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まりかへの疑惑
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翌日、芳賀瀬家で爆睡していたカルトがヨージの電話で起きる。シャワーを浴びたカルトは、まりかが高校に行っている時間に二人きりになれるカラオケ屋で密談をする。
「カルト兄さん。ここだけの話だけどさ。ちょっと気になることがある、駅前のカラオケ屋に来てよ」
ヨージが真面目な声で電話をしてきた。カラオケ屋は防音だし、他人に聞こえない。監視カメラの死角を探して話を始める。
「俺なりに探ってみたんだけどね。芳賀瀬まりか、真崎壮人の二人が怪しいと思うんだ」
思いもよらぬことを耳打ちする。
「芳賀瀬まりかは友人の妹で、まだ高校生だぞ。壮人だって、殺しをする奴じゃあない」
「高校生だから、そんなこと計画しないなんて断言できないよね。それに、呪いで死ぬことがわかっているのに冷静だと聞く。神経も普通じゃない。若干18歳の女子とは思えない。それに彼女は優秀だと聞く。そのアプリを作っていたとしてもおかしくないと思う。真崎壮人は芳賀瀬さんやカルト兄さんに非常に近い人物だ。つまり、何かしらの恨みによって呪う可能性はある。真崎家は呪術師家系だと聞いた。それにパソコンに詳しく優秀な人材だ。それならば、アプリの開発は可能だろ」
「芳賀瀬まりかに関して言えば、彼女が一人で作ったというのか?」
「兄と共同制作している可能性もあるし、譲渡人を仲介している役割を担っている可能性もある。おかしいだろ。積極的に捜査に加わりたいなんて。普通は怖いから助けてという心理になるのが人間だ。彼女は俺と違って呪い主が特定できていない。つまり、死と隣り合わせであの態度は不自然すぎる」
「まりかは、肝が据わっているんだよ。それに、彼女が怪しいという証拠がない」
まりかは違うとカルトは擁護する。
「真崎壮人は正直2番目に怪しいと疑っている。なぜならば、彼の場合は優秀で地元で有名な呪術師家系だという根拠がある。それと、アプリがインストールされた人物が高校時代の親しい人物の関係者だったからというファイリング結果が疑いの理由だ」
カバンからパソコンを取り出し、説明するヨージ。
「実は、この動画なんだけど。俺は第1に怪しいのは芳賀瀬まりかだと思う」
捜査本部の部屋にて、隠し撮りされた動画をヨージがみせる。まりからしき女性が警視庁に出入りして捜査の資料を漁る様子をうつしたものだ。
「これは、どうやって入手したんだ?」
カルトの表情が変わる。
「犯人はきっと捜査本部の情報を手に入れたいと思うだろうと思ってさ。俺は一度捜査本部に行った時、部屋に隠しカメラを仕掛けたんだ」
ヨージは縦に一本指を立て、静かにというジェスチャーをする。
「おい、そんな勝手なこと許されると思っているのか」
「この部屋は、ほとんど誰も出入りしない。出入りするとしたら、他部署と兼任している部長と課長、そして、城下さんとカルト兄さん。警察内部でもここの捜査本部は公にされていない。ただ一時的に会議室を借りているという形だ。これは違法だと思ったけれど、人の命がかかっている。だから、あえてここにカメラをつけさせてもらった。この部屋には重要な情報がたくさんある。少しでも犯人ならば警察がつかんでいる情報を入手したいだろ。逮捕されたらおしまいだ。秘密にして勝手に捜査資料を漁るのは協力者の域を超えていると思わないか」
それも、そうだ。しかし、情報を得たい理由があったのだろう。それに、もしかしたら合成とかフェイク動画という可能性も捨てきれない。フェイク動画と認定することは、ヨージを疑うことにつながるので、創造主にヨージが騙されているという可能性と考えたほうがいいかもしれない。少なくとも、カルトは心の中で言葉を選んだ。
「あと、芳賀瀬まりかが書き込みをしているという情報解析もしてみたよ。ネット上で創造主を名乗り、仲介している幻人は芳賀瀬まりかだ」
ヨージが解析したデータを見せる。まりかの自宅のパソコンから幻人が書きこみをしている文章が発信されている。これは、信憑性のある情報なのだろうか。
「この情報は他の三人にも共有させてもらったよ」
「部長たちにも報告済みなのか?」
