勇気を出してよ皆友くん!

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第11話 竜胆に似合うは服を探していたら

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 店内で服を物色すること一時間。
 竜胆はずっとうきうきそわそわしていた。
 今の彼女の様子は、まるで誕生日プレゼントを待つ子供のようで、俺の目から見ても微笑ましさすらある。
 だからだろうか?
 ちゃんと、喜ばせてあげたいと思えた。

「彼氏くんからのプレゼントなのかな?」
「きっとそうでしょ? 彼女、すごく嬉しそうだもん」
「初デート思い出すなぁ……なんだかさ、こっちまできゅんってしちゃうよね」

 店員たちの会話が聞こえた。
 待て待て。
 なんで勝手に彼氏にしてるんだ。
 そもそも俺と竜胆では、どう考えても釣り合いが取れてないだろ。

「どっちもティーン向け雑誌のモデルさんかな?
 美少年と美少女でお似合いのカップルだよね」
「ちょっと雑誌確認してみよっか」

 店員の皆さん、おめめ大丈夫!?
 俺の顔をちゃんと見ろ!
 どこがモデルなんだ?
 どこが美少年なんだ!
 月とスッポン、美女と野獣……いや、そのたとえすらも上品すぎる。
 この店はあれか!? お客を褒めるサービス付きか!?
 それで財布の紐を緩めさせようとしているのだとしたら恐ろしい。

「……」

 内心で突っ込みながらも、俺は服選びに集中した。
 こうして探していると思うのは……スタイルのいい竜胆なら、どの服でも似合うだろうってこと。
 だからこそ……余計に悩む。
 これならいっそ――。

「……決めた。
 竜胆、これなんてどうだ?」

 俺は選んだ服を竜胆に手渡した。

「この服……皆友くんがあたしに似合うと思ってくれたんだ」

 竜胆は服のデザインをチェックしながら、そんなことを口にする。
 だが、それはちょっと違う。

「どの服を着ても似合うと思った」
「そ、そう……」

 正直に伝える。
 するとそれだけで、純情少女のようにぽっと頬が染まる。

「でも、それじゃどうしてこの服なの?」

 勿論、適当に選んだわけじゃない。
 ちゃんと理由はある。
 だが、それを口にするのは少し照れくさいのだが……言わなければ、流石に納得してくれないだろう。

「……俺が着てほしいと思ったから」
「――!?」

 声にならない叫びと共に、竜胆の身体が大きく揺れる。
 ボッと煙でも噴くような勢いで、顔……いや、全身に熱が駆け巡っていくのが見て取れた。

「そう……なんだ。
 皆友くん、これ着てほしいんだ」
「まぁ、その……なんだ……こ、好みで選んだのは、事実だ……」
「なら……今、着ちゃおうかな。
 デート、皆友くんが選んでくれた服で、したいし……」

 竜胆に言われて、俺はその姿を想像してしまった。
 それはあまりにも可愛くて……考えるだけで赤面してしまう。

「ダメ……かな?」
「……ダメじゃない……が」
「なら試着してくるね。
 それで皆友くんのイメージと合ってるか確かめてよ。
 店員さん、試着いいですか?」
「はーい
 こちらをお使いください」

 俺たちの様子を見守っていた店員さんが、待っていましたとばかりに試着室の前まで案内してくれた。
 そして直ぐにこの場を去っていく。

「じゃあ着替えてくるから待って――」
「あ、店員さん、すみませ~ん。
 試着したいんですけど~」

 竜胆の声を上書きするように、女の子の声が店内に響いた。
 視界が自然とその声音の方に動いていく。
 すると、目付きがキツい女の子の姿が目に入った。
 声の主は彼女だろう。
 合わせて数人の女子生徒と、男子グループの姿も確認できた。
 同じ学校の友人同士で服を買いに来たのかもしれない。
 が、全く知らない子だったので直ぐに興味は失せ……かけたのだが、

「うん?」

 そのグループの中に見覚えのある男たちの姿が混ざっていた。
 あれは以前、竜胆にちょっかいを出していた奴らだ。

「竜胆、あれ――」
「――!!」
「ぇ――」

 竜胆が唐突に俺の手を引いた。
 一体、なんのつもりなのか?
 俺たちは今――狭い試着室の中にいる。
 そして、ぎゅ――と、竜胆に抱き締められた。
 あまりにも当然のことに、俺は言葉を失ってしまう。
 一体、どうしたのだろうか?

「……りんど――」
「っ――」

 名前を呼ぼうとすると、竜胆の腕に力が入った。
 俺の胸に強く顔をうずめる。
 同時に気付く。
 彼女の身体がガタガタと震えていたことに。
 その様子はまるで何かに恐怖しているようで――。

(……そうか。あいつらか)

 ここで彼らに遭遇することは竜胆にとって予想外だったのだろう。
 同時にあの時の出来事が、彼女にとって大きなトラウマになっていることがわかった。
「竜胆、大丈夫だ。
 あいつらはお前に何もできないやしない」
「……っ」

 震える竜胆の身体を優しく抱き締める。
 すると、ゆっくりと竜胆の身体の震えが徐々に治まってきた。
 そして俺は抱きしめていた腕の力を解く。

「……みな、とも……くん」

 竜胆が顔を上げる。
 今にも零れ落ちそうなほど瞳には涙がたまっていた。
 こんな弱々しい竜胆を見たのは、あの日以来だった。

「大丈夫だ。……今くらいなら、お前のことを守ってやる」

 竜胆の頭を優しく撫でる。
 ずっと彼女と共に進んで行く勇気なんて俺にはない。
 でも今くらいは――俺のできる精いっぱいで応えよう。

「だから安心しろ」
「……うん」

 小さく頷く竜胆の瞳から不安は消えて、震えも止まっていた。

「お客様~、大丈夫ですか?」

 店員の声が聞こえる。
 どうやら俺たちの様子が気になったようだ。
 騒ぎが大きくなる前に、この場を離れる必要があるだろう。

「……俺は店内の様子を見てくるから、竜胆はここにいてくれ。
 直ぐに戻ってくるから」
「わかった」

 不安を抱えながらも、俺の信じて返事をしてくれた竜胆の頭をもう一度だけ撫でて、俺は試着室を出た。
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