上 下
15 / 48

【ずんだ団子 ジャックと豆の木】

しおりを挟む
「整形手術を検討している女性が今日のお客様ですよ」
「アサトさんは今日来るお客様がわかるのですか?」
「知ったうえで招いているのですから、偶然ではなく必然です」
「アサトおにいちゃんってすごい予知能力を持っているよね。心がよめるっていうかさ」

 まひるが笑いながらすごいことを当たり前のように言う。
 ヨルトから聞いていたから、心が読めるということや予知能力を知っていた。でも、アサトさんは心を読んでしまったら、ヨルトのことがばれるんじゃ?  少々心配になった。

「アサトさんはいつでも私の心を読むことができるのですか?」
 さりげなく聞いてみる。
「いえ、私は困っている日本人の心をキャッチしてその人の未来を見るので、誰の心でも読んでいるわけではありません」
「読まれたら困ることがあるの?」
 まひるが聞いてくる。まずいな、核心をつかれている。
「困ることなんてないけれど……まひるちゃんは能力持っているの?」
「あたしはまだ子供だからそんなに能力は開花してないけどね、時を動かす力は持っているよ。だって、虹色ドリンクはまひるが作っているんだよ」
「え……そうなの?」
「まひるは能力が高いので、過去や未来に移動させる力があります。虹色ドリンクを作ることができるのはまひるだけなんですよ」
 この小さい子ども、あなどれない。じっと警戒しながらまひるをみつめてしまった。

 ♢♢♢

 カランカランとドアの鈴が鳴る。美しい建物とインテリアの素敵なレストラン。あるようでない、はじめて入るレストランという感じだ。テレビなどでは見た事がある豪華さがちりばめられたレストランだ。名前は清野かおる。

「もしもが体験できる虹色ドリンクって本当にあるんですか?」

 変なことを聞いているようで、少し遠慮がちに聞いてみる。

「体験したいことがあるのですか?」
「未来を見たいのですが、見たい時間は指定できますか?」
「好きな時間に行けますが、本当にずっとその時間にとどまることはできません。そのかわり、ここへ戻ったらねがいをひとつかなえることが可能です」
「未来を見るだけでいいんです。個人的なことなのですが、ちょっと迷っていて……」
「なんでも100円ですよ、こちらのスイーツなんていかがですか?」
「ジャックと豆の木のずんだもち? 私、ずんだはこどものころに食べたことがあるんですよね。甘い味わいが懐かしいなぁ」
「ずんだってご当地グルメなんですか? 私、ずんだって知らないです」
 女子高生店員が無知ぶりを発揮する。

 店員の一人にも関わらず、ずんだを知らないとは、無知だな。緑の食物という程度にしかずんだを知らない女は美容と食に気を遣わなくても異性にモテる人生なのだろう。それなりの美しさ、客の女性にはほしくても手に入らない産物だ。

「みどりのあんこもちみたいなものですが、これは枝豆にをすりつぶして甘みをつけたものなんですよ。ずんだシェイクなんかもあるそうですよ」
 店員のリーダー的な美しい男が説明している。古代ギリシャの石像にいそうな顔立ちで、この男は普通以上の美貌を生まれながらにして持っているのだろう。正反対の位置にいる人間だ。

「すっごくおいしいんですよ。なんで全国スイーツにならないのかなって思っちゃうくらい。成分が美容にもいいのですよ」
 ひがみの心を打ち消すべく、ずんだについて熱く熱弁していた。

「大豆は畑の肉と言われ、タンパク質、ビタミン、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄などが豊富で、枝豆のヘルシーパワー!! が詰まっていますよ」
 リーダー店員は知識が豊富だ。この人も努力型美貌の持ち主? いや、そんなはずはない。美しさというものは残酷だ。努力なく生まれ持った顔立ちが影響するのだ。無頓着でも美男美女の人はこの世の中にいるのだ。

 完成して間もないやわらかな餅を差し出した。本物の餅はあっという間に堅くなると聞く。これを放置していればすぐ堅くおいしくなくなるのだろう。

「お早めにお召し上がりください。もちは劣化が激しいので、おいしい時間はわずかです。ずんだもちの隠し味は練乳です」
 皿に盛られたずんだもちはえもいわれぬ色の鮮やかさを放っていた。

「いただきます。ここのずんだはきらきらしていてまるで緑の草原みたい」
 目の前のずんだもちの表現があまりにも壮大で見ていたバイト女子が少し面食らった顔をしたが、ずんだもちをずっと見ていたら、本当に緑の芝生が広がる様が見えてきたように思ったのだから間違ったことはいっていない。

 今まで食べたずんだもちとは違うはじめての味わいだった。初めての出会いは初めての感覚を私にもたらす。柔らかいもちと甘いずんだのハーモニーが融合する。その様はまるで音楽を奏でるように口の中でメロディーを奏でる。食べ物を食べて音楽が聞こえる。そんな感覚はこのずんだもちがはじめてかもしれない。

「ジャックと豆の木のお話を知っていますか?」
「童話ですよね。たしかまめをまいたら天にも届くくらい伸びて巨人の家に行ってお金持ちになるという話ですよね」
「何事も勇気をもって踏み出さないとなにも変わらないということを表したいいお話だと思いますよ」

 ぎゅっと握った手に力を入れ、思いつめたようにひとこと切り出す。
「みらいのもしも体験させてください、虹色ドリンクっていうのでしょうか、書いてありましたよね」
「未来を体験することは可能ですよ、しかし、記憶の一部が代償となります」
「記憶ならば、私がモテないブスだという記憶をあげます」
「記憶いただきます、虹色ドリンク1杯はいりました~」
 小学生女子の声が響く。

 虹色ドリンクがすぐにできて、怖がることもなくあっという間に飲み干してしまった。まさに一気飲みだった。きっと新しい自分に出会いたいのかもしれない。


【ジャックと豆の木のずんだもち】
 ずんだもち(枝豆、砂糖、もち)
(隠し味)練乳
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...