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ともだちチョコレート
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中学生のヒサシは都市伝説で聞いた不思議な店を探していた。
そのためにたそがれどきを待ちわびていた。お金では買えない本当の友達をお金で買うなんておかしなことだろう。でも、自分のコミュニケーション力や人を見る目のなさを考えるとお金で買える友情しか手に入れられないような気がしていた。
「本当の友達がほしい」
ヒサシはねがいごとをひとりごとで口にする。強い思いを夕方の空を見上げながら、すがるような気持ちで手を合わせた。最近、仲がいいと思っていた友達に裏切られると感じた出来事があった。だからこそ、本当の友達という基準がわからなくなっていた。夕焼けに飲み込まれた感覚になる。真っ赤な世界が広がる。
「いらっしゃい」
古びた店の中にはじめて会う10代後半くらいの男性がいる。ちょっとかっこいい感じで女子に人気がありそうな感じだ。もしかしたら、芸能人にこのような感じのアイドルがいたような、いないようなそんな感じだとヒサシは思っていた。
「何がほしい? 色々あるけれど」
「実は……」
友達がほしいなんていうのはなかなか言い出しづらかった。暗い人間だと思われそうだ。こいつ、ひとりも友達いないのかとあわれみの顔をされてしまいそうで言い出せずにいた。
「君にはこういった商品が合いそうだよな」
夕陽がかわいらしいお菓子を手に取ってみせる。
「ともだちチョコレートっていうんだよね」
さくらんぼの形のチョコレートが2つついている。近くのスーパーで見た事があるが、ちょっと色やパッケージは違うような商品で、はじめて見るタイプの商品だった。
「これ、おいしそうだね」
思わずピンク色のチョコレートがおいしそうに見えた。まあるい形も思わず食べたくなる形だった。
「おいしいけれど、2つとも食べたら効果はないぞ。1つを自分が食べる。もう1つは友達になりたい人に食べさせる。これで、本当の友達になれるんだ」
「本当の友達って?」
「君が思い描いているような、一生付き合っていける、話が合う友達ということさ」
「裏切ったりしないよね?」
「裏切られても本当の友達だと思えるのなら、そういうこともあるだろうし、食べた人の基準に合わせられるようになっているんだ」
「すごい優秀なチョコレートだね」
「ここの商品は全部優秀なんだ。不良品はないから保証するよ」
「これはいくらなの?」
「2人分だから、20円だよ」
「ありがとう」
20円払うとヒサシはチョコレートをにぎりしめてそのまま走り去った。
孤独が怖いと思っていたが、本当に怖いのは偽物の友達だ。同級生だって陰口や悪口を言う奴らなんてたくさんいる。信頼できる友達に出会えたらいいな、そんなことを思いながら、ヒサシは公園に向かった。
バスケットコートのある公園でシュートをしてみる。ここらへんではバスケットのコートがある公園はここしかない。小学生の頃にやっていたが、中学では、バスケットを辞めてしまった。なんとなくグループに馴染めない、そこまで好きなスポーツでもないかな、なんて冷めていた。でも、時々ここのバスケットゴールで汗を流していた。多分、心のどこかではバスケが好きだという気持ちがあったのかもしれない。
「君、バスケ部なの?」
バスケットボールを持った少年が目を輝かせながらかけよってきた。見たことのない少年だった。同じくらいの年齢だと思われる。
「俺、引っ越してきたんだけど、バスケやりたくって。近くにゴールがある公園を見つけてさっそく遊びに来たんだ」
コミュニケーション力のある見かけない少年は、気軽に話しかけてきた。きっとクラスの人気者のような雰囲気がただよう。見た感じも男女から好かれそうな顔立ちや服装だった。
「どこの中学?」
「南中学だよ」
「俺も南中だよ。俺の名前はヒサシっていうんだ。バスケ部には入ってない帰宅部なんだけどさ」
「俺の名前はアキラ。趣味でバスケ仲間と遊んだりしているんだけれど、今度一緒にプレーしない? バスケ部に入ってみたいから、一緒に入ってよ」
