草に飛び込むか? いや、草の揺れや動きで怪しまれるかも……あっ、橋でいいか。
ぴょいと軽くとび、音の出ない様に側面のはみ出たボルトへ掴みぶら下がる。
無ければ怪しまれることもなかったが、橋があったおかげで運よく姿を隠すことが出来たのは果たして幸なのか不幸なのか。
「『でせれーしょん』――ふぃ、危なかった」
「何が危なかったんだ?」
「筋肉の察しの良さでしょ。何を隠してるのか知らないけど、弟子である私には知る権利が……ちょわ!?」
いったいいつの間にそこへいたのか、橋の端に座り込んだ筋肉が私を上から見下ろしていた。
彼は頭痛が痛いといわんばかりの表情で額を抑え、何とも言えない微妙な表情のままこちらへ近寄ってくる。
ここから逃げても遅いかな。
流石にこれはもう無理だと観念して手をはなし、同じく道路に降り立った彼の下へ向かう。
「やっぱり勝手についてきてたか」
完璧に姿を隠していたというのに。
「なんで分かったの」
「お前みたいな金髪が着いてきたら嫌でも気付くだろ、カーブミラーとかでも目立ってんだよ!」
ビシッと刺された近くのカーブミラーには確かに、黒々としたアスファルトと正反対な私の金髪がよく映っていた。
そ……
「そんな……!? そんなこと気付けるわけないじゃん!」
「大体明らかに納得いってない顔で協会飛び出せばだれだって察するわ。はあ……ったく、どうしたもんか」
気付かれてしまったのなら仕方がない、ここは作戦ごり押しで行こう。
「今もモンスターに襲われてるんだから早く行こ!」
「お前が決めるなお前が」
ぴんっと額を弾かれ、しかし諦めたように目元を覆い嘆息。
私だって足手まといになるなら無理に行こうとは思わない。
しかし元々今の私のレベルなら十分に対応できるダンジョンのはずなのだ、彼が隠しているナニカに関すること以外は。
勿論単純な好奇心もあるが、それ以上に後味の悪い園崎さんの顔が張り付いて離れない。
無理に聞き出すことも出来ず、けれど放置も出来ない複雑な気持ち。
嫌だった。
知っている人が何かを諦めるのを、辛い思いをしているのが目に見えて理解しているというのに、自分自身が何もせず放置するのが。
だから知りたい。ちょっとでも、そこに何があるのかを、二人が何を知っていて隠そうとしているのかを。
「ふぉ」
突然顔に衝撃が走る。
筋肉の大きな両掌がこちらの頬をぶにりと潰し、顔を近づけながら言った。
「いいか、今から言う言葉をよく覚えておけ」
「ふぁい」
「お前と俺はこれからダンジョンに行く。崩壊したダンジョンじゃない、普通のダンジョンでお前の成長した実力を測るんだ」
「……ふぁ?」
何言ってるの……?
今から崩壊してしまったDランクダンジョンに行って、溢れたモンスターを処理するんじゃなかったのか……?
もしかして髪の毛がないので夏の強烈な直射日光に焼かれてしまい、思考回路がちょっとあれになってしまったのだろうか。
思えば彼はここまで一切の休息をなしで走って来た、疲れているのかもしれない。
私は時々『アクセラレーション』で水分補給したり、ポーションをちびちびと飲んで休息を取っている。このスキル本当に便利だ。
『アイテムボックス』から取り出したのはコンビニで買ってきた凍っているスポーツドリンク、手のひらほどのそれをタオルに包みぴたりと彼の額に当てる。
これで冷やしつつ水分補給すれば少しはましになるだろう。
「あげる、急がないといけないのは分かるけどこっちまで体調崩したらだめだよ」
「……馬鹿にしてんのか?」
良いから覚えておけ。
一応もう一回言っておく、同じ文面を繰り返したあと彼はツン、と鼻を小突いた。
『普通のダンジョンで私の実力を測る』……?
はっきり言って意味が分からない。だがどうやら彼は大真面目にそれを言っているらしいというのは、その態度や表情から読み取れた。
ふむ……これは世間一般で俗に板前だったか技前だったか、一人前とかいう奴だろうか。
確かに私の見た目はまるで小学生だ、自分で言うのは大分抵抗があるが、悲しい現実は認めざるを得ない。
それを崩壊したダンジョンへ連れて行くなど、見る人によっては確かに拒否感を掻き立てるかもしれないし、大騒ぎすることだってあり得る……のか?
彼の言った謎の言葉の根拠をあれこれと考えるが、イマイチどれもビシッとこれだ! と思えるような理由が思い当たらない。
まあ私ごときの考えでは思い当たらないような理由があるのだろう。それへ無理に鼻イルカを立てる必要もない、連れて行ってくれるのなら私は満足だ。
「りょ!」
「『りょ』はやめろ『りょ』は。どうだ、あと20分くらい走れるか」
「余裕、早くいこ」
「よっと……」
走る、走る、走る。
風を切り、路地を横切り、炎天下だろうと休むこともなく筋肉と(勝手に後ろをつける)私は走り続けた。
学校のマラソンなんて可愛らしいものじゃない、車での出迎えを断って走ることを決めたのだから当然だ。勿論人とぶつかる危険も考慮してだろう、曲がり角等では多少減速するがここまでほぼ休みなしだった。
車なら本来通れないであろう細い道も走破できるのは探索者の強みだ、最短距離でどこへでも迎える。
勿論戦いの前に疲労することはなるべく避けたいし、大概は何らかの交通手段を使うことが多いけど、こういう緊急事態においてはその限りではない。
走り続けている途中、丁度電車用の小さな橋が掛けられたトンネルへ差し掛かった時。
「ん?」
やばっ……!
