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EXTRA STAGE1

第39話 居場所を守るということ

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         ※



「……バカが」

 離れていてもあいつの魔力は感じている。
 だから、ロロが地球方面に転移したこともわかってしまった。

「恋たちを人質に取るつもりか」

 あの悪魔王は何も理解していない。
 いや、自身の復讐心が強すぎて周囲が見えていないのだろう。
 俺がチャンスを与えようとしていたことに。
 そして、その機会はもう二度と与えられることはない。

「俺の大切な者に手を出すなら――容赦するつもりはない」

 ロロの終わりを始めよう。



          ※



 俺は地球へ転移して、ゲートが開いた場所へと戻ってきた。

「遅かったじゃないか」

 勝ち誇るような笑みを浮かべているのはロロだ。
 こいつが恋たちを人質に、ここに転移するのは容易に想像が付いた。

「先輩!?」
「詩音……」

 そして案の定――詩音が人質に取られている。

「巡、こいつが突然現れて、詩音を……」

 言ったのは恋だ。
 彼女は戦闘態勢となり長嶺と楠木を守るように立っていた。

「この男は悪魔王ロロだ」
「悪魔王って、ハルケニア大陸でファルガが言っていた、あの……?」
「なんでそんなのと知り合ってるのかわからないんだけど……」

 長嶺や楠木がさらに警戒心を強める。
 だが、もう大丈夫だ。

「詩音、安心しろ。直ぐに助ける」
「助ける? おいおい、この子は僕の腕の中にいるんだよ? どうやって助けるっていうんだい? それよりも、僕と契約を結ぶなら――彼女たちは生かしておいてあげ――」
「必要ない。お前はもう何もできない」
「何を言って――んっ!?」

 どうやらロロは、やっと気付いたらしい。

「……詩音、大丈夫か?」
「は、はい……」

 既に俺はロロから詩音を救出していた。

「いつの間に……!?」
「時を止めた。その間に俺は詩音を助けた」
「時を……馬鹿な!? 僕に時間制御の魔法は通用しないはずじゃ――」
「お前が解除することが不可能なレベルの力で、魔力を使用しただけの話だ」
「そんな!? ……なら、僕が最初に時止めを解除できたのは……!?」
「大した魔力を込めてなかったからな。あの程度なら……魔力を持っている者が一億年も訓練を積めば誰でもできる」
「一億……」

 俺の言葉にロロはただ唖然としていた。
 信じらないのかもしれないが事実だった。

「ロロ――お前はやっちゃならないことをした」

 俺は詩音をその場に下ろした。
 そして一歩一歩、ロロに歩み寄る。
 その度に悪魔王は強く身震いする。
 だがロロは、その場から一歩も動けずにいた。

「久しぶりだな。誰かを殴るのは――ふっ!」

 魔力を載せた拳を振るう。
 下から上に振り上げるアッパーが、ロロの顎を穿った。
 そして――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
 空の彼方へロロがぶっ飛ぶ。
 それはくしゃみの時とは比べ物にならない大気圏を超えて宇宙にすら届いただろう。
 だがこれで終わりではない。

「ちょっと行ってくる」

 俺は転移をして再び宇宙に戻った。
 そして地球から吹っ飛んでくるロロを待って――

「おお、きたきた」

 再びぶん殴った。

「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 猛烈な勢いで地球へ吹き飛ぶ。
 そして俺は再び地球に転移して宇宙から飛来するロロを待ち、

「おお、きたきた」

 またぶん殴った。
 地球、宇宙、地球、宇宙をしばらく繰り返すと……ロロはもう気絶寸前になっていた。
「も、もう……ゆる、ちて……いっしょう、はむかい、ません……」
「お前はチャンスを自分で捨てた。一生、反省を続けろ」

 パン――俺は手の平を重ねた。
 するとブラックホールが生まれる。

「ぇ……」
「お前の為に作り出した牢獄だ。後悔を続けろ。それがお前に与える罰だ」
「嫌だ……イヤだああああああああああああああああああああああああっ!?」

 ロロは逃れようない闇の牢獄に呑み込まれ消え去った。
 消滅させるだけなら一瞬。
 だが、恋たちを狙った罰を与えるならこのくらいはすべきだろう。

『メグル、お前は優しいな』
『なぜだ?』
『あの牢獄――悪魔王があと10億年も訓練を積めば破壊できるものだろ?』

 アルは、またチャンスを与えたと思っているらしい。
 だがそれはロロに伝えたことではない。
 今のあいつならきっと――牢獄を破壊する発想など生まれず、何もせぬまま無限の時を過ごすだけだろう。

『だがなメグル……お前、失敗したぞ』
『どういう意味だ?』
『本来なら魔法の存在しない地球圏で大きな力を使い過ぎた。……そのせいで、エネルギーの調和が完全に狂ったようだ』
『それは、つまり……』
『地球は崩壊する』
『淡々と言ってくれるなっ!?』

 思わず語調が強くなる。
 同時に宇宙の崩壊が始まった。
 宇宙空間の至るところに大穴が開き、莫大な魔力を放出していく。
 溢れ出て保有できなくなったエネルギーが行き場を失ったように。
 エネルギーの調和が乱れるというのはこういうことか。
 これを放っておけばエネルギーはどこまでも増大して、全てを呑み込み尽くすだろう。
『どうにかするのだろ?』

 地球は俺の帰る場所だ。
 崩壊させるわけにはいかない。
 まだ妹にも――森羅にも再開できていない。
 だから――

「アル――力を貸してもらうぞ?」
「全く。最高神に対して傲岸な男よ――だが、よかろう。エネルギーの乱れが想定よりも大きい。全宇宙規模で崩壊を招きかねんからな」
「なら――こいアルティム」

 俺が最高神の名を口にした瞬間――俺の目前に赤き大剣が現れた。
 あまりにも神々しい大剣は最高神アルティムの真の姿。
 俺は大剣の柄を掴み高く掲げる。

「宇宙に溢れる出たエネルギー全てを相殺する」
「よかろう――我(おれ)を使うことを許す」

 調和を崩壊させるエネルギーと同等の出力の魔力を解放する。
 俺とアルの力を合わせればこの程度は雑作もない。
 俺たちは最強無敵のタッグなのだから。

「受けろ――」

 掲げていた大剣を振り下ろした瞬間――解放した魔力が放たれた。
 それは大宇宙に存在する全てを呑み込み、創造しても余るほどの力だった。
 宇宙が放出していたエネルギーと、俺とアルが放った莫大な魔力がぶつかり合う。
 調整をミスれば崩壊を防ぐことは叶わず、俺たちの力が宇宙を崩壊に導いてしまう。
 だが――俺とアルならそんなミスは犯さない。

「終わりだ」

 魔力の放出を終えた瞬間――魔力の波動が宇宙全体を包み込んだ。
 開いていた大穴は最初からなかったもののように消えて、全てのエネルギーが相殺されていた。

「……アル、異常は?」
「ない。我(おれ)が力を貸したのだからな。一応、管理局の女神が全宇宙、全惑星の詳細を確認している。それと……我(おれ)たちが力を解放する際には、必ず連絡を入れろと嘆いているな」

 色々と準備があるのかもしれない。
 だが、力の調整は完璧だった。

「はぁ……疲れた」
「我(おれ)が力を貸したのだから、疲弊は当然だろう」

 宇宙を漂いながら地球を見る。

「本当に青いんだな」

 今更……という話ではあるのだけど、それでも俺の知る地球がここにある。
 自分と、みんなの居場所を守れたことを今は少しだけ誇りに思うことにした。
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