思わぬバスケ友達ができた。良い人そうだし、さっそくの縁なのかもしれない。バスケをしながら語り合う。そのとき、ヒサシは友達チョコレートをひとつ渡した。汗を流したあとの糖分は体にしみわたる。
ヒサシとアキラは、この後、県大会を目指すくらい本気でバスケに打ち込むことになるなんて、この時は思っていなかったんだ。そして、バスケの部活のメンバーとの絆が育まれるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
縁なんて、人生なんて、何がきっかけで変わるのかなんて誰にもわからないんだ。普通、縁は自分で操作不可能だからね。今回ばかりは不思議な店に頼ってしまったが、本来ならばお金で友情は買えない。
♢♦♢♦♢
「ヒサシ君、バスケという本当にやりたいことがみつかったようだな。バスケが縁で本当の友情や絆ができる。きっかけはささいなことだよな」
ふわわを手のひらにのせて、なでる夕陽。夕陽にとっての本当の友達はふわわだけなのかもしれない。
「しかし、人柄は短期間でわかるものではない、はじめて会った人にあのチョコレートを渡すことは危険なんだよ」
夕陽が神妙な顔をして本を手に取る。題名には住友ヒサシと書かれている。人生の書庫にあった本を1冊持ってきたようだ。
「ここには、だいぶ未来の話も書いてあるからな」
夕陽がページをどんどんめくる。これは、35歳になったころのヒサシのはなしだろうか。
1話前の『書いたことが事実になるメモ帳 B君の場合』という話につながっているらしい。どうやらB君のお父さんがヒサシだったようだ。ということはB君の名字は住友だったのだろう。借金を作ったのは大人になったアキラで、借金の肩代わりをしたのはB君のお父さんだったということだ。お父さんが借金の肩代わりをしたのは、アキラを本当の友達だと思っていたからだからだろうか。ともだちチョコレートの力は何年たっても消えない実に強いものだということらしい。
「親子で夕陽屋を利用しているお客さんも多いからなぁ。人生はつながっているんだよ。この店を通してみんなつながっているのさ」
そういって本を閉じた夕陽は人生の書庫に本を戻しに行った。
そのためにたそがれどきを待ちわびていた。お金では買えない本当の友達をお金で買うなんておかしなことだろう。でも、自分のコミュニケーション力や人を見る目のなさを考えるとお金で買える友情しか手に入れられないような気がしていた。
「本当の友達がほしい」
ヒサシはねがいごとをひとりごとで口にする。強い思いを夕方の空を見上げながら、すがるような気持ちで手を合わせた。最近、仲がいいと思っていた友達に裏切られると感じた出来事があった。だからこそ、本当の友達という基準がわからなくなっていた。夕焼けに飲み込まれた感覚になる。真っ赤な世界が広がる。
「いらっしゃい」
古びた店の中にはじめて会う10代後半くらいの男性がいる。ちょっとかっこいい感じで女子に人気がありそうな感じだ。もしかしたら、芸能人にこのような感じのアイドルがいたような、いないようなそんな感じだとヒサシは思っていた。
「何がほしい? 色々あるけれど」
「実は……」
友達がほしいなんていうのはなかなか言い出しづらかった。暗い人間だと思われそうだ。こいつ、ひとりも友達いないのかとあわれみの顔をされてしまいそうで言い出せずにいた。
「君にはこういった商品が合いそうだよな」
夕陽がかわいらしいお菓子を手に取ってみせる。
「ともだちチョコレートっていうんだよね」
さくらんぼの形のチョコレートが2つついている。近くのスーパーで見た事があるが、ちょっと色やパッケージは違うような商品で、はじめて見るタイプの商品だった。
「これ、おいしそうだね」
思わずピンク色のチョコレートがおいしそうに見えた。まあるい形も思わず食べたくなる形だった。
「おいしいけれど、2つとも食べたら効果はないぞ。1つを自分が食べる。もう1つは友達になりたい人に食べさせる。これで、本当の友達になれるんだ」
「本当の友達って?」
「君が思い描いているような、一生付き合っていける、話が合う友達ということさ」
「裏切ったりしないよね?」
