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A04運行:特命係、北海道を征く

0047A:ひどい奴らがやってくる!

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「おい、そこの君」

 笹井はまず、床に突っ伏している職員に声をかけた。

「大蔵官僚どもは今どこにいる」

「旭川に……到着したところ……だと……」

「水野! 今から旭川を出て、興部おこっぺに着くのは何日の何時だ!」

 水野はなぜか持っていたヤカンを放り投げると、ポケットの時刻表をめくり始める。

「ええっと……。どれだけ早くここを出たとしても、明日の6時が最速です!」

 それを聞いて小林と顔を見合わせる。

「大蔵の連中、電撃戦を仕掛けるつもりか?」

「だとしたら、勝機があるな」

 二人は互いに頷きあう。

「どういうことだ?」

「敵の戦略はこうだ。彼らは北海道を一斉に調査したい。だが、そのために大規模な調査団を編成し同時多発的な調査を……。とすると、横断するセクションが多重化し、この調査を行うという情報が外部に漏洩する恐れが高まる」

「関連するセクションが増えれば増えるほど、その動きは外部から観察しやすくなる。なんだって、大蔵省庁前には彼らの動きを監視するための密偵まで詰めているからな」

 さらっと笹井が恐ろしいことを言うが、小林は話を続けた。

「だから、調査団は少数精鋭を以て組織。そして、我々に対策の暇を与えないために、一気に調査をしなければならない」

「通常、一つの職場を検査するのに要する時間は半日程度。だが、我々の意表を突くためにはそれでは遅すぎる」

「ワシの調査したところでは……。”電撃戦”状態の調査団は、ひとつの職場につき要する時間は一時間」

 そう言うと、笹井は井関の方を向いた。

「これが意味することが、わかるか?」

 井関は考える。普通は半日かかる調査。各職場の隅々まで確認し、隠された書類は、物品は無いかつぶさに調査していく作業。それが、たった一時間で終わるわけがない。

 井関はハッとひらめく。

「まさか、これは脅しか?」

「さすがは俺たちが見込んだ男だ。その通り、本件調査はただのコケ脅しだ」

 大蔵省は、会計検査院は、いつでも鉄道職場を監視している。不正な資産の動きがあれば、いつでもわかるぞ……。これが、この調査で出る彼らからのメッセージ。

「じゃあ、そこまで神経質になって証拠を隠す必要はないということか?」

「ああ。せいぜい写真を撮られて、布団の中身をひっくり返されるぐらいだろう……。あ、だからヨメのヌードを隠し持ってるやつらは回収しておけよ」

 笹井の言葉に数人がギクリとする。そのうちの何人かは内地の人間のようで、井関は田舎を思い出し少々ばかり同情した。

「ともかく、表から証拠を消すこと。写真を撮られて不味いものを隠しておくこと。それさえできれば、そこまで慌てる必要はない」

「じゃあ、機関車はどうするんだ?」

 一人がC13を指さす。もしかしなくとも、敵の目的はこの機関車だろうと、彼らも思うのである。

「おい、鍛冶職人。ナンバープレートは何時間で作ることができる」

「ええっと、5時間もあれば……」

「じゃあ、作ろう。今の状態では、あまりにも不自然だ」

 ヤミ機関車C13は、個体番号ナンバーを示すプレートが存在しない。雑なチョーク書きで”C13 55”と書かれている。

「確かにこのままじゃ、怪しまれるかもな。C13なんて機関車は居ない」

「それどころか、ナンバープレートが取り外されているというのが怪しすぎる。なにか意図を疑われても致し方ない……。なあ井関、何か良い偽名・・はないかい」

「そう言われてもなあ」

 そう言われて、井関は考え込む。すると、横で水野が声を上げた。

「C12 109などはどうでしょう。これは先月、パルチザンの攻撃で大破したあと解体されています。が、まだ大蔵省の財物リストには載っているはずです」

「それだ! 鍛冶職人、いますぐC12 109と書かれたプレートを作ってくれ!」

「ガッテン承知!」

「あと井関、お前はこの機関車がC12 109に見えるよう、誤魔化してくれ!」

「わかった。水野、君も手伝ってくれ。まずはこの米国製シリンダーをなんとか国産に見えるように……」

 鍛冶職場に火が入り、鉄が打たれる。急造品のプレートがあれよあれよと出来上がっていく。
 井関達は機関車に小細工をしながら、そのプレートを取り付けていく。その間にも、水野たちは紙の資料の類を石炭庫に投げ入れる。

「燃やす必要はないんだな?」

「石炭で覆って隠せば、そこまでは確認しないはずだ」

「よし、じゃあこれでいいだろう」

 時刻は夜半を過ぎる。終列車が興部駅へとやってくる。

「いやあ、お疲れさん。あとは明日の朝に少し調整をして……。とと、水野はどこへ行った?」

 笹井が職員たちに一説を講じていると、そこで水野がいなくなったことに気が付いた。

「そういえば、先ほど駅の方へ走っていきましたが……。なにかの作業じゃなかったんですか?」

「え? まさかあ。我々は何も関知していないが……」

 井関が困惑していると、当の本人が職場に走りこんできた。

「大変です!」

 水野は肩で息をしながらそういう。

「どうした、水野!」

 井関が声をかける。すると、彼はたんを絡ませながらかすかな声でこう言った。

「調査団が到着しました……。終列車で……!」
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