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STAGE2

第26話 長嶺の使命

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 食事を終えた頃――

『……女神からの報告だ』
『仕事が早いな』
『当然だ。我(おれ)を待たせるだけで万死に値する行いだぞ?』

 なるほど。
 最高神であるアルに言われれば、彼女たちも本気にならざるを得ないのだろう。
 神という立場であっても上下関係に縛られているのは、人と同じというのは面白い。

『それで長嶺の使命に関して何かわかったのか?』
『使命に関しては間違いなく伝えられているらしい。が……このハルケニア大陸の神が行方をくらませているらしい』
『は?』

 思わず素の反応が出てしまった。
 だが、天界の神々がいなくなるなんてことがあるか?

『仕事が退屈で遊びに出掛けただけならいいが……何らかのトラブルに巻き込まれた可能性もあるな』
『仕事を放り出して遊びになんてあり得るのか?』
『なくはない……と、言ったところだ。世界を管理すると言っても、基本的に神が何か手を下すということはないのだ。そして目に止まるような変化がなければ、ふと世界を見渡すことに飽きることもあるだろう』
『そんな堕落した神、いる意味あるのか?』

 正直、今の話を聞く限りでは少なくともハルケニア大陸の神は何もしていないように感じる。

『ある。神は人に干渉しない。だが、他の神や悪魔からの干渉には対抗する』
『どういうことだ?』
『邪神ファルガの名が出た際に言っただろ? 上位神以上であれば地上の出来事に干渉することはない。だが――下位の神々は違う』
『つまりこの世界を管理していた神は、邪神ファルガから何らかの干渉を受けて姿を消したと?』
『その可能性はあるだろうな。自身の遊び場を増やそうと挑んでくることがある。敗者は世界を明け渡すことになり神としての力を奪われることになる。勝った神は世界の新たな管理者となり、神としての地位と力が向上する』

 それだけ聞くと、下位の神々は人に近い感性を持っているように思う。
 富や名誉、地位、力を求め争いを繰り返す。

『なら、ファルガは下剋上しようってのか?』
『もし神の不在がファルガによるものなら、そういった野心を抱えている可能性はあるだろう。下位の神は不思議なほど名誉や権力といった些事に拘るからな』

 アルの話を聞いているとふと疑問が湧く。
 世界を管理しながら、人々の生きざまを眺めていると、神にも人間らしさが芽生えるのだろうか?

『反旗を翻す神がいるのなら、お前は最高神として何か行動を起こすのか?』
『必要ない。下位の神がどれだけ力を得ようと、我(おれ)にとっては些事に過ぎぬ。そもそも反旗を翻そうという発想すらない』
『なぜだ? 野心を持っている可能性があるんだろ?』
『下位の神々は我(おれ)の存在すら知らぬからだ。存在を知らぬ相手にどう挑める?』

 同じ神でも最高神であるアルと、それ以外では圧倒的な差があるのは間違いない。
 極端な話ではあるが、全ての神々が一斉に反逆してきたとしても、この最高神が相手では――戦いにすらならないだろう。

『人どころか、他の神々が何をしていようと、所詮は些事というわけか』
『もしも我(おれ)を脅かせる者がいるなら、それは友であるお前だけだ。最高神に匹敵する力を持つ者が現れた――それは至上の喜びにも勝る』

 アルの声が楽しそうに弾む。
 この超常者が唯一興味を持っているのは俺だけということか。

『話が逸れたが、使命を伝えることが出来なかったのは神が不在だった為だ』
『長嶺に与えられた使命の確認はできたのか?』
『既に済ませてある。神がこの転移者に与えるはずだった使命は――この世界の支配を目論む悪魔ファルガの討伐だ』
『うん? ファルガ?』

 思わずその名を聞き返していた。
 邪神ではなく、悪魔としても同じ名を持つ存在がこの世界にいる。

『そう――これが果たして偶然だと思うか?』
『明らかに何かあると考えるべきだろうな』

 どちらにしても次の行動は決まった。

「長嶺、お前の使命がわかった」
「――えっ!? もうわかったの!?」

 俺が唐突に切り出すと、長嶺が目を見開いた。
 どうやって調べたのかについて詳細を伝えていないので、驚くのも無理はない。

「そ、それで内容は?」
「悪魔ファルガの討伐だそうだ」
「ファルガ……? って、あの山賊が言ってた邪神と同じだよね?」
「ああ、それが間違いなく手掛かりになると思う」
「なら、あいつから何か聞き出せないかな?」
「俺も同じことを考えてた」

 あの男は間違いなくファルガと繋がりがある。
 手掛かりが直ぐそこにあるのなら、あとは行動を起こすのみだろう。

「じゃあ衛兵さんのところに行ってみる?」
「ああ!」

 言って俺たちは席を立った。
 休憩は終わりだ。
 あとはファルガの情報を手に入れ、居場所がわかるようならサクッとぶっ倒す。

「あ、お客様、お支払いを――」
「そうだった。これで頼む」
「え……っ!? こ、これって……!?」
「足りないか? ならこっちの装飾品も受け取ってくれ」
「はっ!?」

 俺が差し出したのは、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド――そして、指輪やネックレス、ペンダントやイヤリングも追加で渡した。
 宝石は勿論だが、これらの装身具は多くの世界で共通して人気があり、貴族たちに高値で取引されている。

「違います! しょ、食事代だけで、こんなに受け取れません!」
「あ~そっちか。なら問題ないから受け取ってくれ。――それじゃ」
「お、お客様、ちょ、ちょっと、待ってください! これを売ったら、家が何軒も建っちゃうような金額に――」

 支払いに問題はなさそうだったので、俺はそのまま長嶺の手を取り店を出たのだった。


         ※


 ちなみにこの日――異国の王侯貴族が酒場に来たという噂が流れる。
 それは当然、巡たちのことを言っているのだが、それは彼らの知らぬ話である。
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