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異世界急行 第一・第二 異世界事故調編
整理番号32:バフロス貨物線脱線事故(3)
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列車”だったもの”が、人馬の力でひとつひとつよけられていく。すると、その下から真新しい線路が見えてきた。
「やっぱり、残骸に削られてだいぶ損傷しているね」
アイリーンは心配そうにそうつぶやいた。
「しかし、証拠は集められる」
エドワードはそう言うと、線路を触りながら指摘した。
「線路はしっかりと固定されている」
線路は一本二十メートル弱。それがお互いに連結され、長い長い二条の軌道になる。エドワードがそれを見る限りでは、それは確かに連結を保っていた。
「確かに、接続ボルトは損傷しているがきちんと形を保っていて、抜かれてはいない。犬釘も無事だ」
アイリーンもその見解を追認した。ギムリーは食い下がる。
「置き石の可能性は? それでも脱線するのでしょう」
「もし置き石が原因だとすれば、置かれたその石が残っているはずだ。ここまで大きな脱線を引き起こすものだと、たとえ損傷していたとしても原型を保っているはずだ」
エドワードは機関車の残骸があったあたりに移動する。
「やはりどこを見てもその様な痕跡は見受けられない」
ギムリーはここで反論をやめた。彼は少しすっきりとした顔で、エドワードに握手を求めた。
「ありがとう。そこまでわかれば十分です」
「本当に?」
これは事件ではない、という結論を自分で出しておきながら、エドワードはちょっと心配になった。
「ええ。ま、ちょっと報告には手間取りそうですが……。いやはや、どう報告したものか。しかし、これはこちらの事情だ。ここからは私が何とかしましょう。ご協力、ありがとうございました」
ギムリーは頭を下げる。その顔は、言葉とは裏腹に少しホッとした様子だった。
エドワードは引き続き事故の調査を行う。まだ、この脱線が”事件ではない”ということ以外に、判明したことはない。
「事故の背後関係を調べたい。この列車について、もう少し詳細に調べてみる必要がある」
「背後関係、というと……」
「乗務員はどこの機関区に所属するどんな人物だったのか。そして、その機関区の雰囲気は。脱線したこの列車はどんな意味合いを持った列車だったのか。まずはそこから当たってみよう」
エドワードの言葉に、アイリーンは釈然としない。
「現場はもういいのかい?」
「ミヤが記録を取った。もう十分だ」
「そんなことはないだろう。たとえば、ただの脱線事故でなぜここまでの大爆発になったのか、とか、いろいろと調べることはあるだろう?」
「それに関しても、保存した残骸を持ち帰って調べることぐらいしかできん。今はとにかく前へ進むべきだ」
エドワードはそういうと、とっとと現場での調査を切り上げた。
エドワードは帝都で捜査をしていたエスと合流した。そこで、エドワードは不可解な情報を耳にする。
「変な話だな、それは」
エドワードが引っかかったのは、犠牲になった女学生の親が昨夜から本件事故の事件性を強く主張していた、という証言である。
「まだ自分の娘が事故に巻き込まれた、という確証もないうちから、彼らはそんなことを騒ぎ出したのか」
「ああ。勝手な感想なのだが、なんだか”クサイ”んだよなぁ、あの親御さん」
エスの言葉に、エドワードは大きくうなづいた。
「以前、別の事故で相対したことがあったが、あれは典型的な貴族しぐさをする奴らだった。これは何かを隠しているぞ」
「隠してるって、なにをさ!」
アイリーンはいさめるような口調でエドワードに詰め寄った。
「なあ、これは確かに悲惨な事故だ。そう、君が言ったように、これは事故なんだよ。なんで貴族階級のゴシップに考えを巡らせる必要があるんだい?」
アイリーンの目は不安げに揺れていた。その目をしっかりと見据えて、エドワードは語る。
「いいかい。鉄道風土、というものは確実に個人に対し影響を及ぼす。彼の鉄道の体制が、この事故に大きな影響を及ぼした可能性がある」
