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幼少期編
二度と話しかけるな
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事前に言っておきますが、いつもの半分ほどの長さです。なので、明日も更新予定です。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…俺だって最初はこんなことしたくなかった。俺にとって愛理まりは血のつながった可愛い妹であったから。たくさん遊びたかった。だけど、俺らの親が…元親が。俺らが馴れ合うのにいい顔をしないのは知っているだろう?」
突然語りだしたことに驚きつつ、頷く。
それぐらい私でも分かっていた。まだ何もわかってなかった頃、だっただろうか。私が兄貴に遊んでもらおうとしたとき、前に立ちはだかり「一人で遊びなさい」と毎回邪魔をする。その際に何も私に渡してこないのは最高に性格がいいね!
頭の中で両親をぶっ飛ばしていると、兄貴が真面目そうな顔で切り出す。
「…じゃあ俺が愛理に歩み寄ろうとするたびに、背中を向けた愛理に向って包丁を向けていたことは知っているか?俺が、毎回止めるのも虚しく本当に刺しかけたこともことも知っているか?」
「!?」
…何、それ!?
思わず愕然とする。
知らない、そんなの知らない。いや、両親が私を目障りに思ったことから殺意を向けていて事は知っていた。
だけど本当には殺されないと、長い間生きていたからそう思っていた。
なのに、私は、殺されかけていた?
取り繕っていた仮面が剥がれかける。
どうにか驚愕の感情を無に塗り替え感情を沈める。簡単には信じない。嘘という方が高いハズのだから。
自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。
黙って聞いている私に、更に兄貴は話し続ける。
「…だから俺は徹底的に愛理を避けて蔑ろにすることで愛理を守ろうとした。
…いや、考えろ私。こんなの嘘に決まっているじゃないか。そうだ、言い訳をしているだけだ。そうに決まっている。
「…それを私が信じるとでも?」
動揺した精神を一瞬で立て直す。
私の返答に兄貴は顔を歪め、乾いた笑いになって手で顔を覆った。
「そうだよな。信じられるわけないよな。抉られたような古傷をつけた相手の言う事なんて信じれるわけない」
知ったような言葉に一瞬激高しかける。
ふざけるな、お前に何が分かる。私の苦しみをどうしたら理解できる。
それを堪えたのは、きっと兄貴もその経験があるということを思い出したから。
中学時代のいじめ。私は実際に見たことはないが、自殺するほど苦しかったんだろうなと予想する。
境遇は全く違うが、死ぬほど苦しいというのは同じだったのだろう。声から、その時の感情がにじみ出ている。
…多分、兄貴が言ったことが真実なのだろう。
私に信じろと言わず、むしろ自嘲気味に話している。それも、私に自分を重ねて。
重ねるなんて許せない。だけど、その苦しみが少しでも分かってしまうから。
だから本当のことを言っていると分かった。分かってしまった。
「…なんでそのことを言ってくれなかったの!?その事実なら、あの時話せばよかったじゃん!」
嘘だ。
一生知らなかったら私は、ずっと兄貴を恨むことができた。
いつまでも恨んでいる自分をみじめに思うこともなかった。
全ては私を守るためだったなんて、許すしかないじゃないか。
私がそういった途端、兄貴が固まった。
なんか気まずそうな雰囲気もある。
…え、まだあるの何か?
「あー…うん俺は最初は嫌だったと言ったよな?」
「そうだね」
まさか途中から本当に見下していたのか?
私の思いが顔に出ていたのか、兄貴は慌てて高速で首を振りだした。首、もげそう。そのまま息の根が止まればいいのに。
「いや、そういうわけではないんだ」
じゃあどういう訳よ。
無言で続きを促すと、兄貴の表情が覚悟で染まった。もう私には何を言うのか想像もできない。
「今日こそはいう。俺はな…」
ごくりと息をのむ。
何を言うのか。一言も聞き逃さまいと
「俺は、愛理の泣き顔を見るのが好きになっていたんだ!」
……ええええええ
庭に響き渡った声に、私は半目になってドン引きした。
ひゅおおおと冷たい風が私たちの間に吹き、静寂が場を包んだ。
「…ま、愛理?」
いや、泣き顔を見るのが好きだなんてどんな変態だよ。
しかも結局は己の欲望に従っていたということだよね?
