70 / 257
第七十話 と〇やのずんだ
しおりを挟む
突然訪れた意識の急浮上は、船酔いにも似た気持ち悪さがあった。
「……んあ」
よく思い出せないが、なんだか嫌な夢を見ていた気がする。
狭く暗いうろの中で最初に感じたのは、そんな微妙に思い出せない違和感。
リュックを蹴っ飛ばして蓋を外し飛び降りれば、既に星が昇ってきた太陽の光によって薄れてきた空。
少し寝過ぎたか? いや、それでも2,3時間ほどしか経ってないはず。
そう満足いく環境でも時間でもなかったが、我慢ならないほどの眠気は随分と消え、もう少しだけなら頑張ることが出来そうだ。
もしゃもしゃになった髪を軽く手で梳き、寝ているうちに垂れていた涎と涙を袖で拭う。
変な場所で寝たからだろう、少しばかり違和感のあった関節も、暫し伸ばしてやれば直ぐに元へ戻った。
軽い嘆息。
マラソンというものは疲労感しか感じないが、終わりの見えないマラソンはなおの事辛い。
正直泣きそうだ。
今すぐこの場で手足をじたばた振り回し、髪を振り乱して叫び、どうにもならない現実に狂ってしまいたい。
だってそうだろう、崩壊時のレベルなんてどれくらい上昇するか、さっぱり分からない。
どこまでレベルを上げればいいのか、どこまで準備をすればいいのか……考えれば考えるほど、どうしたらいいのか分からなくなってくる。
背後から現れた巨大な蛾。
寝起きで頭が働いていないからか、その接近に気が付くのが遅れる。
しかし休憩もなしにレベルを上げ続けた結果、あれだけ苦しめられたその針も、もはや肌に刺さることはない。
「……『ステップ』」
草葉を蹴り飛ばしてその背後に回り、引っ掛けるように伸ばしたカリバーで殴りつける。
貧弱な私の攻撃力ではあるが、レベル差が開いたのと蛾本体の装甲の薄さもあり、一撃で光へと変わった。
しかしレベルは……上がらない。
「『ステータスオープン』」
―――――――――――――――――
結城 フォリア 15歳
LV 3157
HP 3011/6232 MP 4035/15575
物攻 5709 魔攻 0
耐久 18961 俊敏 22058
知力 3157 運 1
SP 3540
スキル
スキル累乗 LV3
悪食 LV5
口下手 LV11
経験値上昇 LV4
鈍器 LV4
活人剣 LV1
ステップ LV1
アイテムボックス LV3
―――――――――――――――――
今までなら一体でレベルが上がらなくなってからも、暫くは同じ敵と戦っていた。
慣れないモンスターと苦労して戦い勝つより、慣れた方が安全だから。
けれど今は安全マージンだとか、余裕を保ってだなんて甘いことは言ってられない。
虎屋に入らなければずんだ餅は食えないのだ。
だからこそできる限りのことはしておく。
ここは当初の予定通り、『経験値上昇』をLV6へ。
そして必要SPの問題で上げてこなかった『活人剣』を、一気に10まで上げる。
消費SPは合計で、えーっと……2340となった。
活人剣を上げたのは、何も勢いではない。
今までほとんど効果を感じることのなかったこれだが、琉希との共闘、そして今回の針による細かな怪我で、回復の重要性を一段と噛み締める結果になった。
またずっと悩んでいたのだが、これ以上『スキル累乗』を上げた場合、私の身体はもう持たないだろう。
特に『スカルクラッシュ』、これを使うたびに、腕が引きちぎれるような激痛が脳天を殴りつけ、視界がくらむのだ。
もう本当に辛い。めっちゃ痛い。
けれど私は魔攻が伸びないので、『強化魔法』だとか、『回復魔法』の類は効果がないし、使うたびにポーションを飲んでいたら破産してしまう。
SP効率は恐ろしく悪いが、渋々『活人剣』を上げることにしたというわけだ。
そして次、活人剣のレベルを更に上げようとした時だった。
「5000!? ……あっ、そっか」
500とばかり思っていた必要SPであったが、突然一桁跳ね上がっていることに仰天し、すぐに納得する。
そういえばスキルは10上げる度に、次の必要SPが10倍へ増えるんだった。
スキルレベル10なんて遠い未来のことだと思っていたが、案外あっという間にたどり着いてしまったようだ。
残念ながら次の階段を上るには、またレベルを相当上げる必要がありそうだが。
レベルが上がったことで実質的には減ってしまったHPだが、活人剣LV10によって吸収量は1%から10%にまで上がった。
元が元とはいえ効率は10倍、これなら直ぐに回復できるだろう。
「……っ」
遠くから微かに見えた太陽、緋色の光線が目を突き、軽いめまいに体が震える。
宵闇は既に空を去った。
あとどれだけ余裕が残されている?