「裏切られても本当の友達だと思えるのなら、そういうこともあるだろうし、食べた人の基準に合わせられるようになっているんだ」
「すごい優秀なチョコレートだね」
「ここの商品は全部優秀なんだ。不良品はないから保証するよ」
「これはいくらなの?」
「2人分だから、20円だよ」
「ありがとう」
20円払うとヒサシはチョコレートをにぎりしめてそのまま走り去った。
孤独が怖いと思っていたが、本当に怖いのは偽物の友達だ。同級生だって陰口や悪口を言う奴らなんてたくさんいる。信頼できる友達に出会えたらいいな、そんなことを思いながら、ヒサシは公園に向かった。
バスケットコートのある公園でシュートをしてみる。ここらへんではバスケットのコートがある公園はここしかない。小学生の頃にやっていたが、中学では、バスケットを辞めてしまった。なんとなくグループに馴染めない、そこまで好きなスポーツでもないかな、なんて冷めていた。でも、時々ここのバスケットゴールで汗を流していた。多分、心のどこかではバスケが好きだという気持ちがあったのかもしれない。
「君、バスケ部なの?」
バスケットボールを持った少年が目を輝かせながらかけよってきた。見たことのない少年だった。同じくらいの年齢だと思われる。
「俺、引っ越してきたんだけど、バスケやりたくって。近くにゴールがある公園を見つけてさっそく遊びに来たんだ」
コミュニケーション力のある見かけない少年は、気軽に話しかけてきた。きっとクラスの人気者のような雰囲気がただよう。見た感じも男女から好かれそうな顔立ちや服装だった。
「どこの中学?」
「南中学だよ」
「俺も南中だよ。俺の名前はヒサシっていうんだ。バスケ部には入ってない帰宅部なんだけどさ」
「俺の名前はアキラ。趣味でバスケ仲間と遊んだりしているんだけれど、今度一緒にプレーしない? バスケ部に入ってみたいから、一緒に入ってよ」
思わぬバスケ友達ができた。良い人そうだし、さっそくの縁なのかもしれない。バスケをしながら語り合う。そのとき、ヒサシは友達チョコレートをひとつ渡した。汗を流したあとの糖分は体にしみわたる。
ヒサシとアキラは、この後、県大会を目指すくらい本気でバスケに打ち込むことになるなんて、この時は思っていなかったんだ。そして、バスケの部活のメンバーとの絆が育まれるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
縁なんて、人生なんて、何がきっかけで変わるのかなんて誰にもわからないんだ。普通、縁は自分で操作不可能だからね。今回ばかりは不思議な店に頼ってしまったが、本来ならばお金で友情は買えない。
♢♦♢♦♢
「ヒサシ君、バスケという本当にやりたいことがみつかったようだな。バスケが縁で本当の友情や絆ができる。きっかけはささいなことだよな」
ふわわを手のひらにのせて、なでる夕陽。夕陽にとっての本当の友達はふわわだけなのかもしれない。
「しかし、人柄は短期間でわかるものではない、はじめて会った人にあのチョコレートを渡すことは危険なんだよ」
夕陽が神妙な顔をして本を手に取る。題名には住友ヒサシと書かれている。人生の書庫にあった本を1冊持ってきたようだ。
「ここには、だいぶ未来の話も書いてあるからな」
夕陽がページをどんどんめくる。これは、35歳になったころのヒサシのはなしだろうか。
1話前の『書いたことが事実になるメモ帳 B君の場合』という話につながっているらしい。どうやらB君のお父さんがヒサシだったようだ。ということはB君の名字は住友だったのだろう。借金を作ったのは大人になったアキラで、借金の肩代わりをしたのはB君のお父さんだったということだ。お父さんが借金の肩代わりをしたのは、アキラを本当の友達だと思っていたからだからだろうか。ともだちチョコレートの力は何年たっても消えない実に強いものだということらしい。
「親子で夕陽屋を利用しているお客さんも多いからなぁ。人生はつながっているんだよ。この店を通してみんなつながっているのさ」
そういって本を閉じた夕陽は人生の書庫に本を戻しに行った。
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