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異世界急行 第一・第二
整理番号12:スイザラス鉄道ボイラー爆発事故(1)
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エドワードはいつも通り機関区に顔を出した。機関区の面々はますます彼に好意的に接してくれるようになり、会話や接触も増えた。
だが、それに反比例して、エドワードが頼られることと言うのも減っていった。
「この鉄道の人間は優秀が過ぎる。俺の出る幕がもう終わっちまった」
エドワードは一人そんなことをぼやき始めた。それを聞いていたアイリーンが、思わず吹き出す。
「全部君の功績だろうに。もっと誇ったらどうだい?」
「馬鹿言いなさい。私の知識と経験の範疇を、もうすでに超えているよ」
エドワードが教えたことは、基礎の基礎である。シク鉄の面々は、たったそれだけで飛躍的に進歩した。それどころか、エドワードにとってもうすでに口出しできるレベルを超えているようにすら思う。
だが、エドワードはそこに一つの満足感を感じつつあった。まるで、男庭が一人前の機関士として育ち切ったときのような、そんな感慨がエドワードの中にはあった。
そして、エドワードの中には、一つの望みのようなものが顔を出し始めた。それは、件の事故を解決したときに感じた、もう一つの達成感だ。
「なあ、君はどうしたいんだい?」
「簡単なことだ。もっと安全な世の中にしたい」
エドワードは考えるよりも先に、口から言葉がポロリと零れた。そのことに少々驚いたが、だがそれは他ならぬエドワード自身の本心だった。
「ああ、そうだ。もっともっと、事故を解明し安全を追求したい。それが、それがきっと……」
「それがきっと?」
エドワードはそこまで言って、声を詰まらせた。エドワードは、それが妻を弔い、贖罪することになると答えようとした。だが、本当にそうなのか、エドワードの中で強烈な葛藤と後悔が自身を苛んだ。
知らず知らずのうちに表情を強張らせるエドワードの頬を、アイリーンはふいにつねると、そのままぐにぐにと弄び始めた。
「てやんでい!なにすんだ!」
批難の表情を見せるエドワードの目を、アイリーンはまっすぐに見据えた。
「そんな表情しないでよって。あなたは悪い人じゃない。だから、きっと間違ってないよ」
「何をいきなり……」
いつもは見せないアイリーンの真剣な表情にたじろいでいると、アイリーンはそのまま相好を崩してニコッと笑った。
「なんとかなるさ。何とかならなかったら、僕が手伝うからさ」
その瞳は、なにかを察している目だった。そして、彼女の表情は、それを受け入れてくれていた。エドワードは、自分がいつの間にかに握りこぶしを作っていることに気が付いた。
「ああ、その時は頼むよ」
エドワードは、笑ってそう答えた。
シロッコ=クアール鉄道全線にて事故発生等の報告なし。全ての列車運行を無事故で確実に引継ぎ……。そんな報告がエドワードの耳に入り、エドワードのその日の業務は恙なく終了した。
エドワードが荷物をまとめて帰ろうとしたとき、二人の男が詰所にやってきた。
一人はエドワードにとってよく見覚えのある者だった。それは初老の男で、仕立ての良い燕尾服のような者を身に纏い、優雅さと気品を兼ねそろえた妙なオヤジだった。エドワードは、その男を評して戦前の貴族のようだと思った。
もう一人は、これまた仕立ての良い服を着てはいたが、しかし老いてはいなかった。関西人の言葉を借りるなら「シュッとした」中年男性であった。その男はエドワードを見つけるなり、値踏みするようにこちらをしげしげと見つめた後、にやりと笑った。
「レルフ支配人! 今日はどうしてここに」
ヨステンが素っ頓狂な言葉と共に初老の男のもとへ向かった。エドワードが状況についていけず呆然としていると、アイリーンが耳打ちしてくれた。
「初老の男はレルフ・マックレー公爵。このシク鉄の支配人だ。たしか、ラッセル子爵家の保護者でもあったはずだよ」
「シグナレスの?」
驚いて聞き返すと、アイリーンは変な顔をした。
「知らないのかい? 君もラッセル家の人間だろう?」
「あ、ああ。もちろんだとも。問題はあの男だ。あいつは何だい?」
エドワードは冷や汗をかきながら話の矛先を変える。アイリーンはちょっと不思議な顔をしながらも、それ以上は追求しなかった。
「彼はロザーヌエスパノ公爵家、次期当主様のアリアル卿よ」
「ロザーヌエスパノ家?」
「エスパノ公爵家はこの国有数の有力貴族よ。彼はロザーヌ家の出身だからロザーヌエスパノ家。ちなみに、ロザーヌは地方の名前で、エスパノ家は各地方に分家があるから、その地方の名を冠して呼ぶんだ」
「なんだその徳川や松平みたいなシステムは……」
エドワードが呆れていると、二人が近づいてきた。どうやら二人にその会話を聞かれていたらしく、レルフはニコニコしていた。
「紹介の手間が省けてうれしいよ、アイリーン君」
レルフのその一言で、アイリーンは呼び止める暇もなくぴゅぅっとどこかへ逃げてしまった。一人残されたエドワードは、愛想笑いをしながら二人と握手をした。
「で、何か御用でしょうか?」
「実はこのアリアル君の鉄道でちょっと困ったことがあってね。君に助けてやって欲しいんだ」
「困ったこと?」
エドワードが怪訝な顔をすると、アリアル卿は一枚の紙をエドワードに渡した。その紙は新聞のような情報誌であるようで、そこには大きく損壊した鉄道列車のスケッチがあった。
「これは……」
「我が一族が支配するスイザラス鉄道で、先日大きな事故が発生した。その事故の調査を依頼したい」
その男はなにかを含んだような表情を見せた。エドワードは訝しがる。なにかがおかしいと、エドワードの全神経が言っていた。
「事故調査は、それ専用の組織などが政府、又は鉄道内にあってしかるべきでしょう。わざわざ、他の鉄道から呼び寄せる必要がありますかい」
第一、エドワードは彼の品定めするような目線が気に入らなかった。エドワードのこのちょっとした抵抗に、レルフは笑みを見せた。
「ああ、そうだ。これはちょっとした、彼らへの貸しになる。どうかこのマックレー家、ひいては君たちラッセル家を助けると思って、協力してはくれんかね」
「お家騒動はよそでやってほしいものですが……」
そこまで言いかけて、エドワードの脳裏にはシグナレスの顔が浮かんだ。
―――流石に彼女の名前を出されては、顔を立てぬわけにはいくまい。一応、彼女は私の恩人だ―――
「いいでしょう。引き受けます」
そう言うと、アリアル卿は一瞬だけほっとしたような顔を見せた。そしてすぐにもとのエドワードにとって不愉快な顔に戻ると、慇懃な礼を言って去っていった。
―――何だあいつは……―――
その後ろ姿を、あからさまな不快感をにじませながら睨みつけていると、レルフがこっそり耳打ちしてきた。
「彼は、先日君を、彼のスイザラス鉄道へ移籍してくれと頼み込んできた。きっと、彼はこの件を口実に君を引き抜くつもりだろう。そして、それに応えるか応えないかは君の自由だ。しかし……」
「しかし、なんです?」
レルフは更に声を絞ると、絶対にエドワードにしか声が聞こえないようによりいっそう口を耳元に近付けた。
「君の正体が彼に露見する可能性がある。君は少々、目立つからね」
エドワードは驚いて目を見開いた。そんなエドワードの肩を軽く叩くと、レルフは立ち去ってしまった。
夕食後、エドワードはシグナレスの部屋を訪れた。すると、シグナレスは艶やかな格好でそれを迎え入れた。
「あら。愛しい人がいるのに、いけない人ね」
「馬鹿言え、そんなんじゃねえ」
エドワードはちょっと怒りながら、部屋の中にずかずか立ち入った。シグナレスはその姿を見て吹き出す。
「雰囲気も何もあったもんじゃないわね。あなたが奥様以外愛していなかったことが、よくわかるわ。それで、話はアリアル卿のことかしら?」
シグナレスはまるで全てを見通しているかのようにそう答えた。
「何で知ってる」
「私、これでもシク鉄の役員なの。そうじゃなきゃ、あなたを機関区にねじ込むことすらできないわ」
「でも君は、役員共が集まっていたときに居なかったじゃないか」
「だってあなたのこと、信用していたもの。結局なんとかなったんでしょう?」
そう言われて釈然としない顔をしているエドワードに、シグナレスは酒を注いだ。
「それで、話は何?」
「どうすればいいと思う」
単刀直入に、エドワードはシグナレスにそう聞いた。すると、シグナレスはまるで不思議なものでも見るような顔になった。
「好きにすればいいじゃない」
「おいおい。君は役員様なんじゃなかったのかい?」
「ええ。あなたがもしスイザラス鉄道に引き抜かれでもしたら、私は批難轟々でしょうね。でも、私はあなたの好きにすればいいと思うし、それを妨げる権利もないわ」
シグナレスはかなり酒精の強そうな酒を飲み干すと、ベッドに横たわりながらそう言った。
「しかし、レルフは私がダクターだということに気が付いていそうだったし、アリアルもそれに気が付く可能性が……」
「大丈夫よ。レルフおじさまは私の父親代わりだもの」
シグナレスは足を放り出しながらそう答えた。
「それに、以前にも彼にダクターを数人、紹介したことがあるわ。だからきっと見当がついたのでしょう。彼はそのあたりよくわかっている人だから、信頼していいと思うけれども」
「じゃあアリアルは……」
そう言うと、シグナレスはくすっと笑った。
「悪い人じゃないわ。いい人でもないけれども。そして、それは今、あまり関係のない話よ」
「どうしてさ」
「あなたは絶対に彼を気に入るし、そしてスイザラス鉄道の事が嫌いになるから」
「……どういう意味だ」
「さあ、それは運命の歯車が動いてからのお楽しみよ」
シグナレスはそう言うとベッドから這い出して、エドワードを部屋の外に追い出した。
「お、おい」
「さ、今夜はもう終わりよ。乙女にとって、夜の時間は大切なんですもの」
そう言うと、彼女はぴしゃりと戸を閉めてしまい、エドワード一人だけが残された。
だが、それに反比例して、エドワードが頼られることと言うのも減っていった。
「この鉄道の人間は優秀が過ぎる。俺の出る幕がもう終わっちまった」
エドワードは一人そんなことをぼやき始めた。それを聞いていたアイリーンが、思わず吹き出す。
「全部君の功績だろうに。もっと誇ったらどうだい?」
「馬鹿言いなさい。私の知識と経験の範疇を、もうすでに超えているよ」
エドワードが教えたことは、基礎の基礎である。シク鉄の面々は、たったそれだけで飛躍的に進歩した。それどころか、エドワードにとってもうすでに口出しできるレベルを超えているようにすら思う。
だが、エドワードはそこに一つの満足感を感じつつあった。まるで、男庭が一人前の機関士として育ち切ったときのような、そんな感慨がエドワードの中にはあった。
そして、エドワードの中には、一つの望みのようなものが顔を出し始めた。それは、件の事故を解決したときに感じた、もう一つの達成感だ。
「なあ、君はどうしたいんだい?」
「簡単なことだ。もっと安全な世の中にしたい」
エドワードは考えるよりも先に、口から言葉がポロリと零れた。そのことに少々驚いたが、だがそれは他ならぬエドワード自身の本心だった。
「ああ、そうだ。もっともっと、事故を解明し安全を追求したい。それが、それがきっと……」
「それがきっと?」
エドワードはそこまで言って、声を詰まらせた。エドワードは、それが妻を弔い、贖罪することになると答えようとした。だが、本当にそうなのか、エドワードの中で強烈な葛藤と後悔が自身を苛んだ。
知らず知らずのうちに表情を強張らせるエドワードの頬を、アイリーンはふいにつねると、そのままぐにぐにと弄び始めた。
「てやんでい!なにすんだ!」
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「そんな表情しないでよって。あなたは悪い人じゃない。だから、きっと間違ってないよ」
「何をいきなり……」
いつもは見せないアイリーンの真剣な表情にたじろいでいると、アイリーンはそのまま相好を崩してニコッと笑った。
「なんとかなるさ。何とかならなかったら、僕が手伝うからさ」
その瞳は、なにかを察している目だった。そして、彼女の表情は、それを受け入れてくれていた。エドワードは、自分がいつの間にかに握りこぶしを作っていることに気が付いた。
「ああ、その時は頼むよ」
エドワードは、笑ってそう答えた。
シロッコ=クアール鉄道全線にて事故発生等の報告なし。全ての列車運行を無事故で確実に引継ぎ……。そんな報告がエドワードの耳に入り、エドワードのその日の業務は恙なく終了した。
エドワードが荷物をまとめて帰ろうとしたとき、二人の男が詰所にやってきた。
一人はエドワードにとってよく見覚えのある者だった。それは初老の男で、仕立ての良い燕尾服のような者を身に纏い、優雅さと気品を兼ねそろえた妙なオヤジだった。エドワードは、その男を評して戦前の貴族のようだと思った。
もう一人は、これまた仕立ての良い服を着てはいたが、しかし老いてはいなかった。関西人の言葉を借りるなら「シュッとした」中年男性であった。その男はエドワードを見つけるなり、値踏みするようにこちらをしげしげと見つめた後、にやりと笑った。
「レルフ支配人! 今日はどうしてここに」
ヨステンが素っ頓狂な言葉と共に初老の男のもとへ向かった。エドワードが状況についていけず呆然としていると、アイリーンが耳打ちしてくれた。
「初老の男はレルフ・マックレー公爵。このシク鉄の支配人だ。たしか、ラッセル子爵家の保護者でもあったはずだよ」
「シグナレスの?」
驚いて聞き返すと、アイリーンは変な顔をした。
「知らないのかい? 君もラッセル家の人間だろう?」
「あ、ああ。もちろんだとも。問題はあの男だ。あいつは何だい?」
エドワードは冷や汗をかきながら話の矛先を変える。アイリーンはちょっと不思議な顔をしながらも、それ以上は追求しなかった。
「彼はロザーヌエスパノ公爵家、次期当主様のアリアル卿よ」
「ロザーヌエスパノ家?」
「エスパノ公爵家はこの国有数の有力貴族よ。彼はロザーヌ家の出身だからロザーヌエスパノ家。ちなみに、ロザーヌは地方の名前で、エスパノ家は各地方に分家があるから、その地方の名を冠して呼ぶんだ」
「なんだその徳川や松平みたいなシステムは……」
エドワードが呆れていると、二人が近づいてきた。どうやら二人にその会話を聞かれていたらしく、レルフはニコニコしていた。
「紹介の手間が省けてうれしいよ、アイリーン君」
レルフのその一言で、アイリーンは呼び止める暇もなくぴゅぅっとどこかへ逃げてしまった。一人残されたエドワードは、愛想笑いをしながら二人と握手をした。
「で、何か御用でしょうか?」
「実はこのアリアル君の鉄道でちょっと困ったことがあってね。君に助けてやって欲しいんだ」
「困ったこと?」
エドワードが怪訝な顔をすると、アリアル卿は一枚の紙をエドワードに渡した。その紙は新聞のような情報誌であるようで、そこには大きく損壊した鉄道列車のスケッチがあった。
「これは……」
「我が一族が支配するスイザラス鉄道で、先日大きな事故が発生した。その事故の調査を依頼したい」
その男はなにかを含んだような表情を見せた。エドワードは訝しがる。なにかがおかしいと、エドワードの全神経が言っていた。
「事故調査は、それ専用の組織などが政府、又は鉄道内にあってしかるべきでしょう。わざわざ、他の鉄道から呼び寄せる必要がありますかい」
第一、エドワードは彼の品定めするような目線が気に入らなかった。エドワードのこのちょっとした抵抗に、レルフは笑みを見せた。
「ああ、そうだ。これはちょっとした、彼らへの貸しになる。どうかこのマックレー家、ひいては君たちラッセル家を助けると思って、協力してはくれんかね」
「お家騒動はよそでやってほしいものですが……」
そこまで言いかけて、エドワードの脳裏にはシグナレスの顔が浮かんだ。
―――流石に彼女の名前を出されては、顔を立てぬわけにはいくまい。一応、彼女は私の恩人だ―――
「いいでしょう。引き受けます」
そう言うと、アリアル卿は一瞬だけほっとしたような顔を見せた。そしてすぐにもとのエドワードにとって不愉快な顔に戻ると、慇懃な礼を言って去っていった。
―――何だあいつは……―――
その後ろ姿を、あからさまな不快感をにじませながら睨みつけていると、レルフがこっそり耳打ちしてきた。
「彼は、先日君を、彼のスイザラス鉄道へ移籍してくれと頼み込んできた。きっと、彼はこの件を口実に君を引き抜くつもりだろう。そして、それに応えるか応えないかは君の自由だ。しかし……」
「しかし、なんです?」
レルフは更に声を絞ると、絶対にエドワードにしか声が聞こえないようによりいっそう口を耳元に近付けた。
「君の正体が彼に露見する可能性がある。君は少々、目立つからね」
エドワードは驚いて目を見開いた。そんなエドワードの肩を軽く叩くと、レルフは立ち去ってしまった。
夕食後、エドワードはシグナレスの部屋を訪れた。すると、シグナレスは艶やかな格好でそれを迎え入れた。
「あら。愛しい人がいるのに、いけない人ね」
「馬鹿言え、そんなんじゃねえ」
エドワードはちょっと怒りながら、部屋の中にずかずか立ち入った。シグナレスはその姿を見て吹き出す。
「雰囲気も何もあったもんじゃないわね。あなたが奥様以外愛していなかったことが、よくわかるわ。それで、話はアリアル卿のことかしら?」
シグナレスはまるで全てを見通しているかのようにそう答えた。
「何で知ってる」
「私、これでもシク鉄の役員なの。そうじゃなきゃ、あなたを機関区にねじ込むことすらできないわ」
「でも君は、役員共が集まっていたときに居なかったじゃないか」
「だってあなたのこと、信用していたもの。結局なんとかなったんでしょう?」
そう言われて釈然としない顔をしているエドワードに、シグナレスは酒を注いだ。
「それで、話は何?」
「どうすればいいと思う」
単刀直入に、エドワードはシグナレスにそう聞いた。すると、シグナレスはまるで不思議なものでも見るような顔になった。
「好きにすればいいじゃない」
「おいおい。君は役員様なんじゃなかったのかい?」
「ええ。あなたがもしスイザラス鉄道に引き抜かれでもしたら、私は批難轟々でしょうね。でも、私はあなたの好きにすればいいと思うし、それを妨げる権利もないわ」
シグナレスはかなり酒精の強そうな酒を飲み干すと、ベッドに横たわりながらそう言った。
「しかし、レルフは私がダクターだということに気が付いていそうだったし、アリアルもそれに気が付く可能性が……」
「大丈夫よ。レルフおじさまは私の父親代わりだもの」
シグナレスは足を放り出しながらそう答えた。
「それに、以前にも彼にダクターを数人、紹介したことがあるわ。だからきっと見当がついたのでしょう。彼はそのあたりよくわかっている人だから、信頼していいと思うけれども」
「じゃあアリアルは……」
そう言うと、シグナレスはくすっと笑った。
「悪い人じゃないわ。いい人でもないけれども。そして、それは今、あまり関係のない話よ」
「どうしてさ」
「あなたは絶対に彼を気に入るし、そしてスイザラス鉄道の事が嫌いになるから」
「……どういう意味だ」
「さあ、それは運命の歯車が動いてからのお楽しみよ」
シグナレスはそう言うとベッドから這い出して、エドワードを部屋の外に追い出した。
「お、おい」
「さ、今夜はもう終わりよ。乙女にとって、夜の時間は大切なんですもの」
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