レベル上げが終わった後にもすべきことがあるし、のんびりしている暇はない。
サクサクと実をいくつか食べ、簡単に食事を終えてからカリバーを握り、リュックを背負う。
緩んできた靴紐をキュッと握れば、だいぶ頭もはっきりしてきた。
……私で、私が何とかしないと。
―――――――――――――――――――――――
今回から言い間違いは最後に解説を置いていこうかと思います。
虎屋に入らないとずんだ餅は食えない:虎穴に入らずんば虎子を得ず
意味 危険を冒さなければ大きな成功は得られない
「……んあ」
よく思い出せないが、なんだか嫌な夢を見ていた気がする。
狭く暗いうろの中で最初に感じたのは、そんな微妙に思い出せない違和感。
リュックを蹴っ飛ばして蓋を外し飛び降りれば、既に星が昇ってきた太陽の光によって薄れてきた空。
少し寝過ぎたか? いや、それでも2,3時間ほどしか経ってないはず。
そう満足いく環境でも時間でもなかったが、我慢ならないほどの眠気は随分と消え、もう少しだけなら頑張ることが出来そうだ。
もしゃもしゃになった髪を軽く手で梳き、寝ているうちに垂れていた涎と涙を袖で拭う。
変な場所で寝たからだろう、少しばかり違和感のあった関節も、暫し伸ばしてやれば直ぐに元へ戻った。
軽い嘆息。
マラソンというものは疲労感しか感じないが、終わりの見えないマラソンはなおの事辛い。
正直泣きそうだ。
今すぐこの場で手足をじたばた振り回し、髪を振り乱して叫び、どうにもならない現実に狂ってしまいたい。
だってそうだろう、崩壊時のレベルなんてどれくらい上昇するか、さっぱり分からない。
どこまでレベルを上げればいいのか、どこまで準備をすればいいのか……考えれば考えるほど、どうしたらいいのか分からなくなってくる。
背後から現れた巨大な蛾。
寝起きで頭が働いていないからか、その接近に気が付くのが遅れる。
しかし休憩もなしにレベルを上げ続けた結果、あれだけ苦しめられたその針も、もはや肌に刺さることはない。
「……『ステップ』」
草葉を蹴り飛ばしてその背後に回り、引っ掛けるように伸ばしたカリバーで殴りつける。
貧弱な私の攻撃力ではあるが、レベル差が開いたのと蛾本体の装甲の薄さもあり、一撃で光へと変わった。
しかしレベルは……上がらない。
「『ステータスオープン』」
―――――――――――――――――
結城 フォリア 15歳
LV 3157
HP 3011/6232 MP 4035/15575
物攻 5709 魔攻 0
耐久 18961 俊敏 22058
知力 3157 運 1
SP 3540
スキル
スキル累乗 LV3
悪食 LV5
口下手 LV11
経験値上昇 LV4
鈍器 LV4
活人剣 LV1
ステップ LV1
アイテムボックス LV3
―――――――――――――――――
今までなら一体でレベルが上がらなくなってからも、暫くは同じ敵と戦っていた。
慣れないモンスターと苦労して戦い勝つより、慣れた方が安全だから。
けれど今は安全マージンだとか、余裕を保ってだなんて甘いことは言ってられない。
虎屋に入らなければずんだ餅は食えないのだ。
だからこそできる限りのことはしておく。
ここは当初の予定通り、『経験値上昇』をLV6へ。
そして必要SPの問題で上げてこなかった『活人剣』を、一気に10まで上げる。
消費SPは合計で、えーっと……2340となった。
活人剣を上げたのは、何も勢いではない。
今までほとんど効果を感じることのなかったこれだが、琉希との共闘、そして今回の針による細かな怪我で、回復の重要性を一段と噛み締める結果になった。
またずっと悩んでいたのだが、これ以上『スキル累乗』を上げた場合、私の身体はもう持たないだろう。
特に『スカルクラッシュ』、これを使うたびに、腕が引きちぎれるような激痛が脳天を殴りつけ、視界がくらむのだ。
もう本当に辛い。めっちゃ痛い。
けれど私は魔攻が伸びないので、『強化魔法』だとか、『回復魔法』の類は効果がないし、使うたびにポーションを飲んでいたら破産してしまう。
SP効率は恐ろしく悪いが、渋々『活人剣』を上げることにしたというわけだ。
そして次、活人剣のレベルを更に上げようとした時だった。
「5000!? ……あっ、そっか」
500とばかり思っていた必要SPであったが、突然一桁跳ね上がっていることに仰天し、すぐに納得する。
そういえばスキルは10上げる度に、次の必要SPが10倍へ増えるんだった。
スキルレベル10なんて遠い未来のことだと思っていたが、案外あっという間にたどり着いてしまったようだ。
残念ながら次の階段を上るには、またレベルを相当上げる必要がありそうだが。
レベルが上がったことで実質的には減ってしまったHPだが、活人剣LV10によって吸収量は1%から10%にまで上がった。
元が元とはいえ効率は10倍、これなら直ぐに回復できるだろう。
「……っ」
遠くから微かに見えた太陽、緋色の光線が目を突き、軽いめまいに体が震える。
宵闇は既に空を去った。
あとどれだけ余裕が残されている?
