上 下
16 / 38

透千桔梗

しおりを挟む
「桔梗は高校に通っていないんだ。中学もろくにいってないかな。いつも部屋に閉じこもってゲームやら読書を楽しんでいるうらやましいやつだ。友達は物心ついたころからの知り合いの僕しかいないから、友達になってやってくれ」

 友達、というワードに時羽は反応する。時羽は友達に飢えている。欲しいけれど、作ろうとしないというか作ることができない。時羽バリアを無意識に発しているせいで、友達は今のところ雪月くらいだ。どうせ、嫌われているしと思っている時羽はひきこもりの桔梗が友達を探しているならばと少し前向きな姿勢を見せようとするが――

「我は友達なんぞいらん」
 ぷいっと顔を布団で隠す桔梗はまるで小学生だ。それを聞いて、がっかりする時羽。時羽は友達ならば男女問わずに募集はしているが、ネガティブ思考が邪魔をして友達ができないでいた。普通、時羽くらいの歳になると恋愛対象として異性を見ることも多いが、時羽の場合、友達という存在がとても崇高なものであり、それ以上の発想にはならない。

「こいつは、本音をあんまり言わないんだ。本当はめちゃくちゃさびしがり屋で友達が欲しいと思っているんだよね」
 岸が桔梗の心を読んだかのように代弁する。

 部屋の壁に触れただけで、雪月は本当の桔梗の心が見えた。それは、強い思いだからだろうか。桔梗の心には岸のことしかないようだった。それは恋とかそういったもの以上の依存心に近い信頼のようなものだった。

「桔梗ちゃんは岸君が大好きなんだね」
「な、なにを言っておる。我は海星は大嫌いじゃ」
「本当に天邪鬼だよね。桔梗ちゃんはまっすぐすぎて人を信頼できなくなってしまった。でも、岸君にだけは絶大な信頼を寄せている。私、人の心が映像で見える能力があるから」

 にこりと雪月が笑う。

「あぬし、只者ではないのぉ」
 と言って、照れたように焦る桔梗が顔を隠す。

「桔梗は僕のことが大嫌いじゃないけれど、大好きでもないと思うよ」
 涼しい顔で岸が釈明する。

「二人はまるで兄弟みたいに信頼している仲なんだっていうことが、この部屋の絨毯に触れるだけで見えてくるの。たくさんの思い出があるんだね」

「たしかに、僕は桔梗とは知り合い歴長いけれど、好きなのは風花ちゃんなんだから、そこのところ勘違いしないでよ。こんなダメダメな幼なじみはマジで勘弁だ」

 うんざりした顔で説明する岸は照れ隠しというよりは本音のように感じられる。

「消すぞ」
 桔梗がさらりと言う。消去の力を持つ者が言うと少し怖くもある。

「桔梗の口癖なんだよ。でも、実際まだ消去の力を使ったこともないし、使い方もわかっていないけどな」
 桔梗の言葉に怯まない岸は、よくわかっている間柄なのだろう。

「消去の力ってやっぱり寿命と引き換えに発揮されるの?」
 雪月が聞く。

「寿命ではない。多分、人間相手の場合は特別なものや大切なものと引き換えだと聞いておる。植物や動物に関しては特に引き換えに消去するわけではない」

 童顔なのに相変わらず口調が年寄りくさいギャップが少しおかしくもあるが、消す力を持つ特別な人間は普通じゃないものなのだろうと、時羽も雪月も個性を既に受け入れていた。

「ここにいる4人ってみんなそれぞれ普通じゃない力を持っているよね。時羽君は寿命とひきかえに何かしらを与える力。岸君は寿命と引き換えに呪う力。桔梗ちゃんは、消去する力。私は、心が映像で見える力。でも、私の場合、幻想堂のおかげだけどねっ。後天的な力っていうか寿命と引き換えに得た力だから。私、あと3年弱で死ぬんだ」

 あっけらかんと言う雪月に絶句していた時羽と岸だったが、桔梗が突っ込む。

「我は消去の力は持ち合わせていないぞよ。おぬしは、寿命が短くなったことをなかったことにしたいのか? しかし、幻想堂の力を捻じ曲げることは我はできんぞよ」

 少し、布団から顔を出して発言する桔梗は相変わらず体育座りで、赤ずきんのように布団をかぶっている。変な女の子ではあるが、悪い子ではないという感じが伝わってくる。

「お母さんが事故で死んだことをなかったことにしたいの」
「死神堂が絡んでいればそれも我の力ではどうにもならんぞよ」
「死神堂に関与しているかどうかは、うちではデータを保存していないからわからないんだ。多分偶然の事故じゃないかと思っているけどね」
 岸が言う。

「雪月といったな。我はいまだかつて消去したことはないし、いまいちその力についてはわからぬ」

「かっこいいこと言っているけれど、桔梗は消去する力をまだ発揮できたことがないんだ。だから、この先能力が開花するかどうかはわからないんだ」
 岸の通訳は実にわかりやすい。

「桔梗ちゃんの両親や祖父母は消去の力はないの?」

「消去屋というのは大昔は店としてやっていたこともあったらしいが、今は能力がある者が家族にいないから、店自体ないんだ。桔梗のおばあちゃんは唯一力を持っていたけれど、高齢で今は隠居生活をしているんだ。この家に同居しているから話を聞くことはできると思うよ」

 透千家の事情をよく知る岸が説明する。

「どうやったら桔梗ちゃんの能力が開花するの?」
「まずは一人前の人間にならないとだめだろう。そのあたりもおばあちゃんに聞くしかないな」

 桔梗の髪の毛をくしゃっと撫でる。まるで飼い猫に触れるかのような岸の行動は、桔梗をペットのように大切にかわいがっているようにも思えた。

 童顔のひきこもり女子は口調が独特で、ちょっと変わった人間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

処理中です...