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透千桔梗
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「桔梗は高校に通っていないんだ。中学もろくにいってないかな。いつも部屋に閉じこもってゲームやら読書を楽しんでいるうらやましいやつだ。友達は物心ついたころからの知り合いの僕しかいないから、友達になってやってくれ」
友達、というワードに時羽は反応する。時羽は友達に飢えている。欲しいけれど、作ろうとしないというか作ることができない。時羽バリアを無意識に発しているせいで、友達は今のところ雪月くらいだ。どうせ、嫌われているしと思っている時羽はひきこもりの桔梗が友達を探しているならばと少し前向きな姿勢を見せようとするが――
「我は友達なんぞいらん」
ぷいっと顔を布団で隠す桔梗はまるで小学生だ。それを聞いて、がっかりする時羽。時羽は友達ならば男女問わずに募集はしているが、ネガティブ思考が邪魔をして友達ができないでいた。普通、時羽くらいの歳になると恋愛対象として異性を見ることも多いが、時羽の場合、友達という存在がとても崇高なものであり、それ以上の発想にはならない。
「こいつは、本音をあんまり言わないんだ。本当はめちゃくちゃさびしがり屋で友達が欲しいと思っているんだよね」
岸が桔梗の心を読んだかのように代弁する。
部屋の壁に触れただけで、雪月は本当の桔梗の心が見えた。それは、強い思いだからだろうか。桔梗の心には岸のことしかないようだった。それは恋とかそういったもの以上の依存心に近い信頼のようなものだった。
「桔梗ちゃんは岸君が大好きなんだね」
「な、なにを言っておる。我は海星は大嫌いじゃ」
「本当に天邪鬼だよね。桔梗ちゃんはまっすぐすぎて人を信頼できなくなってしまった。でも、岸君にだけは絶大な信頼を寄せている。私、人の心が映像で見える能力があるから」
にこりと雪月が笑う。
「あぬし、只者ではないのぉ」
と言って、照れたように焦る桔梗が顔を隠す。
「桔梗は僕のことが大嫌いじゃないけれど、大好きでもないと思うよ」
涼しい顔で岸が釈明する。
「二人はまるで兄弟みたいに信頼している仲なんだっていうことが、この部屋の絨毯に触れるだけで見えてくるの。たくさんの思い出があるんだね」
「たしかに、僕は桔梗とは知り合い歴長いけれど、好きなのは風花ちゃんなんだから、そこのところ勘違いしないでよ。こんなダメダメな幼なじみはマジで勘弁だ」
うんざりした顔で説明する岸は照れ隠しというよりは本音のように感じられる。
「消すぞ」
桔梗がさらりと言う。消去の力を持つ者が言うと少し怖くもある。
「桔梗の口癖なんだよ。でも、実際まだ消去の力を使ったこともないし、使い方もわかっていないけどな」
桔梗の言葉に怯まない岸は、よくわかっている間柄なのだろう。
「消去の力ってやっぱり寿命と引き換えに発揮されるの?」
雪月が聞く。
「寿命ではない。多分、人間相手の場合は特別なものや大切なものと引き換えだと聞いておる。植物や動物に関しては特に引き換えに消去するわけではない」
童顔なのに相変わらず口調が年寄りくさいギャップが少しおかしくもあるが、消す力を持つ特別な人間は普通じゃないものなのだろうと、時羽も雪月も個性を既に受け入れていた。
「ここにいる4人ってみんなそれぞれ普通じゃない力を持っているよね。時羽君は寿命とひきかえに何かしらを与える力。岸君は寿命と引き換えに呪う力。桔梗ちゃんは、消去する力。私は、心が映像で見える力。でも、私の場合、幻想堂のおかげだけどねっ。後天的な力っていうか寿命と引き換えに得た力だから。私、あと3年弱で死ぬんだ」
あっけらかんと言う雪月に絶句していた時羽と岸だったが、桔梗が突っ込む。
「我は消去の力は持ち合わせていないぞよ。おぬしは、寿命が短くなったことをなかったことにしたいのか? しかし、幻想堂の力を捻じ曲げることは我はできんぞよ」
少し、布団から顔を出して発言する桔梗は相変わらず体育座りで、赤ずきんのように布団をかぶっている。変な女の子ではあるが、悪い子ではないという感じが伝わってくる。
「お母さんが事故で死んだことをなかったことにしたいの」
「死神堂が絡んでいればそれも我の力ではどうにもならんぞよ」
「死神堂に関与しているかどうかは、うちではデータを保存していないからわからないんだ。多分偶然の事故じゃないかと思っているけどね」
岸が言う。
「雪月といったな。我はいまだかつて消去したことはないし、いまいちその力についてはわからぬ」
「かっこいいこと言っているけれど、桔梗は消去する力をまだ発揮できたことがないんだ。だから、この先能力が開花するかどうかはわからないんだ」
岸の通訳は実にわかりやすい。
「桔梗ちゃんの両親や祖父母は消去の力はないの?」
「消去屋というのは大昔は店としてやっていたこともあったらしいが、今は能力がある者が家族にいないから、店自体ないんだ。桔梗のおばあちゃんは唯一力を持っていたけれど、高齢で今は隠居生活をしているんだ。この家に同居しているから話を聞くことはできると思うよ」
透千家の事情をよく知る岸が説明する。
「どうやったら桔梗ちゃんの能力が開花するの?」
「まずは一人前の人間にならないとだめだろう。そのあたりもおばあちゃんに聞くしかないな」
