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幼少期編

光の女王

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「は?」



突如として響いた声。この場にいる誰のものでもない澄んだ声は、私の記憶にはない。

だが…リンク?は知っているようだった。



『えっ?こ、この…え?』

『うーむ?妾と同じ光の精霊の気配がするのお。今顔を見せるからちょっと待つのじゃ』

「「……」」



全然ついていけていない私たち。ルイが絶句してるよ。

しかもこの声の口調「のじゃ」系だ。リアルで言ってる人がいる。どんな人物だ。



多分状況把握ができているのはリンクだけだ。なんだか相手を知っているよう。声に焦りがある。

と思っていたら、私の上に何かが乗った。

目を動かしてみるが何も見えない。一体何なんだ。



『ふう。具現化するのも疲れるのう。魔力も溢れそうじゃし。リンク、だったかのう?少し魔力を渡すからこっちに来てくれたもう』

『わ、分かりました』



素行の悪かったリンクが敬語だ。本当、どんな人物なんだろう。



「…ルイには女の人の人の声の姿分かる?」

「いいや。精霊が一人いるのは分かるのだけれど、相変わらず視認は出来ないね。本当はマリーにお願いして見せてほしいのだけど…本人も分かってないからなぁ」



それ以前にさー



「いやそもそも私に精霊なんていないよ」

「え、嘘だ」

「本当だって」



疑わないでよ。そもそも私精霊自体見たことない。

私たちが困惑していると、信じられないような会話が聞こえてきた。



『リンクよ、妾はこの者と契約を結ぶこととした。故にこうして姿を隠しつつ魔力を消費しておる。お主の姿が見えんかったのも妾がマリーベルに、ほかの精霊が見えないようにしていたからなのじゃ』

『そういう事でしたか。ところで女王様、護衛は?』

『さて、そろそろ姿を見せようとするかの』

『女王様!?さらっと無視しないでくださいよ!』



ぎゃんぎゃんと騒いでいるのがきっとリンクだろう。そして女王様と呼ばれたのが女の人なのだろう。えっと、順番に整理しよう。まずはこの者と契約を結ぶことにした。…え?





この者と契約を結ぶことにした?



誰と?私と?





ええええええええ?



「えええええええ?」

「マリー、心の声思いっ切り出てる。大丈夫、理解が追い付いていないのはマリーだけじゃないから安心して」



ちょっと安心した。

更に一周回って頭が冷静になった気がする。



「…ええと、女王様がいるのかな?」

「みたいだね」

「契約を結びたい人がいるんだね」

「らしいね」

「誰に?」

「マリーに」

「夢かな」



夢だといいな



「現実だよ」



知ってた



「…はあああ」



ちょっと遠くを見て、現実逃避でもしてみた。異世界って普通の人間には厳しいですよね。



「マリー、なんか現れたよ」



少しの間も現実から目を逸らすことは許されないらしい。いつの間にか頭上の羽が乗っているようなか感覚はなくなっていた。



「なんかってなに」



そういいながら視線を戻す。だけどやはり何もなくて。

なんでやねんと思っていると、ちょいちょいと裾を引っ張られた。引き攣った表情のルイが私の真後ろを指している。これだけでなんか良からぬことというのは分かった。

嫌な予感がしつつ、振り返る。



「何がいるの――」



私の言葉は途中で止まった。

視線は一つに固定されている。その私を釘付けにしている人物は、流れるような動作でお辞儀をした。



『初めまして、でいいかのう?妾はクリスティーナ。光属性を司る精霊の長と言っておこう。人間は光の女王と呼ぶのだったか。そこで提案なのじゃが、妾と契約を結ばないか?魔法の補助も、魔力の譲渡もしようじゃないか。ほれ、どうする?』

「……」



私は絶句していた。なぜかって?





その人物が妖精だったから。





比喩ではない。



掌に乗っかるぐらいの小さな体。そして背中から生えている半透明に輝く羽。一般的な妖精…ピクシーの特徴によくあてはまる。

まさに空想上にしかない存在が目の前にいた。



一目見ただけでわかるその美貌は、サイズと照らし合わせるとお人形のよう。どことなく幼さを感じられるのが口調とのギャップを際立てていた。

髪は金髪で黄金の瞳が宝石のように輝いている。



だけど、人を威圧する覇気があった。

真っ赤な唇の描く不敵な笑みが。声に乗せられている重々しさが。すべてが彼女の雰囲気を作り出していた。



…って!いかんいかん。思わず見惚れてしまった。この妖精…いや、正確には精霊って言ってたかな?だからピクシーの性格やらなんやらあてはまらないのだろう。

それは置いといて、精霊は魔性も備わっているんじゃなかろうか。



ファンタジーが目の前で起こっている。いや、これに関しては何回も見たから今更そこまで驚かない。だって魔法あるし。私自身使ったし。



それよりも光の女王って言わなかった?言ったね?

あと、私と契約を結びたい?魔法の補助と魔力譲渡?



