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第二章 ラスベルシア家

第三十八話 ダンザvsアルゼスブブ

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 ザイロスが死んだ。
 関係性はともかく、長い付き合いだ。思うところはある。
 だが、今はザイロスの死に意識を持ってかれるわけにはいかなかった。

 アルゼスブブ。この名を知らない人間はいないほどの怪物、悪鬼、大魔王。

 肉体はユウキだが、今の一撃を見るにパワーも何もかも桁違いに上がっているだろうな。

「アルゼスブブ。おとなしく、その子の体を解放してくれ」
「解放ねぇ。心配しなくとも、僕はすぐに引っ込むよ。解印の鍵、これは封印を一時的に解放するだけのモノだ。あと4分ぐらいで僕はまたこの子の中に戻る。しかも僕はとある事情で自害はできない」
「そう、なのか」

 つい、気を緩めてしまった。
 最悪の展開、ずっとアルゼスブブがユウキの肉体を占領する、という事態はない。それがわかったことで、本当に僅かの緩みが出た。
 アルゼスブブはその緩みを見逃さず、一気に距離を詰めてきた。

「もっとも、あと4分の内に――近くにある街の一つぐらいはぶっ壊すけどね」

 アルゼスブブの拳が俺の頬を捉える。
 
 人間時代で言うと、頬を女子の力で平手打ちされたぐらいの痛みが走った。
 痛みを感じるなんていつぶりだろうな。

「おっとぉ……?」
「やらせねぇよ」

 俺はアルゼスブブの腕を掴み、地面に投げる。

「ユウキの体で、そんなことさせるか!!」

 ザイロスは自業自得だ。ザイロスを自分の体で殺したことについて、多少は引きずるだろうがユウキなら乗り越えられる。
 だが無関係の人間を自分の肉体で殺したとわかれば、彼女はきっと、絶望の闇から抜け出せなくなる!! それだけは絶対に避ける!!

「うわっ!? 凄いね君!!」
「大人しくしていろ! アルゼスブブ!」
「いいねぇ、面白くなってきた」

 パチン。とアルゼスブブは指を鳴らす。

「彼らに会うのは久しぶりだ……」

 アルゼスブブの体から黒いモヤが湧き出る。
 ユウキが召喚獣を召喚する際に出す白い煙に、魔力の質が似ている。

「第20番“炎の巨人レーシュ”」

 モヤが全て炎に変わった。
 瞬間、景色が変わる。

焼殺しょうさつせよ」

 地から湧き出た炎の塊によって、俺は一気に空へ打ち上げられた。

「うおっ!?」

 それはまさしく、炎の巨人。
 巨人が炎を纏っているのではなく、炎が巨人の形をしている。森にある背の高い木々より、20メートル近く高い。

 これが魔神……!!

 巨人は俺を右手で包み込み、獄炎を全身に浴びせてくる。

「うおお、お!」

 俺には炎耐性がある。それでも、人間時代で言うと直射日光を浴びてるぐらいの熱さを感じる。
 俺は視線をなんとか巨人の体に向け、炎の巨人を神竜眼で測る。

 弱点:水 耐性:炎 弱点部位:胸の中心

 基本的に実体のない奴だが、胸の中心に核のような物がある。まるで小さな太陽のような核だ。それが光って見える。あの核が弱点ってことだ。
 俺は炎の中でも構わず抜刀術を繰り出す。

「“風填・飛息”!!」

 風の太刀で炎を裂き、炎の巨人の頭から核、股下までぶった斬る。風の斬撃は核を一刀両断にする。
 巨人は倒れ、森を焼いていく。俺は地面に着地し、再びアルゼスブブと向き合う。

「おいおい、一撃で倒すのか。万の軍隊を焼き尽くした巨人だよ? 侮っていたよ竜人」

 息つく間もなく、アルゼスブブは次の魔神を召喚する。

「第19番“水の乙女コフ”」

 今度は地面につくほど長い青髪を持つ女性が現れた。白装束で、美しい容姿だ。サイズは平均的な成人女性と同じ。

 弱点:雷 耐性:水・闇 弱点部位:頭・首・左胸

 弱点部位が人間と同じなので、構造は人間と一緒か。

「炎に耐性があるなら、水は弱点なんじゃない?」

 女性が両腕を開くと、雨が空から降ってきた。

「魔神は天候すら操るのか……!」
水の乙女コフは街を沈没させるほどの水魔法を使える。終わりだ竜人。溺殺できさつせよ」

 雨の勢いが強くなり、やがて滝のような勢いになる。地に落ちた水は俺の元へ渦を巻いて集まり、水の竜巻を起こして俺を飲み込んだ。

(う、動けない……!?)

 俺の弱点、水。
 水の竜巻は容赦なく俺の自由を奪う。抜刀術を繰り出せるほどの力が出ない。

(弱点をつかれる……っていうのはこういう感覚なんだな)

 全身が水に対して拒否反応を起こしている。体が芯から痺れる感じだ。
 人間時代は耐性も無ければ弱点も無かったからな。初めての感覚だ。
 風呂に入った時もピリピリする感覚はあったが、あの時とは段違いの拒否感、嫌悪感だ。

(動けないが、体に傷はできてない。束縛重視の術か。息は全然もつし、術が切れるまで待ってもいいが、この不快感が続くのは嫌だし、これ以上奴に時間を作らせるのはまずい気がする。こうなりゃ一か八かだ!!)

 俺はフードを被り、スカルリザードマンへと変身。
 肺の横、ガス袋に魔力を込め、ガスを発生させて吐き出す――!

(ぶっつけ本番適当ブレス!!!)

 口から出たのはどうやら燃焼ガス。燃焼ガスは水を焼却し、水の乙女コフに向かっていく。水の乙女コフは水の壁を発生させるもブレスを防げず、水壁ごと焼却ガスによって跡形もなく焼却された。

「げほっ! げほっ!」

 フードを下ろし、地面に膝をついて呼吸を整える。
 ほぼ一瞬とは言え、スカルリザードマンの状態であの術を受けたのは失敗だったかもしれない。

「第8番“大剣豪へット”」

 アルゼスブブの声が背後から聞こえる。

「休む暇なしかよ!!」

 振り返ると、アルゼスブブの隣に、軽鎧をつけたまるで闘技場のグラディエーターのような巨漢が立っていた。

 弱点:なし 耐性:炎・水・風・雷 弱点部位:頭・首・左胸

 巨漢はその右手に持った大剣を振るう。

斬殺ざんさつせよ」

 俺と巨漢は20メートルは離れている。あの2メートルほどの剣じゃ到底届かない。
 なのに、巨漢は剣を薙いだ。すると、斬撃が飛び、まるで俺の“飛息”のようにカマイタチになって迫りくる。
 俺は刀を抜き、斬撃を受け取るも、1メートルほど衝撃で後退した。

「驚いたな……!」

 アルゼスブブは笑う。だがその表情には焦りもあった。

「魔神三体出して、無傷だったのは君が初めてだ」

 街がヤバい。
 ユウキがヤバい。
 この状況はめちゃくちゃヤバい。

――なのに、俺は高揚していた。

 初めてだ。神竜から出てきて、この体になって初めて俺は……戦いに緊張している。
 そしてこの緊張がとても心地よい。

「おい、アルゼスブブ」
「なんだい?」
「本気出してもいいか?」

 俺が聞くと、アルゼスブブは顔から笑みを消した。


―――――――

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