「そんなこと……」
「あるんだ!」
エドワードは強い口調でそう言った。
「この鉄道は以前の事故でも、鉄道としての体質が著しく不健全だった。あのボイラー爆発事故も、半ばそうやって発生したものだ」
アイリーンに返したその言葉は、半ば自分に言い聞かせるような口調だった。その目はアイリーンを見ていない。アイリーンははじめて、エドワードへの怒りをあらわにした。
「今日の君は、なんだか変だ」
その言葉にエドワードは顔をそむけた。
「ああ。そうかもしれない」
そうつぶやく彼の眼は、不確かに揺れていた。
エスはエドワードに資料を残して、また捜査へと繰り出していった。
アイリーンはミヤを連れて、現場を捜査すると言って聞かなかった。だから、エドワードは一人でアリアル卿のもとへと向かった。
「少し面倒なことになった」
アリアル卿は前回の事件以降、エドワードにはその気障な微笑みを見せなくなった。その代わりに、彼は余裕のない顔をするようになった。
「なにが、どうしたんで?」
「本家の人間が君を召喚したいと」
エドワードの予想通り、それはいやな話題だった。思わず、それを本人に伝えてしまう。
「あなたが持ってくる話は、いつも面倒ごとだ」
「まったくだね。しかしこれは、私が君に明るい話を積極的にすることによって解消できる。どうだい、希望するかい?」
「ご冗談を」
エドワードがそう言って笑うと、アリアル卿はやっと笑顔を見せた。
「とりあえず、本家の人間に会って話してくれ」
「ようがす。構いませんや」
ただし、とエドワードは注文を付けた。
「私は真実を告げますよ」
「構わんよ。私が求めているのは、真実だ」
彼はすっかり、もとの気障な笑みを取り戻していた。
エスパノ本家に足を踏み入れた瞬間、金切り声がエドワードの耳をつんざいた。
「どうしてあの子が死ななければならないのかしら? ねえおかしいとは思いませんこと?」
ウサス・エスパノ家の夫人であるキーン・エスパノは半狂乱になりながらそう叫んだ。
「あの子は評判も良く将来が約束された子だったわ。あの子が死ぬなんて、陰謀以外に理由が考えられるかしら? 納得のいく説明をしてくださる?」
その言葉にエドワードが答えようとする前に、エスパノ夫人の付き人がいきなり立ち上がり、エドワードの目前で一席をぶった。
「私の推理によればこうです」
彼はそんなありふれた推理小説のような言葉を吐きながら、推理という名の陰謀論をエドワードに聞かせる。
「あの日、カリヤルをさらった犯人は人気のない東ガリフール駅のプラットホームに彼女を立たせた。おそらく、屋根の支柱にでも彼女をくくりつけたのだろう。そして線路に細工を施した。そこへ何も知らない貨物列車が飛び込んできて、脱線。ホームにいた彼女は殺害された」
彼は自信満々に推理を披露すると、エドワードに向き直る。
「この完璧な推理を、あなたは崩せるというのですか?」
エドワードはめまいがする思いだ。だが、ここでひいては国鉄マンが聞いて呆れる、とばかりに、エドワードはそのこぶしに力を込めた。
「まず、被害に遭ったのは、彼女だけではない。もう一人犠牲者が居たそうですが」
「きっと誘拐現場を見られたかなにかでしょう。彼女は不幸にも巻き添えを食ったのです」
「現場の遺体からは縛ったような痕またはロープは検出されなかった。そして、当該駅のプラットホームには屋根はない」
「では、弓矢か何かで彼女たちを脅していたのでしょう」
「列車に轢かせるのであれば、ホームに立たせるなんてことをせず、線路にでもしばりつけて置けばよかったでしょう」
「きっと、事故に偽装したかったのでしょう。それか、あの鉄道を所有する我々への挑戦、当てつけ。いくらでも理由はあります」
「そもそもとして!」
ああ言えばこう言う、そんな彼に嫌気がさしてついエドワードは声を荒らげる。
「線路には細工の痕跡はありませんでした。これだけで、本件は事故であると断定できます」
「嘘をおっしゃい!」
エスパノ夫人はキーキー声で怒鳴る。