人通りの少ない道の上、目の前の小さいトンネルで音が響いたのだろう、できるだけ消していたとはいえ後ろから続く私の足音に違和感を感じたのか、彼の太い首がぐるりと捻られた。
「『アクセラレーション』」
もはや反射的な行動だった。
こちらへ完全に振り向く前に小声で『アクセラレーション』を発動し、何か隠れられるものはないか右へ、左へと視線を向ける。
草に飛び込むか? いや、草の揺れや動きで怪しまれるかも……あっ、橋でいいか。
ぴょいと軽くとび、音の出ない様に側面のはみ出たボルトへ掴みぶら下がる。
無ければ怪しまれることもなかったが、橋があったおかげで運よく姿を隠すことが出来たのは果たして幸なのか不幸なのか。
「『でせれーしょん』――ふぃ、危なかった」
「何が危なかったんだ?」
「筋肉の察しの良さでしょ。何を隠してるのか知らないけど、弟子である私には知る権利が……ちょわ!?」
いったいいつの間にそこへいたのか、橋の端に座り込んだ筋肉が私を上から見下ろしていた。
彼は頭痛が痛いといわんばかりの表情で額を抑え、何とも言えない微妙な表情のままこちらへ近寄ってくる。
ここから逃げても遅いかな。
流石にこれはもう無理だと観念して手をはなし、同じく道路に降り立った彼の下へ向かう。
「やっぱり勝手についてきてたか」
完璧に姿を隠していたというのに。
「なんで分かったの」
「お前みたいな金髪が着いてきたら嫌でも気付くだろ、カーブミラーとかでも目立ってんだよ!」
ビシッと刺された近くのカーブミラーには確かに、黒々としたアスファルトと正反対な私の金髪がよく映っていた。
そ……
「そんな……!? そんなこと気付けるわけないじゃん!」
「大体明らかに納得いってない顔で協会飛び出せばだれだって察するわ。はあ……ったく、どうしたもんか」
気付かれてしまったのなら仕方がない、ここは作戦ごり押しで行こう。
「今もモンスターに襲われてるんだから早く行こ!」
「お前が決めるなお前が」
ぴんっと額を弾かれ、しかし諦めたように目元を覆い嘆息。
私だって足手まといになるなら無理に行こうとは思わない。
しかし元々今の私のレベルなら十分に対応できるダンジョンのはずなのだ、彼が隠しているナニカに関すること以外は。
勿論単純な好奇心もあるが、それ以上に後味の悪い園崎さんの顔が張り付いて離れない。
無理に聞き出すことも出来ず、けれど放置も出来ない複雑な気持ち。
嫌だった。
知っている人が何かを諦めるのを、辛い思いをしているのが目に見えて理解しているというのに、自分自身が何もせず放置するのが。
だから知りたい。ちょっとでも、そこに何があるのかを、二人が何を知っていて隠そうとしているのかを。
「ふぉ」
突然顔に衝撃が走る。
筋肉の大きな両掌がこちらの頬をぶにりと潰し、顔を近づけながら言った。
「いいか、今から言う言葉をよく覚えておけ」
「ふぁい」
「お前と俺はこれからダンジョンに行く。崩壊したダンジョンじゃない、普通のダンジョンでお前の成長した実力を測るんだ」
「……ふぁ?」
何言ってるの……?
今から崩壊してしまったDランクダンジョンに行って、溢れたモンスターを処理するんじゃなかったのか……?
もしかして髪の毛がないので夏の強烈な直射日光に焼かれてしまい、思考回路がちょっとあれになってしまったのだろうか。
思えば彼はここまで一切の休息をなしで走って来た、疲れているのかもしれない。
私は時々『アクセラレーション』で水分補給したり、ポーションをちびちびと飲んで休息を取っている。このスキル本当に便利だ。
『アイテムボックス』から取り出したのはコンビニで買ってきた凍っているスポーツドリンク、手のひらほどのそれをタオルに包みぴたりと彼の額に当てる。
これで冷やしつつ水分補給すれば少しはましになるだろう。
「あげる、急がないといけないのは分かるけどこっちまで体調崩したらだめだよ」
「……馬鹿にしてんのか?」
良いから覚えておけ。
一応もう一回言っておく、同じ文面を繰り返したあと彼はツン、と鼻を小突いた。
『普通のダンジョンで私の実力を測る』……?
はっきり言って意味が分からない。だがどうやら彼は大真面目にそれを言っているらしいというのは、その態度や表情から読み取れた。
ふむ……これは世間一般で俗に板前だったか技前だったか、一人前とかいう奴だろうか。
確かに私の見た目はまるで小学生だ、自分で言うのは大分抵抗があるが、悲しい現実は認めざるを得ない。
それを崩壊したダンジョンへ連れて行くなど、見る人によっては確かに拒否感を掻き立てるかもしれないし、大騒ぎすることだってあり得る……のか?
彼の言った謎の言葉の根拠をあれこれと考えるが、イマイチどれもビシッとこれだ! と思えるような理由が思い当たらない。
まあ私ごときの考えでは思い当たらないような理由があるのだろう。それへ無理に鼻イルカを立てる必要もない、連れて行ってくれるのなら私は満足だ。
「りょ!」
「『りょ』はやめろ『りょ』は。どうだ、あと20分くらい走れるか」
「余裕、早くいこ」
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