桔梗の髪の毛をくしゃっと撫でる。まるで飼い猫に触れるかのような岸の行動は、桔梗をペットのように大切にかわいがっているようにも思えた。
童顔のひきこもり女子は口調が独特で、ちょっと変わった人間だった。
友達、というワードに時羽は反応する。時羽は友達に飢えている。欲しいけれど、作ろうとしないというか作ることができない。時羽バリアを無意識に発しているせいで、友達は今のところ雪月くらいだ。どうせ、嫌われているしと思っている時羽はひきこもりの桔梗が友達を探しているならばと少し前向きな姿勢を見せようとするが――
「我は友達なんぞいらん」
ぷいっと顔を布団で隠す桔梗はまるで小学生だ。それを聞いて、がっかりする時羽。時羽は友達ならば男女問わずに募集はしているが、ネガティブ思考が邪魔をして友達ができないでいた。普通、時羽くらいの歳になると恋愛対象として異性を見ることも多いが、時羽の場合、友達という存在がとても崇高なものであり、それ以上の発想にはならない。
「こいつは、本音をあんまり言わないんだ。本当はめちゃくちゃさびしがり屋で友達が欲しいと思っているんだよね」
岸が桔梗の心を読んだかのように代弁する。
部屋の壁に触れただけで、雪月は本当の桔梗の心が見えた。それは、強い思いだからだろうか。桔梗の心には岸のことしかないようだった。それは恋とかそういったもの以上の依存心に近い信頼のようなものだった。
「桔梗ちゃんは岸君が大好きなんだね」
「な、なにを言っておる。我は海星は大嫌いじゃ」
「本当に天邪鬼だよね。桔梗ちゃんはまっすぐすぎて人を信頼できなくなってしまった。でも、岸君にだけは絶大な信頼を寄せている。私、人の心が映像で見える能力があるから」
にこりと雪月が笑う。
「あぬし、只者ではないのぉ」
と言って、照れたように焦る桔梗が顔を隠す。
「桔梗は僕のことが大嫌いじゃないけれど、大好きでもないと思うよ」
涼しい顔で岸が釈明する。
「二人はまるで兄弟みたいに信頼している仲なんだっていうことが、この部屋の絨毯に触れるだけで見えてくるの。たくさんの思い出があるんだね」
「たしかに、僕は桔梗とは知り合い歴長いけれど、好きなのは風花ちゃんなんだから、そこのところ勘違いしないでよ。こんなダメダメな幼なじみはマジで勘弁だ」
うんざりした顔で説明する岸は照れ隠しというよりは本音のように感じられる。
「消すぞ」
桔梗がさらりと言う。消去の力を持つ者が言うと少し怖くもある。
「桔梗の口癖なんだよ。でも、実際まだ消去の力を使ったこともないし、使い方もわかっていないけどな」
桔梗の言葉に怯まない岸は、よくわかっている間柄なのだろう。
「消去の力ってやっぱり寿命と引き換えに発揮されるの?」
雪月が聞く。
「寿命ではない。多分、人間相手の場合は特別なものや大切なものと引き換えだと聞いておる。植物や動物に関しては特に引き換えに消去するわけではない」
童顔なのに相変わらず口調が年寄りくさいギャップが少しおかしくもあるが、消す力を持つ特別な人間は普通じゃないものなのだろうと、時羽も雪月も個性を既に受け入れていた。
「ここにいる4人ってみんなそれぞれ普通じゃない力を持っているよね。時羽君は寿命とひきかえに何かしらを与える力。岸君は寿命と引き換えに呪う力。桔梗ちゃんは、消去する力。私は、心が映像で見える力。でも、私の場合、幻想堂のおかげだけどねっ。後天的な力っていうか寿命と引き換えに得た力だから。私、あと3年弱で死ぬんだ」
あっけらかんと言う雪月に絶句していた時羽と岸だったが、桔梗が突っ込む。
「我は消去の力は持ち合わせていないぞよ。おぬしは、寿命が短くなったことをなかったことにしたいのか? しかし、幻想堂の力を捻じ曲げることは我はできんぞよ」
少し、布団から顔を出して発言する桔梗は相変わらず体育座りで、赤ずきんのように布団をかぶっている。変な女の子ではあるが、悪い子ではないという感じが伝わってくる。
「お母さんが事故で死んだことをなかったことにしたいの」
「死神堂が絡んでいればそれも我の力ではどうにもならんぞよ」
「死神堂に関与しているかどうかは、うちではデータを保存していないからわからないんだ。多分偶然の事故じゃないかと思っているけどね」
岸が言う。
「雪月といったな。我はいまだかつて消去したことはないし、いまいちその力についてはわからぬ」
「かっこいいこと言っているけれど、桔梗は消去する力をまだ発揮できたことがないんだ。だから、この先能力が開花するかどうかはわからないんだ」
岸の通訳は実にわかりやすい。
「桔梗ちゃんの両親や祖父母は消去の力はないの?」
「消去屋というのは大昔は店としてやっていたこともあったらしいが、今は能力がある者が家族にいないから、店自体ないんだ。桔梗のおばあちゃんは唯一力を持っていたけれど、高齢で今は隠居生活をしているんだ。この家に同居しているから話を聞くことはできると思うよ」
透千家の事情をよく知る岸が説明する。
「どうやったら桔梗ちゃんの能力が開花するの?」
「まずは一人前の人間にならないとだめだろう。そのあたりもおばあちゃんに聞くしかないな」
桔梗の髪の毛をくしゃっと撫でる。まるで飼い猫に触れるかのような岸の行動は、桔梗をペットのように大切にかわいがっているようにも思えた。
童顔のひきこもり女子は口調が独特で、ちょっと変わった人間だった。
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