レベル上げが終わった後にもすべきことがあるし、のんびりしている暇はない。
サクサクと実をいくつか食べ、簡単に食事を終えてからカリバーを握り、リュックを背負う。
緩んできた靴紐をキュッと握れば、だいぶ頭もはっきりしてきた。
……私で、私が何とかしないと。
―――――――――――――――――――――――
今回から言い間違いは最後に解説を置いていこうかと思います。
虎屋に入らないとずんだ餅は食えない:虎穴に入らずんば虎子を得ず
意味 危険を冒さなければ大きな成功は得られない
0
お気に入りに追加
677
あなたにおすすめの小説
結婚できない男
ムーワ
ライト文芸
モテル男の特徴として三高という言葉を聞いたことはありますか?
高学歴・高身長・高収入。
1980年代のバブル景気に女性が結婚するなら三高の男性を求めていました。
しかし、今回は低学歴・低身長・低収入の男の人生を描いた「結婚できない男」をテーマにした小説を書いてみようと思いました。
主人公のダメ男はすでに40代半ば。ダメ男は高校を中退し、フリーターとして会社を転々として過ごす。途中でこれではいけないと大検を受ける決意をするも失敗して、結局フリーターとして40代半ばまで来てしまった・・・
(ちょい変)JCと(ちょい変)母親の(ちょっと変な)日常
りんりんご
ファンタジー
ちょい変JC(娘)+ちょい変母親=ちょっと変な日常
ファンタジーだけど魔法が使えるだけで世界の形とか文明は一緒。そんな世界に生きる家族(特にJCと母親)の日常。父と弟の目にはJCと母親はどう写るのか。そんな事を描いてる小説です
白鷹の貴公子、大海を往く~豊臣秀頼冒険異聞~
氷室龍
歴史・時代
白鷹の旗印の元、船団を率いる一人の若武者がいた。
死んだはずの勇将・豪傑を率いて大海原をかけるその若武者の名は豊臣秀頼
太閤の遺児でありながら、その枠に収まることなく大伯父・織田信長が夢見た異国の地を目指し旅立った。
これはその半生と冒険の記録である。
*この物語はフィクションです。
実際の人物・事件・団体等とは一切関係ありません。
世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
最優テイマーの手抜きライフ。悪役令嬢に転生しても、追放されても、私は辺境の地でこの魔物たちと仲良く暮らします。
西東友一
ファンタジー
白川桜の好きな物は、動物と乙女ゲーム。
新作の乙女ゲームを買った帰り道、トラックに轢かれそうになったネコタンを助けたら死んでしまった。
せっかく買った乙女ゲームをやる前に死んでしまった無念の桜だったけれど、異世界に転生していた。
転生先はなんと乙女ゲーム内の悪役令嬢のサクラ・ブレンダ・ウィリアムだった。
サクラ・ブレンダ・ウィリアムは冷酷な最強テイマーだったけれど、心優しい桜は・・・
「こんな、きゃわいい子たちを、戦わせるなんて無理!!」
そんなこんなで、期待された役割を果たせない桜は王家から追放されて、のんびりスローライフを始めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる