11 / 42
第11話 竜胆に似合うは服を探していたら
しおりを挟む
※
店内で服を物色すること一時間。
竜胆はずっとうきうきそわそわしていた。
今の彼女の様子は、まるで誕生日プレゼントを待つ子供のようで、俺の目から見ても微笑ましさすらある。
だからだろうか?
ちゃんと、喜ばせてあげたいと思えた。
「彼氏くんからのプレゼントなのかな?」
「きっとそうでしょ? 彼女、すごく嬉しそうだもん」
「初デート思い出すなぁ……なんだかさ、こっちまできゅんってしちゃうよね」
店員たちの会話が聞こえた。
待て待て。
なんで勝手に彼氏にしてるんだ。
そもそも俺と竜胆では、どう考えても釣り合いが取れてないだろ。
「どっちもティーン向け雑誌のモデルさんかな?
美少年と美少女でお似合いのカップルだよね」
「ちょっと雑誌確認してみよっか」
店員の皆さん、おめめ大丈夫!?
俺の顔をちゃんと見ろ!
どこがモデルなんだ?
どこが美少年なんだ!
月とスッポン、美女と野獣……いや、そのたとえすらも上品すぎる。
この店はあれか!? お客を褒めるサービス付きか!?
それで財布の紐を緩めさせようとしているのだとしたら恐ろしい。
「……」
内心で突っ込みながらも、俺は服選びに集中した。
こうして探していると思うのは……スタイルのいい竜胆なら、どの服でも似合うだろうってこと。
だからこそ……余計に悩む。
これならいっそ――。
「……決めた。
竜胆、これなんてどうだ?」
俺は選んだ服を竜胆に手渡した。
「この服……皆友くんがあたしに似合うと思ってくれたんだ」
竜胆は服のデザインをチェックしながら、そんなことを口にする。
だが、それはちょっと違う。
「どの服を着ても似合うと思った」
「そ、そう……」
正直に伝える。
するとそれだけで、純情少女のようにぽっと頬が染まる。
「でも、それじゃどうしてこの服なの?」
勿論、適当に選んだわけじゃない。
ちゃんと理由はある。
だが、それを口にするのは少し照れくさいのだが……言わなければ、流石に納得してくれないだろう。
「……俺が着てほしいと思ったから」
「――!?」
声にならない叫びと共に、竜胆の身体が大きく揺れる。
ボッと煙でも噴くような勢いで、顔……いや、全身に熱が駆け巡っていくのが見て取れた。
「そう……なんだ。
皆友くん、これ着てほしいんだ」
「まぁ、その……なんだ……こ、好みで選んだのは、事実だ……」
「なら……今、着ちゃおうかな。
デート、皆友くんが選んでくれた服で、したいし……」
竜胆に言われて、俺はその姿を想像してしまった。
それはあまりにも可愛くて……考えるだけで赤面してしまう。
「ダメ……かな?」
「……ダメじゃない……が」
「なら試着してくるね。
それで皆友くんのイメージと合ってるか確かめてよ。
店員さん、試着いいですか?」
「はーい
こちらをお使いください」
俺たちの様子を見守っていた店員さんが、待っていましたとばかりに試着室の前まで案内してくれた。
そして直ぐにこの場を去っていく。
「じゃあ着替えてくるから待って――」
「あ、店員さん、すみませ~ん。
試着したいんですけど~」
竜胆の声を上書きするように、女の子の声が店内に響いた。
視界が自然とその声音の方に動いていく。
すると、目付きがキツい女の子の姿が目に入った。
声の主は彼女だろう。
合わせて数人の女子生徒と、男子グループの姿も確認できた。
同じ学校の友人同士で服を買いに来たのかもしれない。
が、全く知らない子だったので直ぐに興味は失せ……かけたのだが、
「うん?」
そのグループの中に見覚えのある男たちの姿が混ざっていた。
あれは以前、竜胆にちょっかいを出していた奴らだ。
「竜胆、あれ――」
「――!!」
「ぇ――」
竜胆が唐突に俺の手を引いた。
一体、なんのつもりなのか?
俺たちは今――狭い試着室の中にいる。
そして、ぎゅ――と、竜胆に抱き締められた。
あまりにも当然のことに、俺は言葉を失ってしまう。
一体、どうしたのだろうか?
「……りんど――」
「っ――」
名前を呼ぼうとすると、竜胆の腕に力が入った。
俺の胸に強く顔をうずめる。
同時に気付く。
彼女の身体がガタガタと震えていたことに。
その様子はまるで何かに恐怖しているようで――。
(……そうか。あいつらか)
ここで彼らに遭遇することは竜胆にとって予想外だったのだろう。
同時にあの時の出来事が、彼女にとって大きなトラウマになっていることがわかった。
「竜胆、大丈夫だ。
あいつらはお前に何もできないやしない」
「……っ」
震える竜胆の身体を優しく抱き締める。
すると、ゆっくりと竜胆の身体の震えが徐々に治まってきた。
そして俺は抱きしめていた腕の力を解く。
「……みな、とも……くん」
竜胆が顔を上げる。
今にも零れ落ちそうなほど瞳には涙がたまっていた。
こんな弱々しい竜胆を見たのは、あの日以来だった。
「大丈夫だ。……今くらいなら、お前のことを守ってやる」
竜胆の頭を優しく撫でる。
ずっと彼女と共に進んで行く勇気なんて俺にはない。
でも今くらいは――俺のできる精いっぱいで応えよう。
「だから安心しろ」
「……うん」
小さく頷く竜胆の瞳から不安は消えて、震えも止まっていた。
「お客様~、大丈夫ですか?」
店員の声が聞こえる。
どうやら俺たちの様子が気になったようだ。
騒ぎが大きくなる前に、この場を離れる必要があるだろう。
「……俺は店内の様子を見てくるから、竜胆はここにいてくれ。
直ぐに戻ってくるから」
「わかった」
不安を抱えながらも、俺の信じて返事をしてくれた竜胆の頭をもう一度だけ撫でて、俺は試着室を出た。
店内で服を物色すること一時間。
竜胆はずっとうきうきそわそわしていた。
今の彼女の様子は、まるで誕生日プレゼントを待つ子供のようで、俺の目から見ても微笑ましさすらある。
だからだろうか?
ちゃんと、喜ばせてあげたいと思えた。
「彼氏くんからのプレゼントなのかな?」
「きっとそうでしょ? 彼女、すごく嬉しそうだもん」
「初デート思い出すなぁ……なんだかさ、こっちまできゅんってしちゃうよね」
店員たちの会話が聞こえた。
待て待て。
なんで勝手に彼氏にしてるんだ。
そもそも俺と竜胆では、どう考えても釣り合いが取れてないだろ。
「どっちもティーン向け雑誌のモデルさんかな?
美少年と美少女でお似合いのカップルだよね」
「ちょっと雑誌確認してみよっか」
店員の皆さん、おめめ大丈夫!?
俺の顔をちゃんと見ろ!
どこがモデルなんだ?
どこが美少年なんだ!
月とスッポン、美女と野獣……いや、そのたとえすらも上品すぎる。
この店はあれか!? お客を褒めるサービス付きか!?
それで財布の紐を緩めさせようとしているのだとしたら恐ろしい。
「……」
内心で突っ込みながらも、俺は服選びに集中した。
こうして探していると思うのは……スタイルのいい竜胆なら、どの服でも似合うだろうってこと。
だからこそ……余計に悩む。
これならいっそ――。
「……決めた。
竜胆、これなんてどうだ?」
俺は選んだ服を竜胆に手渡した。
「この服……皆友くんがあたしに似合うと思ってくれたんだ」
竜胆は服のデザインをチェックしながら、そんなことを口にする。
だが、それはちょっと違う。
「どの服を着ても似合うと思った」
「そ、そう……」
正直に伝える。
するとそれだけで、純情少女のようにぽっと頬が染まる。
「でも、それじゃどうしてこの服なの?」
勿論、適当に選んだわけじゃない。
ちゃんと理由はある。
だが、それを口にするのは少し照れくさいのだが……言わなければ、流石に納得してくれないだろう。
「……俺が着てほしいと思ったから」
「――!?」
声にならない叫びと共に、竜胆の身体が大きく揺れる。
ボッと煙でも噴くような勢いで、顔……いや、全身に熱が駆け巡っていくのが見て取れた。
「そう……なんだ。
皆友くん、これ着てほしいんだ」
「まぁ、その……なんだ……こ、好みで選んだのは、事実だ……」
「なら……今、着ちゃおうかな。
デート、皆友くんが選んでくれた服で、したいし……」
竜胆に言われて、俺はその姿を想像してしまった。
それはあまりにも可愛くて……考えるだけで赤面してしまう。
「ダメ……かな?」
「……ダメじゃない……が」
「なら試着してくるね。
それで皆友くんのイメージと合ってるか確かめてよ。
店員さん、試着いいですか?」
「はーい
こちらをお使いください」
俺たちの様子を見守っていた店員さんが、待っていましたとばかりに試着室の前まで案内してくれた。
そして直ぐにこの場を去っていく。
「じゃあ着替えてくるから待って――」
「あ、店員さん、すみませ~ん。
試着したいんですけど~」
竜胆の声を上書きするように、女の子の声が店内に響いた。
