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第四十九話 終焉の一撃

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 確かに攻撃はめり込んだ……はずだった。

 体の半分を叩き潰されながらも、しかし光に溶けることなく、堂々とその場に立つ白銀の騎士。
 ひしゃげた兜の隙間から、涙の様にでろりとスライムの身体が零れる。
 どこまで行っても体を形作ているのはスライム、たとえ頭らしきところが潰されようと、それが死に繋がることはない。

――――――――――――

種族 グレイ・グローリー
LV 1000
HP 5287/20000 MP 543/37432

――――――――――――

 まだ……生きて……っ!?

 累乗スカルクラッシュは威力も折り紙付きだが、その分衝撃も強力。
 肩も、腕も、着地の衝撃も。何もかもが全身を縛り付け、体を捻ることすら不可能。
 カリバーを叩きつけた体勢のまま、私は半分から先の折れた剣を振るそいつを、ただ見ることしかできなかった。

 無理、だったか。

「『リジェネレート』! 『金剛身』ッ!」

 横から私を突き飛ばす何か。
 身体が倒れかけの駒みたいに揺れ、一歩、二歩とそこから離れる。

 スキルの効果だろう、輝く体で半分の刃を受け止めていたのは、琉希だった。
 肩から胸にかけてバッサリと剣が食い込み、その痛みに歪む顔。
 彼女の黒髪が血に染まり、濃く、艶やかな濡烏へと変化していく。

 食い込んだ剣を抜こうと力を籠める騎士だが、彼女の肉体自体が回復魔法でゆっくりと回復し、その突きこまれた剣をぎっちりと抑えて離さない。

「『覇天七星宝剣』……ッ!」

 生み出されたいくつかの岩が騎士の身を打ち据え、壁となって二人を押さえつけていく。
 そんな状態になっても彼女の瞳は生に輝き、私の目を貫いていた。

「……フォリアちゃんっ!」

 ……やるじゃん。

 もう動かないと思っていた身体に力が漲り、不思議と足が地面を踏みしめる。

 跳躍、振りかぶり。

「はァァッ! 『スカルクラッシュ』ッ!」

 ガッ……チィッ!

 今度は鎧だけじゃない、その奥底にあったこぶし大の核すらも砕き、スライムの粘液をまき散らして騎士は力尽きた。

 限界をとうに超えた膝が崩れ、カリバーすらも適当に放り投げる。
 痛くない場所がない。
 全身血まみれ、全身打撲まみれ。もちろん私だけじゃなく、琉希だって同じだ。
 というか彼女の方がその身だけで攻撃を受けたので、猶更酷いことになってる。

「あー……もうむり……」

 白銀のそれが輝きを失い、端からゆっくりと黒ずみ光へと変わっていく。
 傍目にそれをとらえ、笑ってしまうほどだるい身体を無理やり動かして、『スキル累乗』を『経験値上昇』に戻してから倒れる。

『合計、レベルが1076上昇しました』
『専用武器、カリバーにスキルが付与されました』『条件の達成により、称号が付与されました』

 バカみたいなレベルの上昇、後なんかカリバーについたり、色々出てきた。
 しかし今はそれよりも……

「つかれた……」
「ですねー……」

 騎士が完全に消滅した直後、私たちを取り囲んでいた深紅の花が一斉に散り、風へと流されていく。 最後に残ったのは、見慣れた草原。
 どうやらダンジョンの崩壊は、完全に食い止められたらしい。

 もう何もしたくない、おなかすいた。
 けーきたべたい。
 あー……

「フォリアちゃん、後でラーメン食べに行きませんか?」
「死にかけて絞り出した言葉がそれ?」
「死にかけたからこそですよ……『ヒール』」

 彼女が搾りかすのような魔力で『ヒール』を唱えると、まったく動かす気が湧かなかった体に、ほんの少しだけ活力が戻る。

「よっこいしょ……」

 はたしてダンジョン崩壊したときの仕様が普段と同じかは分からないが、ちんたら寝ていてドロップアイテムを拾う前に叩き返されては困る。
 一体何が落ちているかは分からないが、せめて魔石くらいは拾わないとやってられない。
 体にムチ打ち立って、騎士がいた元へ足を運ぶ。
 草に埋もれていたのは、素朴な木製のペンダントと、彼が使っていた細剣、そして一つの魔石。
 ひょいと剣を拾い上げ、鑑定をかける。

――――――――――――――――――

イエニスタ王国の騎士に配給される、正式仕様の細剣
白銀の鋭い輝きは王国の敵を畏怖させ、使い手を奮励させる

物攻 +1000
俊敏 +1000 
 
――――――――――――――――――


 どこだよイエニスタ王国……聞いたことないぞ。
 まあ説明文は放っておいて、その効果は凄まじい。
 めったに流通しないのでダンジョンのドロップ武器は初めて手にしたが、ここまで強力な武器、他人が手放さないのもよくわかる。

 まあ、私にはカリバーがあるし、もっとふさわしい人間がいるだろう。

 ぽいっと琉希に投げ渡せば、彼女はしかと受け取り、しかしいぶかしんだ顔つきでこちらを見る。


「いいんですか?」
「命救われたお礼」
「やぁんフォリアちゃんがデレましたぁ! このこのぉ!」

 にこにこと笑顔を浮かべすり寄り、猛烈な勢いでこちらの頬をつついてくる琉希。

 ……うざ。

 無視して魔石、そして最後のペンダントを拾い上げる。
 随分とボロボロだし、真ん中に小さな宝石らしきものが付いている以外、全体的につくりが安っぽい。 こりゃあんまり高く売れそうにないか。

 一応どんな効果があるか分からないので『鑑定』をかけるが、あまり期待もできない。
 はあ。
 せっかくボロボロになったというのに、手に入ったのが魔石、二人で折半するとなれば猶更空しい。

「『鑑定』」

 手のひらに握ったそれへ視界を向けたその時、世界が漆黒に染まった。
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