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A03運行:特命掛のハジメテ

0036A:東京の話をしていると、そろそろ帰りたくなってくるね

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 列車は応急の修理をして、なんとか次の駅までは走れるようになったらしい。それは果たして事実であったようで、景色はゆっくりと動き出す。

「事故のメカニズムは判明した。問題は、このような事態に至った経緯だ」

 議論は、小林のこの一言で再び動き出した。

「井関、一般に、軸焼け現象はどのようなことが原因で発生するんだ?」

「パッと思いつく限りでは、三つないしその両方の要因が想定される」

 笹井が先を促すと、井関は人差し指をピンと立てた。

「ひとつめ。速度の超過。その車輛が本来想定されている速度を越えて運転を続けた場合。これは想像しやすいかな」

「確かに理解しやすい。速度が速くなればなるほど、摩耗部に負担がかかるわけだからな」

 笹井の理解に、井関はその通りと首肯した。

「ふたつめ。走行時間の超過。その車輛が本来想定されている連続走行時間より長時間の運転を行った場合」

「これはちょっと理解しにくいな」

 小林は首を傾げた。

「問題は摩耗部の発熱なんだ。これは適切な速度で運転をされていても必ず発生する。だから、停車してこれを冷やしてあげることが必要になる」

「そうか……。例えば特急列車などが、たまに何の意味も無く駅に停車するのはこのためか?」

「因果が逆だが、そう言う側面が無いこともない。現に、この前まで東海道本線の主力機関車だったEF57形電気機関車は、この問題のために準主力級に格下げされてしまっている」

「なるほど……。つまり、車輛にはそれぞれその用途に合わせて、おおまかな連続走行時間が設定されている。それをオーバーすると、軸焼け現象が起きるというわけだな?」

 小林が正しくできたところで、井関はまさにその通りだと太鼓判を押した。

「最後、みっつめ。その車輛が本来想定されている適切な整備を、受けられなかった場合」

「つまりそれは、現場が整備を怠ったから、ということか?」

 小林の声が、一転厳しくなる。

「そのような言い方もできましょう。しかし、ほとんどの現場は必死にがんばっています」

 その声に反応したのは、やはり水野だった。

「設計時点で想定された検査の方法その他が、現場から見てあまりにも不適切・不可能なものである。というケースが多々散見されます。現場がいくら頑張ったところで、それを覆すことはできません」

 いきなりそんなことを言い出すものだから、井関はドッキリしてしまった。

「手痛い車輛局批判をドウモ……。しかし、水野が言っていることは事実だ」

「すみません先輩。でも、べつにあなたを批判したわけでは」

「いいんだぞ水野君。車輛局がべらぼうなせいで国鉄が迷惑をこうむった事案は一つや二つではないからな」

 笹井はふんぞり返ってそう言う。

「まあ、状況はよく分かった。つまりここに四つ目の原因、すなわち”設計が悪い”というものも加わるわけだな」

「”元”設計技師としては否定したいところだが、これは否定するわけにはいかないね」

 井関はあくまでもあいまいな言葉で首を斜めに振った。

「原因は、このうちのどれか、ないしその全て、か。さて、どれだろう」

「それは……」

 井関は、ギクリと肩を震わせる車掌の方を見やりながら答える。

「彼に聞けば答えが出そうだね」
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