上 下
40 / 63
幼少期編

待て待て待て待て

しおりを挟む
「ぐはっ…」

「…とこれで終わりかな…」



倒れこんだ男を見て呟く。

思ったよりも時間がかかってしまった。やはり、殺すべきだったのだろうか。そこらへんに転がっている布やらでぐるぐる巻きにしながら、そう思ってしまう。



私は一人を気絶させるたびに行動不可な状態にしていたので、手間やらなんやら色々効率が悪い。自分でも分かっているけれど、そこは私ということで諦めてほしい。





それにグロいの嫌いだし。





意外かもしれないけど、そこは苦手だ。だから基本的に私は、顎と首元に衝撃を入れて気絶させているのだ。

というか平気な人は人格破綻しているので、人間でないと私は思う。大丈夫な人なんていないんじゃないかな。



そう考えながら最後の一人を縛り終える。うん、これなら指一つ動かせない。あ、でも待って。強く縛りすぎて血流止まってる気が…よし、少し緩めよう。代わりに目にスカートの布で縛っておいて…と



「これで完璧」



男は似非ミイラみたいになった。

やることは終わったので、私の様子を呆然と見ていたおそらく紫音の者に声をかける。



「大丈夫?」

「は、はい。マリー様もご機嫌麗しゅう…」



慌てたように体勢を変える女性を手で制する。今はそんな暇などないのだ。

というか戦争中にしないでほしい。真っ先にやられるぞ。



「そういうのはいいから。回復させたら、北に向かって。そしたら廃墟があるはずだから、応援に言って欲しい」

「分かりました!」



女性が俊光のように去っていくのを見送り、グリムとの待ち合わせの場所に向かう。

家がたくさんある場所では目立つ時計台には、すでにグリムがだるそうにベンチに腰かけていた。



気配に気づいたのかこちらを見てきたので、なんとなく手を振ってみる。



「…おそ」

「ごめん。どれくらい待った?」



これは普通に私が悪いので謝罪すると、何故だか驚愕の表情をされてしまう。

なんだかムカついたので、思いっきり眉をひそめる。



「なんでそんな顔するのかな?私何かおかしかった?」

「…ええ。お前って謝るの?」

「失礼な!」



こいつ、私は謝らない人だと思ってたの!?



「私は基本ぐらいできるから!」

「俺らに対しての態度がそうは思えんわ!」



………



「…いいから早く行くよ!」

「こんの幼女が!」



吐き捨てるようにいうグリムは、私を睨むと、先ほどの比ではない速さで走り出した。しかも私が目で追えるギリギリのスピード。怒ろうにも追えるスピードなので怒れないという、とってもイライラします。



この人、私が無視したから怒ってるのかな!?大人げない!



「根に持つ男は嫌われるぞ!」

「そう思うんだったら、すこしくらい改善せい!」

「できる限り☆」

「絶対そんなつもりないよな!?」



まったく、こんな小さなことで激怒するなんて…



「器が小さいね!」



あ、待って!そんな前に行かないでえ!



***



「ぜはあぜえはあ」

「ま、所詮は幼女だな。体力も全くってところか」



うるせえ…



内心でしか言い返せないほど、私はイラつき疲労しきっていた。



あの後はずっと全力疾走。私への配慮などないグリムを追いかけて東へ西へ…真っ直ぐ進んだらいいのに、なんで右往左往したの!嫌がらせか?嫌がらせなのか!?



