奇妙でお菓子な夕日屋

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大冒険できるガム

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 刺激のない生活がつまらないと感じていた小学4年生のケンタ。ケンタのおばあちゃんは夕方に現れる夕陽屋のことを楽しそうに話していた。おばあちゃんは認知症になってから昔話が多いのだが、最近は夕陽屋のことばかり話している。美琴おばあちゃんのはなしなんて、本当かどうかもわからないけれど、若い時間が長くなるグミを食べたと言っていた。実際、おばあちゃんの顔はしわもしみもあるから、若い時間が長くなるはずなんてない、とケンタは思っている。しかし、冗談交じりに、でも真剣にケンタは夕方の空に向かって叫んでみた。

「大冒険してみたい!!」

 それは退屈な毎日に飽きてしまい「大冒険してみたい!!」という気持ちが高ぶってしまったからだった。冒険と言っても普通の生活の中にたくさんあるのだと思うが、毎日がテレビで見るようなわくわくする気持ちになるわけでもない。平凡ほど幸せな毎日はないと思うが、そのありがたみがまだわかっていないだけなのだろう。現在10歳の少年は、平凡なありがたみがわかる年齢ではなかった。

 不思議なことはケンタの目の前で起こる。大冒険の始まりだろうか?

「ここはどこだ?」
 まさか都市伝説となっている夕陽屋に来るなんて思ってもいなかった少年は突然自分のまわりの景色が変わったということに驚く。

「いらっしゃい」
「だれだ? おまえは」
「夕陽屋の店員をやっている黄昏夕陽だ」
「なんだか昔あったという駄菓子屋みたいだな。古くさい感じだなぁ。俺のまわりにはこんな店、ないけどな」
「どこか懐かしいだろ?」
「俺は駄菓子屋に行ったことはないから、懐かしくはないぞ」
 ケンタ少年はどこか生意気でひねくれたところがあった。

「俺の家の近くにはもっとおいしいものが売っている店があるからな」
「でも、大冒険してみたいだろ?」
「なぜそれを?」
 ケンタは心を見透かされたことにおどろき、おどろきをかくせないようだった。

「このガムを食べたら、日常ががらっとかわるぞ」
「本当なのか?」
 少し疑った顔をしたケンタの顔は本当のことだとは受け入れられないという顔をしていた。

「普段生活している中にも楽しいことはたくさんあるんだぞ」
「そうでもないぞ」
「この店にはたくさんの面白いものがあるんだけどな」
「この店は安いおかしばっかだな」
「でも、とってもおもしろいおかしがたくさんあるんだよ。値段じゃない」
「10円ガムで大冒険してみないか?」
「なんだよ、それ」
「いつもいる世界が全然別のものに見えるっていう大冒険さ」
「わかりにくいなぁ」
「じゃあ、ガムを買ったら説明してあげるよ」
「じゃあ、買ってやる」
 えらそうにむねをはって、ケンタは10円玉を差し出した。

「このガムを食べたら、食べた人はちいさくなるんだ。日常が違う世界に変わるんだ」
「ちいさくなるだけ?」
「ちいさくなるってことは世界が大きく見えるんだ。だから、同じ景色には見えない大冒険になると思うぞ」
「大冒険になるの?」
「命の危険もあるけれど、無事に君の自宅に着いたら魔法はとけて、元の姿に戻るよ」
「命の危険があるならちょっと怖いかな」
「怖いなら別なお菓子もあるよ」
「いや、いいよ」
 ケンタは弱虫だと思われたくなかったのかもしれない。無理にそのガムを受け取った。

「じゃあ、これで。もし、危険な目にあったらガムを吐き出せば元の姿に戻るから」
「じゃあ、またね」

 そういうと、ケンタはにこにこしながら店を出た。ガムをかんだ少年は小さくなり、いつもの街にもどった。いつもの街が違う景色に見えた。空はいつもよりも大きく高い。木々の高さもいつもの高さとは比べ物にもならないような高さだ。川の広さは海のように大きいし、普通に歩いたらすぐ着く距離でもなかなかたどり着くことはできない。ケンタはいつもと違うことにあふれた街並みが面白かった。大冒険という名にふさわしいものが身の回りにあふれていた。たとえば、水たまりは湖のようなもので、わたるには工夫が試されたし、大きく回って歩くと、とてもすぐつくきょりではなかった。

 犬や猫はケンタからみれば、大きな危険な巨大なけものだったし、人間に踏みつぶされそうになったり、危険なことがたくさんあった。家までたどりつくにはまだまだかかりそうだし、あたりは暗くなってきた。残念ながら、楽しいという気持ちはなくなっていた。

 あたりが暗いと踏みつぶされる危険も多く、ケンタは疲れ果てて、体があちこち痛くなってきた。もっと面白いゲームのような世界を体感したかったなぁ。そんなことを思って空を見上げていると、虫がおそってくる。虫すらも危険なけものだ。ありは、こんな思いをして毎日生きているのだろうか。はじめてありの気持ちがわかった気がした。そういえば人間が小人の国に迷い込んんだガリバー旅行記っていう話を思い出した。その反対世界ってのも大変だな。

 人間のくつは凶器になる。油断をするとケンタを大きな靴が踏みつけようとしてくる。まるで恐竜がたくさん頭上にいるかのようだ。人間に気づかれたか? 人間は子供でも巨人で大変だ。ケンタのことをみつけたら研究所に連れていかれてしまうかもしれない。恐怖を感じて身動きができなくなってしまった。

「冒険楽しんでいるか?」
 誰かが、ケンタに話しかけた。よく見ると、夕陽屋の店員のおにいさんだった。

「魔法を解くには、ガムを吐き出すことを忘れてた? このままじゃ家に帰れないからね」
 ひょいと少年のことを手のひらにのせ、笑う夕陽はいつからケンタをみていたのだろうか? もしかしたら、最初から最後までお見通しだったのかもしれない。親切にも夕陽がケンタを家の前まで連れて行った。

 夕陽はガムの紙を差し出して、少年に差し出した。疲れ切った少年はガムをその紙に差し出す。すると、ケンタの体はもとの大きさに戻った。そして、ケンタはお礼を言おうと駄菓子屋のおにいさんのほうを振り返った。すると、不思議なことに夕陽は消えていて、誰もそこにはいなかった。

 ケンタはきっとあの人は魔法使いだったのだろうと思った。2度とあのお店に行けないかもしれないけれど、また行けるときがあれば、お礼を言いたいと少年は思った。無事、家までたどりつけたということに対するお礼だ。無事で平凡な幸せを教えてくれたからだ。

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