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A02運行:特命掛、結成
0023A:そもそも石炭に品質という概念があること自体、初めて知ったんだ
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拳銃は、その後すぐにやってきた除雪車に弾き飛ばされて、ホームの屋根の上に乗っかってしまったようだ。
警官は特にうろたえることも無く、一緒に探してくれたお礼だと言って交番へ井関達を連行した。
「いやあ、最近不届き者が多くてね」
シゲと呼ばれているこのトンデモ警官は、温いお茶を出しながらまったく詫びる素振りも無くそんなことを言う。
「不届きモノって」
「なにやら、この辺りで汽車の写真を撮ってる不審者だよ。アテクシは奴がパルチザンだと睨んどる」
「でも、警察さんによりゃあの火事はただの事故なんだろう?」
井関がそう言うと、シゲはぎろりと井関を睨みつけた。
「あれが事故に見えるかい」
「さあ、ボクらにはわからない。でも、それがそちらさんの出した結論だ」
シゲはあからさまに不機嫌になった。
「フン! あんなもん、鼻の利かないヤツラのたわごとさね。キミらはまだ若いのに、そんなことを信じているようではいけない」
「じゃあ、シゲさんは事故じゃないと思っているわけだ」
笹井がそう言うと、シゲはぶんぶんと首を縦に振った。
「ああそうだとも! だが、本部はそれを何度言っても信じてはくれんのだよ」
ハァ! とわざとらしいため息とともに、シゲはそんなことを言った。
「アテクシが本部の連中を紹介してやるから、君たちの手でこの件を立証してはくれんかね。逮捕は私がやる」
「それは、手柄を寄越せってこと?」
「まあ、そうだな。丁度いいだろう。君たちに逮捕権はないんだし」
「クソジジイ……」
「何でも言ってよいぞ。警官は市民に嫌われるのが仕事だからな!」
結局、このシゲの伝手で真岡警察署の担当刑事に会うことができるようになった。だから少しはこの男に感謝をしなければならないのかもしれないが、しかし井関は納得がいかない。
ちなみに、シゲはあのあとゲハゲハ笑いをしながら茶を飲んだせいで、戦線を離脱した。
「それでね、井関さん」
紹介された刑事は、佐藤と九重という名前だった。彼はシゲに比べて幾分か理性的で、とても明瞭な人間だった。
「まあ、国鉄さん方の言い分もわかるんですよ」
「ご理解いただけますか」
「ええ。ですがね、真実は変えられない」
彼はピシャリとそう言って、資料を差し出した。
「原因はどう考えても、石炭の自然発火です」
「それがまずわからんのです。機関士たちは”石炭が自分から燃えてくれるなら世話ないよ”と言っております」
「ええ、彼らはそう言うでしょうね」
怪訝な顔をする井関に、佐藤は何かを諭すかのように続ける。
「まず、皆さんは科学的な基礎が間違っています。石炭というのは、勝手に燃える性質を持っています」
「そんな馬鹿な」
「石炭は炭素の塊です。そして、それが酸素に曝露されると、次第に炭素と酸素が結合します。その時に熱が発生し、その熱が高まっていくと発火に繋がる」
「ちょっと待ってくださいよ。それが本当だとしたら、日本中の鉄道は火事現場を背負いながら走っていることになる」
そんなバカな話があるか、と笹井は言うが、しかし佐藤刑事は言葉を変えない。
「話には続きがあります。この発火現象は、石炭の品質が悪くなればなるほど、よく起こります」
「なんだって?」
「ええ。ですから、本土で走る特急なんかに使われるような上等な石炭では、自然発火はほぼ起こらない。逆に、火力発電所で使うような粗悪な石炭は、すぐに燃えます」
もっとも、三日間ぐらい風通しの悪いところに放置、とかでもない限り発火しませんが。と佐藤刑事は付け加えた。
「つまり、警察の見解は、国鉄が不適切な石炭を不適切に保管したため、石炭が自然発火し火事が起こった……と?」
「ええ、そういうことですね」
「わかりました、どうも」
井関は釈然としない。
「ひとつ、聞いてもよろしいですか?」