「怪しい人間が出入りしているんだ。そういったことは隠れて耳打ちしないとまずいだろ。呪いの子どもを使って俺たちが被害にあう可能性もあるんだ。俺は、大好きなカルト兄さんが死んだらめちゃくちゃ悲しいからさ」
「俺なりに色々確証を得てから、まりかのことは考える」
「全く、カルト兄さんは慎重だなぁ」
ヨージは半ば呆れ顔でデータをしまう。こんな短期間にデータを作成して、報告書を作ってしまうヨージは仕事が早い。でも、アプリの創造主はネット上の詐欺師だ。今までも、捜査をかく乱させる為にあらゆる手段を使っている。関係ない人間の家から送信したことになっていたことは何度もある。だから、警察も捜査が進まなかった。このデータを信じても、創造主のワナの可能性もある。
まりかの動画がフェイクならばヨージが嘘をついているということになる。ヨージの動画が本当ならば、まりかが嘘をついていることになる。
どちらかが、嘘をついているのならば、真実をひとつひとつ探し出すことが最善だろう。公平に一歩一歩。
ヨージは何事もなかったかのようにパソコンを眺めていた。たまに、ヨージ本体と心がばらばらに分かれているように感じる事がある。何も感じていないという印象だった。本当に楽しいとか悲しいとかそういうことを感じない鈍感力を彼は持っているようにも思えた。ある意味図太い神経ともいえる。そして、言い方を変えると、心がからっぽで何も感情持っていないというのが秋沢葉次だった。
芳賀瀬まりかの印象は、非常に常識的で、正義のために自分の犠牲が怖くないような正義感の塊のような印象を受けた。普通の女性にはないような己を貫く力。そして、興味関心への貪欲さ。
真崎壮人への疑念も払拭はできない。可能性の確率の話から行くと、ゼロという断定できる人間はいない。あのアプリは遠隔操作ができる。つまり、誰にでも可能性はある。しかし、身近な怪しい人という点ではヨージの主張はあながち間違っているわけでもない。しかし、壮人との接点が最近はなく、カルトは今の壮人の気持ちがよくわからないのが本音だった。壮人自身が変わってしまっていたら――。疑いだしたら止まらない。
秋沢、まりかの二人とも全然タイプが違うが、呪いのアプリに対して恐れを感じていないというのが共通点だった。
創造主を探す作業。――砂の中から、小さなビーズを探す作業のように途方もなく気が遠くなりそうな作業だった。
「カルト兄さん。ここだけの話だけどさ。ちょっと気になることがある、駅前のカラオケ屋に来てよ」
ヨージが真面目な声で電話をしてきた。カラオケ屋は防音だし、他人に聞こえない。監視カメラの死角を探して話を始める。
「俺なりに探ってみたんだけどね。芳賀瀬まりか、真崎壮人の二人が怪しいと思うんだ」
思いもよらぬことを耳打ちする。
「芳賀瀬まりかは友人の妹で、まだ高校生だぞ。壮人だって、殺しをする奴じゃあない」
「高校生だから、そんなこと計画しないなんて断言できないよね。それに、呪いで死ぬことがわかっているのに冷静だと聞く。神経も普通じゃない。若干18歳の女子とは思えない。それに彼女は優秀だと聞く。そのアプリを作っていたとしてもおかしくないと思う。真崎壮人は芳賀瀬さんやカルト兄さんに非常に近い人物だ。つまり、何かしらの恨みによって呪う可能性はある。真崎家は呪術師家系だと聞いた。それにパソコンに詳しく優秀な人材だ。それならば、アプリの開発は可能だろ」
「芳賀瀬まりかに関して言えば、彼女が一人で作ったというのか?」
「兄と共同制作している可能性もあるし、譲渡人を仲介している役割を担っている可能性もある。おかしいだろ。積極的に捜査に加わりたいなんて。普通は怖いから助けてという心理になるのが人間だ。彼女は俺と違って呪い主が特定できていない。つまり、死と隣り合わせであの態度は不自然すぎる」
「まりかは、肝が据わっているんだよ。それに、彼女が怪しいという証拠がない」
まりかは違うとカルトは擁護する。
「真崎壮人は正直2番目に怪しいと疑っている。なぜならば、彼の場合は優秀で地元で有名な呪術師家系だという根拠がある。それと、アプリがインストールされた人物が高校時代の親しい人物の関係者だったからというファイリング結果が疑いの理由だ」
カバンからパソコンを取り出し、説明するヨージ。
「実は、この動画なんだけど。俺は第1に怪しいのは芳賀瀬まりかだと思う」
