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第二章 ラスベルシア家

第二十七話 スカルベール

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 迷宮攻略で手に入れたマントの能力、それを確かめるためにユウキの部屋に入る。
 俺が部屋の扉を閉めると、ユウキは例のボロボロマントを羽織った。

「この状態では何も起きません。ですが」

 ユウキがマントに付いたフードを被ると、マントが変化した。
 砂色のマントが真っ黒なマントになり、ボロボロだったのに綺麗に修繕されていく。だが問題はその後、

「うおっ!?」

 ユウキの姿が変貌し、骨だけになった。まるでスケルトンだ。
 今のユウキの姿は迷宮の主だったリッチキングに似ている。アイツもローブというか、漆黒のマントを羽織っていたからな。

「フードを被ることで、マントは漆黒になり、さらに肉や皮や血管、骨以外の細胞を削ぎ落としスケルトンと同種になる。魔導書名は喰肉黒衣(スカルベール)です」

 声はユウキなのに、姿はスケルトン。違和感が凄いな。

「魔導書だったらなんで俺の万識の腕時計ワイズウォッチが反応しなかったんだ?」
「フードを下げた状態では魔導書として認識されないようです。この黒くなった状態でのみ、万識の腕時計ワイズウォッチは反応するようです。それと、このマントが黒くなっている時は魔力以外のステータスが半減し、魔力のステータスだけが上昇します。あとおまけとして闇魔法に対する耐性を得るようです」

 なるほど。
 このマントは迷宮の主であるリッチキングを倒した後に手に入った。リッチキングは闇魔法を専門とするスケルトン種……このマントは纏った者をそのリッチキングの性質に近づける効果があるのか。

「魔力の上昇値は半減したステータスに比例するので、戦士の方が使った方が変換値が高いです。魔法使いが使えばより魔法に特化し、戦士が使えば一瞬で魔法使いにジョブチェンジできる。面白いアイテムですよこれは」

 ユウキからマントを受け取るも、俺ではこれを持て余すだろう。

「俺は魔法を使えないからな。これはタンス行きかな」
「ダンザさん、魔法を使えないのですか? リザードマンなのに?」
「リザードマンって魔法使うイメージあるか?」
「リザードマンと言えばブレスじゃないですか。あれは魔力依存の攻撃、つまり魔法だったと記憶していますが?」
「――――ああ!!」

 そういえばそうだ。

「そうだブレス……この機会に覚えてみるか」

 人間時代、魔法のセンスは皆無だった俺だが、リザードマンなら誰だって使えるブレス系の魔法なら使えるんじゃないか? 

「ダンザさん、ブレスは使えないんですね」

 ユウキの部屋に、風呂上がりのノゾミちゃんが入ってきた。
 俺は思わずビクッと背中を震わせた。

「の、ノゾミちゃん。もう出たんだ」

 改めて見ると普通に女の子だ。体つきも顔つきも。なぜこの子を男だと勘違いしていたのか、過去の自分に問いを投げかけたい。

「ノゾミさん、勝手に部屋に入らないでください」

 ノゾミちゃんはユウキの言葉を無視し、

「ダンザさん! 僕の故郷にはリザードマンもいるので、リザードマンにブレスのコツとか聞いて後でノートにまとめて送りますよ!」
「おお、そりゃ助かる」
「いえいえ、先ほどの指南のお礼です。それと……お見苦しいモノもお見せしてしまったので……」

 ノゾミちゃんは照れた様子で顔を背ける。いや、見苦しいモノをお見せしたのは俺の方なんだけど。
 ノゾミちゃんを怪訝な目で見るユウキ。これは誤魔化した方がよさそうだ。

「ノゾミちゃん! そろそろ戻った方がいいんじゃないかな!? ほら! ドクトとかが心配してるよきっと!!」
「いや、アイツは僕のことなんて全然気にせず、昨日から街にナンパに――」
「ほらほら! お帰りはあちら!」

 俺はノゾミちゃんの背中を押し、半ば無理やり部屋から押し出す。
 ホント心臓に悪いぜまったく。


 ---本邸・当主執務室---


 ラスベルシアの本邸、執務室でラスベルシア家当主ゾウマ=ラスベルシアとその娘アイ=ラスベルシアは一対一で対面していた。

「それで、話とはなんだ?」
「お父様、あの不届き者……ダンザ=クローニンのことは私に任せてください」
「なにをするつもりだ?」
「お父様から貰った魔導書を試すついでに、あのリザードマンを懲らしめてやります」
「懲らしめる、か。甘いな」
「え?」

 ゾウマはその冷えた目でアイを見る。

「――ダンザ=クローニンを殺せ。当主の命令だ」
「こ、殺す……? さ、さすがにそれはやり過ぎではないでしょうか。別に、あのリザードマンはなにか犯罪を起こしたわけではありません」
「私に楯突くのは死刑に匹敵する犯罪だ。違うか?」
「それはその……でも、殺すのはちょっと……私の手には余るというか……」
「お前の守護騎士を使えば可能だろう?」

 アイはゾウマの威圧を前に足を竦ませるも、意思を曲げない。

「ダメです! ハヅキに殺しをさせるわけには……!」
「そう思っているのはお前だけかもしれんぞ? 本人に聞いてみようではないか。――入れ」
「え?」

 扉が開き、メイドの女子――ハヅキが入ってきた。

「失礼します。ゾウマ様」
「ハヅキよ、命令だ。ダンザ=クローニンを始末しろ。方法は問わん」
「かしこまりました」
「やめなさいハヅキ!」

 アイはハヅキの肩を掴む。

「……あなた、私との契約を忘れたの!? 二度と殺人はしない。そう約束したでしょ!」
「お嬢様、あくまで私の雇い主はゾウマ様です。ゾウマ様の命令は絶対です。邪魔をするなら、お嬢様でも容赦はしません」
「ハヅキ……」

 ハヅキは最後にゾウマに会釈し、部屋を去った。

「待ってよハヅキ! お、お父様、失礼します!」

 ハヅキの後を追い、アイも部屋を出る。
 二人がいなくなった後で、開いた窓から一人の男が部屋に入ってきた。
 奇妙な男だ。全身包帯塗れで、黒装束を羽織り、フードを深く被っている。
 包帯の男はゾウマの正面に立つ。

「貴様の言う通りだな。ダンザ=クローニン、侮れない存在だ」
「だから言っただろ。俺に任せろってな。あの野郎を殺せるのは俺だけだ。わざわざここまで訪ねてまで、アイツのこと伝えてやったのによ。ロザリオも無駄にしやがって馬鹿が」

 その包帯の男は――片腕が、左腕がなかった。

「あんな小娘共じゃ返り討ちに遭うだけだ」
「まぁ待て。解印の鍵がもう少しで出来る。貴様の出番はそれからだ」

 ゾウマは小さく笑う。

「我が娘ながら、なんとも目障りな女だ……籠の中で、おとなしく餌を待っていればいいものを……」




―――――――

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