「そんなこと、どうしてわかるのですか? 現場はぐちゃぐちゃだったハズでしょう。あの瓦礫の山から、どうしてそんなことが……」
「証拠を見れば分かるんだ!」
エドワードは彼女をにらみつける。
「線路に細工をしたなら、必ず細工をしたという証拠が残る。釘を抜いたなら、不自然に釘が抜けている箇所が必ずある。ボルトを緩めたり抜いたりしたなら、必ず破断面に不自然な点があったり、ボルトの数が合わなかったりで分かるんだ」
「そんな……」
エドワードの言葉にエスパノ夫人は言葉を失いかけた。そして、ぽつりとつぶやく。
「これじゃあ、我が家の尊厳が……」
この一言にエドワードの火が付いた。やっぱり、それが問題の根幹なんじゃないか。娘を失った悲しみから言葉が紡がれているんじゃない。一族の体裁のために彼らは狂言を演じているんだ。
そうエドワードが理解した瞬間、彼の頭は沸騰する。
「それが貴様の本音か!」
エドワードはエスパノ夫人につかみかからんばかりの勢いだ。その勢いをそいだのは、ウサス・エスパノ家の主人だった。
「あー、いやはや、少し勘違いをしておられるかもしれない。ねえ、ラッセル卿」
彼はわざとらしく家名でエドワードの名を呼んだ。
「勘違い?」
「家内はただ、娘を亡くしたその理由を知りたいのだよ。それ以下でもそれ以上でもない。そして、それは我が一族の統一した願いでもある。どうか、この本懐を遂げる手伝いを頼みたい」
彼は不気味な笑みを浮かべてそういった。
「さて、話はこれぐらいでいいだろう。引き続き、捜査をよろしくお願いするよ、エドワード君」
さあ、アリアル。彼を送ってあげなさい。その一言でその場は終わった。
アリアルが用意した帰りの馬車の中でエドワードは炎を燃やしている。それは、あまりにも強すぎる感情の炎だった。
「他国か有力者に嫁ぐはずたっだ娘が、自分のとこの鉄道に轢かれて死んだ。これでは、体裁が悪い。だから、事件または不可抗力の事故として処理をして、メンツを保ちたいんだ」
頭の中で、この事故の筋道を立てる。エドワードは、この事故がスイザラス鉄道の風土・気質が原因で発生した事故であると決めてかかる。
「絶対に、化けの皮をはがしてやる」
そんなことをつぶやきながら、馬車は東へと向かった。
「やっぱり、残骸に削られてだいぶ損傷しているね」
アイリーンは心配そうにそうつぶやいた。
「しかし、証拠は集められる」
エドワードはそう言うと、線路を触りながら指摘した。
「線路はしっかりと固定されている」
線路は一本二十メートル弱。それがお互いに連結され、長い長い二条の軌道になる。エドワードがそれを見る限りでは、それは確かに連結を保っていた。
「確かに、接続ボルトは損傷しているがきちんと形を保っていて、抜かれてはいない。犬釘も無事だ」
アイリーンもその見解を追認した。ギムリーは食い下がる。
「置き石の可能性は? それでも脱線するのでしょう」
「もし置き石が原因だとすれば、置かれたその石が残っているはずだ。ここまで大きな脱線を引き起こすものだと、たとえ損傷していたとしても原型を保っているはずだ」
エドワードは機関車の残骸があったあたりに移動する。
「やはりどこを見てもその様な痕跡は見受けられない」
ギムリーはここで反論をやめた。彼は少しすっきりとした顔で、エドワードに握手を求めた。
「ありがとう。そこまでわかれば十分です」
「本当に?」
これは事件ではない、という結論を自分で出しておきながら、エドワードはちょっと心配になった。
「ええ。ま、ちょっと報告には手間取りそうですが……。いやはや、どう報告したものか。しかし、これはこちらの事情だ。ここからは私が何とかしましょう。ご協力、ありがとうございました」
ギムリーは頭を下げる。その顔は、言葉とは裏腹に少しホッとした様子だった。
エドワードは引き続き事故の調査を行う。まだ、この脱線が”事件ではない”ということ以外に、判明したことはない。
「事故の背後関係を調べたい。この列車について、もう少し詳細に調べてみる必要がある」
「背後関係、というと……」