「…待って、さっきから衝撃すぎて私の脳が追い付いてない」



ルイを見ると同じようにポカーンとしてる。



「ええと、クリスティーナさんは私と契約を結びたいのですか?」

『むっ、呼び捨てで構わん。むしろティーナと呼んでくれてもかまわない。敬語もいらんぞ。妾とお主の仲ではないか』



仲もくそもないよ。どんな勘違い野郎ですか。



何て言えない。だって相手は女王だし。逆らえない存在だよ。



「身に余る光栄」

『堅い』



この女王理解してる?

取りあえずは呼んでみるか。



「…クリスティーナ」



なんか無言の圧がやってきた。「ティーナって呼べ」と言われている気がする。私の気のせい…じゃないですね、はい。分かったから。分かったからそんな泣きそうな顔をしないで!?

だけど構わないって言ったのに強制は良くないと思う。



「…じゃあ、ティーナ」



キラキラと顔が輝いたような気がする。そんなに嬉しいらしい。



「これでいい?」



聞くと、ティーナは満足げに頷いた。



『うむ。では、本題に入ろうか。お主の魔力は長い年月を生きている妾でも驚くほどきれいじゃ。そこを見込んで、妾と精霊契約を交わさないか?」



どこを見込んでだよ。私の魔力が綺麗ってそれを言ったら多分全員綺麗だと思う。



…つまらないツッコミはここまでにしよう。多分、口ぶりから察するに私が同意しないと、契約がされないように思える。



女王だけど



そして、この契約にはメリットしかないんじゃないのだろうか。デメリットは一つも思い浮かばない。私が無知なのかもしれないが。知識がないから、下手に動くことが出来ないなぁ…



「うーん…」

『迷うところがあるのか?女王直々の加護と契約を交わせるのは初めてなんじゃよ?』



要するに「選ばれたんだからありがたく受け取りなさいよ!」てきな脅しかな。



「でも、デメリットがあるかもしれないし…」

「ああ、それについては問題ない」

「!?」



突然ルイが割り込んできた。しかもその肩にはティーナと同じようなようせ…ゲフン、精霊が乗っかていた。

ティーナと同じ金髪金眼。ちょっと癖のあるけどかっこよく決められている髪の持ち主の彼。こちらもまたはっとするほどの美少年だ。

ひょっとして…



「彼がリンク?」

「もしかして見えた?」



コクリとうなずく。



「…どういうことだ?さっきまでは全然だったのに…」

『当然妾がマリーベルにかけていた魔法を解いたに決まっているだろう』



若干あきれたような声が上から降り注ぐ。また私の頭に乗っかったらしい。

と、今まで静観を貫いていたリオンが「ほお」と声を漏らした。



「これは凄いな。魔力を一切放出していない」



ちょっと何言っているかわからない。



だけど分からなかったのは私だけの様だ。ルイは「そういえば」と呟いているし、言われた本人のティーナは息をのんでいる。唯一批判的な反応をしたのはリンクだけ。警戒丸出しの目でリオンを見ている。



『お主、魔力を見ることが出来るのか?』

「一応は」

『誠か!?この時代にも魔眼を有する者がいるとは…奇才の持ち主か』



初めてティーナが驚いた声を出した。私も同じように驚愕の表情になる。



魔力を見ることが出来る。それは、文字通り見えない魔力の流れ、また人の持つオーラを見ることが出来る。

しかし、ティーナが驚いたように魔力を見ることが出来るのは、極僅か。それこそ人口の一%にも満たないほど。



そして、その人らは魔眼持ちと呼ばれ、貴族でなくても魔法が使えるらしい。



リオンが魔法を使えたのは魔眼持ちだったからだろう。あの時言わなかったのは面倒ごとを避けるため、だと思う。

稀少なものほど奪い合いが起き、普通に人身売買がある世なのだから言わないのは当然と言えば当然だ。



転生してすぐの私が知っているぐらい、こいつは貴重な人物だったのだ。



「…貴方のこと初めて尊敬した」

「…変なもの食べてませんよね?」



こいつ失礼だな。私を敬う気本気で無いだろう。だけどこれが聞こえたのは私だけらしい。悲しいかな。

少しいじけていると、ふよふよとリンクがやってきた。



可愛いって思ってしまうのは失礼かな?



『嬢ちゃん、俺のことが見えるようになったか…っていだ!』



いきなり頭を押さえたと思ったら、一体いつ移動したというのかティーナが腰に手を当ててリンクを睨んでいた。



『馬鹿者!妾の契約者となるのだから敬語を使え!』

「いやまだ決まってないよ!?」



私が思わずツッコむと、ティーナが固まった。



『…契約、してくれんのか』



蚊の鳴くような声。プラス美少女?美女?の上目遣い。うっ、と怯んだ。

こんなにかわいい子に迫られて「ノー」といえる人がいるだろうか。いいや、いない。皆さん、幼女の涙には弱いですよね?あれと同じですよ。



つまり私に拒否権などない!



私は微笑みを作ってティーナの頭を撫でた。



「…勿論、契約者になるよ」



あはは、泣きたい。
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