「はい、なんでしょうか」
「この件がもし、パルチザンによるものだとしたら。どうしますか?」
「始末します。必ず、樺太庁警察の名にかけて」
警官は特にうろたえることも無く、一緒に探してくれたお礼だと言って交番へ井関達を連行した。
「いやあ、最近不届き者が多くてね」
シゲと呼ばれているこのトンデモ警官は、温いお茶を出しながらまったく詫びる素振りも無くそんなことを言う。
「不届きモノって」
「なにやら、この辺りで汽車の写真を撮ってる不審者だよ。アテクシは奴がパルチザンだと睨んどる」
「でも、警察さんによりゃあの火事はただの事故なんだろう?」
井関がそう言うと、シゲはぎろりと井関を睨みつけた。
「あれが事故に見えるかい」
「さあ、ボクらにはわからない。でも、それがそちらさんの出した結論だ」
シゲはあからさまに不機嫌になった。
「フン! あんなもん、鼻の利かないヤツラのたわごとさね。キミらはまだ若いのに、そんなことを信じているようではいけない」
「じゃあ、シゲさんは事故じゃないと思っているわけだ」
笹井がそう言うと、シゲはぶんぶんと首を縦に振った。
「ああそうだとも! だが、本部はそれを何度言っても信じてはくれんのだよ」
ハァ! とわざとらしいため息とともに、シゲはそんなことを言った。
「アテクシが本部の連中を紹介してやるから、君たちの手でこの件を立証してはくれんかね。逮捕は私がやる」
「それは、手柄を寄越せってこと?」
「まあ、そうだな。丁度いいだろう。君たちに逮捕権はないんだし」
「クソジジイ……」
「何でも言ってよいぞ。警官は市民に嫌われるのが仕事だからな!」
結局、このシゲの伝手で真岡警察署の担当刑事に会うことができるようになった。だから少しはこの男に感謝をしなければならないのかもしれないが、しかし井関は納得がいかない。
ちなみに、シゲはあのあとゲハゲハ笑いをしながら茶を飲んだせいで、戦線を離脱した。
「それでね、井関さん」
紹介された刑事は、佐藤と九重という名前だった。彼はシゲに比べて幾分か理性的で、とても明瞭な人間だった。
「まあ、国鉄さん方の言い分もわかるんですよ」
「ご理解いただけますか」
「ええ。ですがね、真実は変えられない」
彼はピシャリとそう言って、資料を差し出した。
「原因はどう考えても、石炭の自然発火です」
「それがまずわからんのです。機関士たちは”石炭が自分から燃えてくれるなら世話ないよ”と言っております」
「ええ、彼らはそう言うでしょうね」
怪訝な顔をする井関に、佐藤は何かを諭すかのように続ける。
「まず、皆さんは科学的な基礎が間違っています。石炭というのは、勝手に燃える性質を持っています」
「そんな馬鹿な」
「石炭は炭素の塊です。そして、それが酸素に曝露されると、次第に炭素と酸素が結合します。その時に熱が発生し、その熱が高まっていくと発火に繋がる」
「ちょっと待ってくださいよ。それが本当だとしたら、日本中の鉄道は火事現場を背負いながら走っていることになる」
そんなバカな話があるか、と笹井は言うが、しかし佐藤刑事は言葉を変えない。
「話には続きがあります。この発火現象は、石炭の品質が悪くなればなるほど、よく起こります」
「なんだって?」
「ええ。ですから、本土で走る特急なんかに使われるような上等な石炭では、自然発火はほぼ起こらない。逆に、火力発電所で使うような粗悪な石炭は、すぐに燃えます」
もっとも、三日間ぐらい風通しの悪いところに放置、とかでもない限り発火しませんが。と佐藤刑事は付け加えた。
「つまり、警察の見解は、国鉄が不適切な石炭を不適切に保管したため、石炭が自然発火し火事が起こった……と?」
「ええ、そういうことですね」
「わかりました、どうも」
井関は釈然としない。
「ひとつ、聞いてもよろしいですか?」
「はい、なんでしょうか」
「この件がもし、パルチザンによるものだとしたら。どうしますか?」
「始末します。必ず、樺太庁警察の名にかけて」
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