捜査本部の部屋にて、隠し撮りされた動画をヨージがみせる。まりからしき女性が警視庁に出入りして捜査の資料を漁る様子をうつしたものだ。
「これは、どうやって入手したんだ?」
カルトの表情が変わる。
「犯人はきっと捜査本部の情報を手に入れたいと思うだろうと思ってさ。俺は一度捜査本部に行った時、部屋に隠しカメラを仕掛けたんだ」
ヨージは縦に一本指を立て、静かにというジェスチャーをする。
「おい、そんな勝手なこと許されると思っているのか」
「この部屋は、ほとんど誰も出入りしない。出入りするとしたら、他部署と兼任している部長と課長、そして、城下さんとカルト兄さん。警察内部でもここの捜査本部は公にされていない。ただ一時的に会議室を借りているという形だ。これは違法だと思ったけれど、人の命がかかっている。だから、あえてここにカメラをつけさせてもらった。この部屋には重要な情報がたくさんある。少しでも犯人ならば警察がつかんでいる情報を入手したいだろ。逮捕されたらおしまいだ。秘密にして勝手に捜査資料を漁るのは協力者の域を超えていると思わないか」
それも、そうだ。しかし、情報を得たい理由があったのだろう。それに、もしかしたら合成とかフェイク動画という可能性も捨てきれない。フェイク動画と認定することは、ヨージを疑うことにつながるので、創造主にヨージが騙されているという可能性と考えたほうがいいかもしれない。少なくとも、カルトは心の中で言葉を選んだ。
「あと、芳賀瀬まりかが書き込みをしているという情報解析もしてみたよ。ネット上で創造主を名乗り、仲介している幻人は芳賀瀬まりかだ」
ヨージが解析したデータを見せる。まりかの自宅のパソコンから幻人が書きこみをしている文章が発信されている。これは、信憑性のある情報なのだろうか。
「この情報は他の三人にも共有させてもらったよ」
「部長たちにも報告済みなのか?」
「怪しい人間が出入りしているんだ。そういったことは隠れて耳打ちしないとまずいだろ。呪いの子どもを使って俺たちが被害にあう可能性もあるんだ。俺は、大好きなカルト兄さんが死んだらめちゃくちゃ悲しいからさ」
「俺なりに色々確証を得てから、まりかのことは考える」
「全く、カルト兄さんは慎重だなぁ」
ヨージは半ば呆れ顔でデータをしまう。こんな短期間にデータを作成して、報告書を作ってしまうヨージは仕事が早い。でも、アプリの創造主はネット上の詐欺師だ。今までも、捜査をかく乱させる為にあらゆる手段を使っている。関係ない人間の家から送信したことになっていたことは何度もある。だから、警察も捜査が進まなかった。このデータを信じても、創造主のワナの可能性もある。
まりかの動画がフェイクならばヨージが嘘をついているということになる。ヨージの動画が本当ならば、まりかが嘘をついていることになる。
どちらかが、嘘をついているのならば、真実をひとつひとつ探し出すことが最善だろう。公平に一歩一歩。
ヨージは何事もなかったかのようにパソコンを眺めていた。たまに、ヨージ本体と心がばらばらに分かれているように感じる事がある。何も感じていないという印象だった。本当に楽しいとか悲しいとかそういうことを感じない鈍感力を彼は持っているようにも思えた。ある意味図太い神経ともいえる。そして、言い方を変えると、心がからっぽで何も感情持っていないというのが秋沢葉次だった。
芳賀瀬まりかの印象は、非常に常識的で、正義のために自分の犠牲が怖くないような正義感の塊のような印象を受けた。普通の女性にはないような己を貫く力。そして、興味関心への貪欲さ。
真崎壮人への疑念も払拭はできない。可能性の確率の話から行くと、ゼロという断定できる人間はいない。あのアプリは遠隔操作ができる。つまり、誰にでも可能性はある。しかし、身近な怪しい人という点ではヨージの主張はあながち間違っているわけでもない。しかし、壮人との接点が最近はなく、カルトは今の壮人の気持ちがよくわからないのが本音だった。壮人自身が変わってしまっていたら――。疑いだしたら止まらない。
秋沢、まりかの二人とも全然タイプが違うが、呪いのアプリに対して恐れを感じていないというのが共通点だった。
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