上 下
29 / 63
幼少期編

光の女王

しおりを挟む
「は?」



突如として響いた声。この場にいる誰のものでもない澄んだ声は、私の記憶にはない。

だが…リンク?は知っているようだった。



『えっ?こ、この…え?』

『うーむ?妾と同じ光の精霊の気配がするのお。今顔を見せるからちょっと待つのじゃ』

「「……」」



全然ついていけていない私たち。ルイが絶句してるよ。

しかもこの声の口調「のじゃ」系だ。リアルで言ってる人がいる。どんな人物だ。



多分状況把握ができているのはリンクだけだ。なんだか相手を知っているよう。声に焦りがある。

と思っていたら、私の上に何かが乗った。

目を動かしてみるが何も見えない。一体何なんだ。



『ふう。具現化するのも疲れるのう。魔力も溢れそうじゃし。リンク、だったかのう?少し魔力を渡すからこっちに来てくれたもう』

『わ、分かりました』



素行の悪かったリンクが敬語だ。本当、どんな人物なんだろう。



「…ルイには女の人の人の声の姿分かる?」

「いいや。精霊が一人いるのは分かるのだけれど、相変わらず視認は出来ないね。本当はマリーにお願いして見せてほしいのだけど…本人も分かってないからなぁ」



それ以前にさー



「いやそもそも私に精霊なんていないよ」

「え、嘘だ」

「本当だって」



疑わないでよ。そもそも私精霊自体見たことない。

私たちが困惑していると、信じられないような会話が聞こえてきた。



『リンクよ、妾はこの者と契約を結ぶこととした。故にこうして姿を隠しつつ魔力を消費しておる。お主の姿が見えんかったのも妾がマリーベルに、ほかの精霊が見えないようにしていたからなのじゃ』

『そういう事でしたか。ところで女王様、護衛は?』

『さて、そろそろ姿を見せようとするかの』

『女王様!?さらっと無視しないでくださいよ!』



ぎゃんぎゃんと騒いでいるのがきっとリンクだろう。そして女王様と呼ばれたのが女の人なのだろう。えっと、順番に整理しよう。まずはこの者と契約を結ぶことにした。…え?





この者と契約を結ぶことにした?



誰と?私と?





ええええええええ?



「えええええええ?」

「マリー、心の声思いっ切り出てる。大丈夫、理解が追い付いていないのはマリーだけじゃないから安心して」



ちょっと安心した。

更に一周回って頭が冷静になった気がする。



「…ええと、女王様がいるのかな?」

「みたいだね」

「契約を結びたい人がいるんだね」

「らしいね」

「誰に?」

「マリーに」

「夢かな」



夢だといいな



「現実だよ」



知ってた



「…はあああ」



ちょっと遠くを見て、現実逃避でもしてみた。異世界って普通の人間には厳しいですよね。



「マリー、なんか現れたよ」



少しの間も現実から目を逸らすことは許されないらしい。いつの間にか頭上の羽が乗っているようなか感覚はなくなっていた。



「なんかってなに」



そういいながら視線を戻す。だけどやはり何もなくて。

なんでやねんと思っていると、ちょいちょいと裾を引っ張られた。引き攣った表情のルイが私の真後ろを指している。これだけでなんか良からぬことというのは分かった。

嫌な予感がしつつ、振り返る。



「何がいるの――」



私の言葉は途中で止まった。

視線は一つに固定されている。その私を釘付けにしている人物は、流れるような動作でお辞儀をした。



『初めまして、でいいかのう?妾はクリスティーナ。光属性を司る精霊の長と言っておこう。人間は光の女王と呼ぶのだったか。そこで提案なのじゃが、妾と契約を結ばないか?魔法の補助も、魔力の譲渡もしようじゃないか。ほれ、どうする?』

「……」



私は絶句していた。なぜかって?





その人物が妖精だったから。





比喩ではない。



掌に乗っかるぐらいの小さな体。そして背中から生えている半透明に輝く羽。一般的な妖精…ピクシーの特徴によくあてはまる。

まさに空想上にしかない存在が目の前にいた。



一目見ただけでわかるその美貌は、サイズと照らし合わせるとお人形のよう。どことなく幼さを感じられるのが口調とのギャップを際立てていた。

髪は金髪で黄金の瞳が宝石のように輝いている。



だけど、人を威圧する覇気があった。

真っ赤な唇の描く不敵な笑みが。声に乗せられている重々しさが。すべてが彼女の雰囲気を作り出していた。



…って!いかんいかん。思わず見惚れてしまった。この妖精…いや、正確には精霊って言ってたかな?だからピクシーの性格やらなんやらあてはまらないのだろう。

それは置いといて、精霊は魔性も備わっているんじゃなかろうか。



ファンタジーが目の前で起こっている。いや、これに関しては何回も見たから今更そこまで驚かない。だって魔法あるし。私自身使ったし。



それよりも光の女王って言わなかった?言ったね?

あと、私と契約を結びたい?魔法の補助と魔力譲渡?



「…待って、さっきから衝撃すぎて私の脳が追い付いてない」



ルイを見ると同じようにポカーンとしてる。



「ええと、クリスティーナさんは私と契約を結びたいのですか?」

『むっ、呼び捨てで構わん。むしろティーナと呼んでくれてもかまわない。敬語もいらんぞ。妾とお主の仲ではないか』



仲もくそもないよ。どんな勘違い野郎ですか。



何て言えない。だって相手は女王だし。逆らえない存在だよ。



「身に余る光栄」

『堅い』



この女王理解してる?

