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A01運行:井関、樺太へ
0013A:少女は紫煙を燻らせながら、列車を暴走させた。
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今や密室となった機関車は、ゆっくりと動きだした。
「おい、何をする気だ!」
「何って、オジサンたちの聴取に付き合う気なのだけど。私にいろいろ聞きたかったのでしょう?」
彼女はなんてこと無いように言いながら、機関車を繰って走り始める。機関車は彼女の手によってどんどんとその速度を速めていく。
「おいふざけるな、なんのつもりだ!」
小林が焦っている間にも笹井は出口を探している。すると、機関車の奥にもう一つの扉を見つけた。
笹井がそちらに行こうとすると、少女が呼び止めた。
「そっちには行かない方がいいよって、言ったよね?」
「おい井関! 安全装置があるから大丈夫なんだろう? お前、そう言ったよな!」
その言葉にうなづこうとして、井関は動きを止めた。首を一回縦に振るというそのわずかな動きさえ、井関はしてしまうことを躊躇していた。
「安全装置を信じるなら、早くした方がいいよ。今、時速23キロ」
それを聞いて水野が奥の出口へ通り抜けようとする。その瞬間、耳元で電気が迸る音が聞こえた。
「無理をするな水野。ともかく、彼女の要求に答えようじゃないか」
井関はそう言って彼女に向きなおる。だが、彼女は笑っていた。
「私がオジサンたちの話を聞こうって言ってるんじゃない。変な人ね」
「キミ……!」
井関の感情が膨れ上がる。だが彼はそれを必死に押さえつけた。
井関達の生命は今や彼女の両手の中にある。その手が握る二つのハンドルが列車を安全に進め、そして止める。もし彼女の手さばきが数瞬でも乱れようものなら、安全は保障されない。
「ひとつ、イイコト教えてあげるわ」
彼女はそのままの表情でそう言う。
「この列車を安全に止められるのは、この中で私だけ。たとえ何があろうとも、私からハンドルを奪って停車させようなんてことは考えない方がいいわ」
「わかった。我々は君に手出ししないし、ハンドルにも手を振れない。それでいいな」
「やっぱりオジサンたちは頭がいいわ」
彼女はそう言うと、胸ポケットから煙草を出して吸い始めた。
「子供が……」
「父さんは、私のことを”小さな大人”って呼んだわ。だから私、子供じゃないの」
「いったい君はどんな教育を受けて……! どうしたらこんなことになるんだ!」
「あら、父さんはあなたたちの所為だって言ってたけど、違うの?」
こんなこと。年端もいかない少女が、うつろなまなざしで煙草を吸いながら機関車を運転しているこの光景。それが、我々の所為?
井関の背筋に寒いものが走る。
「君に、聞きたいことがある」
「ええ、なんでも聞いてちょうだい」
「これは、君たちの復讐か?」
彼女はこちらに目も合わせず、淡々と答えた。
「だったら、どうするの?」
「調査隊の責任者はボクだ。だから、私一人の命で勘弁してほしい」
井関はコートと背広を脱ぐと、その場に座り込んだ。
「コート、着た方がいいよ。寒いから」
「キミ、ボクは本気で……!」
「私はただ、オジサン達に話し相手になってほしいだけ」
少女はハンドルを最大力行に叩き込む。機関車が唸り声をあげた。瞬間、加速度が大きくなって加速感が増えていく。
列車はそのまま、暗闇へと突き進み始めた。もはや列車は、終点まで停まれない。停まることは、許されていない。
「おい、何をする気だ!」
「何って、オジサンたちの聴取に付き合う気なのだけど。私にいろいろ聞きたかったのでしょう?」
彼女はなんてこと無いように言いながら、機関車を繰って走り始める。機関車は彼女の手によってどんどんとその速度を速めていく。
「おいふざけるな、なんのつもりだ!」
小林が焦っている間にも笹井は出口を探している。すると、機関車の奥にもう一つの扉を見つけた。
笹井がそちらに行こうとすると、少女が呼び止めた。
「そっちには行かない方がいいよって、言ったよね?」
「おい井関! 安全装置があるから大丈夫なんだろう? お前、そう言ったよな!」
その言葉にうなづこうとして、井関は動きを止めた。首を一回縦に振るというそのわずかな動きさえ、井関はしてしまうことを躊躇していた。
「安全装置を信じるなら、早くした方がいいよ。今、時速23キロ」
それを聞いて水野が奥の出口へ通り抜けようとする。その瞬間、耳元で電気が迸る音が聞こえた。
「無理をするな水野。ともかく、彼女の要求に答えようじゃないか」
井関はそう言って彼女に向きなおる。だが、彼女は笑っていた。
「私がオジサンたちの話を聞こうって言ってるんじゃない。変な人ね」
「キミ……!」
井関の感情が膨れ上がる。だが彼はそれを必死に押さえつけた。
井関達の生命は今や彼女の両手の中にある。その手が握る二つのハンドルが列車を安全に進め、そして止める。もし彼女の手さばきが数瞬でも乱れようものなら、安全は保障されない。
「ひとつ、イイコト教えてあげるわ」
彼女はそのままの表情でそう言う。
「この列車を安全に止められるのは、この中で私だけ。たとえ何があろうとも、私からハンドルを奪って停車させようなんてことは考えない方がいいわ」
「わかった。我々は君に手出ししないし、ハンドルにも手を振れない。それでいいな」
「やっぱりオジサンたちは頭がいいわ」
彼女はそう言うと、胸ポケットから煙草を出して吸い始めた。
「子供が……」
「父さんは、私のことを”小さな大人”って呼んだわ。だから私、子供じゃないの」
「いったい君はどんな教育を受けて……! どうしたらこんなことになるんだ!」
「あら、父さんはあなたたちの所為だって言ってたけど、違うの?」
こんなこと。年端もいかない少女が、うつろなまなざしで煙草を吸いながら機関車を運転しているこの光景。それが、我々の所為?
井関の背筋に寒いものが走る。
「君に、聞きたいことがある」
「ええ、なんでも聞いてちょうだい」
「これは、君たちの復讐か?」
彼女はこちらに目も合わせず、淡々と答えた。
「だったら、どうするの?」
「調査隊の責任者はボクだ。だから、私一人の命で勘弁してほしい」
井関はコートと背広を脱ぐと、その場に座り込んだ。
「コート、着た方がいいよ。寒いから」
「キミ、ボクは本気で……!」
「私はただ、オジサン達に話し相手になってほしいだけ」
少女はハンドルを最大力行に叩き込む。機関車が唸り声をあげた。瞬間、加速度が大きくなって加速感が増えていく。
列車はそのまま、暗闇へと突き進み始めた。もはや列車は、終点まで停まれない。停まることは、許されていない。
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