「…恨むぞ」

「お好きにどうぞ。俺は脅された哀れな暗殺者なので」



飄々としているこやつが憎い。



憎しみの目で睨み、視線を廃墟と聞かされた場所へ移動する。

そこは、文字通り廃墟であり、廃墟でなかった。



おそらく、元は大きな教会だったのだろう。地面に一つ突き刺さっている十字架が、その事実を伝えていた。

あとは辛うじてステンドグラスが少し、飾られていたベルの形が残っているぐらいだろうか。



しかし、無残な姿には変わりない。



天井は最早欠片もない。地面に転がっている石が壁だったのか、それとも天井だったのか。私にはわからない。

ごろごろあるので、足を引っかけないか心配になってきた。



辺りも何もない。

先程のところは跡地的な感じではあったが、まだ原型があった。いや、誰か住んでいるといわれてもギリギリ信じただろう。



だが、ここは別格だ。



あまり距離もないというのに、この差は如何なものか。それに、北へ進むにつれて、どんどん地が荒れ果ててきたのも、誰も手を入れてないからか。



だけど、何よりも目を引くのは、やはりだ。



「…ここで戦うなんて正気を疑う」



ぼそりと言い、アレにつかつかと近づいた。

そして、壊さぬようにそっと触れる。



「…きっとここは、誰かの墓場なのに」



椅子に座り込んだ、骸骨。これが廃墟でないことを表していた。



マントのように被さっている蜘蛛の巣は、どことなく気品を出している。非常に謎である。すでに亡くなっているのに。言葉もないのに。



「…これを知らなかったのかな。ううん、ここを知っていたんだから、誰かの墓というのは知ってたはず」



なのに指定するなんて…

手を放し、更に視線を奥に向ける。



戦闘の様子は見えないけれど、時折刃がぶつかる音がする。なので、まだ終わってはないのだろう。



「ここは障害物が多いからな。身をひそめるところは沢山ある。気配を消して隠れているといるんだろうな」



横に並んだグリムの意見に頷く。



ここは大人も余裕で隠れられる木々が生い茂り、プラス元教会の石。これは、暗殺者たちにとって絶好の場所だろう。



だからと言って人の死地で戦うのは、許されることではないが。



「…で、幼女」

「その呼び方どうにかなんない?」

「俺はどうすればいい?」



無視ですか。さっきまでの仕返しかな。まだ引きずるのか。

しかし、言葉の意図が分からない。どうしてそんな質問をしてきたのか。馬鹿ではないからやることなんて分かっているはずなのに。



「どうするも何もないでしょ。普通に二手に分かれてお互い応援。さっきと同じだよ」



答えると、グリムはため息をした。



「そうか。お前はミライ様の気配を察知することが出来ないのか」



いやいや。私ミライ様とやらの気配知らないし。

…ん?ちょっと待て。その言い方はまさか…



「ここにいるの!?」

「みたいだな。ミライ様直々に来るとは…これは寝返らないのが正解だったかもしれないな」



不穏な言葉に、ガッと腕を掴む。



「裏切らないよね?裏切らないよね!?」

「流石に今更引けねえって!それに、言った通りミライ様は俺らのことを人だとは思っていない。あんな待遇二度と受けたくねえ」



吐き捨てるように言ったので、相当ひどかったのだろう。これなら心配はする必要はないハズだ。



「…グリムがそういうってことはかなり強いの?」

「いや、俺はミライ様が戦う姿を見たことない。初めて動くのを見たからな」

「……」



…これは、ギーアとギィ私、そしてグリム総がかりでいかないときついかもしれないかな。



「よし、グリムついてきて」

「あ、おい!どこ行くんだ」

「双子を探しに」

「だから誰だよ!」



説明しようと口を開いたところでーー奴らが現れた。



「マリー!」

「ギーア!?」



なんか突然視界に映り、驚いて身を引く。



「ちょ、気配を消してこないでよ!」

「いいじゃん。俺らの仲なんだから」



そんなんないわ!



全力で心の中でツッコんでいると、ギーアの目がグリムに映った。



「…なんだこいつ」



警戒心丸出しのギーアに、グリムは驚いたように瞠目した。そして、何かに気付いたように手を鳴らす。



「おっ、こいつチビの癖にプロ並みの腕じゃねーか。それに…幼女、案外お前やるんだな」



小突いた。

腹を押さえて崩れ落ちたグリムを、軽蔑の目で見下ろす。



「だからその呼び方やめろって言ってるでしょ。あとやるって何が。ギーアは私の部下。…ギーア、此奴こいつについて紹介する前にギィは?一人じゃないでしょ?」

「後ろにいないかな?…あれ、本当だ。何でだろう。」



いや、私は知らんよ。自分の弟の面倒ぐらい見てくれ。

半目でギーアを見ていると、上からスタッと誰かが降りてきた。

前髪を邪魔なのか、右手で掻き上げている。どこかの俳優かと疑うような仕草をしたのは、今まさに話していたギィだ。

音も気配も全て感じなかったからか、一瞬固まってしまう。そうしている間に、ギィは私に軽く頭を下げると、ギーアに文句を言い始めた。



「兄さん、いきなり姿を消したから相手が戸惑ってたよ。せめて始末ぐらいはしようよ」

「いいだろ。あいつは他の人がやってくれる」

「…全てを自分基準で考えない方がいいよ。そこそこ強かったからね、あの…なんだっけ。名前最後に言ってたんだけど…まあ、他の人からすると互角だったから放置は良くなかった。だから面倒だけどやっといたんだよ」

