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A01運行:井関、樺太へ
0012A:探し人は誰ですか。この場合は、アナタだったようです
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「狭いが勘弁しておくれ。あと、あまり奥の方に行かないでよ」
少女に案内されるがままに、井関達は機関車の中へと招かれた。どうやらこれは小沼へと戻る貨物列車を牽引する機関車のようで、プレートに書かれた文字は「EF16 52」。
「なぜ、奥に入ってはならないんだ?」
つまり、この機関車は事故を起こした機関車と同型の機関車ということである。それを念頭に置きながら、井関達はここに乗り込んでいた。
「感電するからさ」
彼女の言葉は非常に短かった。しかしながらそれは笹井を怯えさせるには十分で、彼は言葉にならない叫びをあげながら飛び上がった。そんな笹井を井関は呆れたような口調でたしなめる。
「安心したまえ。そんなこともあろうかと、保護回路は組み込んである」
だがその言葉は、直後の彼女の発言によって霧散した。
「ああ、感電してからようやく動作する”不安全装置”のことかい? オジサン詳しいね」
「あ、ああ、オジサンはエリートだから詳しいんだ……」
井関は、まさか自分が設計したとは言い出せず、そう言葉を濁した。
「オジサンたち、軍人サンにエライ褒められてたじゃないの。あの人たちは自分で運転するわけじゃないから、『国鉄が俺たちのために新型機関車を導入してくれた!』って大喜びよ」
少女はけらけら笑いながら、淡々と運転の準備を進める。その手際はあまりにもよかった。
だがしかし、彼女は女学校の制服のようなものを防寒具の中に着ている。見た目も、やつれてはいるがあどけなさが残っている。とうてい、成人しているようには思えなかった。
―――そもそも、彼女は何者なんだ?―――
不審に思う井関に、少女は笑いかけた。
「それでオジサンたち、事故当時の機関助士を探しているんですって?」
「ああ、なんでそれを知っているんだ?」
「さっき、車掌さんから連絡があったの」
少女は車内に積みあがった毛布を運びながらそう答える。
「機関助士が犯人だと思ってるんですって?」
「ええっと、我々は機関助士が何らかの事情を知っているものだと思い、それを聞き出そうと……」
井関がそう言うと、少女は彼の鼻先をツンと触れた。
「背広を着たオジサンって言うことがまだるっこしいのね。父さんが言ってた通りだわ」
「父さん?」
「今朝、あなたたちを殴り飛ばしたあのガンコジジイよ。それはいいとして、なんで機関助士が犯人だと思ったの?」
井関は違和感を覚えつつ、彼女から感じるただならぬ気配を求めて質問に答えた。
「列車には機械的な故障が見当たらなかった。そして、事故が起きる数分前に、意識が消失した記録がある」
「だから、誰かが機関士の意識を奪ったんだろうってことね」
「理解が早くて助かるよ。君は何か、この件に関して知っていることがあるのかい?」
井関は、なんとなくそう感じた。彼女が放つ異様な雰囲気が、自分は何かを知っているんだと言外に語っているような気がした。そしてそれはこの場合、あまりにも正しかった。
「驚かないで欲しいんだけど、私は機関助士の消息を知っているわ」
「なんだって!? じゃあ、それを教えてくれ! 機関助士は今、どこにいる!」
勢い込んで言う小林に、しかし彼女は一転険しい顔になった。
「その前に、機関助士を捕まえて何をしたいのか、教えてくださる?」
「何って……、まずは話を聞いたうえで真実を知る。その後のことは、それから考える」
それを聞いて、少女は再び、年齢に不相応の蠱惑的な笑みを浮かべる。
「そっか、じゃあ教えてあげる」
そう言って彼女は立ち上がり、彼らにとって唯一となる外への扉の鍵を、締めた。
「機関助士は、私よ」
少女に案内されるがままに、井関達は機関車の中へと招かれた。どうやらこれは小沼へと戻る貨物列車を牽引する機関車のようで、プレートに書かれた文字は「EF16 52」。
「なぜ、奥に入ってはならないんだ?」
つまり、この機関車は事故を起こした機関車と同型の機関車ということである。それを念頭に置きながら、井関達はここに乗り込んでいた。
「感電するからさ」
彼女の言葉は非常に短かった。しかしながらそれは笹井を怯えさせるには十分で、彼は言葉にならない叫びをあげながら飛び上がった。そんな笹井を井関は呆れたような口調でたしなめる。
「安心したまえ。そんなこともあろうかと、保護回路は組み込んである」
だがその言葉は、直後の彼女の発言によって霧散した。
「ああ、感電してからようやく動作する”不安全装置”のことかい? オジサン詳しいね」
「あ、ああ、オジサンはエリートだから詳しいんだ……」
井関は、まさか自分が設計したとは言い出せず、そう言葉を濁した。
「オジサンたち、軍人サンにエライ褒められてたじゃないの。あの人たちは自分で運転するわけじゃないから、『国鉄が俺たちのために新型機関車を導入してくれた!』って大喜びよ」
少女はけらけら笑いながら、淡々と運転の準備を進める。その手際はあまりにもよかった。
だがしかし、彼女は女学校の制服のようなものを防寒具の中に着ている。見た目も、やつれてはいるがあどけなさが残っている。とうてい、成人しているようには思えなかった。
―――そもそも、彼女は何者なんだ?―――
不審に思う井関に、少女は笑いかけた。
「それでオジサンたち、事故当時の機関助士を探しているんですって?」
「ああ、なんでそれを知っているんだ?」
「さっき、車掌さんから連絡があったの」
少女は車内に積みあがった毛布を運びながらそう答える。
「機関助士が犯人だと思ってるんですって?」
「ええっと、我々は機関助士が何らかの事情を知っているものだと思い、それを聞き出そうと……」
井関がそう言うと、少女は彼の鼻先をツンと触れた。
「背広を着たオジサンって言うことがまだるっこしいのね。父さんが言ってた通りだわ」
「父さん?」
「今朝、あなたたちを殴り飛ばしたあのガンコジジイよ。それはいいとして、なんで機関助士が犯人だと思ったの?」
井関は違和感を覚えつつ、彼女から感じるただならぬ気配を求めて質問に答えた。
「列車には機械的な故障が見当たらなかった。そして、事故が起きる数分前に、意識が消失した記録がある」
「だから、誰かが機関士の意識を奪ったんだろうってことね」
「理解が早くて助かるよ。君は何か、この件に関して知っていることがあるのかい?」
井関は、なんとなくそう感じた。彼女が放つ異様な雰囲気が、自分は何かを知っているんだと言外に語っているような気がした。そしてそれはこの場合、あまりにも正しかった。
「驚かないで欲しいんだけど、私は機関助士の消息を知っているわ」
「なんだって!? じゃあ、それを教えてくれ! 機関助士は今、どこにいる!」
勢い込んで言う小林に、しかし彼女は一転険しい顔になった。
「その前に、機関助士を捕まえて何をしたいのか、教えてくださる?」
「何って……、まずは話を聞いたうえで真実を知る。その後のことは、それから考える」
それを聞いて、少女は再び、年齢に不相応の蠱惑的な笑みを浮かべる。
「そっか、じゃあ教えてあげる」
そう言って彼女は立ち上がり、彼らにとって唯一となる外への扉の鍵を、締めた。
「機関助士は、私よ」
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