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幼少期編
ライトボール、ライトシャイニング、ライトブレイク、ライトアロー!
しおりを挟む窓から飛び出していったクロスを見送り、ベットにもう一度沈む。
「……」
全然寝れない。子供なのに。疲れてるはずなのに。
あれかな、目が覚めたのかな。
諦めきれず、ゴロゴロ寝返りを打つのだが、先ほど私が直接指示を出したクロスの顔がどうしても出てくる。
「…ふぅ」
あの時のクロスの表情はなんか申し訳なるなあ。
私がお願い言う名の命令を出したとき、クロスの顔は分かりやすく引き攣った。なんか『何を言われているのか分からない』っていう心の声が聞こえてきた。
それもそうだろう。まるで死ねと言っているようなものだから。
竜王はキレやすく絶対に関わってはいけないといわれている。つまり、触らぬ神に祟りなしということだ。
普段ならこんな危険なことを頼むなど、絶対にしない。大事な部下を失わないためにも自分の足で行くだろう。
だけど、私はこれ以上危険な場所に自分から行かないとリアナと約束した訳で。そんな訳でクロスに任せた。
もしも噂が本当なのだとしたらかなりのやらかしだが…大丈夫だと信じたい。私は知りません。シルフが会ってあげてと言ったから会いに行こうとしているだけなのだから。
「まあもしもの時のために、あと一人つけるか」
誰にするなど考えるまでもない。ギーアだ。あいつなら悔しいが能力は高いので偵察だけなら大丈夫だろう。
「さて、そろそろ五時になりますが…起きようかな」
思い出したら少し残っていた眠気が飛んで行ってしまった。昼間眠くなるだろうけど…多分平気だ。気合で乗り切ってみせよう。
「よし、折角だから攻撃系の魔法の練習でもしよう」
ばっと立ち上がり、適当に着替える。ドレスは着るのが難しいのでちょっと苦労をしつつ、どうにか自力で着ることに成功した。
「この世界の服面倒だよ…」
愚痴を言いつつ、部屋から出る。電気は付いていた。
何でだろうと思ったが、すぐに答えに行きついた。
「そっか。料理人たちは朝早くから仕込むんだっけ」
後で見に行こうかな。この世界の料理とか気になるし。おそらく洋食多数だろうけど。運営オリジナルの料理とか作ってなさそうだし。
「それはともかく魔法の練習しよ」
くるりと体を反転させ中庭へと駆け出した。その後ろ姿を見ている人がいるのに気づかなかったのは私の今日最大の失態だ。
***
「うーん。そもそも光属性で攻撃の技知らないんだよね」
私はかなり行き詰っていた。理由はあまり魔法を知らないためだ。
書庫に行ってもそもそも光自体が珍しいがために、魔法の記載がほぼなかった。
私が覚えた【ヒール】【ハイヒール】は、神官と呼ばれる回復術師が使うから書いてあったのだ。それ以外は何も書いていなかった。
ちなみに神官は怪我人を治せるが、病気を治すことはできないので、そのために医師が存在していたりする。ややこし事だ。
また神官は魔力とは別に神力と呼ばれる特別な力を持つ人が多いらしい。これは回復の能力に特化した魔力的なものらしいが、実際にはよくわかっていないのだとか。
神を信仰したらできるのだとか、生まれつきだとか色々な説がある。
あとは戦争に駆り出されたり…とにかくにも、回復魔法についてしか書かれていなかった。攻撃魔法を知りたいのに。
「光線でもあったらかっこいいのに…」
なんかザ、魔法!敵なのを撃ちたい。これは地球人全員の夢だ。
「イメージが大事、イメージが大事…」
ふむ。なんかそれっぽいのでも言ってみるか?
でも私あんま知らないからなー。ゲームなんて友達だったひとから借りたのだけだし。というかこの乙女ゲームだけだし。
「英語を基にした技名が多かったけど…あんまり覚えてないし」
光線はレーザーだったはずだけど…
「試すのは危険だよね」
成功したらここ一体が焼けるわ。
「なら、私が知っている限りの魔法っぽいのを闇雲に叫んでみようかな。ええと、光はライトだから…こういうのならあるかな」
せーの…
「【光球】【発光】【光の制裁】【|光弓《ライトアロー】】ーーー!」
一気に言い切ったため息切れを起こし、ぜーはーと息を吐く。
これだけ言ったんだから一つぐらいなにか出てるかな?
