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第二章 ラスベルシア家

第三十九話 本気の戦い

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「笑えない冗談だね。これまでが本気じゃなかったとでも? さっきの水責めには大分苦しんでいたように見えたよ?」
「確かにアレはやばかった。水だけは俺の唯一絶対の弱点だ。逆に、それ以外に弱点はない」

 もう一つの弱点、闇に関しては喰肉黒衣スカルベールで防げる。

「もしもお前の手持ちで、さっきの奴が一番の水使いだったのなら、もう俺に怖いのはないな」
「ホントかな?」 

 巨漢が走り出し、俺に向けて剣を振る。

「“光填・八爪撃”」

 俺は巨漢を、光の抜刀術でバラバラに解体する。
 そのまま俺はアルゼスブブへの距離を詰める。
 アルゼスブブは俺の今の抜刀術の威力が予想外だったのか、身を固めている。

「うっそ……!」
「悪いなユウキ。加減する余裕はないらしい」
 
 俺はアルゼスブブの腹を殴る。

「がはっ!!」

 アルゼスブブは思いっきりぶっ飛び、森の奥へ奥へ飛んでいく。俺はそれを走って追いかける。

「第18番“破滅の流星ツァディー”、第9番“剛力の番人テット”」

 ぶっ飛びながらもアルゼスブブは新たな魔神を呼ぶ。
 口ぶりからして二体呼んだと思ったが、出てきたのは一体。全身に鎧を着けた真っ赤なゴリラだ。体躯は6メートルほど。

 弱点:なし 耐性:なし 弱点部位:首

「“光填・八爪撃”」

 光の抜刀術を繰り出すも、鎧ゴリラの肌を裂くのが限界で、骨には刀が到達しなかった。

「硬いな……!」
「ウオオッ!!」
「撲殺せよ」

 ゴリラの右拳の一撃を受ける。

「うぐっ!?」

 俺はぶっ飛び、木々を二十本ほど突き破った。

「ほらほら、なに休んでるのさ」

 飛んでいる俺を追い越し、背後に回ったアルゼスブブが言う。
 アルゼスブブは俺の背中に腕を薙いでぶつける。

「そら!」

 また俺は弾き飛ばされ、真っすぐと鎧ゴリラの場所へ返っていく。

「俺の体でキャッチボールすんなっての!!」

 鎧ゴリラは拳を振りかぶっている。これを受けたらヤバい、とわかっているが、受け身も防御もできない……!!

「ウガア!!!」

 鎧ゴリラの拳のハンマーを受け、地面にめり込む。拳の衝撃は、地震となって辺りを揺らす。
 初めてだ。
 この姿になって初めて、俺は、肩に痣を作った。

「“雷填・牙絞”」

 俺は鎧ゴリラの拳を雷の抜刀術で斬る。

「ガアァ!!?」

 鎧ゴリラが怯んだ隙に地上に出て、もう一度雷の抜刀術を繰り出す。

「もいっぱつ!」

 鎧ゴリラの首を絶ち切り、絶命させる。しかし息つく間もなく、

「第13番“死刑囚メム”」

 四方八方で空間が歪み、歪んだ空間から多数の包帯男が現れる。
 俺は包帯男の一人の首を斬る。すると、俺の首に衝撃が走った。腕を斬ると腕に、腹を裂くと腹に衝撃がくる。
 衝撃反射ダメージリフレクト……攻撃してきた対象にその攻撃の衝撃をそのまま返す能力。搦め手の部類の能力だ。ユニークスキルで言うとBランク相当だな。
 包帯男の数は八十体に及ぶ。衝撃反射ダメージリフレクトの能力を持った召喚獣八十体とかあり得ないぞ……!