「乗務員はどこの機関区に所属するどんな人物だったのか。そして、その機関区の雰囲気は。脱線したこの列車はどんな意味合いを持った列車だったのか。まずはそこから当たってみよう」
エドワードの言葉に、アイリーンは釈然としない。
「現場はもういいのかい?」
「ミヤが記録を取った。もう十分だ」
「そんなことはないだろう。たとえば、ただの脱線事故でなぜここまでの大爆発になったのか、とか、いろいろと調べることはあるだろう?」
「それに関しても、保存した残骸を持ち帰って調べることぐらいしかできん。今はとにかく前へ進むべきだ」
エドワードはそういうと、とっとと現場での調査を切り上げた。
エドワードは帝都で捜査をしていたエスと合流した。そこで、エドワードは不可解な情報を耳にする。
「変な話だな、それは」
エドワードが引っかかったのは、犠牲になった女学生の親が昨夜から本件事故の事件性を強く主張していた、という証言である。
「まだ自分の娘が事故に巻き込まれた、という確証もないうちから、彼らはそんなことを騒ぎ出したのか」
「ああ。勝手な感想なのだが、なんだか”クサイ”んだよなぁ、あの親御さん」
エスの言葉に、エドワードは大きくうなづいた。
「以前、別の事故で相対したことがあったが、あれは典型的な貴族しぐさをする奴らだった。これは何かを隠しているぞ」
「隠してるって、なにをさ!」
アイリーンはいさめるような口調でエドワードに詰め寄った。
「なあ、これは確かに悲惨な事故だ。そう、君が言ったように、これは事故なんだよ。なんで貴族階級のゴシップに考えを巡らせる必要があるんだい?」
アイリーンの目は不安げに揺れていた。その目をしっかりと見据えて、エドワードは語る。
「いいかい。鉄道風土、というものは確実に個人に対し影響を及ぼす。彼の鉄道の体制が、この事故に大きな影響を及ぼした可能性がある」
「そんなこと……」
「あるんだ!」
エドワードは強い口調でそう言った。
「この鉄道は以前の事故でも、鉄道としての体質が著しく不健全だった。あのボイラー爆発事故も、半ばそうやって発生したものだ」
アイリーンに返したその言葉は、半ば自分に言い聞かせるような口調だった。その目はアイリーンを見ていない。アイリーンははじめて、エドワードへの怒りをあらわにした。
「今日の君は、なんだか変だ」
その言葉にエドワードは顔をそむけた。
「ああ。そうかもしれない」
そうつぶやく彼の眼は、不確かに揺れていた。
エスはエドワードに資料を残して、また捜査へと繰り出していった。
アイリーンはミヤを連れて、現場を捜査すると言って聞かなかった。だから、エドワードは一人でアリアル卿のもとへと向かった。
「少し面倒なことになった」
アリアル卿は前回の事件以降、エドワードにはその気障な微笑みを見せなくなった。その代わりに、彼は余裕のない顔をするようになった。
「なにが、どうしたんで?」
「本家の人間が君を召喚したいと」
エドワードの予想通り、それはいやな話題だった。思わず、それを本人に伝えてしまう。
「あなたが持ってくる話は、いつも面倒ごとだ」
「まったくだね。しかしこれは、私が君に明るい話を積極的にすることによって解消できる。どうだい、希望するかい?」
「ご冗談を」
エドワードがそう言って笑うと、アリアル卿はやっと笑顔を見せた。
「とりあえず、本家の人間に会って話してくれ」
「ようがす。構いませんや」
ただし、とエドワードは注文を付けた。
「私は真実を告げますよ」
「構わんよ。私が求めているのは、真実だ」
彼はすっかり、もとの気障な笑みを取り戻していた。
エスパノ本家に足を踏み入れた瞬間、金切り声がエドワードの耳をつんざいた。
「どうしてあの子が死ななければならないのかしら? ねえおかしいとは思いませんこと?」
ウサス・エスパノ家の夫人であるキーン・エスパノは半狂乱になりながらそう叫んだ。
「あの子は評判も良く将来が約束された子だったわ。あの子が死ぬなんて、陰謀以外に理由が考えられるかしら? 納得のいく説明をしてくださる?」
その言葉にエドワードが答えようとする前に、エスパノ夫人の付き人がいきなり立ち上がり、エドワードの目前で一席をぶった。
「私の推理によればこうです」
彼はそんなありふれた推理小説のような言葉を吐きながら、推理という名の陰謀論をエドワードに聞かせる。
「あの日、カリヤルをさらった犯人は人気のない東ガリフール駅のプラットホームに彼女を立たせた。おそらく、屋根の支柱にでも彼女をくくりつけたのだろう。そして線路に細工を施した。そこへ何も知らない貨物列車が飛び込んできて、脱線。ホームにいた彼女は殺害された」
彼は自信満々に推理を披露すると、エドワードに向き直る。
「この完璧な推理を、あなたは崩せるというのですか?」
エドワードはめまいがする思いだ。だが、ここでひいては国鉄マンが聞いて呆れる、とばかりに、エドワードはそのこぶしに力を込めた。
「まず、被害に遭ったのは、彼女だけではない。もう一人犠牲者が居たそうですが」
「きっと誘拐現場を見られたかなにかでしょう。彼女は不幸にも巻き添えを食ったのです」
「現場の遺体からは縛ったような痕またはロープは検出されなかった。そして、当該駅のプラットホームには屋根はない」
「では、弓矢か何かで彼女たちを脅していたのでしょう」
「列車に轢かせるのであれば、ホームに立たせるなんてことをせず、線路にでもしばりつけて置けばよかったでしょう」
「きっと、事故に偽装したかったのでしょう。それか、あの鉄道を所有する我々への挑戦、当てつけ。いくらでも理由はあります」
「そもそもとして!」
ああ言えばこう言う、そんな彼に嫌気がさしてついエドワードは声を荒らげる。
「線路には細工の痕跡はありませんでした。これだけで、本件は事故であると断定できます」
「嘘をおっしゃい!」
エスパノ夫人はキーキー声で怒鳴る。
「そんなこと、どうしてわかるのですか? 現場はぐちゃぐちゃだったハズでしょう。あの瓦礫の山から、どうしてそんなことが……」
「証拠を見れば分かるんだ!」
エドワードは彼女をにらみつける。
「線路に細工をしたなら、必ず細工をしたという証拠が残る。釘を抜いたなら、不自然に釘が抜けている箇所が必ずある。ボルトを緩めたり抜いたりしたなら、必ず破断面に不自然な点があったり、ボルトの数が合わなかったりで分かるんだ」
「そんな……」
エドワードの言葉にエスパノ夫人は言葉を失いかけた。そして、ぽつりとつぶやく。
「これじゃあ、我が家の尊厳が……」
この一言にエドワードの火が付いた。やっぱり、それが問題の根幹なんじゃないか。娘を失った悲しみから言葉が紡がれているんじゃない。一族の体裁のために彼らは狂言を演じているんだ。
そうエドワードが理解した瞬間、彼の頭は沸騰する。
「それが貴様の本音か!」
エドワードはエスパノ夫人につかみかからんばかりの勢いだ。その勢いをそいだのは、ウサス・エスパノ家の主人だった。
「あー、いやはや、少し勘違いをしておられるかもしれない。ねえ、ラッセル卿」
彼はわざとらしく家名でエドワードの名を呼んだ。
「勘違い?」
「家内はただ、娘を亡くしたその理由を知りたいのだよ。それ以下でもそれ以上でもない。そして、それは我が一族の統一した願いでもある。どうか、この本懐を遂げる手伝いを頼みたい」
彼は不気味な笑みを浮かべてそういった。
「さて、話はこれぐらいでいいだろう。引き続き、捜査をよろしくお願いするよ、エドワード君」
さあ、アリアル。彼を送ってあげなさい。その一言でその場は終わった。
アリアルが用意した帰りの馬車の中でエドワードは炎を燃やしている。それは、あまりにも強すぎる感情の炎だった。
「他国か有力者に嫁ぐはずたっだ娘が、自分のとこの鉄道に轢かれて死んだ。これでは、体裁が悪い。だから、事件または不可抗力の事故として処理をして、メンツを保ちたいんだ」
頭の中で、この事故の筋道を立てる。エドワードは、この事故がスイザラス鉄道の風土・気質が原因で発生した事故であると決めてかかる。
「絶対に、化けの皮をはがしてやる」
そんなことをつぶやきながら、馬車は東へと向かった。
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