「軽くか」

「軽くだね」

「「お互い様か」」



なかなかにハイレベルに思われる会話に、いつ終わるのかなーと考えていると、震えた声が横から聞こえてきた。



「…え、此奴ら頭おかしいんじゃないのか?赤竜のメンバーを一人軽くって…なんだそれ。肉体操作でもしてんのか?あ、これは前言撤回する」

「グリム、この二人が異常なだけだから。間違っても他の人は出来ないか」



本当、ギーアとギィはマジの方で別格だ。他の人と比べちゃいけない。勘違いされて、下手に戦力を求められても困る。

と、やっと会話がひと段落したらしく、ギーアがゴソゴソと何かを私に差し出した。



「マリー、これあげる」

「おい様付けどこ行った。さっきまでしてたよね…て。は?」



ギーアが取り出したものに、目が点になる。

え、待って。これって…



私が硬直していると、ご丁寧にも説明を始めてくれた。



「なんかここに来る前に貰ったんだよね。俺はいらないから、マリーが持ってて。確か持つと、一回だけ身代わりになってくれるアイテムらしいから」



ペラペラと話すギーアの説明は、右から左へと流れていく。

というのも、既にこのアイテムは私は知っているからだ。どうしてこれを持っているかは謎だが、確かに『恋音』に存在するもの。



だから思わず身を引いてしまう。



「いや、待て待て待て待て」



なんでギーアが持っているの!?



「待て何回言った?」

「そんな場合じゃないから!」

「え!?」



値段の割に効果は破格。プレイしている者はほとんど持っているアイテム。それは…







ブードゥー人形!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? 私の本当の親は国王陛下なのですが?

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢として育ってきたウィンベル・マリストル、17歳。 サンセット・メジラマ侯爵と婚約をしていたが、別の令嬢と婚約するという身勝手な理由で婚約破棄されてしまった。 だが、ウィンベルは実は国王陛下であるゼノン・ダグラスの実の娘だったのだ。 それを知らないサンセットは大変なことをしてしまったわけで。 また、彼の新たな婚約も順風満帆とはいかないようだった……。

「彼を殺して私も死ぬわ!」と叫んだ瞬間、前世を思い出しました~あれ? こんな人別にどうでも良くない? ~

雨野六月(まるめろ)
恋愛
伯爵令嬢クローディアは婚約者のアレクサンダーを熱愛していたが、彼は他の女性に夢中でクローディアを毛嫌いしており、「お前を見ていると虫唾が走る。結婚しても生涯お前を愛することはない」とクローディアに言い放つ。 絶望したクローディアは「アレク様を殺して私も死ぬわ!」と絶叫するが、その瞬間に前世の記憶が戻り、ここが前世で好きだった少女漫画の世界であること、自分が悪役令嬢クローディアであることに気が付いた。「私ったら、なんであんな屑が好きだったのかしら」 アレクサンダーへの恋心をすっかり失ったクローディアは、自らの幸せのために動き出す。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。 これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。 ※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。 ※同性愛表現があります。

地味だからいらないと婚約者を捨てた友人。だけど私と付き合いだしてから素敵な男性になると今更返せと言ってきました。ええ、返すつもりはありません

亜綺羅もも
恋愛
エリーゼ・ルンフォルムにはカリーナ・エドレインという友人がいた。 そしてカリーナには、エリック・カーマインという婚約者がいた。 カリーナはエリックが地味で根暗なのが気に入らないらしく、愚痴をこぼす毎日。 そんなある日のこと、カリーナはセシル・ボルボックスという男性を連れて来て、エリックとの婚約を解消してしまう。 落ち込むエリックであったが、エリーゼの優しさに包まれ、そして彼女に好意を抱き素敵な男性に変身していく。 カリーナは変わったエリックを見て、よりを戻してあげるなどと言い出したのだが、エリックの答えはノーだった。

好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。

豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」 「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」 「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

処理中です...