取りあえずは呼んでみるか。



「…クリスティーナ」



なんか無言の圧がやってきた。「ティーナって呼べ」と言われている気がする。私の気のせい…じゃないですね、はい。分かったから。分かったからそんな泣きそうな顔をしないで!?

だけど構わないって言ったのに強制は良くないと思う。



「…じゃあ、ティーナ」



キラキラと顔が輝いたような気がする。そんなに嬉しいらしい。



「これでいい?」



聞くと、ティーナは満足げに頷いた。



『うむ。では、本題に入ろうか。お主の魔力は長い年月を生きている妾でも驚くほどきれいじゃ。そこを見込んで、妾と精霊契約を交わさないか?」



どこを見込んでだよ。私の魔力が綺麗ってそれを言ったら多分全員綺麗だと思う。



…つまらないツッコミはここまでにしよう。多分、口ぶりから察するに私が同意しないと、契約がされないように思える。



女王だけど



そして、この契約にはメリットしかないんじゃないのだろうか。デメリットは一つも思い浮かばない。私が無知なのかもしれないが。知識がないから、下手に動くことが出来ないなぁ…



「うーん…」

『迷うところがあるのか?女王直々の加護と契約を交わせるのは初めてなんじゃよ?』



要するに「選ばれたんだからありがたく受け取りなさいよ!」てきな脅しかな。



「でも、デメリットがあるかもしれないし…」

「ああ、それについては問題ない」

「!?」



突然ルイが割り込んできた。しかもその肩にはティーナと同じようなようせ…ゲフン、精霊が乗っかていた。

ティーナと同じ金髪金眼。ちょっと癖のあるけどかっこよく決められている髪の持ち主の彼。こちらもまたはっとするほどの美少年だ。

ひょっとして…



「彼がリンク?」

「もしかして見えた?」



コクリとうなずく。



「…どういうことだ?さっきまでは全然だったのに…」

『当然妾がマリーベルにかけていた魔法を解いたに決まっているだろう』



若干あきれたような声が上から降り注ぐ。また私の頭に乗っかったらしい。

と、今まで静観を貫いていたリオンが「ほお」と声を漏らした。



「これは凄いな。魔力を一切放出していない」



ちょっと何言っているかわからない。



だけど分からなかったのは私だけの様だ。ルイは「そういえば」と呟いているし、言われた本人のティーナは息をのんでいる。唯一批判的な反応をしたのはリンクだけ。警戒丸出しの目でリオンを見ている。



『お主、魔力を見ることが出来るのか?』

「一応は」

『誠か!?この時代にも魔眼を有する者がいるとは…奇才の持ち主か』



初めてティーナが驚いた声を出した。私も同じように驚愕の表情になる。



魔力を見ることが出来る。それは、文字通り見えない魔力の流れ、また人の持つオーラを見ることが出来る。

しかし、ティーナが驚いたように魔力を見ることが出来るのは、極僅か。それこそ人口の一%にも満たないほど。



そして、その人らは魔眼持ちと呼ばれ、貴族でなくても魔法が使えるらしい。



リオンが魔法を使えたのは魔眼持ちだったからだろう。あの時言わなかったのは面倒ごとを避けるため、だと思う。

稀少なものほど奪い合いが起き、普通に人身売買がある世なのだから言わないのは当然と言えば当然だ。



転生してすぐの私が知っているぐらい、こいつは貴重な人物だったのだ。



「…貴方のこと初めて尊敬した」

「…変なもの食べてませんよね?」



こいつ失礼だな。私を敬う気本気で無いだろう。だけどこれが聞こえたのは私だけらしい。悲しいかな。

少しいじけていると、ふよふよとリンクがやってきた。



可愛いって思ってしまうのは失礼かな?



『嬢ちゃん、俺のことが見えるようになったか…っていだ!』



いきなり頭を押さえたと思ったら、一体いつ移動したというのかティーナが腰に手を当ててリンクを睨んでいた。



『馬鹿者!妾の契約者となるのだから敬語を使え!』

「いやまだ決まってないよ!?」



私が思わずツッコむと、ティーナが固まった。



『…契約、してくれんのか』



蚊の鳴くような声。プラス美少女?美女?の上目遣い。うっ、と怯んだ。

こんなにかわいい子に迫られて「ノー」といえる人がいるだろうか。いいや、いない。皆さん、幼女の涙には弱いですよね?あれと同じですよ。



つまり私に拒否権などない!



私は微笑みを作ってティーナの頭を撫でた。



「…勿論、契約者になるよ」



あはは、泣きたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレの姫は獣人王子様に愛されたい 〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜

五珠 izumi
恋愛
獣人の国『マフガルド』の王子様と、人の国のお姫様の物語。  長年続いた争いは、人の国『リフテス』の降伏で幕を閉じた。 リフテス王国第七王女であるエリザベートは、降伏の証としてマフガルド第三王子シリルの元へ嫁ぐことになる。 「顔を上げろ」  冷たい声で話すその人は、獣人国の王子様。 漆黒の長い尻尾をバサバサと床に打ち付け、不愉快さを隠す事なく、鋭い眼差しを私に向けている。 「姫、お前と結婚はするが、俺がお前に触れる事はない」 困ります! 私は何としてもあなたの子を生まなければならないのですっ! 訳があり、どうしても獣人の子供が欲しい人の姫と素直になれない獣人王子の甘い(?)ラブストーリーです。 *魔法、獣人、何でもありな世界です。   *獣人は、基本、人の姿とあまり変わりません。獣耳や尻尾、牙、角、羽根がある程度です。 *シリアスな場面があります。 *タイトルを少しだけ変更しました。

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

処理中です...