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幼少期編

執着の理由

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「マリーベル様?」



リオンの声で我にかえる。今考えても答えなど出るわけがない。取り敢えずは頭の中に留めておくことにしよう。



「ごめん。…ルイはなんで私と思ったのか知ってる?」

「特に知らないね。気になるなら本人に聞いたら?」

「それもそうだ。…と話をすれば」



チラッと横に見えた影。そして、何故か光が漏れている。人外のように思えるあの現象は、間違いなくルイだ。多分、私を探しているのだろう。うろうろとしている気配がする。

…仕方ないから出ていってやるか。



「ちょっと可哀想だから行ってくる」

「それ本人の前で言わないで」



基本的にリオンのツッコミは無視だ。



「……ルイ」



声をかけると、物理的に光っているルイが振り返った。いつ見ても眩しいですね。思わず目を細めてしまう。

と思っていたら、抱きしめられた。

間違っても頰を染める事はない。慣れたっていうのもあるけど、そうなった瞬間絶対惚れたと勘違いされる。本当、こいつなんなん。



「愛しいマリー。探してたよ。聞きたいことがあったから」



この人は会うたび愛を囁かないと死んじゃうのかな?



「それより解放して欲しいのですが。」



進言したら、腰に手を当てた状態で向き直ることとなった。お互い精神老けてますね。ルイなんか転生者じゃないのにしっかりしてる。変な愛を除いて。あっちの王が許可を出しただけあるんだな。変な人だけど。



「で、聞きたいこととは?」

「そうだったね。つい昨日面白いことがあっただろう?この国の病人怪我人が完治した現象」

「はぁ…」

「マリーの仕業だろう?」



リオン、君の言う通りルイは疑っていたよ。しかもほぼ確信で。

思わず遠い目になってしまう。



「…いえ、私のわけがないでしょう。ただの小娘が国の規模の魔法を使えるなんてあるわけがないでしょう?」

「だけどマリーは光魔法の使い手だよね?」



………うん?



「…何故そう思いに」



思わず声が硬くなってしまう。私も昨日知った事実をなぜルイが知っているのか。無意識に目が鋭くなり、元々ツリ目のだから、とても凶悪にな顔になっていると思う。

だがルイは臆した様子もなく、ニコニコ笑っている。



「マリーは覚えてないかい?私たちが初めて会った時のこと」

「いえ、昨日ですよね?」

「違うよ?去年だよ。」



ほんっとうに分からないんだが。

そんな考えが顔に出ていたのか、苦笑しながらルイは説明をしてくれた。



「去年の国創立一千年の大規模なパーティ。そこに私たちも招待されてね。その時会ったんだよ」

「全くもって記憶にないのですが」



本音を伝えると、頰をつねられた。痛い。



「まだ話は終わってないよ。…私は一人で歩いていたら恥ずかしながら庭園で転んでしまってね。膝を擦りむいてしまったんだ。」

「はぁ…」



それが何に繋がるんだろう。

終わらない昔話に適当に相槌を打っていたが、ふとどこかで聞いたことがある話だと思い出す。

そして、その答えは最悪な現実だった。



「そしたら誰かが現れたんだ。令嬢だった。見たらすぐ高位な貴族だって分かったよ。そ蹲っている私を見てなんていったと思う?」

「な、何でしょうか?」



私はいつしか引き攣った笑顔になっていた。そうだ、思い出した。記憶が戻る一年前、私も参加したその会場。そして、同じように少年が痛そうだったので話しかけたんだ。



「『大丈夫?』って。傷口に手を当てようとしたから驚いて突き放してしまったよ。当時…というか数週間前までは色々あったから誰も信頼出来なくてね。だけど、その令嬢は無理やり傷を見せろと迫ってきたんだよ。もう、令嬢とは思えない行動だった」



くすくすと漏れる思い出し笑いの声に、じわじわと不安がせりあがる。



「…笑ってないで先を話してくれません?」



侵食してくる感情のままに、ルイを急かす。聞くのも怖いけど、真実を知らない方が怖いと思うから。



「その顔は思い出してきたのかな?そうだよ。令嬢は傷に手を当てると、『いたいのいたいのとんでいけ』って言った。何の呪文かは分からないけど、あったという間に擦り傷は治ったよ」



私を指差す。

嘘だ。



「…それがマリー、貴方だよ。」



嘘だと誰か言ってくれぇぇぇ!



私は心の中で絶叫した。まさかそんな時に【回復魔法】が使えたとは。というか前世も思い出していなかったのに発動したんなんて。しかも相手が心に闇を抱えていたルイってどんな奇跡だよ!

キラッキラな笑顔も真実を知った今、黒く見えてしまう。



「まあ、その後は分かると思うけど必死に令嬢の中から探し出して、マリーを見つけた。後は公爵に相談。色々な手を使ってどうにか婚約まで持ってくる事に成功した。まさか再会するまで一年かかるとは思わなかったけどね」

「だから今回も私の仕業だと思いで?」

「うん。光属性の人がそうポンポンいないしね」



居るんだよな、ヒロインが。ポンポンとはいないけど意外と世界は狭いんだよな。



「ル、ルイ。光属性のは他の人だって…」

「それに、貴方が魔法を使っているところ見てたし」

「それを先に言ってくれないかな!?」



必死に言い訳をしていた自分が恥ずかしいわ!



「…マリーの素の口調かな?それは」

「あ。」



思わず口元を押さえた。

テンションが上がるとどうしても口調が戻ってしまう。どうにかしたい。

って現実逃避で考えるのは終わりにして。



「…あの、怒ってません?」

「何に?」

「私が敬語を使わなかった事とか…令嬢あるまじき口調とか…」

「別にそれがマリーなら良いんじゃない?私の前くらい楽にしてて良いよ。」

「…ならお言葉に甘えて。」



なんだこの王太子。意外と話が通じるじゃないか。

私は笑顔の仮面を外した。一気に無表情になる。



「……これでも良いですか?無駄に表情作るの疲れるので」

「敬語もなくて良いよ。」

「それ立場的に大丈夫!?」

「婚約者だから。」



そうだった。それでも敬語はあった方がいいと思うけど…うん、その目は遠慮するなという名の脅しですね。



「…なら、全て取らせてもらうね。だけど、私はルイが思っている程純粋じゃないから」



一応忠告はしておく。取り敢えず、ルイが私に執着する理由の一端が分かった。

それは優しさだ。そして、子供特有の綺麗な心。この少年は闇を抱えていたところに慈悲を貰って、無垢な少女に惚れたんだ。

だけど転生した私はこの手で人を殺した“愛梨”の人格だ。



「平気だよ。私だってそうだから」

「そっか」



いや、絶対に君は純粋だよ。

だけど否定するの面倒。さらっと流す。



「これで聞きたいことは聞けたよ。それじゃあもう少し一緒にいたいけど行くね。この後少し所用があるから」



そう言うと私の返事も待たずに駆け出してしまった。余程時間が押しているんだろう。ならなんで私を探してたんだ。



でもやっぱり名残惜しそうに何度も振り返っているのは、嬉しく思える。愛されていると実感できるから。多分こういうのを姫扱いというのだろう。



だけど…



「…全てを知ったら、きっと幻滅するのでしょうね。」



私は自虐するように呟く。自分よりずっと眩しい少年の背中を見ながら。



…あ、いや。物理的じゃないよ!?
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