「攻撃すればするだけ自分が苦しむ。彼らは君に対応した藁人形のようなモノだね」
「悪趣味だな……」
「自殺せよ……!」

 厄介だが、そこまでの耐久力はない。最小限のパワーで倒す。
 二十体ほどなぎ倒し、一呼吸したところだった。

「まだまだ」

 倒したはずの包帯男は体を再生させ、生き返ったのだ。

「なっ!?」

 この厄介な能力に加えて再生能力付きか……!
 一撃で葬り去るしかない。

「炎耐性があるから平気だと信じるぞ……!」

 俺は刀を鞘に収め、引き抜く。

「“炎填・灼息”!!」

 炎の斬撃で一気に包帯男たちを焼き払う。
 こいつらの弱点は炎。これで一掃できるはずだ。
 包帯男たちの再生を上回る速度で炎は包帯男たちを焼き尽くす。俺の全身に衝撃(炎熱)が返ってくるが、鱗の表面が焦げるぐらいのダメージで済んだ。

 しかし包帯男を焼き、煙が発生したせいでアルゼスブブの姿を見失ってしまった。死臭と焦臭のせいで鼻も利かん。

「第2番“魔術師の杖ベート”」

 声の方を振り返ると、アルゼスブブは黒く禍々しい杖を持っていた。

「圧殺せよ」

 アルゼスブブが杖を上から下に振る。瞬間、急に体が重くなった。

「重力魔法か……!!」
魔術師の杖ベートで魔力を増強して、全開の魔力で重力を展開しているのに、これでもペシャンコにならないんだ」

 地面が、地盤が、ドンドン落ちていく。なんて魔法だ。
 俺を中心として、視認できる範囲すべての木がその形を崩し、圧し潰されていく。一番、重力を掛けられているのは俺だが、その余波は森全体にいっているのかもしれない。

「君の恐ろしい所はその強靭さ、耐久力だね。経験に裏付けられた対応力の高さも厄介だ。ただの竜人じゃない……神竜人シグルズ。やはり君はあのの攻略者か。くくく……千年も眠っていれば、こういうことも起きるか。中々面白くなってきたじゃないか」

 迷宮? あのリッチキングの迷宮のことか?

「今回は時間切れでノーゲームに終わったけど、いずれ君とは決着をつけるよ」

 ちょうど、戦闘が始まって4分経ったか。もうじきに奴は消え、ユウキが戻ってくる。

「最後に名前、聞かせてくれる?」

 名前を教えることで、なにか自分に不利益があるかもしれない。教えない方がいい。
 だがここまで互いに力をぶつけ合った仲だ。名乗らないのは戦士として、マナー違反とも言える。

「ダンザ=クローニンだ」
「覚えておくよ。この世で初めて僕と引き分けた男……ダンザ」

 アルゼスブブは杖を消し、俺を重力から解放する。

「ああそうそう、最後に一つプレゼントだ」
「なに……?」
「上空をご覧ください」

 アルゼスブブが空を指さす。
 空を見上げ――俺は目を疑った。大量の岩の塊、隕石が、落ちてきている!!?

 落下地点は間違いなくここ、パルリア森林だ!

「まさかアレもお前が呼んだのか!?」
「第18番“破滅の流星ツァディー”。全52個の隕石を連れてやってくる魔神。落ちると共に役割を終えて消える。ほら、あの先頭の黒い隕石が破滅の流星ツァディーだよ。召喚してから降ってくるまで時間がかかるのが難点なんだよね」

 アルゼスブブは子供のような無邪気な笑みを浮かべる。

「くっくっく! 頑張って乗り越えてくれ。――滅殺せよ」

 アルゼスブブは瞼を下ろす。すると胸に刺さっていた鍵がはじけ飛び、そのまま、地面に倒れた。
 どうやらユウキに体の主導権が戻ったようだ。

「あのバカ魔王、余計な土産用意しやがって!!」

 俺はユウキの体を抱き、全速力で森から走り去る。

「うおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 なんとか流星が到達する前に、俺は森から逃げることができた。
 流星が森に降り注ぐ。
 この日、パルリア森林は消滅し、ただただ巨大な穴だけが残った。





―――――――

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