視界が自然とその声音の方に動いていく。
すると、目付きがキツい女の子の姿が目に入った。
声の主は彼女だろう。
合わせて数人の女子生徒と、男子グループの姿も確認できた。
同じ学校の友人同士で服を買いに来たのかもしれない。
が、全く知らない子だったので直ぐに興味は失せ……かけたのだが、
「うん?」
そのグループの中に見覚えのある男たちの姿が混ざっていた。
あれは以前、竜胆にちょっかいを出していた奴らだ。
「竜胆、あれ――」
「――!!」
「ぇ――」
竜胆が唐突に俺の手を引いた。
一体、なんのつもりなのか?
俺たちは今――狭い試着室の中にいる。
そして、ぎゅ――と、竜胆に抱き締められた。
あまりにも当然のことに、俺は言葉を失ってしまう。
一体、どうしたのだろうか?
「……りんど――」
「っ――」
名前を呼ぼうとすると、竜胆の腕に力が入った。
俺の胸に強く顔をうずめる。
同時に気付く。
彼女の身体がガタガタと震えていたことに。
その様子はまるで何かに恐怖しているようで――。
(……そうか。あいつらか)
ここで彼らに遭遇することは竜胆にとって予想外だったのだろう。
同時にあの時の出来事が、彼女にとって大きなトラウマになっていることがわかった。
「竜胆、大丈夫だ。
あいつらはお前に何もできないやしない」
「……っ」
震える竜胆の身体を優しく抱き締める。
すると、ゆっくりと竜胆の身体の震えが徐々に治まってきた。
そして俺は抱きしめていた腕の力を解く。
「……みな、とも……くん」
竜胆が顔を上げる。
今にも零れ落ちそうなほど瞳には涙がたまっていた。
こんな弱々しい竜胆を見たのは、あの日以来だった。
「大丈夫だ。……今くらいなら、お前のことを守ってやる」
竜胆の頭を優しく撫でる。
ずっと彼女と共に進んで行く勇気なんて俺にはない。
でも今くらいは――俺のできる精いっぱいで応えよう。
「だから安心しろ」
「……うん」
小さく頷く竜胆の瞳から不安は消えて、震えも止まっていた。
「お客様~、大丈夫ですか?」
店員の声が聞こえる。
どうやら俺たちの様子が気になったようだ。
騒ぎが大きくなる前に、この場を離れる必要があるだろう。
「……俺は店内の様子を見てくるから、竜胆はここにいてくれ。
直ぐに戻ってくるから」
「わかった」
不安を抱えながらも、俺の信じて返事をしてくれた竜胆の頭をもう一度だけ撫でて、俺は試着室を出た。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
YESか農家
ノイア異音
キャラ文芸
中学1年生の東 伊奈子(あずま いなこ)は、お年玉を全て農機具に投資する変わり者だった。
彼女は多くは語らないが、農作業をするときは饒舌にそして熱く自分の思想を語る。そんな彼女に巻き込まれた僕らの物語。
オワリちゃんが終わらせる
ノコギリマン
キャラ文芸
根崩高校の新入生、磯崎要は強烈な個性を持つ四方末終――オワリちゃんに出会う。
オワリちゃんが所属する非公認の「幽霊部」に入ることになった要は、怪奇現象に悩む生徒から次々と持ち込まれる依頼をオワリちゃんとともに解決していくことになる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ヤンデレ男の娘の取り扱い方
下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】
「朝顔 結城」
それが僕の幼馴染の名前。
彼は彼であると同時に彼女でもある。
男でありながら女より女らしい容姿と性格。
幼馴染以上親友以上の関係だった。
しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。
主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。
同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。
しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。
――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。
現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」
本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。
こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる