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A07運行:国鉄三大事故①
0079A:事件は公判へ続く
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この試験の詳細は全て記録され、そしてそれは国の資産として共有されることになる。
事故から数か月がたち、現場にも遅い夏がやってこようという時。一つの公判が結審した。それは岩手地方裁判所で行われた、”十三本木峠事故”の裁判である。
後半には、井関も証人として出席した。彼は事故調査結果を元にこう証言する。
「この事故は予見出来かねるの事象により発生した事故でありますから、技術者はともかく現場でハンドルを握っていた機関士に、なんの責任がありましょうか」
新しい証拠と共にそんなことを言われたものだから、検察官は憤りを隠せない。
「ではたとえ機関士に責任がないとして、この事故は誰が責任を取るのでしょうか。まさか、官僚であるあなた方が負われるのですか?」
そんな意地悪な言葉が井関を突き刺す。しかし、井関はどうどうと答えた。
「それはもちろん、我々官僚の側にあるでしょう。我々は彼らに責任を負う立場です」
それを聞いて、検察官はもとより弁護士まで意外そうな顔をする。だがそこに、井関は”しかし”と付け加えた。
「事故の調査で行うべきは、真実の究明と原因の根絶です。責任の追及によってそれが阻害されては、我々は負うべき責任を負うことすらできない」
そう言って、検察官を睨みつける。
「そんなに誰かを処罰したければ、私を処罰するがよろしいでしょう。だが、たとえあなた方がそうしたとして、それはこの国の安全と発展になにひとつ寄与しない」
「司法に対する侮辱ですよ、それは」
「なら、司法が間違っているだけのことです」
井関は裁判官の方を見た。
「国鉄は一丸となり事故根絶を目指します。そのためにはいかような不安全要素も排除しなければなりません。今現在においては、ただ犯人探しとその処罰を追及する司法そのものが、重大な不安全要素です」
「証人、不規則発言を慎んでください。それから、一つだけ誤解を解いていただきたい」
裁判官は嫌味な鷹揚さで答える。
「裁判の目的は、真実の追求です。あなたがおっしゃるような犯人をひたすらなじるようなものでは……」
「では、事故調査への司法の干渉をやめてください」
井関の語気は荒い。弁護士が慌てて止めようとするが、それを意に介すつもりもない。
「本件事故は司法の介入により、証言の聴取に多大な支障をきたしました。もしあなた方が真実を求めるならば、司法の介入を……」
そこまで言って、井関は弁護士に袖をつかまれる。
「地裁でモノを言うのは、ここまでにしときましょう」
井関は、ようやく口をつむった。
井関の暴走により危ぶまれた裁判だったが、蓋を開けてみれば執行猶予付きの短期刑で結審した。この手の裁判において実刑がついてもおかしくない現場では、なかなかの勝利であろうと思われる。
そして井関にとってうれしいことに、国鉄への復職も決定した。
「まったく、君らしくもない。地裁ごときにモノ申しても無駄なことぐらい君にもわかるだろう」
「でも、私は救われたような心持ちでした」
機関士は深々と頭を下げた。
「……今更ですが、ご自身にミスはあったと思いますか?」
「……わかりません。最初から信号は赤であった気もするし、途中でパッと切り替わったような気もします。私にはもう、わかりません……」
「ええ、そうでしょうとも」
機関士はとても憔悴しているように見えた。勾留生活の厳しさを思わせる。
「どうか今は、ゆっくり休んでください」
井関はそれ以外に、かける言葉が無かった。機関士は再びのお辞儀で答える。
「本当にありがとうございました。皆さんが本庁にいらっしゃるなら、国鉄は安泰ですね」
機関士はそう言って官舎へと戻っていった。四人は彼が元の古巣に戻れたことを喜ぶと共に、しかし不安を抱いたままだった。
事故から数か月がたち、現場にも遅い夏がやってこようという時。一つの公判が結審した。それは岩手地方裁判所で行われた、”十三本木峠事故”の裁判である。
後半には、井関も証人として出席した。彼は事故調査結果を元にこう証言する。
「この事故は予見出来かねるの事象により発生した事故でありますから、技術者はともかく現場でハンドルを握っていた機関士に、なんの責任がありましょうか」
新しい証拠と共にそんなことを言われたものだから、検察官は憤りを隠せない。
「ではたとえ機関士に責任がないとして、この事故は誰が責任を取るのでしょうか。まさか、官僚であるあなた方が負われるのですか?」
そんな意地悪な言葉が井関を突き刺す。しかし、井関はどうどうと答えた。
「それはもちろん、我々官僚の側にあるでしょう。我々は彼らに責任を負う立場です」
それを聞いて、検察官はもとより弁護士まで意外そうな顔をする。だがそこに、井関は”しかし”と付け加えた。
「事故の調査で行うべきは、真実の究明と原因の根絶です。責任の追及によってそれが阻害されては、我々は負うべき責任を負うことすらできない」
そう言って、検察官を睨みつける。
「そんなに誰かを処罰したければ、私を処罰するがよろしいでしょう。だが、たとえあなた方がそうしたとして、それはこの国の安全と発展になにひとつ寄与しない」
「司法に対する侮辱ですよ、それは」
「なら、司法が間違っているだけのことです」
井関は裁判官の方を見た。
「国鉄は一丸となり事故根絶を目指します。そのためにはいかような不安全要素も排除しなければなりません。今現在においては、ただ犯人探しとその処罰を追及する司法そのものが、重大な不安全要素です」
「証人、不規則発言を慎んでください。それから、一つだけ誤解を解いていただきたい」
裁判官は嫌味な鷹揚さで答える。
「裁判の目的は、真実の追求です。あなたがおっしゃるような犯人をひたすらなじるようなものでは……」
「では、事故調査への司法の干渉をやめてください」
井関の語気は荒い。弁護士が慌てて止めようとするが、それを意に介すつもりもない。
「本件事故は司法の介入により、証言の聴取に多大な支障をきたしました。もしあなた方が真実を求めるならば、司法の介入を……」
そこまで言って、井関は弁護士に袖をつかまれる。
「地裁でモノを言うのは、ここまでにしときましょう」
井関は、ようやく口をつむった。
井関の暴走により危ぶまれた裁判だったが、蓋を開けてみれば執行猶予付きの短期刑で結審した。この手の裁判において実刑がついてもおかしくない現場では、なかなかの勝利であろうと思われる。
そして井関にとってうれしいことに、国鉄への復職も決定した。
「まったく、君らしくもない。地裁ごときにモノ申しても無駄なことぐらい君にもわかるだろう」
「でも、私は救われたような心持ちでした」
機関士は深々と頭を下げた。
「……今更ですが、ご自身にミスはあったと思いますか?」
「……わかりません。最初から信号は赤であった気もするし、途中でパッと切り替わったような気もします。私にはもう、わかりません……」
「ええ、そうでしょうとも」
機関士はとても憔悴しているように見えた。勾留生活の厳しさを思わせる。
「どうか今は、ゆっくり休んでください」
井関はそれ以外に、かける言葉が無かった。機関士は再びのお辞儀で答える。
「本当にありがとうございました。皆さんが本庁にいらっしゃるなら、国鉄は安泰ですね」
機関士はそう言って官舎へと戻っていった。四人は彼が元の古巣に戻れたことを喜ぶと共に、しかし不安を抱いたままだった。
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