ふうと深呼吸を一つして、顔を上げる。
………
「……なんじゃこれ」
庭が滅茶苦茶になってた。うん、例の如く比喩じゃないよ。
まず、地面が私を中心にクレーター状になってる。あと、所々ガラスに変化している。え、誰か光線でも放ちました?もしかして明後日の方向から飛んできたのかな?
そして、植えてあった花壇は花の部分だけ取れてる。何があった。
あとは…もう無理。現実見たくない。
「え?え?どうし…え?」
いや、待て待て待て。何が起こった。私何もしては…いやしたけど、実際にある魔法は一つだと思うし、そもそものイメージしてなかったし。だから何も変化ないと思ってたんだけど。
「はあ?」
また口から疑問が出る。だけど答えをくれて人がいた。私にとって最悪な人が。
「いや、何自分知りませんっていうような声出してんだ。愛梨…マリーが撃ったんだろう」
「!?」
兄貴!?
一番聞きたくない、顔も合わせたくない相手。けれど絶対に間違うことは無い声。
見たくない。聞きたくない。だけど見て見ぬふり聞かなかったことにするのは逃げるようで。
咄嗟に距離を取るように振りむきながら真後ろ…つまり前方に飛ぶ。
すると、自らの予想が当たったことが確認できた。
十分に取れた視界には、私を男にしたような容姿の男、兄貴。
「…なんの用できた?いや、その前に何でここにいるの」
自然と目が鋭くなり、語気が強くなる。
何に驚いたのかは分からないが、兄貴は瞠目し目じりを下げた。
「…いや、マリに謝ろうと――」
――!?
「…なんの御託を言うのかと思ったらあの時と同じセリフですか、そうですか!?どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのでしょうかね!?いいから早くどっか行ってくれませんか!?」
気が付いたら叫んでた。
一瞬で激高した私に、兄貴は苦しげな表情になった。そして、私たちは誰が聞いているのとか考える余裕がなくなった。
人目も気にせず、自身らの思いをぶちまけていく。
「違う!謝罪もそうだが、誤解があったんだ!」
「そうなんですね!誤解があったのならあの時に話せばよかったんじゃないですか!」
「それは俺の心が弱かったから話せなかった!今日は覚悟を決めた!今度こそ俺の気持ちを話そうと!」
「心が弱くて話せなかった!?そんなの結果論でしょ!どうせろくでもない言い訳のくせに!」
負けじと言い返し、とにかく視界から兄貴を追い出したくて穴を詰める。
――私の世界に来るな。私は私の世界を守りたいんだ!
「あの地獄に放り込んだ人なんて見たくもない!」
私の最大の気持ちをぶつけ、はぁはぁを荒い呼吸を繰り返す。
大声でほぼ息継ぎせずだったから、酸素が足りないのだろう。頭がくらくらする。
しかし、何故か兄貴からの反論が来ない。
じっと顔を俯けてじっとしている。
微塵も動かないし、いつの間にか太陽の位置も高くなっている。そろそろ屋敷の中に戻るか。
足を踏み出し、真っ直ぐ来た道を戻る。
…そういえば私紫音を飼ったのはいいけど給料とかどうしよう。誰も言いに来ないけど、そこの問題を
「仕方なかったんだ!」
「!?」
兄貴の横をすれ違う時、突然轟いた声。
驚いて振り返る。
仕方なかった。その意味は、私にはまったく見当もつかなかったから。
こんな奴の言葉は聞く必要がない。
前世の暗い過去の自分が叫ぶ。
だけど、もしも。もしもあの時の言葉が本当だとしたら?
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だけどいなくなった途端に残るのは、幼い私で。何もが中途半端で終わると自覚している、人間の出来損ないの私で。
歩みは自然と止まっていた。
「…俺はお前を守りたかったんだ」
兄貴の表情は、さっきみたときと変わらず、苦し気に歪んでいた。
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