…もういいや。これ以上話すことはないだろう。
心なしか冷えた身体を反転させ、出口へと歩き出す。
「ま、まて愛理!もう少し話しーー」
ぴたりと足をとめる。
少し嬉しそうな空気が背後に感じた。
振り返る。兄貴の表情が固まる。私、冷たい顔。
「二度と話しかけてくるな変態クソ野郎」
冷ややかな私の声がやけに響き、兄貴が膝から崩れ落ちた。
やはりこの兄貴は一生許せん。
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「…俺だって最初はこんなことしたくなかった。俺にとって愛理まりは血のつながった可愛い妹であったから。たくさん遊びたかった。だけど、俺らの親が…元親が。俺らが馴れ合うのにいい顔をしないのは知っているだろう?」
突然語りだしたことに驚きつつ、頷く。
それぐらい私でも分かっていた。まだ何もわかってなかった頃、だっただろうか。私が兄貴に遊んでもらおうとしたとき、前に立ちはだかり「一人で遊びなさい」と毎回邪魔をする。その際に何も私に渡してこないのは最高に性格がいいね!
頭の中で両親をぶっ飛ばしていると、兄貴が真面目そうな顔で切り出す。
「…じゃあ俺が愛理に歩み寄ろうとするたびに、背中を向けた愛理に向って包丁を向けていたことは知っているか?俺が、毎回止めるのも虚しく本当に刺しかけたこともことも知っているか?」
「!?」
…何、それ!?
思わず愕然とする。
知らない、そんなの知らない。いや、両親が私を目障りに思ったことから殺意を向けていて事は知っていた。
だけど本当には殺されないと、長い間生きていたからそう思っていた。
なのに、私は、殺されかけていた?
取り繕っていた仮面が剥がれかける。
どうにか驚愕の感情を無に塗り替え感情を沈める。簡単には信じない。嘘という方が高いハズのだから。
自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。
黙って聞いている私に、更に兄貴は話し続ける。
「…だから俺は徹底的に愛理を避けて蔑ろにすることで愛理を守ろうとした。
…いや、考えろ私。こんなの嘘に決まっているじゃないか。そうだ、言い訳をしているだけだ。そうに決まっている。
「…それを私が信じるとでも?」
動揺した精神を一瞬で立て直す。
私の返答に兄貴は顔を歪め、乾いた笑いになって手で顔を覆った。
「そうだよな。信じられるわけないよな。抉られたような古傷をつけた相手の言う事なんて信じれるわけない」
知ったような言葉に一瞬激高しかける。
ふざけるな、お前に何が分かる。私の苦しみをどうしたら理解できる。
それを堪えたのは、きっと兄貴もその経験があるということを思い出したから。
中学時代のいじめ。私は実際に見たことはないが、自殺するほど苦しかったんだろうなと予想する。
境遇は全く違うが、死ぬほど苦しいというのは同じだったのだろう。声から、その時の感情がにじみ出ている。
…多分、兄貴が言ったことが真実なのだろう。
私に信じろと言わず、むしろ自嘲気味に話している。それも、私に自分を重ねて。
重ねるなんて許せない。だけど、その苦しみが少しでも分かってしまうから。
だから本当のことを言っていると分かった。分かってしまった。
「…なんでそのことを言ってくれなかったの!?その事実なら、あの時話せばよかったじゃん!」
嘘だ。
一生知らなかったら私は、ずっと兄貴を恨むことができた。
いつまでも恨んでいる自分をみじめに思うこともなかった。
全ては私を守るためだったなんて、許すしかないじゃないか。
私がそういった途端、兄貴が固まった。
なんか気まずそうな雰囲気もある。
…え、まだあるの何か?
「あー…うん俺は最初は嫌だったと言ったよな?」
「そうだね」
まさか途中から本当に見下していたのか?
私の思いが顔に出ていたのか、兄貴は慌てて高速で首を振りだした。首、もげそう。そのまま息の根が止まればいいのに。
「いや、そういうわけではないんだ」
じゃあどういう訳よ。
無言で続きを促すと、兄貴の表情が覚悟で染まった。もう私には何を言うのか想像もできない。
「今日こそはいう。俺はな…」
ごくりと息をのむ。
何を言うのか。一言も聞き逃さまいと
「俺は、愛理の泣き顔を見るのが好きになっていたんだ!」
……ええええええ
庭に響き渡った声に、私は半目になってドン引きした。
ひゅおおおと冷たい風が私たちの間に吹き、静寂が場を包んだ。
「…ま、愛理?」
いや、泣き顔を見るのが好きだなんてどんな変態だよ。
しかも結局は己の欲望に従っていたということだよね?
…もういいや。これ以上話すことはないだろう。
心なしか冷えた身体を反転させ、出口へと歩き出す。
「ま、まて愛理!もう少し話しーー」
ぴたりと足をとめる。
少し嬉しそうな空気が背後に感じた。
振り返る。兄貴の表情が固まる。私、冷たい顔。
「二度と話しかけてくるな変態クソ野郎」
冷ややかな私の声がやけに響き、兄貴が膝から崩れ落ちた。
やはりこの兄貴は一生許せん。
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