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第百二十話

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「『スカルクラッシュ』! ゼアアアアッ!」

 鈍く狂暴な轟音が砂と共に撒き散らされた。

「ふょえ……」

 きっつぅ……

 砂で随分衝撃は吸収されたはずだが、それでも足腰へ昇る厭らしい痺れに吐息が零れた。
 脳天へ突き抜けた衝撃に意識がくらくらとする……けれどまだ戦いは終わっていない、霞む思考の中『スキル累乗』の対象を『ストライク』へと切り替える。

 粉々に砕けたサボテン達の中にはまだ傷一つなく、こちらへ方向転換しようと成長を始める者たちも見えた。
 着地の隙をついて襲い掛かるつもりだ。

 一直線に通る縦に伸びきったカリバーは、いくつかのサボテンをバラバラに打ち砕きつつ、しかしすべてを倒しきれたわけではない。
 当たり前だ。群れなしているということは広がっているということ、細い棒でそのすべてを一度に打ち据えることは不可能。
 群れの端をちょっとばかり叩きのめしたに過ぎない。

 だがそれでいい。いや、それがいい。
 この位置なら『薙ぎ払える』のだから。

「食らえ……!」

 立ち位置とは関係なく、スキルの導きによって体は強制的に適正な動きへ補正されていく。
 踏み込んだ右足を軸にぐるりと体を振り回し、力を反発するでもなく靴底は砂へめり込み続ける……

 大きく伸ばされたカリバーは非常に重くなる。
 もちろん今の私にはそれを軽々と持ち上げる力があるが、長く重くなったカリバーによって重心がずれてしまえば私の身体が勢いに浮かんでしまい、踏ん張ることも出来ず転んでしまう。

 しかしこの砂場なら話は別だ。

 大木が縦横無尽に根っこを張り巡らせてその巨体を支えるのと同じように、砂場の奥底へ回転と共に足をめり込ませれば……私の身体が振り回されることもないっ!

「うう……どっこいしょぉ! 『ストライク』っ! むんっ!」

 豪風一閃。

 短期間で酷使された結果、ブチブチと無言の悲鳴とでもいべき何かが引きちぎれては、食らいついた獲物から魔力を貪り即座に治癒が行われていく激痛と救済の連鎖。
 私の身体が壊れようと、敵が死んでいようが生きていようが関係ない。無慈悲の横薙ぎは犇めくサボテン達をすべて抉り、潰し、叩き潰していった。



「ほ……ふ……はぁ……はぁ……」

 スキルを『経験値上昇』へもどしつつ、汗を腕で拭う。

 久々に死を感じた。 
 できる限り集団戦は避けていたが、もしかしたらここの情報がいまいちはっきりしていないのは、大都市の近くでないという以上に、このサボテンの厄介さが関係しているのか。
 掌だって摩擦だろうがひどく痛い・・・・・、もしかしたら皮むけてるかもしれん。

 目元へ垂れていた汗を拭うように指先を這わせ……ピリッと走る鋭い痛みで反射的に振り払う。
 掌にはいつの間についたのか、拳程度の大きさになったサボテンが引っ付き……うぞうぞと根を伸ばし始めていた。

 寄生……!?

 ここまで小さくなったというのに、それでも命を絶やさずこのサボテンは私の身体へ根を張り生き延びようとしているらしい。

「くそっ!」

 力づくで剥ぎ取り何度も踏み潰せば、漸く死んだようで光へとその姿を変える。
 ここでこのダンジョンで初めて・・・・・・・・・・・レベルアップの音を耳にしたことに気付く。

 そう、今ここでようやく私はレベルアップしたのだ。
 本当ならあり得ない。このレベル帯だ、今までの経験からして一体当たり1000は上がってもおかしくないはずなのに。

『最後まで気を抜くな』

 それが指し示しているのは……まだ死んでいないということ!
 はっきり言って信じられない! こんなに粉々だというのにっ! けどそれしかありえないっ!

 地面には無数のサボテンだった残骸が転がっていた。
 二メートルほどある萎びてない部分は全てぐちゃぐちゃに叩き潰されて、大きくても私の頭ほどまでの大きさに分割されている。
 当然人間なら……いや、どんな強大なモンスターであろうと、ここまで砕かれれば決して生きているわけがない、今まで出会ったモンスターは全部そうであった。

 でもこのサボテンは生きている・・・・・
 ここまで徹底的に叩き潰されても、その破片は蠢き、根を伸ばし、周りの残骸を吸収して体を再生させ、着実に私を追いかける準備を始めている。

 絶対に逃がさない、執念のモンスター。

 こんなの……こんなの……!

「不死身じゃん……!」

――――――――――――――――

種族 クリーピング・カクタス
名前 ドーナ

LV 11000
HP 16884/30667 MP 8765

――――――――――――――――

 サボテンの体力が見る見るうちに回復していく、先ほどまで三桁に手を掛けていたはずなのに。

 先ほど見たものとは別個体らしいが、後ろで次々と再生をしているのが見えるあたり、こいつらはどいつも死んでいないということ。
 再生を塞ぐには焼くか、それとも凍らすか……どちらにせよ現状では勝てない、魔法を使えない私には。

『言い忘れたことがあった』

 分かってる。

『ヤバそうだったら』
「ヤバそうだったら……逃げる!」

 ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!

 再生の終わりを見届けている暇なんてない。
 砂に飲み込まれ縺れる足を無理やりに引きずり出し、大股で必死こいて走り続けた。
 時に他のサボテンが背後の集団に加わるのも横目にしつつ、それでも走って、走って、走って……



「なんか萎びてる……?」

 ふと、サボテンとの距離がいつの間にか随分離れている事、そしてその表面がくすんで見えることに気付いた。

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