上 下
24 / 48

【チョコレート】バレンタイン

しおりを挟む
 手作りチョコというものを生まれて初めて挑戦することにしてみた。料理上手なアサトさんの心をつかむには手作りしかない!! そう思って一念発起してチョコレートを作ってみた。大きなハートのチョコレート。さすがにLOVEとか好きなんて言葉をかいたりはしないけれど、さりげなく気持ちを伝えたい、そう思った。気持ちに気づいてもらえるかもしれないと思っている自分もいた。

 少し、チョコレートが余ってしまった。仕方ない、小さなチョコレートをヨルトに作るか。義理チョコだけど。アサトさんには、帰り際にまひるがいないタイミングを見計らって渡すことに成功した。しかし、料理上手なアサトさんに下手な初心者手作りを渡すのは気が引ける。

「アサトさん、これ、チョコレートです。食べてください」
「わあ、うれしいな、大切に食べるよ」

 いつも通り優しい笑顔のアサトさん。緊張感のある鋭い表情とは打って変わって別人のようだった。

「実は夢香に話したい事があるんだ。一度一緒に僕たちの国に来てほしい。そして、国王と会ってほしいんだ」

 思いもよらぬ提案に驚きが隠せない。どうしたらいいのかな? 行くべき? 

「僕は夢香のことを好きだと思っているんだ」

 え……? バレンタインに告白? それって女子からするものよね? でも、アサトさんとしては付き合いたいという意味なのかな? 私が恋愛経験がなさすぎるからなのかもしれない。男心ってわからなすぎる。やっぱり男の知り合いに聞くしかないかな……ってヨルトくらいしかいないし。

「付き合ってほしい」
「……少し考える時間をください」
「では、近々時の国に一度遊びに来ませんか?」

 顔を赤らめながら帰宅することにした。だって、まさかバレンタインデーにあちらから付き合おうと言われるなんて。どうしよう。心を躍らせながらそわそわした気持ちになる。もちろん、今すぐにOKしてもいいのだけれど、少しじらしたほうがいいと聞いたことがあったので、ここはあえて返事を先延ばしにしてみた。

    向かう先はアンティーク古書店だ。ヨルトに自慢しちゃおう。あいつはまだ恋人なんていないだろうし。私は、別に美人でもないけれど、告白された。夢みたい。こんなに素敵な彼氏ができたら、絶対自慢したくなる。友達がうらやましがること必須だよね。

 アサトさんには驚くほどさりげなく渡すことができたのだが、ヨルトの場合、なんて言って渡そう。もしかして、俺のこと好きなの? なんてヨルトは冗談で言ってきそうだし。でも、私は絶対に好きじゃないし。というか今日、本命に告白されたし。余ったからついでに作ってみたとでもいっておくか、そう思った。

 いつも通り重い扉を押しあけながら店にはいる。さりげなくヨルトに近づく。いつも通りの挨拶をする。いつも通りに店内には客はいないし、アンティーク独特の香りが漂う。

「アサトにはチョコレート渡したのか?」

 思いがけずあちらから言ってくるとは、さてはヨルト、バレンタインを意識しているモテない男子って感じね。

「どうせヨルトのことだから、ひとつもチョコレートもらってないかと思って」

 すると、店の奥に視線を移すとチョコレートの山があった。
 私はその量に驚いてしまう。

「なにあのチョコレートの山」
「あれは、店のお客さんや同じ高校の女の子からもらったんだ、バレンタインだからね」

 当たり前のように山積みになったチョコレートの説明をする。この男、やはりモテるの? 思わず、手作りのチョコレートを鞄の奥に押し込んだ。あんなにチョコレートがあったらこれ以上食べられるはずもないし、喜びどころか迷惑だろう。しかも、私からもらっても微妙な顔をされるだけに違いない。

「アサトさんには渡したよ。喜んでくれた」
「よかったな」

 我がことのように喜ぶヨルト。

「ヨルトこそ、本命からチョコレートもらったの?」
「付き合おうって言われたけど、こんなにたくさんの人とつきあえないから、本命は作ってないよ。だって罪だろ、これだけたくさんいるかわいい子の中から選ぶなんて俺には無理だ」

 なにその、芸能人みたいなモテて当然な物言いは少しむかつく。

「ヨルトがモテるなんて、信じられないけどね」
「夢香よりはモテると思うけど」
 冷めた表情で当然のように言う余裕のヨルト。
「実は、アサトさんに好きって言われたの。付き合おうって」

 ヨルトは突然の恋話に困惑気味だったが、祝福してくれた。

「おめでとう。まさか、アサトが夢香を選ぶとはな。だって、アサトって基本心開かないからさ。夢香ならば兄貴のハートを撃ち抜くことができるかもって期待していたしな」

「まだ返事はしていないけれど……アサトさん、最近恋人いなかったの?」

「作らないタイプだよな、警戒心強いし。だから身内で王室を固めたいのだろうな。でも、俺は夜の王になることをちゃんと断るつもりだ」

「ヨルトは自分の意志がしっかりしているね。……ヨルトは気になる子とかいなかったの? チョコをくれた人の中で」

「いない。俺って恋愛に無関心なんだよな」

 ヨルトの透き通った青い瞳がきれいで、女子の心を自然とつかむわけがわかった。

「夢香は俺のためにチョコレートを作ってくれないの?」

 もしかして、私が作ったこと予知能力で読んでるのかな? ばれたのならば仕方ない。 

「材料あまったから、一応作ったけど、あんなにもらったんだったらいらないかなって。チョコレート食べ過ぎで鼻血でるよ」

「余り物には福があるって言うからな。めっちゃほしい」

 手を出して催促される。まるで餌をもらう犬みたいに。

「嘘ばっか」

「じゃあ、一応」

 失礼な物言いもヨルトにならばできる関係だった。

「かわいいラッピングじゃないか、いただきます、おねえさま」
「なによ、おねえさまって」
「だって、アサトと結婚したらお前は義理の姉になるわけだからな。弟には優しくしろよ」
「バカなこと言ってないで、他の女の子のチョコレートもちゃんと食べなよ。食べ過ぎてデブになってフラれるかもしれないけれどね」
「じゃあデブになって行き場のないときは、夢香拾ってよ」
「何よ、その子犬みたいな嘆きは」

 見下ろしたヨルトは子犬みたいになついていてかわいくも思えた。
 その場で開けて、嬉しそうに眺めるヨルトが全く読めなかった。こんなにたくさんの女の子からチョコレートをもらっているくせに。期待させるみたいな行動は辞めてほしい。期待って――別に何かを期待しているわけでもないけれど。

「ホワイトデー、きっとアサトのお返しは倍返しだと思うぞ、楽しみにしてろよ」
「たしかにアサトさんはすごく料理上手だからね。そういえば、ヨルトは料理ってできるの?」
「料理は結構得意だけれど、チョコレートは手作りで作ったことはないけどな」
「お返しは期待していないから」
「お返しは俺の愛かもしれねーな」
「バカなこと言わない」

 そんなやりとりで顔色一つ変えない慣れた様子のヨルトが少しうらやましくもあり、経験豊富なのかと勘繰ってしまった。私なんかの手作りで笑顔を見せるヨルトの本心が全く見えなかった。アサトさんとは逆で表情が豊かだからこそ読めないのがヨルトだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...